◎ Carl Zeiss Jena DDR (カールツァイス・イエナ) Flektogon 35mm/f2.8 zebra(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するモデルは、旧東ドイツのCarl Zeiss Jena DDR製広角レンズ『Flektogon 35mm/f2.8 zebra (M42)』です。

当方での扱いは今回の個体が57本目 (累計) にあたりますが、相当ハードな作業になってしまい丸2日掛かりになってしまいましたが、当方の技術スキルの低さを思い知らされた大変貴重な作業でもありました(笑)

このモデルを毎週2〜3本自ら整備してヤフオク! 出品しているプロの写真家が居ますが、既に累計本数が66本に達していますから相当ハイペースです (当方は8年間で57本)。

当方のオーバーホールは「本来あるべき姿 (機能/性能)」に戻すことを大前提とし「DOH」を施すことでオールドレンズそのものの「延命処置」が最終目的なので、どうしても一日に1本しか整備できません。

その意味では単にバラしてグリースを塗って組み立てるだけの一般的な整備作業とは全く異なるオーバーホール作業です (当方では「グリースに頼った整備」をしない)。

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一般向けの一眼レフ (フィルム) カメラは戦前まで「レンジファインダーカメラ」が主流だった為に、当時人の目で見たままの自然な画角として標準レンズ域の焦点距離を40mm〜45mmに採っていました。またバックフォーカスの問題が少なかったことから広角レンズ専用の光学設計の必要性が無く、当時の広角レンズ域は標準レンズ域の光学設計を延伸させただけで対応できていました。

従って戦後〜1950年まで広角レンズ専用の光学系開発が遅れていたワケですが、フォーカルプレーンシャッター式の一眼レフ (フィルム) カメラが登場すると、そのバックフォーカスの問題から広角レンズ専用の光学系開発の必要性に迫られます。

1950年に世界で初めてフランスの老舗光学メーカーP. ANGÈNIEUX PARIS社より広角レンズ「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」が発売され、この時初めて広角レンズ専用光学系を実装してきました。

それが後に広角レンズ専用光学系の代名詞にもなった「レトロフォーカス型 (5群6枚)」です (当初はAngenieux社の登録商標でしたが世界規模で広く広角レンズ域の光学系として採用され/呼称されるようになった為黙認状態)。

右図は、そのP. ANGÈNIEUX PARIS社製広角レンズ「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」の構成図ですが、 部分の3群4枚テッサー型構成を基本として、バックフォーカスを稼ぐ意味から前方に2枚光学硝子レンズを配置した設計概念です。

従って巷で「レトロフォーカス型」光学系は「レトロ調/古めかしい/甘い画」などと揶揄されますがそれは「レトロ」のコトバから来る連想であり、正しくは「レトロ (後退) フォーカス (焦点)」なのでバックフォーカスを稼いだ広角レンズ専用設計と言えます。それもそのハズで、3群4枚テッサー型を基本構成としている為にちゃんと鋭いピント面を構成しますが、前方に
2枚配置してしまった硝子レンズの影響からハレーションの影響が出てしまい同時に残存収差の改善も大きな課題となりました。

つい最近まで当時の旧東ドイツCarl Zeiss Jenaではこの広角レンズ専用光学系の設計に遅れをとっていたと考察していましたが、フランスのP.Angenieux Paris社と同時期のタイミングでCarl Zeiss Jenaもレトロフォーカス型光学系のパテントを登録していたことを知りました。

右図は5群7枚のレトロフォーカス型光学系を開発し実装したきた「Flektogon 35mm/f2.8」のプロトタイプの光学系構成図で、1949年時点での生産数は僅か250台です。第3群〜第5群までが3群4枚テッサー型構成を基本としつつも第3群を貼り合わせレンズとした独自設計です。

これはAngenieux社の広角レンズ35mmが最短撮影距離60cmだったことからその短縮化を図っていたことが覗えますし、ハレーションや残存収差の問題をレトロフォーカス型光学系の欠点として既に認識していたことの現れではないかとも考えています。

1953年に旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaがようやく量産型モデルとして「Flektogon 35mm/f2.8 (silver)」を発売します。この時実装してきた光学系は「レトロフォーカス型 (5群6枚)」ですが、Angenieuxが採用した3群4枚テッサー型から4群5枚のBiometar型構成を基本として採用しました (右構成図 部分)。

その結果最短撮影距離が「35cm」まで大幅に短縮化され、問題となるハレーションや残存収差の改善にも挑戦した結果の光学系と評価しています。この光学系はシルバー鏡胴を経て一部のGutta Percha (グッタペルカ) モデルまで引き継がれ、ゼブラ柄モデルの登場に際して再設計されます。

