◎ MINOLTA (ミノルタ) MD VFC ROKKOR 24mm/f2.8(MD/SR)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (ご依頼者様ご要望により有料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回は初めて扱うMINOLTA製超広角レンズ『MD VFC ROKKOR 24mm/f2.8 (MD/SR)』
です。

モデル銘に含まれる「VFC」は「Variable Field Curvature」の頭文字を取った略で「可変式像面湾曲」を意味します。

↑上の図は「像面湾曲」を説明する為に作図した合成図ですので、細かい部分は正確ではありません。光学硝子レンズに入射光が入り被写体を結像する時、入射光が光学硝子レンズを透過する際に屈折率などの諸条件の影響を受けて「平面状 (平坦な状態) に結像しない場合」があります。従ってその時の結像は上の図のように「湾曲した結像」になるワケで、平面状に結像した像と互いが影響し合い、一部は鋭い結像面に重なりズレが生じピンボケのように写ってしまいます。

この「像面湾曲」を光学硝子レンズをダイレクトに制御する事で可能な限り極小に抑え、且つ手動で撮影者の意図によりON/OFFも含めその制御レベルをコントロールできるよう設計/開発したオールドレンズが今回のモデルになります。

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当初ご依頼者様からお問い合わせが来た際に、MINOLTAのデータやカタログから「VFC」の概念を探ったワケですが、パッと考えて単純に「どうせ昇降筒を内包しているのだろう」との安請け合いをしていました。それはオールドレンズの外見を見ると「VFC制御環」が前玉側に配置されていますが、オーバーホール/修理ご依頼内容の中に「VFC制御環の操作が重すぎるので勝手に動かない程度に軽くしてほしい」と言うご要望が入っていました。

それを見た当方は「操作が重いと言う事は前玉側からマウント側までアーム延長していて光学系後群側に昇降機能を附加させている」と判断してしまいました。つまり「像面湾曲」の制御は「光学系後群側に配置された昇降筒の動き」でコントロールされていると勝手に決めつけてしまったワケです (だから経年劣化進行に伴い後群側まで内部で延伸しているアームの動きが重くなってしまっただけ)(笑)

このように思い込んでしまったのには理由があり、例えばOLYMPUS製マクロレンズや開放f値「f2」クラスの高性能モデル、或いは他社光学メーカー品でもCanon/Nikon製など数多く扱ってきた中で「昇降筒と言えば光学系後群側に配置されている事が多い」経験値から、そのように思い込んだワケです(笑)

ところがこのモデルは「まさに光学系前群が丸ごと昇降している」変わり種でした(笑)

つまり光学系後群側での集光/結像作業 (入射光の料理) はフツ〜にそのままやらせてしまい、前群側で目一杯「見合う入射光に予め下ごしらえしておくからね・・ちゃんと美味しく料理 してね」と言う発想だったワケです(笑)

さすがにこれにはオドロキました・・!(笑)

何故なら、光学系後群側にフツ〜の収束作業をやらせると言う事は、相当な光学技術力とそれに見合う自信を伴っていなければ、飛んでもない商品ができあがってしまいます。そのような自信が当時のMINOLTAには既にあった事の「証のようなオールドレンズ」だと言っても良いのではないでしょうか。

そしてそれは今回実際に完全解体して内部構造を調査して行く「構造検討」を行うと、相当な「合理化と整合性」を兼ね合わせた「考えに考え尽くされた設計」である事が分かりました。

これこそがこの当時のMINOLTAの「こだわり」であり、同時に「揺るぎない技術に裏打ちをされた自信」なのだと、まるで内部から声が届くかのように語りかけているのを (その構造に) 感じ入りました。

それほど素晴らしい内部構造と各構成パーツの連係にチカラの伝達技術でした・・(涙)

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1958年に自社初一眼レフ (フィルム) カメラになる「minolta SR2」を発売しますが、採用したバヨネットマウント規格「SRマウント」はまだ設定絞り値のカメラボディ側への伝達を行う機能 (爪) が用意されていませんでした。従ってフィルムカメラ側には「開放測光機能」をまだ装備していません (正式名称としてSRマウントは存在しない)。

