◎ Sankyo Kōki (三協光機) KOMURA− 105mm/f3.5(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、三協光機製
中望遠レンズ『KOMURA− 105mm/f3.5 (M42)』です。


今回の扱いが累計で12本目にあたりますが、三協光機製の焦点距離:105mmの中で一番好きなモデルがこの開放f値「f3.5」なので、ついつい状態が良さそうな個体を見つけると調達してしまいます。逆に言うと、同じ焦点距離:105mmでもより明るいタイプ「f2.0/f2.5/f2.8」にはほとんど魅力を感じないので、オーバーホール/修理以外扱っていません。

では、それほど拘る開放f値「f3.5」の魅力とは何か?

ひと言「リアル感」です。それもコントラストや発色性など人の目で見たがままに反応する違和感の無いリアルさが好きです。つまり決してナチュラル系の淡泊な写りに終わらず、かと言ってコッテリ系にも偏らず、あるがままに見ているとおりを残してくれる安心感が前提だったりします。

そもそも中望遠レンズともなれば特に焦点距離:105mmはギリギリのポートレート域でもあるので、被写体となる人物の雰囲気をそれとなく自然に写し出してくれるのが最大のメリットとも考えます (85mmは逆に意識させてしまう近さ)。その自然な風合いの中で、人肌感を緻密にリアルに残してくれるポテンシャルの高さがこのモデルの当方が評価している魅力です。

残念ながら、明るい開放f値タイプにはその要素を見出せていません・・。

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1951年〜1980年まで東京都台東区に存在していた光学メーカー「三協光機」は、当初は下請けとして活動し「Chivanon/Chibanon (チバノン)」のブランド銘で8mm用レンズや引き伸ばしレンズを開発製産していたようです。

その後独自ブランドの「KOMURA−/KOMURANON (コムラー/コムラノン)」で一般向け民生用オールドレンズの他に中判〜大判サイズまで開発しコストパフォーマンスの良さから定評があったようです。

焦点距離105mmは当初1955年発売の開放f値「f3.5」の他「f2.0/f2.5/f2.8/f3.5II」と数種類存在し、製産/発売時期の相違により黒色鏡胴やプリセット絞り機構を装備してきたタイプもあり、マウント種別まで考えると多岐に渡ります。


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系が3枚玉トリプレット型構成なので、彼の有名な旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製中望遠レンズ「Trioplan 100mm/f2.8 V」と同じですが、シャボン玉ボケを表出させられるものの、Trioplanのような繊細なエッジの特大なシャボン玉ボケではありません (それなりに骨太で明確な輪郭を表出させる特徴がある)。

二段目
一段目からして女性のリアルな人肌感が肌まで感じ取れるほどに緻密に、しかし決して誇張感に偏らず自然に魅せているのが素晴らしいです。

光学系は3群3枚のトリプレット型構成です。Meyer-Optik GörlitzのTrioplanと比べると、小ぶりの光学系で、且つ開放f値も暗めの「f3.5」なので、繊細で美しいシャボン玉ボケの表出を期待すると少々ガッカリします。

ところが、逆にTrioplanでこのリアルなポートレートを撮ろうとすると全くダメで(笑)、はたして「シャボン玉ボケの為だけに10万円出すのか」と言う葛藤に突き当たります (Trioplan 100mmの市場流通価格帯は6万〜10万円)。

つまり海外の方々の「BOKEH MONSTER (ボケ・モンスター)」の解釈/認識が日本人の捉え方から逸脱してしまったので、そのような言い方になります。

日本人の捉え方から逸脱した「BOKEH」とは?

BOKEH (ボケ)」はもちろん日本語の「ボケ」から近年英語辞書に登録された、まさに英製和語のようなイメージのコトバです。

そもそも1997年にMike Johnston (マイク・ジョンストン) 氏による写真雑誌の掲載記事に「bokeh」と言うコトバが登場したのが、世界で初めての英製和語の登場でもあります。この時になって初めて外国人は日本人がアウトフォーカス部に関心を抱く「ボケ味」と言うコトバに突き当たり、その感性と表現性の広さにオドロキを感じたのだと思います。実際、記事の中にちゃんと「bokehaji」と記載され解説されています。

