◆ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Primoplan 58mm/f1.9 V《後期型-III》(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツは
Meyer-Optik Görlitz製標準レンズ・・・・、
『Primoplan 58mm/f1.9 V《後期型-III》(M42)』です。
当方での扱いがこのモデルは累計で19本目にあたりますが、その中で光学系が非常に良い 状態を維持しており、且つ納得できる操作性で仕上げられたという個体数は「僅か7本目」と言う状況です。従って扱い本数に比べて何もかもベストな仕上がりと手放しで歓べる割合は せいぜい36%台なので、なかなか調達するにもハイリスクなオールドレンズの一つだった りします。
↑上の図はこのPrimoplan 5.8cm/f1.9の戦前1936年特許登録時の書類として某有名処サイトでも案内されているのですが、実は当方も完璧に騙されましたが(笑)、この書類は標準レンズのPrimoplan特許書類ではありません。
複写なので不鮮明ですが戦前ドイツでの特許登録書類なのでドイツ語表記です。するとラテン語/英語翻訳するとこの特許書類に記載されている内容は「4群の明るい光学硝子レンズを使い且つ第2群に凹メニスカスと凸メニスカスを接着したダブレットを介在させる事で、効率良くザイデルの諸収差改善を期待できる」という内容のようです。
従ってどうやらこの特許は4群4枚エルノスター型構成との相違点に関する「4群5枚プリモプラン型構成の設計概念とその利点」を特許登録した書類と推察できます。
その根拠は、さらに書類を見ていくと中腹辺りに「example、Focal ratio:1:1.5、Focal length:100mm、Free opening:66.7mm」と翻訳できる内容が明記されているのです。これはつまり「焦点距離100mm中望遠レンズの構成図を例として併記している」と受け取れます。
右の構成図はこの特許書類上に記載されている構成図からトレース した構成図です。
当方は今までにこの「Primoplanシリーズ」の標準レンズはほぼ全てのモデルバリエーションを扱いましたが、右構成図のカタチで実装されているタイプにまだ当たりません。特に戦前タイプでもこのカタチに該当しないので「???」だったのですが、これで納得です!(笑)
特に最後の第4群の曲率と厚みがどうしても「???」だったのですが焦点距離100mm用の構成図なら納得できます(笑)
ネット上ではあたかも「Primoplan 58mm/f1.9」の特許登録時書類としてそこいら中で案内されているので、スッカリ騙されましたね(笑)
《モデルバリエーション》
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
戦前型:1936年発売 (Hugo Meyer製)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:70cm
筐体材質:真鍮 (黄銅) 製主体
フィルター枠径:⌀ 40.5mm
<戦後>
前期型-I:1949年発売 (Meyer-Optik Görlitz製)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:75cm
筐体材質:アルミ合金材主体
フィルター枠径:⌀ 40.5mm
<戦後>
前期型-II:1950年発売 (Meyer-Optik Görlitz製)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:75cm
筐体材質:アルミ合金材主体
フィルター枠径:⌀ 40.5mm
<戦後>
後期型-I:1954年発売(?) (Meyer-Optik Görlitz製)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:65cm
筐体材質:アルミ合金材主体 (一部真鍮/黄銅製)
フィルター枠径:⌀ 49mm
<戦後>
後期型-II:1957年発売 (Meyer-Optik Görlitz製)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:75cm
筐体材質:アルミ合金材主体
フィルター枠径:⌀ 49mm
<戦後>
後期型-III:1958年発売 (Meyer-Optik Görlitz製)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:60cm
筐体材質:アルミ合金材主体
フィルター枠径:⌀ 49mm
上の各モデルバリエーションで実装している光学系構成図を順に示すと右図は戦後に登場した「前期型-II」の構成図です。
4群5枚のプリモプラン型構成ですが、第2群の貼り合わせレンズの曲率が緩やかで最短撮影距離75cmなのも納得です。
さらに右図は「後期型-II」の構成図になり、最短撮影距離が75cmで仕様上は変わりませんがフィルター枠径が⌀49mmに変わった分、筐体サイズが変化した分おそらく光学系も再設計したと考えられます。
(実際第3群と第4群の曲率が大きく変化しています)
そして右図が今回扱う「後期型-III」で最後のモデルバリエーションになります。
最短撮影距離が60cmに大幅に短縮化されたのでその分の屈折率を変更したことから曲率も全体に渡って大きく変化しています。
翌年の1959年にはこの「Primoplanシリーズ」自体の製産をやめて しまったので標準レンズ域の中から消滅してしまいました。
↑今回出品の個体を完全解体した時のパーツ全景写真です。オーバーホール工程の解説などは「Primoplan 58mm/f1.9 V《後期型-III》(M42)」のページをご参照下さいませ。
ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑上の写真はオーバーホール工程の途中で撮った写真ですが、今回出品する個体の鏡筒をひっくり返して撮影しています (写真上側が後玉側方向)。
実は今回の個体も同じだったのですが今までに扱った累計本数「19本」のうち、当初バラす前のチェック時点で既に適切な鋭いピント面で組み上げられていた個体数は「僅か9本」というのが実情です。今回の個体も含めて残りの「10本は全て僅かに甘いピント面」だったワケです。
その原因 (理由) を解説しているのが上の写真です。光学系後群側 (第3群と第4群) だけがご覧のとおり「イモネジ (3本)」による締め付け固定なのです。さらにもっと正しく解説するなら「イモネジ (3本) の他に締付環でも同時に締め付け固定」になります (グリーンの矢印)。