当時発売されたセットレンズも含むオプション交換レンズ群のモデルは全て「AUTO ROKKORシリーズ」になりますが、光学系内の光学硝子レンズに蒸着されている「アクロマチックコーティング (AC)」の色合いから、俗に「緑のロッコール」と当時より今現在も含めて呼ばれ続けています。
(左写真はAUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4)

主だったモデルには全てマウント面直前に「プレビューレバー」を 装備しているので、そのレパー操作により撮影前に設定絞り値まで 絞り込む事で確認できるようになっています。


やがて1966年になるとようやく「TTL測光方式」を採用した一眼レフ (フィルム) カメラ「SR-T101」が登場し、この時に再びセットレンズを含む全てのオプション交換レンズ群が「MC ROKKORシリーズ」と一新されました。

この時に登場した「MC ROKKORシリーズ」にはマウント面に「MC爪」なる突出が用意 され「カメラボディ側への設定絞り値伝達」が実現できています。
(左写真はMC ROKKOR-PG 58mm/f1.2)

従ってマウント面の「MC爪」の有無により装着できるカメラボディ側も変わってきます。

さらに1977年になると世界初の「シャッター速度優AE/絞り優先AE/マルチプログラムAE (疑似的自動露出方式)」を採り入れた一眼レフ (フィルム) カメラ「minolta XD」を発売します。

この時に三たびセットレンズを含む全ての オプション交換レンズ群がフルモデルチェンジし「MDシリーズ」として登場します。
(左写真はMD ROKKOR 85mm/f1.7)

従来よりマウント面に突出してきていた「MC爪」の他に新たに「MD爪」が用意されます。

ちなみに「MD」の「D」は「Dual (デュアル)」の頭文字です。
従ってここでもやはり爪の有無によりカメラボディ側との干渉が発生し一部機能に制限が加わったりしていました。

ここまで当時発売された一眼レフ (フィルム) カメラとの関わりからマウント規格が進化してきた流れをみましたが、各時代に登場した (都度一新された) オプション交換レンズ群だけに注目した時「各シリーズで光学硝子レンズの色合い/緑のロッコールの発色度合いが違っている」事に気がつきます。

そもそもこの「緑のロッコール」の光彩は前述のとおり「アクロマチックコーティング (AC) 」を指しますが、このMINOLTAが世界に先駆けて開発した「複層膜コーティング技術」の一つは、実はよく当時の旧東ドイツ (戦前ドイツ) のCarl Zeiss Jenaで開発されたモノコーティングzeissのT」が1939年の登場である事から「世界初ではない」とネット上で解説され 続けていますが、それは違います。

MINOLTAが1958年に開発した「アクロマチックコーティング (AC)」技術は単なる「複層膜のコーティング技術」ではなく、正しくは「薄膜蒸着複層膜コーティング技術」と言い替えられます。つまり確かに本来の「複層膜コーティング技術zeissのT」は、1939年の登場でそれこそが世界初なのですが、MINOLTAが開発したのはされらその複層膜コーティングの上から蒸着する「薄膜蒸着技術」であり、その「複層膜」の意味が全く別モノです。

つまりここがポイントで (この認識を見誤ると当時登場していたMINOLTA製オールドレンズのコーティング層自体を見誤ってしまう)「zeissのT」はそれ自体単独でしか蒸着できませんがMINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC)」はモノコーティング/マルチコーティングの別に関係なく、いずれのコーティング層にもさらに新たな蒸着層としてその次に加味させる事が可能な「薄膜蒸着技術」なのです。