1965年にさらに最短撮影距離を短縮化して「18cm」としたゼブラ柄モデルが投入されます。第1群 (前玉) の曲率を変更すると同時に、第2群を大口径化して各群の曲率なども僅かに調整しています。

しかし、ここまでの変遷を辿ると如何にも余裕綽々でCarl Zeiss Jenaが「Flektogon 35mm/f2.8」を投入してきたかのように見えますが、実はフランスのAngenieuxを相当意識していた事が垣間見えます。

左写真は「Flektogon 20mm/f4 zebra」の鏡筒部分を撮影した写真ですが「絞り値制御ガイド」なる「」が用意されています。この「」部分を絞り環から飛び出てきた「連係アーム」が刺さってスライドして行くことで、無限遠位置「∞」から最短撮影距離位置までで開放f値「f4」を維持します。

↑上の写真は今回の個体の該当部分「絞り値連係ガイド」を撮影していますが、ご覧のように「斜め状の溝」です (前述の20mmは垂直状態の溝)。

Flektogon 35mm/f2.8 zebra」では無限遠位置「∞」の時開放位置で「f2.8」にセットされていても、距離環を回していくと自動的に絞り環が回り始めて当初の開放f値は「f2.8→f4」へと勝手にズレていきます。これをムリにチカラを加えて「絞り環をf2.8に戻そう」など試みると壊してしまうことになります。

ここがポイントで、最短撮影距離をシルバー鏡胴〜Gutta Perchaモデル (一部) までに於いて「36cm」だったのをゼブラ柄モデルから「18cm」へと半分まで短縮化してきました。フランスのAngenieux製広角レンズの「60cm」とは天と地の差です(笑)

ところが開放f値「f2.8」に対して制約が現れる結果に繋がったにも拘わらず商品化してしまいました。無限遠位置「∞」で「f2.8」だった開放f値は、距離環を回すとすぐに移動し始めて徐々に「f4」に近づいていきます。最短撮影距離「18cm」位置では「f4」直前まで可変してしまいます。

この事から当方ではこのモデル「Flektogon 35mm/f2.8 zebra」のf値を「見なし開放f値」と呼んでいます。つまり開放f値「f2.8」になるのは無限遠位置「∞」の場合だけで、すぐにf値が可変していきますから、このモデルの光学系設計上は「35mm/f4」が基準値であるとみています (つまりあくまでも他の焦点距離25mm/20mmと同じf値の製品)。

従って、ワザワザ開放f値「f2.8」を実現させたいが為にこのような可変式の絞り値を採ってきたその理由は「意地」があったからではないかと考察しています (Angenieuxのf2.5を相当意識し続けていたのではないかと言う考え方)。その答えが実は1975年に登場した「後期型」たる黒色鏡胴へのモデルチェンジであからさまになります。「MC Flektogon 35mm/f2.4」ではマルチコーティング化が成されると同時に、何故に敢えて異質な開放f値「f2.4」を採ってきたのでしょうか? と言うのも、最短撮影距離がゼブラ柄の「18cm→20cm」と後退してしまったからです。最短撮影距離のスペックを犠牲にしてでも開放f値「f2.4」に拘っていたことが覗えます。

その意味で、このモデル「Flektogon 35mm/f2.8 zebra」を「f2.8」の広角レンズとしてベタ褒めして勧めているプロの写真家が居ますが(笑)、はたして無限遠位置でばかり撮影している人がどれだけ居るのでしょうか? むしろ最短撮影距離「18cm」の魅力のほうが大きいようにも当方は感じるのですが、ではその時の開放f値は「f4」である点をプロの写真家は一切指摘していません(笑)

特にオールドレンズ沼初心者の方々にはとても不案内な話なので、じっくり考えて頂くほうが良いと思います (最短撮影距離18cmでf2.8の写真が撮れるワケではない点)。ご理解の上でご活用頂ければと思います。

従って天の邪鬼な性格の当方は、むしろ最短撮影距離「36cm」でもキッチリちゃんと開放f値「f2.8」を維持している (実現している)「シルバー鏡胴モデル」のほうが所有欲をそそられます (このページの一番最後の実写掲載でその根拠などを解説しています)。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型-I:1953年発売
f値:f2.8〜f16
絞り羽根枚数:14枚
プリセット絞り機構:あり
筐体外装:アルミ合金材シルバー鏡胴
最短撮影距離:35cm

前期型-II:1953年〜1960年
f値:f2.8〜f16
絞り羽根枚数:12枚
プリセット絞り機構:あり
筐体外装:アルミ合金材シルバー鏡胴
最短撮影距離:35cm

