◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biotar 58mm/f2 T《中期型ーⅠ》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツ
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・
Biotar 58mm/f2 T《中期型ーI》(M42)』です。


当方でのBiotarシリーズ扱い数は今回が50本目 (累計) になりますが、特にマウント種別が「M42マウント」の場合に、この当時の規格の相違から「マウントネジ部の先にさらに突出がある」問題があります。

左写真は今回出品個体のマウント部を真横から撮影した写真ですが、特にM42ネジ部の先に「さらに4.4mmの突出がある」問題です。

この突出は、フィルムカメラに装着する場合クィックリターン式ミラーに「ミラー干渉」してしまい撮影できませんし、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する際も「ピン押し底面の内径に当たって最後までネジ込めない」問題が発生します。

このM42マウントのネジ山から先にすぼまったカタチで突出している部分の外径が、装着するマウントアダプタの「ピン押し底面の内径」に合致しない為に当たってしまい最後までネジ込めないという現象です。

これは、そもそも現在市場に出回っている「M42マウントアダプタ」の規格が統一されていない為に生ずる問題であり、マウントアダプタの製産メーカーはもとより使うユーザーまで間違った認識 (思い込み) で使おうとするから、このような「マウントアダプタによる相性問題」に見舞われます。

・・・・同じM42マウント規格なのにどうして使えないのか?・・・・

もしもそのような疑問を抱くとしたら、それは「マウント規格に対する過信」があるとご認識頂くほうが正しいです (それが現実です)。

そもそも「M42マウント」と現在呼称されているマウント規格は、正しくは「プラクチカ・スクリューマウント」と呼び「ネジ内径42mm x ピッチ1mm」のネジ込み式マウントを指します。しかし、特にM42マウントに関して当時の世界中の光学メーカーが自社に都合の良い独自規格を次々と附加させてしまったことから「互換性があって互換性が無い」規格になっている点を、まずは使うユーザー側がシッカリと認識するべきではないでしょうか?

同時に今現在のマウントアダプタ製産メーカーも、数多くあるM42マウントの規格諸元値の中から何を自社マウントアダプタ製品に採ってきたのかを一切明確に明示して販売していません (製品の多くは中国製が占める/日本製でも同じ)。

一方、自分が所有しているM42マウントのオールドレンズも、様々に相違点がある規格の中で何が合致したモデルを使っているのかを調べる術がありません。つまり「オールドレンズ側とマウントアダプタ側との規格上の接点はネジ内径とピッチだけしかない」ままに選ばなければイケナイのが現実だと言えませんか?

例えば、所有している数多くのオールドレンズの中で、M42マウントの個体を数本装着しようと試す時、あるモデルは指標値がピタリと真上に来るのに、別のモデルは横を向いたままネジ込みが止まってしまう (指標値位置が必ずしも真上に来ない) 問題があったりします。

すると同じ「ネジ込み式のM42マウント規格」なのに、どうしてメーカーの相違だけで指標値位置のズレが発生するのでしょうか? 規格としてM42マウントのネジ切りスタート位置がどうして統一されていないのでしょうか?

もっと言えば「M42マウントのネジ切りスタート位置は製産時点のまま」であり、どんなに過去メンテナンスが施されていようとネジ切りのスタート位置を変更する術がありません (一部はマウント部の固定位置自体が可変のモデルも存在する)。すると指標値が真上に来ない原因が過去メンテナンス時の不手際だとも言えないのが自明の理ではないでしょうか?