簡単なコトバで表現してしまえば「まるで薬味のようにメインディッシュ (主体のコーティング層) に追加で被せられる薄膜蒸着層」と言えば理解し易いでしょうか。

そこで前述の話に戻ると、当初「緑のロッコール」として登場 (AUTO ROKKORシリーズ)
以降は、徐々にその「緑色の光彩の濃さ」が薄くなっていきます。

最後の「new MDシリーズ」が登場した1981年時点ではついに「アクロマチックコーティング (AC) 層の蒸着をやめてしまった」とも言えます。もっと正確に言うなら、当初登場した「AUTO ROKKORシリーズ」では光学系前群/後群両方の構成光学硝子レンズ面に「アクロマチックコーティング (AC)」を「緑色の光彩」として薄膜蒸着していましたが、その後の「MC ROKKORシリーズ」では光学系前群/後群のいずれか、或いは枚数を減じて蒸着しています。さらに「MDシリーズ」となるとほぼ数枚 (例えば光学系前群の第2群裏面のみなど) レベルにまで「アクロマチックコーティング (AC)」蒸着が大幅に減じられています (これらの話は全て当方が今までに数多くの個体をバラして光学硝子レンズを実際に1枚ずつ清掃して確認してきた事実)。

この事実を正しく認識する為に前述の「複層膜コーティング層蒸着の捉え方」が非常に重要になってくるワケです。従ってMINOLTAが当時のカタログなどで謳っていた「世界初の複層膜蒸着技術」と言うのは紛れもない正しい認識なのだと明言できますね。
(右写真は当時のカタログから転載したアクロマチックコーティング (AC) 蒸着専用の釜)

ちなみにそもそもMINOLTA製オールドレンズに与えられている「ROKKOR (ロッコール)」銘は、当時光学硝子溶融工場が六甲山付近に位置していた事から転じて付けられたとの事です。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
このモデルの実写が少ないので円形ボケの表出レベルが確認できませんが、ピント面の鋭さは相当なモノで、且つエッジは基本的に繊細で細いのですが輪郭強調されたような印象のインパクトになる為に、意外とシッカリした合焦に見えがちです (ちゃんと繊細感のある写真もキレイに撮れる)。発色性はコントラストが高めに出てくるものの決して誇張感だけに堕ちないナチュラル的な印象です (単に鮮やかなだけでもない)。

そして何ともオドロキなのが焦点距離:24mmの超広角レンズのクセに、このような人物撮影をこなしてしまうところです (右端)。まるでポートレートレンズで撮ったかのように錯覚してしまうほどに大変リアルな人肌の表現性で溜息が出ますね(笑)

二段目
超広角レンズである以上その性能としてパースペクティブ (遠近感) が気になるところですが、特に気になるような歪みもほぼ無く非常にスッキリと仕上げてくれますから、この奥行き感はとても安心して見ていられます。さらに「木漏れ日」の写真のとおり、標準レンズでも難しい「空気感/距離感」と言った現場のリアル感まで閉じ込めてしまいますからオドロキです (下手な標準レンズ顔負け)。

そして極めつけが右側2枚の写真です。これを見ただけでもこのオールドレンズが欲しくなってしまいますね(笑) これだけ自然に見たがままに (何一つ違和感を感じずに) 溶けて滲んでいく階調のグラデーションを表現できてしまう広角レンズを、あまり多く知りません。

三段目
前述のパースペクティブの利点がまさに左端写真で現れており、且つそのディストーション (歪み) の少なさは白黒写真を見ても、前述のグラデーションの表現性と友に何とも美しい陰影を刻んだグレースケールの世界です。

光学系は7群9枚の大変贅沢なレトロフォーカス型構成です。右構成図は今回バラして清掃する際に、光学硝子レンズを1枚ずつデジタルノギスで計測した実測に基づきトレースした光学系構成図です。

すると当時のカタログなどに掲載されている構成図にほぼ同一 (実測値の誤差は僅差) に留まる 範疇ですが、前述のとおりこのモデルの凄い所は
光学系前群側が昇降筒になっている」点です。

つまり右図のように光学系前群 ( 部分) が丸ごとそのままで
格納筒」の中に収まり、さらに一括で第1群 (前玉) 〜第4群までが昇降しています (赤色矢印)。

これだけの入射光をその後の光学系後群側でちゃんと収束できてしまうところが驚異的な話ですが、光学系前群側の「昇降時高低差約2mm (赤色矢印)」です。

ちなみにこの当時の「MC W.ROKKOR 24mm/f2.8」或いは「MD ROKKOR 24mm/f2.8」の光学系構成とネット上で確認できる構成図が同一なのですが当方では過去にMCタイプのほうのみオーバーホールしています。その時の光学系をチェックしてみると確かにほぼ同一だと推測できます (残念ながら実測値を計測していない)。