前期型-III:1953年〜1960年
f値:f2.8〜f16
絞り羽根枚数:9枚
プリセット絞り機構:あり
筐体外装:アルミ合金材シルバー鏡胴
最短撮影距離:36cm

中期型-I:1961年発売
f値:f2.8〜f22 (見なし開放f値/実質f4)
絞り羽根枚数:5枚
プリセット絞り機構:なし
筐体外装:Gutta Percha巻き
最短撮影距離:18cm

中期型-II:1965年発売
f値:f2.8〜f22 (見なし開放f値/実質f4)
絞り羽根枚数:5枚
プリセット絞り機構:なし
筐体外装:ゼブラ柄鏡胴
最短撮影距離:18cm

後期型:1975年発売
f値:f2.4〜f22
絞り羽根枚数:6枚
コーティング:マルチコーティング
筐体外装:黒色鏡胴
最短撮影距離:20cm

なお、このモデルバリエーションの中で一番最初に登場したシルバー鏡胴には「zeissのT」刻印をレンズ銘板に伴う「前期型-I」が極少数存在し、且つそのモデルだけが「14枚絞り」を実装しており、もちろん最短撮影距離も「35cm」なので、その後数多く出回った同じシルバー鏡胴の「36cm (絞り羽根9枚)」とは異なります (右写真はその14枚絞り)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

今回のオーバーホール/修理ご依頼は、当方にとってまさに「自らの技術スキルの低さを思い知らされた」作業になりました。ご依頼内容のメインは「写真に紫色の点が写る」と言う現象です。

【当初バラす前のチェック内容】
 実写すると確かに紫色の点が写り込む。
距離環を回すとトルクムラを感じる
 開放時に絞り羽根が極僅かに顔出ししている。
無限遠が出ていない (合焦していない)。

【バラした後に確認できた内容】
光学系第3群にバルサム切れを確認。
 光学系の締付環が緩い。
過去メンテナンス時に「白色系グリース」塗布。
開閉アーム機構部に僅かな変形あり。

特にで「技術スキルの低さ」を思い知ることになりました(涙) の原因を突きとめるのに一日目を要し、で二日目です。

の「写真に紫色の点が写り込む」と言う現象は、ハッキリ言って今回初めての経験ですが、ご依頼者様が複数の実写を予めお送り頂き写り込みの状況は事前に把握していました。

すると、仮に「撮像面に附着した塵/」が写真に写り込んでいるのだと仮定すると、フィルムカメラならフィルム印画紙に附着していた塵/埃ですし、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼なら撮像素子面の附着塵/埃と言う事が考えられます。

しかしこの時「撮像面に附着した塵/」なら被写体との距離は一切関係がありません。何故なら被写体の写像が結像する面に「/」が存在するので「どんな写真でも必ず同じように写り込む」に至るハズです。

ところが、事前にお送り頂いた実写を見ると被写体との距離の相違に伴い「紫色の点が滲んだり鋭いピントだったり変化している」事が分かります。

この事からまず「撮像面に附着した塵/」は除外されます。「紫色の点」の犯人は、距離環を回してピント合わせした時に繰り出されたり/収納したりしている鏡筒の内部「つまり光学系内」に居る事になります。

この時「紫色の点」が滲んだり鋭いピント面を構成していたりするので、光学系内の中玉〜後玉の辺りに犯人が棲んでいます (入射光が収束する箇所)。

現物をチェックしてみると犯人の素性は不明ながらも原因箇所はすぐに判明しました。「第3群の貼り合わせレンズバルサム切れ」です。

貼り合わせレンズ
複数枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群
バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態

今回の個体のバルサム切れは第3群の2/3の領域でバルサムが完全剥離 (反射状態) しており、その境界だけが白濁を伴っていました。

紫色の点」が「半円形」のカタチで写り込んでいたので、そのカタチと実際のバルサム切れ領域面のカタチが近い状態なのを確認しました。原因はバルサム切れなのが判ったのですが、しかし・・???

何故に「紫色の点」と一色で写り込むのか???・・???