そのような「リスク」が存在する事を是非ともご認識頂きたいものです・・。

冒頭の問題点 (マウント部突出が当たり最後までネジ込めない問題点) を考慮した上で、同じ旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製標準レンズ『Tessar 50mm/f2.8 T seilver《初期型》(M42)』をオーバーホール済でヤフオク! 出品しましたが、SONYやマイクロフォーサーズ、或いは富士フイルムやCanon/Nikonなどのカメラボディでもお使い頂けるようマウントアダプタを選べるよう配慮」したのに全く人気ありません(笑) 仕方なく急きょ出品を変更して一部のマウントアダプタ「FOTGA製マウントアダプタ」だけに対応するよう再調整して再出品しています (一応そのマウントアダプタも以下ご案内しておきます)。

現状市場で入手可能な「非ピン押し底面タイプ」のM42マウントアダプタは、たったの一つ「FOTGA製SONY Eマウントアダプタ」しか存在しません。他の様々なカメラボディで使えるマウントアダプタを選べるよう「非ピン押し底面化処置」を施したマウントアダプタをご用意しました (別途有償)。

これらマウントアダプタは「マウント面に絞り連動ピンが存在しないM42マウント規格のオールドレンズ用」であり、同時に一般的なM42マウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) にネジ込むと最後までネジ込めないオールドレンズ用としてご用意しています (例:Carl Zeiss Jena製シルバー鏡胴モデルなど)。

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Biotarは戦前のドイツで、当初は1910年に開発されたシネレンズとして8.5cm/f1.8が考案されますが量産化までは進まず、1928年にはやはりシネレンズとして量産モデルが焦点距離2.5cm〜7cmまで揃えられたようです。1932年にはフィルムカメラのRoBoT用モデルとしてようやく4cm/f2モデルが登場し、後に1936年一眼レフカメラ用の「Biotar 5.8cm/f2と7.5cm/f1.5」が発売され1965年まで製産が続きました (その後Pancolarに継承される)。つまりBiotarシリーズはシルバー鏡胴だけで消滅していった標準レンズとも言えます。

なお「初期型I/II」には一部にシングルコーティング (単層反射防止膜) の個体が混じっていますが「初期型II」の途中からモノコーティングたる「zeissのT」が蒸着されています。また「中期型II」からはレンズ銘板への「T」刻印が省かれてしまいましたが、同じモノコーティングのままです (モノコーティング:複層反射防止膜)。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型-I1936年発売
絞り羽根枚数:8枚 (歪曲型)
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f16
筐体:総真鍮製

初期型-II
絞り羽根枚数:8枚 (歪曲型)
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f22
筐体:アルミ合金製 (マウント部のみ真鍮製)

前期型-Ⅰ前期型-Ⅲ
絞り羽根枚数:17枚
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f22
筐体:総アルミ合金製

中期型-Ⅰ
絞り羽根枚数:12枚
最短撮影距離:50cm
プリセット絞り機構:
最小絞り値:f22
筐体:総アルミ合金製

中期型-Ⅱ
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:50cm
プリセット絞り機構:有
最小絞り値:f16
筐体:総アルミ合金製

後期型
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:60cm
プリセット絞り:有
絞り連動ピン:
最小絞り値:f16
筐体:総アルミ合金

なお「初期型I/II」には一部にシングルコーティング (単層反射防止膜) の個体が混じっていますが「初期型II」の途中からモノコーティングたる「zeissのT」が蒸着されています。また「中期型II」からはレンズ銘板への「T」刻印が省かれてしまいましたが、同じモノコーティングのままです (モノコーティング:複層反射防止膜)。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが背景ボケへと変わっていく様ピックアップしています。光学系が典型的なダブルガウス型構成ですが、収差の補正が優秀な分、きれいな真円のシャボン玉ボケが表出し、その後キレイに滲みながらトロトロの背景ボケへと変わります。

二段目
ロシアンレンズと違いCarl Zeiss Jena製オールドレンズはピント面のエッジが基本的に細く繊細に出てくるので画全体的な誇張感による違和感が少なくまとまりやすい傾向があります。またダイナミックレンジが広く、特に暗部の頑張りから空間表現能力も高い部類です。

三段目
被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力に優れダイナミックレンジの広さとも相まり現場の雰囲気を留めるリアルな写真が素敵です。

光学系は典型的な4群6枚ダブルガウス型構成ですが、当初発売された戦前〜戦中の「初期型」から数度の再設計を経ています。特に「初期型」には他のオールドレンズに類をみない「歪曲型絞り羽根」を採用しているのが特異です。