さらにオモシロイのは、やはり光学系前群側を丸ごと鏡筒内部で「直進動」させる「内外の ダブルヘリコイド方式」を採っているので、ある意味非常に今回の「VFCタイプ」の設計概念に近似した構造ですが、決定的な相違点は「直進動の駆動範囲を倍増させたのがVFCタイプ」であり、その高低差は従来モデルのほぼ倍以上に増大していますから、やはり「像面湾曲の 対応上高低差が増えている」と考えられます。

その高低差の増大分がはたして今回の「VFCに於ける上半分の半円なのか下半分なのか」は、残念ながら調べようがありません。何故なら高低差だけでは制御の中味が分からないからです (おそらく設計者しか分からない)。

しかし単純に考えて高低差を増大させているとなると、余計に従来モデルと同一の光学系設計を踏襲できるハズがないと考えますが定かではありません。ところが例えば従来モデルのほうで既に「像面湾曲」まで含めて対応できる光学設計を採っていながら、実はその制御駆動範囲を「可変にしていない」だけなのかも知れません。つまり上半分/下半分の半円について既に解像度/収差改善が既に施されている光学設計を採っていながら、その片方の分だけ (上半分の半円か下半分の半円か不明) しか直進動の駆動域を設定していないので、高低差が少ないのが従来モデルとも考えられます (従来型の高低差は約1mm程度)。

そこで問題になるとすれば、それは今回の「VFCモデル」に於いて基準「◆」マーカー位置のノーマルポジションを持っている点です (つまりノーマルと上半分/下半分の半円と合わせて
3つに対応している)。すると従来型で既にいずれかに対応していると考えた時に数の整合性が執れません (何故なら従来型には可変の機構が無いから)。

なかなか奥が深いと言うか、知りたいと思い始めると何だかきりがないような話です(笑)

逆に言うと、従来モデルでもワザワザ光学系前群を「直進動」させてまで描写性能を追求していたのは間違いないワケで、相当なこだわりようではないでしょうか。また時間があったら いつの日にか従来モデルのブログのほうも再度解説を変更したいと思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。筐体サイズ自体は思ったほど大柄ではなく、むしろこれだけの機能を内包していながら「よくここまで小さく作ったものだ」とむしろ感心させられます。しかしその分上の写真のとおり内部構成パーツが多めです。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。この鏡筒内部に前述のとおり「光学系前群側が丸ごと昇降筒に収まる」設計なのですが、ここの工程でシッカリと認識すべきは「観察と考察」の話であり、つまりは「内側がマットな (艶消し) 梨地仕上げで仕上げられている鏡筒」である点です。

ここを見逃してしまったのが過去メンテナンス時の整備者で(笑)、間違ったグリースの塗り方をしていました (上の写真焦茶色部分が全てマットな梨地仕上げのメッキ加工)。

↑前述のとおりこの鏡筒内部に「昇降筒」を内包しますから、上の写真のような手順で実装されています (グリーンの矢印)。「昇降筒」である以上その名前のとおり「ヘリコイド (オスメス) による昇降機能」なので、その意味ではこのモデルは「ダブルヘリコイド方式」とも言えます。

驚異的な構造なのはその話ではなく、もう一つ昇降機能が存在している点です(驚)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを鏡筒最深部にセットしたところです。やしり絞りユニット自体も「マットな (艶消し) 梨地仕上げのメッキ加工」なので、相当経年で揮発油成分が廻る事を嫌った (非常神経質な) 設計を採っています。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向) から撮影しました。すると「開閉アーム」が1本だけ飛び出ているだけと言う簡素な設計ですが、ここでのポイントは「棒バネを使っている」ことです (グリーンの矢印)。