光学系の疎い知識を総動員して考えても、バルサム切れで「浮きが生じていた」場合、必ず接着面で内面反射が起きて「虹色に反射する」ハズなので、写真に写り込む色合いは「シ〜ンによって/入射光によってはいろいろな色で写り込む」ハズなのに全ての写真で「紫色の点」です(笑)

これが当方には全く判りませんでした・・(涙)

実際第3群のバルサム切れの領域をLED光照射しても反射が生じており虹色に光り輝きます。順光目視しようがLED光照射しようが「光学系内の何処にも紫色の箇所が存在しない」のです。

手持ちのジャンク個体から光学系を取り外して第1群 (前玉) だけを入れ替えたり、その他の群を入れ替えたりをひたすらに一日目は試みて「紫色の点」の犯人探索モードでした。
しかし5群5枚の光学硝子をどう入れ替えても今回の個体の光学系が入ってくると、再び「紫色の点」が写ります (第3群を格納していた場合)。

それこそ穴が空くほど第3群をつぶさにチェックしましたが、何処にも「紫色」の箇所がありません(笑)

6時間以上を費やして一日目が終わろうとしていた時、諦めて「ゴメンナサイ!」しようと硝子レンズを清掃して「あッ!

何と光学系清掃で使うシルボン紙が薄紫色に汚れました・・!!!

犯人確定!」「紫色の点」の犯人は各硝子レンズコバ端に過去メンテナンス時に塗られていた「油性マジック」だったのです(笑)

もっと正しく報告するなら、光学硝子の表裏面に附着していた経年の「油性マジックインキの揮発成分」が犯人だったのです。つまり各硝子レンズのコバ端に塗られている油性マジック自体は何ら「紫色の点」に結びつきませんが、その揮発したインキ成分「薄紫」が非常に薄い膜となって硝子面 (表裏) に附着していたワケです。それらの薄膜を透過してきた入射光が第3群のバルサム切れ部分で、本来の正しい結像面以外に勝手に (バルサム切れのせいで) 結像する際、その結像/合焦度合いの相違に伴い「紫色の点」として滲んだり鋭く写ったりしていたワケです(笑)

これに全く気がつきませんでした・・・・(泣)
何と浅はかな・・(涙)
何と低レベルな・・。

これこそが「まさに技術スキルが低い証そのモノ」と言わずして何と言うでしょうか。当初バラす前の時点で、光学系の硝子が紫色っぽく見えていたのが納得です (コーティング層の光彩だとばかり考えていた)。

↑「紫色の点」の犯人が判明したので、ここからは通常のオーバーホール工程に戻ります。絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。5群5枚のレトロフォーカス型光学系なので、ご覧のように奥が深い (長い) 鏡筒になります。

↑冒頭で解説した写真と同じですが、鏡筒に「制御環」をセットしたところです。この「絞り環連係ガイド」部分に絞り環から飛び出てきた連係アームが刺さってスライドして「制御環」を回します。

↑こちらは距離環ですが、内側にヘリコイド (メス側) がビッシリ刻まれています。ゼブラ柄環 (リング/輪っか) との間に砂や虫の死骸が入っていたので、外してキレイにしました。

↑距離環やマウント部が組み付けられる基台です。

↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

過去メンテナンス時には最後までネジ込んでいたので、必然的に当初バラす前の実写チェックで無限遠位置がアンダーインフ状態でした (極僅かに甘い印象の合焦)。それは無限遠位置「∞」刻印位置で「カチンッ」と突き当て停止するのではなく「詰まった感じで停止」することからもネジ込みすぎていたのが (バラさずとも) 判ります。

↑鏡筒カバー (フィルター枠) を兼ねるヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で27箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑両サイドに1本ずつ (合計2本) の「直進キー」をセットします。ここでハマりました。距離環を回すと滑らかなトルク感なのですが、当初から発生していたトルクムラが解消されません。

ヘリコイドグリースの「黄褐色系グリース」で「粘性中程度軽め重め」さらにそれらの組み合わせで使い分けて塗布しても、やはりどうしてもトルクムラが出てきます。グリースを入れ替えるたびに「磨き研磨」をやり直して別の粘性のグリースを塗りますがトルクムラは残ります。

最終的に11回ほどトライして最後に「黄褐色系グリース」の「粘性超重め超軽め」の種別を使い分ける事で、ようやく納得できるトルク感まで改善できました。結論から言えば、トルクムラは残っています。しかしその原因がほぼ判ったのでどうしようもありません。

距離環刻印距離指標値の最短撮影距離「18cm」とその反対側「25cm30cm」辺りで急に重いトルクに至ります。この事から過去に落下、或いはぶつけたりなどにより距離環が極僅かに変形して「真円を維持していない」と推測できます。

距離環の裏側にヘリコイド (メス側) が切削されている関係から、距離環の変形はヘリコイドの変形であり、それはそのまま「トルクムラ」へと繋がります。当方には「真円度を検査する機械設備/真円に修復する機械設備」共に所有していない為、これ以上改善できません。申し訳御座いません・・。