その後「前期型」で絞り羽根の設計が一般的な「平面絞り羽根」に変わったので光学系を再設計していますが、最短撮影距離は90cmのままなので、純粋に絞り羽根枚数が17枚に増えた入射光制御の関係からから光学系を再設計したと考えられ、Biotarシリーズの基本形に到達したとも言えます。

今回の「中期型」では最短撮影距離50cmへと短縮化され、絞り羽根枚数が12枚、或いは後に10枚へと減じられた為に、光学系も各群のサイズや曲率などがビミョ〜に変化しています。

最後の「後期型」では自動絞り方式を採れ入れ、絞り羽根枚数も10枚まで減じられますが、最短撮影距離は60cmと逆に延伸してしまいます。
(必然的に光学系を再設計しています)

いずれも右図はバラして清掃した際にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

今回のオーバーホールでは以下の問題点について集中的に改善を試みました。

バラす前の実写チェックでピント面が甘い印象。
距離環を回すトルクが異常に重たい。

バラしてみればそれらの原因は明確でした。過去メンテナンスが最低でも2回は施されている個体と推察しますが、はその都度塗られてしまった「黒色の反射防止塗料」が塗り重ねられていった為に、光学硝子レンズを締め付け固定する「締付環」が最後までネジ込まれていなかった事に起因する「光路長不足」でした。

各群の光学硝子レンズの「締付環」は、そもそも製産時点でメッキ加工として焼き付け塗装されている「マットな反射防止メッキ」部分が溶剤で溶けて除去できたりしません (例:前玉用の締付環や硝子レンズ格納筒の内壁など)。

一方、前玉以外の「締付環」は当初バラした直後は真っ黒な艶消し着色されていますが、溶剤で溶けて除去できてしまいます。するとそれら「締付環」は製産時点で「反射防止メッキ加工をしていない締付環」と言えます (必要性が無いから)。

それら「製産時点で反射防止メッキ加工をしていない締付環」は過去メンテナンス時に、黒色の反射防止塗膜で何度も何度も塗り重ねられていった事になります (溶剤で溶けるからメッキ加工ではない事が明白)。その塗り重ねられていった段階で「締付環」のネジ山に反射防止塗膜が固まり締め付け具合に影響を与えていたワケです (最後までネジ込めなくなってくるから)。

結果、本来あるべき光路長確保ができずに甘いピント面に至るワケですね(笑)

なおの距離環が重い原因は、今回の個体が過去に落下かぶつけたかによる打痕が1箇所距離環にあった事から、極僅かに距離環が真円を維持していないと推察できます。何故なら、距離環の内側には「ヘリコイド (メス側)」が用意されているからで、それが原因で重いトルクに至っていたと推測できます。

このようにオールドレンズは、完全解体して各部位や構成パーツの「観察と考察」を行う事で「その改善処置と調整度合い」が明確になります。そしてその改善処置と調整は「原理原則」に基づき具体的な処置方法と調整レベルが決まってくる次第です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

なお左写真でグリーンの矢印で指し示した箇所だけに「切削痕」があります。逆に言えば、絞り羽根の他の箇所には一切「切削痕」がありません。この事から製産時点で絞り羽根はブラブラとブラ下がった「枝豆の房」のようにカッティングプレスされていたことが分かります。「切削痕」はその箇所でカットして面取り処置していた事を示す「証拠」とも言えますね。

観察と考察」する事で、このような目に見えない製産時の背景なども垣間見え、オールドレンズは本当に楽しいです(笑)

↑12枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞りユニットも完全解体して清掃したので、この状態でスルスルと無抵抗で駆動しますが、このままでは絞り環をセットした時に「スカスカ状態で軽すぎる」ほどです。従って、逆にオーバーホール工程では「トルクを与えてシッカリした操作性に仕上げる」処置を講じます。