つまりクラシックレンズ〜白黒写真全盛時代に至るまで、そもそも写真は「記録写真/記念写真」的発想からスタートしたとも考えられます。すると光学硝子レンズの開発/歴史に於いて、収差の改善はその全てが「ピント面の把握」と言う命題の下に「何を活かして何を殺すのか」の選択肢に置き換えられていたとも考えられます。

外国人にとって「ピントが合っているのか合っていないのか」しか問題視していなかったことになりますね(笑)

それ故、ワザワザ「bokeh」と言うコトバを辞書登録したワケですが、最近の外国人の表現手法 (特に実写などのメッセージ) を見ていると「bokeh円形ボケ」と捉えてしまっていることを強く感じています。

日本人が捉えている「ボケ味」は、決して玉ボケやリングボケ、或いはシャボン玉ボケなどの「円形ボケ」に限定した感性/感覚ではありませんョね?

ボケが汚いとかキレイだとか、トロトロボケ滑らかなボケ方などなど、凡そ様々なボケ方の全てに対して評価を与えているハズです。もっと言えば「落語のボケ」などもあるので(笑)、それは「 (的を) 外れている要素に対する捉え方」を世界の中で日本人だけが感性として持っていたとも考えられます。その根源は何かと言えば、日本人特有の「 (わび)  (さび) の世界観」ではないかと当方は考えています。

従って、前述のMeyer-Optik Görlitz製Trioplan 100mmで言えば、まさにシャボン玉ボケの為だけに貴方は10万円出しますか?という問いが浮かび上がる次第です(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。全ての構成パーツをバラして既に溶剤で洗浄後、当方による「磨き研磨」を終わらせて (再び洗浄後に) 並べて撮っています。

すると真ん中に得体の知れないモノが置いてあります(笑)
当方ではこれを「手裏剣」と呼んでいます・・(笑)

↑「位置決め環」と言う環 (リング/輪っか) に16枚の絞り羽根が刺さったままの状態で広げているので「手裏剣」のようになっていますが(笑)、実はこの刺さっている絞り羽根を1枚ずつ取り外してしまうと「製品寿命」に堕ちてしまう懸念が高いので「外せない (怖いから)」のがホントの話です。

実は、絞り羽根の両端には「十字に切り込みを入れた後にプレッシングで折り曲げただけの羽根 (4枚)」が用意されています (赤色矢印)。
この「4枚の羽根」のうち1枚でも折れてしまうと「絞り羽根が刺さらなくなる製品寿命」と言う話です。

位置決め環」側の羽根は、刺さっている穴の反対側に向けて折り曲げられており、ちゃんと不意に外れないよう処置されています。

一方左写真の別の端にある羽根は「開閉環」と言う環 (リング/輪っか) の切り欠き部分をスライドするので剥き出しで良いワケです (しかしやはり折れてしまったらスライドできなくなるので製品寿命に堕ちてしまう)。

従って、今回の個体は既に過去メンテナンスされていますが、その時の整備作業時はこの「絞り羽根の塊 (手裏剣)」を一切外していません。当方がバラすとそのような事柄まで把握してしまいますね (つまりおそらく綿棒か何かで溶剤で絞り羽根を拭いただけの処置止まり)(笑)

↑完成した絞りユニットを鏡筒最深部にセットして鏡筒を仕上げます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。過去メンテナンス時に一部をヤスリ掛けしているようです (上の写真で白っぽく削れている箇所)。

その理由は、絞り羽根の「キー (今回のモデルで言えば両端に用意されている4枚の羽根の事)」の一部が変形している為に、絞り羽根が重なり合っていく途中で抵抗/負荷/摩擦が生じます。羽根が変形してしまった原因は過去の一時期に「油染み」が生じてしまい、且つ「粘性を帯びていた」ことからそのベタベタ感が羽根の変形を招いています。

それが本当に理由なのですが、過去メンテナンス時の整備者は絞り環が擦れている抵抗/負荷/摩擦なのだと思い込んだようで「ヤスリ掛け」しているワケです(笑) もちろんそんな事をしても一切改善できていませんし改善できるハズもありません

今回のオーバーホールでも残念ながら「変形した羽根を修復した途端に折れる危険性が高いので触れない」ため、絞り環を回す際にトルクムラが残っています。

↑プリセット絞り機構部を組み付けます。

↑まず先にプリセット絞り環をセットします。赤色矢印で指し示している箇所をご覧頂くと分かりますが、切り欠き部分から飛び出ている真鍮製の金属棒 (キー) が端に到達しているので止まっています。

つまりこれ以上右方向に回すことができないワケですが、この切り欠き部分を切削して右方向に広げてあげればさらに回す範囲を増やせます。ところが逆に鏡筒内部に実装されている「絞りユニット」の絞り羽根が動く範囲は決まっているので (開くか閉じるかは決まっている範囲内でしか駆動しない)、ここを広げても意味がありません。

何を言いたいのか?