開閉アーム」の役目は絞り羽根の開閉ですが、ご覧のように「棒バネで絞り羽根が常に閉じるチカラ」である点をシッカリ認識する必要があります。つまり組み上がってからの「絞り羽根開閉異常」が発生するとすれば、この「棒バネの微調整」をミスっている可能性が高くなるからです。

過去メンテナンス時の整備者はその点まで見逃しており「絞り羽根開閉異常」のトラブルに対してマウント部内部で対応しようとしていた事が見え隠れしています(笑)

↑鏡筒周りにもう一つの (新たな)「昇降機能」である「昇降環」をセットしたところです。この真鍮 (黄鋼) 製の「昇降環」に用意されているスリット/切り欠きを「昇降キー」が行ったり来たりスライドしていく (グリーンの矢印) 事で、その高低差「約2mm」が「昇降筒の駆動域」にあたる設計です (縦方向グリーンの矢印)。

しかし、そのスリット/切り欠きを行ったり来たりする「昇降キー」は「昇降筒」に刺さっているワケで、つまりはヘリコイド (メス側) を回している事になりますから、そのトルク微調整が必須になります。

↑試しに「昇降筒」をセットしましたが、実はこの「昇降筒」の外回りは「鏡面仕上げ」が正しい状態です (グリーンの矢印)。

上の写真では既に当方による「磨き研磨」を施し「鏡面仕上げ」に仕上がっていますが、実はは過去メンテナンス時の整備者はここに「白色系グリース」を塗ったくっていました(笑)

従って、当初バラす前の時点で既に「像面湾曲制御環 (VFC環)」の操作が重すぎてとても回せる状況ではなかった原因は、この「鏡面仕上げ部分の酸化/腐食/錆び」なのです(笑)

何とも笑える話ですが(笑)、過去メンテナンス時は滑らかにするつもりで「白色系グリース」を塗ったのでしょうが、それが仇となり数年で酸化/腐食/錆びが進行してしまい、どんどん重いトルク感へと悪化していきます。

つまり「観察と考察」が全くできておらず、且つ「原理原則」すら認識していない整備者なので「鏡面仕上げにはグリースを塗ってはイケナイ」点に全く気がついていませんね(笑)

↑取り敢えず光学系をセットする際に「昇降筒」は使うので、ここでは先に工程を進めて組み上げていきます。「VFC環 (像面湾曲制御環)」をセットしたところですが、グリーンの矢印解説のとおり3箇所に「ベアリングスプリング」でクッション性か与えられています。

今回のオーバーホール/修理ご依頼内容で「VFC環の操作性を勝手に動かない程度まで軽くしてほしい」と言うのがありましたが、残念ながら構造上この「VFC環」は軽く仕上げられる設計を採っていません

↑実際に「VFC環」を組み込んだところですが、3箇所からのチカラでベアリングの反発を受けながら操作する設計なので、且つ「VFC環の内部も3箇所で締め付け固定」であることから、申し訳御座いませんがどうにもなりません。

ここの工程で非常に重要なのは「昇降筒」が回ったり上下動したりするその「チカラも含めての操作性/トルク感」と言う点です。つまり単に「VFC環」を操作する時のトルクの問題だけではなく、実際は「昇降筒」からの抵抗/負荷/摩擦も同時に「VFC環は受けている」ことです。

従ってそれら2つの要素を考慮した上で最終的な「トルクの微調整」が必要なのだと言えますが、これがどんだけ厄介で大変な話なのかです(笑)

↑こちらは距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑真鍮 (黄鋼) 製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この時点で既に距離環の「上部分」だけを先にセットしておきます (後からセットできない)。

↑それがここの工程での解説です。このモデルの距離環は「上下に分割方式」になっている、この当時のMINOLTAがよく使っていた設計です。なんとこの「距離環上下」はテーピングだけで互いが固定されるという簡素な手法を採っています(笑)

↑こたらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成ハーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。当初バラした際はこの内部に過去メンテナンス時にやはり塗られてしまった「白色系グリース」が、既に経年劣化進行に伴い「濃いグレー状」に変質しており、一部構成パーツには酸化/腐食/錆びが発生していました。

↑この当時のMINOLTA製オールドレンズは、マウント部の「」をセットする必要があるのですが「隠しネジ」方式です(笑)