オーバーホール/修理を承ると、過去メンテナンス時が施されているものの「絞り環操作がスカスカ」といった個体があったりしますが、まさに過去メンテナンス時にそこまで配慮されていなかった事の「」とも言えますね(笑) 何でもかんでも軽ければ良いのではなく「スカスカ状態」では実際に絞り環を回してボケ具合を調整する際、すぐに微動してしまい面倒で仕方ありません(笑) そのような配慮ができるか否かもオーバーホール時には仕上がりを決める重要な要素になってきます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。鏡筒下部に「593 4」と数値刻印があるのは製造番号の一部ではなくてパーツ番号です。

↑「絞り環」をネジ込みますが最後までネジ込んでしまうと適切なトルク感で仕上げる事ができません。赤色矢印で指し示した箇所には「」が用意されていますが「絞り値キー」と呼び、ここに「プリセット絞り値キー」がカチカチと填る事でプリセット絞り値がセットされる仕組みです。

↑スプリングを組み込んでから「プリセット絞り環」をセットします。

↑後からでは面倒なので、ここで光学系前後群を組み付けてしまいます。これで鏡胴「前部」が完成したので、ここからは鏡胴「後部」の工程に移ります。

↑指標値を兼ねるマウント部です。

↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。その後にヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

最後に完成している鏡胴「前部」を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑距離環に1箇所あった「打痕」は、調達時には上手く避けて撮影した写真を掲載していた為に事前に全く知りませんでしたが、今回の個体の最大の魅力は「驚異的な透明度を維持した光学系」です。この当時のオールドレンズに多い「極微細な気泡」が多めですが (パッと見で塵/埃に見える)、それを除けばまるで新品同様品くらいに「クリア」です。

今回の個体は製造番号から「1952年夏」の製産個体と推測できるので、67年の歳月を経ている事を考えれば驚異的にクリアな状態を維持している光学系だとも言えます。

↑前玉側方向から光学系内を撮影していますが、ご覧のように「極微細な気泡」が伏す空間表現視認できます。もちろんLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

気泡
この当時の光学メーカーは、光学硝子材精製時に一定の時間規定の高温を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

ポツポツと写っている点状は、全て「気泡」なので点キズと言える点状キズがほとんどありません (極微細なヘアラインキズなどは数本残っています)。

↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。やはり「気泡」があります。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

後群側もポツポツと視認できるのは全て「気泡」ですが微かな擦りキズが外周附近に1箇所あります (写真には全く影響しない)。

↑今度は後玉側方向から光学系内の「極微細な気泡」を撮影しました。特に拡大撮影すると「気泡」なのが一目瞭然ですから、決して塵/埃の類ではありません。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
(極微細な点キズは気泡もカウントしています)
(気泡の数を除けば極微細な点キズは数点です)
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑12枚の絞り羽根もキレイになり「プリセット絞り環/絞り環」共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じていく際は「歪なカタチにならず真円に近い円形絞り」です。

また「絞り環」がわの操作性は故意に (ワザと) トルクを与えていますが、逆に「プリセット絞り環」側の操作性は非常に軽く小気味良く動くよう仕上げています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんクロームメッキ部分も当方にて「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

その輝きは、出品撮影の際に手で触った箇所の指紋が残るのが気になるくらいピッカピカです。それはいわゆる海外オークションebayや最近のヤフオク! などで見られる「如何にも研磨した金属質」な輝きではなく、現物を手にすれば一目瞭然ですが「違和感を感じない高品質な輝き」の光沢です。

確かにヤフオク! などで信用/信頼が高い出品者が明言しているように、オールドレンズで重要なのは光学系であり、外観状態などは二の次なのでしょうが、その光学系のピント面が鋭く改善され操作性も良くなったとなれば、最後に「所有欲を充たすのは外観の状態」だったりするのが人情です(笑)

当方のオーバーホール済個体がそのような状況でヤフオク! に出品されている事は、まさにご落札者様1名様限りのみぞしる事ですが、きッとご納得頂けるハズです。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑距離環を回すトルクが「重め」に感じると言っても、あくまでも当方がオーバーホール/修理した今までの2,000本以上の範疇から考慮すれば重いトルク感のレベルなので、操作性に支障を来す話では一切ありません (ヘリコイドの擦れ感が相応に残っている)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