後で写真が出てきますが、鏡胴「後部」側の基準「」マーカーとこの絞り環の位置が僅かにズレていますが「改善できない」ことになります。

↑取り敢えず「絞り環」もセットして光学系前後群も組み込んで鏡胴「前部」を完成してしまいます。このモデルは鏡胴が「前部/後部」二分割式なので、この後は鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。

↑鏡胴「後部」側はヘリコイド (オスメス) と基台にマウント部しかないのでシンプルです。上の写真を見ると分かりますが、ヘリコイド (メス側) だけが「真鍮製 (黄鋼)」になっています。これを見てすぐにピ〜ンと来た人は、それなりの技術スキルを有する方ですね(笑)

↑このモデルのヘリコイド (オスメス) の組み込みは一般的なオールドレンズと同じルールですが、そのトルク調整となると話が別で厄介です。さらに距離環のローレット (滑り止め) が皿ネジ固定なので (イモネジ固定ではない)、固定位置が決まっています。

つまりこのモデルは無限遠位置調整機能を持っていません。従ってヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置をミスると適正に無限遠合焦しませんし、距離環が無限遠位置と最短撮影距離位置の両端で突き当て停止する位置までズレてしまいます。

面倒なので全て微調整が終わった状態を撮っています(笑)

この後は完成している鏡胴「前部」を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回1年ぶりに扱いましたが、今回出品する個体は大変珍しい「M42マウント」のタイプです。今まで扱ってきたほとんどが「L39マウント」ばかりでしたから「M42マウント」となると実は4年ぶりだったりします(笑)

↑このモデルの光学系はコーティング層経年劣化でクモリが生じている場合が多いのですが、今回出品する個体は「これでもか!」と言わんばかりにスカッとクリアな透明度を誇ります。もちろんLED光照射でコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無であり、まるで「新品同様品のレベル」とも明言できます。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑中望遠レンズなので、後玉の位置が鏡胴の奥まった場所になってしまう為に、オーバーホール工程の途中で予め後玉の状態を撮影しておきました。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:9点、目立つ点キズ:6点
後群内:13点、目立つ点キズ:10点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ無し)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑16枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。前述のとおり絞り環を回す際は少々トルクムラを感じます (僅かにトルクが重くなる箇所がある/そのまま操作して頂いて将来的に問題なし)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
 (一部トルクが僅かに重くなる箇所があります)

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・附属の純正金属製フードは経年相応に僅かな変形やキズ・擦れ・凹みなどがあります。また附属の皮革製レンズケースも経年相応のレベルです。

↑このモデルはたいていの場合、距離環を回すトルクが非常に重くなってしまっている個体が多いので (今回の個体も調達時は回らないほどの状態だった)、オーバーホール後の軽く回せる状態はありがたいハズです。

当初バラす前の時点では鏡胴の基準「」マーカーとプリセット絞り環/絞り環の基準「●」マーカーは一直線上に並んでいました (上の写真のようにズレていなかった)。

ところが実写確認すると「甘い描写」のピント面だったので、バラしてみると「サイズが大きめのシム環」が1枚鏡胴「前部」と「後部」の間に挟まっていました。つまり過去メンテナンス時に「シム環 (厚みが薄い環/リング/輪っか)」で位置調整していた事になりますが、その結果光路長が延びてしまい正しい (適正な) ピント面に至っていません(笑)

鏡胴「前部」は (ロシアンレンズと同じですが) ネジ込み式なので、最後までネジ込むとご覧のように縦方向で一直線上に並びません (但しピント面は改善済)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑附属品をまとめて撮影しました。

↑当レンズによる最短撮影距離1.25m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。既に「回折現象」の影響が出始めています (写真中央部のコントラスト低下/フードが必需品です)。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。