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施して組み付けます。マウント面から飛び出ている「絞り連動レバー」が操作されると、その動いた量の分だけ先端部の「操作爪」が移動して (赤色矢印)、前述の鏡筒裏側から飛び出ている「開閉アーム」をダイレクトに操作する仕組みです。

従って過去メンテナンス者はこのマウント部内部のほうで前述の「絞り羽根開閉異常」対策を施しており(笑)、使っている「捻りバネ (2本)」や各構成パーツの留具などで工夫していましたが、そんな事柄はこのモデルが製産されていた工場の行程では一切施されておらず「あくまでもごまかしの整備/常套手段」でしかないと当方は考えています。

従って今回のオーバーホールでは何らそのような処置は一切講じずとも大変滑らかに各部位が駆動しています (つまり本来あるべき姿で組み上げられている)。

↑絞り環をセットしたところです。「絞り連動レバー」がブルーの矢印のように操作される事で絞り羽根が開閉する仕組みですね。

↑完成したマウント部を基台にセットします。実はこのセット方法も当時のMINOLTA製オールドレンズに数多く採用されている、やはり「隠しネジ」です(笑)

↑これで組み上げが完成なのですが、実はここからが本番で(笑)「昇降筒」の組み付け作業に入ります。グリーンの矢印のとおり「鏡面仕上げ」になっていますが、一部は鏡筒内側にも「鏡面仕上げ」がある事がとても重要です。

光学系前後群を組み付けてから微調整が必須になります。無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑上の写真を撮るまでに3時間が経過しており(笑)、無限遠位置の微調整はもとより、さらに それにプラスして各距離指標値での「像面湾曲の状況」をチェックしつつ「昇降筒の微調整」を実施した次第です。

それは詰まるところ「昇降時のヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置の変更」であり、同時にスライドしている「昇降環」の位置調整も同時進行ですからどんだけその微調整が大変なのかです(笑)

アッと言う間に3時間が過ぎましたが、完璧な微調整が終わっています。ご覧のように上下 二つに分かれていた距離環はテーピングによって一つにまとめられる設計です。

これは当方の「ごまかし整備」ではなく(笑)、そのような設計になっているからです(笑)

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑ハッキリ言って、このモデルで「鏡面仕上げ」の箇所にグリース (たいていの場合は白色系グリース) を塗っていない事がまずありません(笑) 逆に言えば、そのようにグリースを塗ってしまうなら、では「どうして鏡面仕上げの設計にしているのですか?」とそれら整備者に問い正したいですね(笑)

設計の意図を蔑ろにするから数年レベルで酸化/腐食/錆びが進行してしまい、重いトルクへと変わるので、今度は「潤滑油」を注入してしまいます(笑) このようにしてキチョ〜なオールドレンズはやがて「製品寿命」へと一歩一歩近づいていきます(怖)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

残念ながら第2群〜第3群のみ硝子レンズ格納筒の過去メンテナンス時締め付けが強すぎて「完全固着」していたので、一部極微細な塵/埃が残っています (解体できないので清掃できません)。申し訳御座いません・・。

↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無の透明度です。

右構成図のとおり、光学系前後群の 部分には「アクロマチックコーティング (AC)」がちゃんと蒸着されており「緑色の光彩」を放っているから上の写真を見ても分かりますが、後玉のほうまでその輝きが写っていますね。

とても美しいです・・(涙) ありがたい事にコーティング層の 経年劣化進行が進んでいなかったので「アクロマチックコー ティング (AC) は剥がれたりしていません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性中程度軽め超軽め」を使い分けて塗っており、距離環を回すトルクは「全域に渡って完璧に均一」で「普通」人により「軽め」に感じるトルク感に仕上がっています。

どうしてもこのモデルの宿命で「像面湾曲の制御 (つまりはピント面の微調整)」が多くなりますから、ピントの山が掴み辛いモデルなので敢えて「距離環を回すトルクを軽めに仕上げた」とも言えます。