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↑ここからは冒頭で解説した「マウント部の突出によるマウントアダプタとの相性問題」を具体的に解説していきます。

今回の出品個体はこの「マウントアダプタとの相性問題改善済の個体」なのですが、ここまで配慮して市場に出回っている数多くのマウントアダプタの中から代表的な製品について検証し且つちゃんと対策を講じた個体を出品している出品者が、はたしてヤフオク! の中でどれ程いらっしゃるのでしょうか

・・と考えるのはどうも当方だけのようで(笑)、何ら付加価値として認められていないのが、いつまでも落札されずに残っている事からも明白です(笑) それは当方の低い技術スキルであるがゆえの話でもあり、信用/信頼が皆無なのも影響しています。

検証したマウントアダプタは以下の3種類になります・・。

Rayqual製M42 → SONY Eマウントアダプタ (日本製)
K&F CONCEPT製M42→ SONY Eマウントアダプタ (中国製)
FOTGA製M42 → SONY Eマウントアダプタ (中国製)

まずはRayqual製マウントアダプタに今回の出品個体を装着してみました。赤色矢印で指し示している箇所に隙間が無く「ちゃんと最後までネジ込めている」状態です (指標値位置も真上に来る)。

従って、今回のオーバーホールではRayqual製マウントアダプタで「適正に無限遠合焦する」よう調整を施しました

こちらはK&F CONCEPT製マウントアダプタです (新型)。最後までネジ込めずに隙間が空いてしまいます (赤色矢印)。

これはマウントアダプタ内側にある「ピン押し底面の内径が小さすぎる」為にマウント部の突出がネジ込む途中で突き当たってしまうのが原因です (つまり最後までネジ込めない)。結果無限遠合焦しません

市場で唯一入手可能な「非ピン押し底面タイプ」の FOTGA製マウントアダプタです。マウントアダプタ内側にピン押し底面が無いので必然的に最後までネジ込めます (赤色矢印)。

しかしこのマウントアダプタは製品仕様としてフランジバックが超過している為、無限遠合焦しません

これら検証の詳細については、別件でヤフオク! 出品中『Tessar 50mm/f2.8 T silver《初期型》(M42)』冒頭部分で詳細解説しています (このような相性問題が発生する背景なども含め解説)。特にこの当時のシルバー鏡胴モデルの死角部分でもあるので、ご存知ない方はご参照下さいませ。

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↑ここからはこのモデルの「プリセット絞り機構」について解説していきます。

それは自ら整備してヤフオク! 出品しているプロの写真家がこの「プリセット絞り機構」の説明で意味不明な案内をしているからです (そのプロの写真家から落札したオールドレンズを壊してしまい当方にオーバーホール/修理をご依頼された方が実際にいらっしゃる)。

最小絞り値が開放f値の位置で今の考えの逆になっています。絞り値が刻印されているほうが回りますので、それを希望数値に設定する事で、その最大値が絞り値になる仕組みの考え方のようなのです。

上記の説明はそのプロの写真家がヤフオク! 出品している出品ページで解説されている内容ですが (一部要約)、何を言っているのか意味が分かりません(笑)

まず「絞り環/プリセット絞り環」の別を間違って認識すると壊す原因になります。絞り値が刻印されているほうが「絞り環」になり、その直下ギザギザのジャギーが刻印されているローレット (滑り止め) 側が「プリセット絞り環」です (赤色矢印)。

当初の状態で基準「」マーカー位置に開放f値「f2」が来ており (赤色矢印)、且つ「プリセット絞り環」側の「」マーカーも合致している必要があります (グリーンの矢印)。

例としてプリセット絞り値を「f4」に設定する操作をご案内していきます。「プリセット絞り環」側をマウント方向に引き戻して (ブルーの矢印①)、指で保持したまま設定絞り値「f4」まで回します ()。

↑設定絞り値「f4」のところで「プリセット絞り環」がカチッとハマる (音がする) ので指を離します (ブルーの矢印③)。すると「プリセット絞り環」側の「」マーカーがちゃんと設定絞り値「f4」に合致していますが (グリーンの矢印)、この時「絞り環」側は一切触っていないので「開放f値f2を維持したまま」と言えます。つまり絞り羽根は完全開放したままの状態を維持しています (赤色矢印)。