従ってこの後群の締め付け固定が適切ではない場合「甘いピント面」或いは下手すれば「光軸ズレ/色ズレ」が起きてしまい写真撮影すればすぐに異常なのが分かってしまいます。
さすがに「光軸ズレ/色ズレ」は明確に視認できるとしても「僅かに甘いピント面」と言うのは同型モデルを相応の個体数扱っていないとなかなかピンと来ないものです。
ヤフオク! でも最近は整備済で出品する出品者が増えてきましたが、この「イモネジでの締め付け固定」を適切に仕上げられない事から「触らずにそのまま/解体せずにそのまま使う」整備者が居ます。つまりバラす前の状態のままなので如何にも問題が無さそうに聞こえますが(笑)実はそもそも過去メンテナンス時点で適切な締め付け固定なのか否かが不明です(笑)
もっと言うなら他の例えば光学系前群側を外して清掃したのだとすれば「光路長確保から後群側も適切に仕上げる必要がある」ワケで「イモネジだから触らない」と言うのは実は「整備者の逃げ口上」に過ぎません(笑)
ちゃんと光学系の前群/後群全てを取り出して清掃した後に再び格納筒に組み込んで「適切な 光路長確保」の上で仕上げなければそのオールドレンズ本来の鋭いピント面には至りません。
今回の個体もやはり過去メンテナンス時に「イモネジの締め付け固定をミスっていた」ために僅かに甘いピント面での合焦だったワケで、オーバーホール後のピント面はちゃんと鋭く改善されています(笑)
↑完璧なオーバーホールが終わりました。特に光学系内の状態が良いレベルを維持し、且つ 距離環を回すトルク感も軽めに仕上がるのは珍しいので貴重です。
上の写真と同じですが、赤色矢印で指し示している箇所の「微細な 白い点の集まり」は前玉表面ではなくて「第2群貼り合わせレンズのコバ端」の浮き部分が反射して映っているだけです。
従って前玉にあるキズは微細な点状キズが数点あるだけなのでキレイです。また黒塗りの反射防止環の中腹辺りに穴が1箇所空いていますが、イモネジが1本ネジ込んでありレンズ銘板の固定用です。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。これだけスカッとクリアなプリモプランは最近では珍しいでしょうか・・(笑)
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。光学系内は前群/後群ともに「微細な気泡」が数多く残っているので、パッと見で「微細な塵/埃」に見えますが、清掃しても除去できない「微細な気泡」です。一応神経質な人の為にこれら「微細な気泡」も点キズとして出品ページではカウントしています。
◉ 気泡
光学硝子材精製時に適正な高温度帯に一定時間維持し続けたことを示す「証」と捉えていたので、当時光学メーカーは正常品として出荷していました。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:12点、目立つ点キズ:7点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い13ミリ長が数本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり、一部は一見すると極微細な塵/埃に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷されていた為クレーム対象としません)。「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは数点しかありません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑14枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。
このモデルの絞り環操作は「無段階式 (実絞り)」なので何も処置しなければスカスカの操作感になります。従って敢えてワザと絞り環側のトルク感を重めに微調整しています。また同様にプリセット絞り環の操作性はグリースを塗っていないので擦れる感触が残っています。
これらの配慮はプリセット絞り環/絞り環が絞りユニットの近くに配置されている事から「光学系の特にコーティング層経年劣化促進を防ぐ処置」です。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。
詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・プリセット絞り環と絞り環は無段階式(実絞り)の為スカスカな操作感を防ぐ意味から敢えてトルクを与えて僅かに重めに仕上げています。
・プリセット絞り/絞り環は操作時に全域に渡り擦れる感触を感じますが油成分滲み出しを防ぐ意味から敢えてグリースを塗布していません。
(その結果擦れる感触が伝わります)
特に油成分滲み出しによる光学硝子レンズ表面のコーティング層劣化を回避する目的から極力必要外のグリース塗布を避けています。当レンズの場合プリセット絞り環/絞り環の配置が絞りユニットに近接する為の処置/配慮です。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・フィルター枠に1箇所打痕の修復がありますがフィルター着脱には支障ありません。念の為に新品でフィルターを手に入れて附属品にしています(ネジ込んで梱包してあります)。
↑距離環を回すトルク感が「軽め」と言ってもあくまでも「このモデルにすれば軽い印象」程度の話なので、一般的には「普通程度の重さ」と言う印象でしょうか。
然し光学系内の透明環やキズの少なさ、特にこのモデルの宿命でもある「第2群貼り合わせレンズの薄いクモリ」などはどんなに清掃しても除去できませんから、その意味でも今回の出品個体は相当キチョ〜です!(笑)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑フィルター枠に1箇所打痕修復がありますが、フィルター着脱には支障ありません。フィルター装着時は少し逆回しするなどして丁寧にネジ込めば問題無くご使用頂けます。一応念の為に新品のmarumi製フィルターを手に入れて附属品としてネジ込んだ状態で梱包しお届けします。
① 汎用樹脂製スナップ式前キャップ
② marumi製MCフィルター
③ 本体『Primoplan 58mm/f1.9 V《後期型-III》(M42)』
④ 社外品樹脂製被せ式後ろキャップ
↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。