↑距離環を回すトルク感は「軽め」に仕上がり、且つ絞り環操作も小気味良く確実に駆動していますから操作性がだいぶ良く改善されています。

しかし問題のご依頼内容である「VFC環のトルク改善」がどうにもできず軽い操作性とは言い難い状況です。またもう一つのご依頼内容「筐体の汚れ状の除去」ですが、これは「経年の手垢など汚れ」ではなく「何かの薬品」が表層面に附着しており、且つ「相応の層となって堆積している状態」でした。

薬品のようなので本来の筐体メッキ塗膜を浸食してしまい、まずは「ガリガリ」と汚れ状部分をマイナスドライバーで根気強く1箇所ずつこじいて削り落としてから、次に「磨きいれ」で最終的に除去しています。

従って筐体外装のメッキ加工塗膜がその箇所はすべて剥がれているのでご覧のように「斑状」と汚いワケです (グリーンの矢印)。

↑上の写真は距離環操作の他に「VFC環」の操作について解説しています。距離環を回すと (ブルーの矢印①) その操作に伴い鏡筒が繰り出し/収納する (グリーンの矢印①) ワケですが、ピント合わせが終わってから今度は「VFC環」の操作を行うと (ブルーの矢印②)、やはりそれに連動して光学系前群だけが直進動してグリーンの矢印②のように微動します。

従ってオーバーホール/修理ご依頼内容のうち以下の点について改善できていないので、大変申し訳御座いません。ご請求額よりご納得頂ける分の金額を「減額申請」にてご申告の上で減額下さいませ。減額の最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし当方による弁償などは申し訳御座いませんが対応できません。

【改善できていない内容】
VFC環の操作性がたいして軽く仕上がっていない (これ以上改善不可能)。
筐体外装の汚れ状部分の除去跡が「メッキ塗膜剥がれ」になっている。

大変申し訳御座いません・・お詫び申し上げます。

なお「像面湾曲」の具体的な微調整について以下に簡単にご案内します。

VFC環」は中央の基準「◆」マーカーの位置でクリック感によりカチッと停止しますが、左右方向に「赤色縦線」位置まで駆動範囲があります (ブルーの矢印②)。中央の「◆」以外は全てクリック感を伴わない無段階式の操作感です。

すると基準「◆」マーカーの両サイドに刻印されている「半円の向き」のように「被写体を含めた画の解像度が変化する」事を意味しています。

↑上の写真は当方の下手クソな発想で作った合成図ですが(笑)、8台のミニカーに対して「像面湾曲」の微調整を行った結果を例として写しています。

左側写真は「VFC環」の刻印で左側の「下半分の円」を意味し、写真中央部分の被写体ミニカー (2台) の他に下側のミニカー3台まで含めてピント面の解像度が向上している事を意味している合成図です (ブルーラインで囲った部分/概念説明写真なので本当の実写ではありません)。

逆に右側写真は「VFC環操作時の右側/上半分の円」ですね。

このように本来なら中央の被写体箇所のみ鋭いピント面に至るところをそれぞれの範囲内で可能な限り解像度を向上させている (収差改善させている) 状態を意味します。

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。この状況でもほぼまだ「回折現象」の影響が現れないので相当なポテンシャルを持つ光学系の設計だと考えます。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑f値は「f16」まで上がっています。多少「回折現象」の影響が現れ始めたかどうかと言うレベルです。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

↑こちらの写真は開放f値で撮影した時に「VFC環」が基準「◆」マーカーに居るノーマル状態です。

↑こちらの写真は同じく開放状態での撮影ですが「VFC環を左側に最大値まで回した状態」で撮影しています (つまり左側赤色縦線|の位置)。

解像度に変化が現れています。

↑今度は「VFC環を右端赤色縦線|位置まで回した状態」での撮影です。同様解像度が変化しています。

↑こちらは設定絞り値をF値「f4」にセットした状態のノーマルです (VFC環は基準「◆」マーカー位置)。従って一般的なフツ〜の写真撮影状態です。

↑同様「VFC環を左端まで移動」で撮影しています。

↑今度は逆に「VFC環を右端まで移動」で撮りました。如何でしょうか・・。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。