従って、ここで開放状態のまま距離環を回してピント合わせを行い、シャッターボタン押し下げの直前で設定絞り値「f4」まで絞り羽根を閉じて撮影すれば良い手順です。

↑なので「プリセット絞り環」側を保持して「」マーカー (グリーンの矢印) を基準「」マーカー (赤色矢印) まで持っていきます (回す:ブルー矢印④)。この時、絞り値が刻印されている「絞り環」側も一緒に移動して「f4」になったワケですから「絞り羽根が設定絞り値f4まで閉じた」状態と言えます。ここでカメラボディ側のシャッターボタンを押し込んで撮影します。

この後は再びプリセット絞り値の設定を解除していく作業を行います。

↑「プリセット絞り環」側を保持したまま突き当て停止するまで回します (ブルーの矢印⑤)。すると基準「」マーカー位置には開放f値「f2」が自動的に合致します (赤色矢印)。この時「プリセット絞り環」側のプリセット絞り値はまだ解除操作していないままなので、当初の設定絞り値「f4」のままです (グリーンの矢印)。

最後にプリセット絞り値を解除して開放状態に戻します。

↑当初の操作の逆をすればOKですね。「プリセット絞り環」を保持したままマウント側方向に引き戻し (ブルーの矢印⑥) そのまま「」マーカーを開放f値「f2」に持っていきます ()。カチッと言う音がするので指を離すとプリセット絞り値が「開放f値f2にセットされる」ワケです ()。「絞り環」がわは一切触っていないので、もちろん絞り羽根は「完全開放を維持したまま」ですが (赤色矢印)、プリセット絞り値も開放f値「f2」に設定された事になります (グリーンの矢印)。

慣れてしまったら面倒なのでダイレクトに「プリセット絞り環」側だけをカチカチと操作しても構いませんが、必ずプリセット絞り値の設定時は「絞り環が開放f値f2に戻っている」事を確認する必要があり、それをムリなチカラで操作すると内部パーツを折ってしまう事に至りますから要注意です (折ってしまったら絞り羽根が開閉しなくなる)。

結局「絞り環/プリセット絞り環」の別を反対に認識してしまうとそれぞれの操作時の解説すらできません。それゆえ前述のようにプロの写真家のクセに意味不明な案内を平気で出品ページに載せています(笑) それは詰まるところご落札者様でさえ正しく認識できない懸念が高まるので、ここで敢えて解説した次第です。

全ては「ご落札者様に対する配慮」であり、その根本が当方の「DOH」つまりは今回のオーバーホールとも言えます。そしてそれは現物を手にしてご確認頂けるワケですが、その際の操作性なども逐一事前に可能な限り知らしめているワケで、プラスα将来的に壊してしまわぬよう「操作原理」などまで解説しています。

このようなブログに「意味が無い/意義すら無い」と仰る方も居ますが(笑)、当方はご落札者様の事だけを考えてやっている事なので文句を言われる筋合いはありません。ご賛同頂けない方は当方のヤフオク! 出品オールドレンズをご落札頂かぬよう、またオーバーホール/修理もご依頼頂かぬようくれぐれもお願い申し上げます

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

当初バラす前の実写チェック時に「甘い印象のピント面」だったのが、ご覧のように鋭いピント面に改善できています。ほんの僅かな光学硝子レンズ「締付環の緩み」なのですが、このとおり適切な光路長確保すれば改善できる次第です (もちろん簡易検査具を使って検査しているから改善度合いを知る事ができている)。

当方にオーバーホール/修理をご依頼頂く方のほとんどが、このようにオーバーホール前後での描写性の相違を「現物を手にして実感/体現できている」からこそ、再びオーバーホール/修理をご依頼されるワケで、決してウソをブログに掲載しているワケではありません(笑) まぁ〜信じられない方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様宛に整備をご依頼頂くほうが安心で無難ですね(笑)

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」に変わっています。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。