↑完成している鏡筒をセットして制御系を組み込みます。真鍮製の板状パーツである「開閉アーム」が絞りユニット内部に入り、ダイレクトに「開閉環」を回しています。マウント面の「絞り連動ピン」押し込みやプレビューレバー操作により「操作レバー」が押されると (ブルーの矢印①) その押されるチカラの分だけ「開閉アーム」が左右に首振り運動します ()。

 こんな感じで「開閉アーム」が絞り連動ピン内部に刺さりますが、ここで再びハマりました(笑)

当初バラす前のチェック時点で、開放時に絞り羽根が極僅かに顔出ししていた (逆に言えば最小絞り値が閉じすぎていた) ワケですが、それを改善させて完全開放するようセットしたところ「絞り羽根の開閉異常」が発生してしまいました。

元の位置に戻して組み込めば正常に開閉するのですが、すると開放時の絞り羽根顔出しが生じますし、もちろん最小絞り値側も閉じすぎです。

実は上の写真は二日目に撮影しています。二日目は「絞り羽根開閉異常」の改善に費やしました(笑)「開閉アーム」機構部の構成パーツが極僅かに変形している為に、最小絞り値まで閉じなかったり、開放まで戻らなかったりと絞り環操作やマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の押し込み動作で不安定な動きをします。

二日目もアッと言う間に6時間が過ぎていき(笑)、さすがに自らの技術スキルの低さに嫌気が射してきた時に発想の転換をしました。

開閉アーム」の機構部ばかりに捕らわれていましたが、原因箇所は別で左写真の赤色矢印開閉環」に僅か2mmあった「ササクレ」が犯人だったのです(笑)

絞り羽根の開閉動作時にこの「開閉環」が回って絞り羽根が開閉するワケですが、その時に「2mm長/0.2mm程度のササクレ」のせいで抵抗/負荷/摩擦が発生して絞り羽根が止まっていたワケです。

こんな事すら気がつかないなんて・・溜息。

↑ご依頼内容に「絞り環のクリック感をもう少しシッカリと」との事なので「板バネ」を調整しましたが、板バネが入る隙間の高さが決まっている以上、これ以上強くできません。申し訳御座いません・・。

このモデルはベアリングではなく「棒状ピン」が板バネに刺さって反発するチカラでカチカチとクリック感を実現しています。

↑ようやくまともな工程に戻りました(笑) 絞り環をセットして絞り羽根の開閉動作をチェックします。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方により「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑取り外していた個別のパーツも「磨き研磨」を施して組み付けます。たかが「絞り連動ピン」ですが、ここに経年で酸化/腐食/錆びなどにより抵抗/負荷/摩擦が生じると絞り羽根の開閉動作に影響を来しますから、意外と盲点だったりします。もちろん磨きすぎても逆効果で却って引っ掛かりの原因に陥ったりしますから適度に磨くのがコツです。

↑完成したマウント部をセットして「プレビューレバー環」を組み込みます。

↑マウントカバーをセットして、いよいよ光学系前後群を組み付けます。

↑取り外した5群6枚の光学系硝子レンズを並べて撮影しています。「紫色の点」の犯人が各硝子レンズのコバ端を塗ってしまった「油性インク」ですから、今回は敢えてコバ端着色を褪色しました (普段はこの作業は実施しません)。

またこれも普段はまずヤリませんが「第3群貼り合わせレンズ」のバルサムを剥がして分割しました (グリーンの矢印)。各硝子レンズを清掃してから第3群もちゃんと貼り合わせて組み込みます (ここだけ写真上下の2枚の硝子レンズを接着する事で第3群になる)。

各硝子レンズのコバ端は黒色反射防止塗膜で着色し直して、第3群も接着後組み込みます。

左写真は第1群 (前玉) を真横から撮影していますが、ご覧のように冒頭光学系構成図のとおりカタチが違います。

なお「コバ端」と言うのは赤色矢印で指し示している硝子レンズの切削面 (側面) の事であり、ここに過去メンテナンス時に「油性マジック」を塗っていたワケです。

今でも平気で油性マジックを使う整備会社がありますが(笑)、黒色の油性マジックが黒色になっているのは「黒色の顔料」ではなく「紫色の油性成分」なので、硝子に塗ると薄紫色になるのが分かります。

従って経年で揮発したインク成分が (目視では分かりませんでしたが) 極薄い膜となって各硝子面に附着していたワケですね。

無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑真面目に/真剣に細かく各部位の動きを「本来あるべき動き方」に正そうとすると意外と神経質な調整が必要になるので、当方はあまりこのモデルに関わりたくありません(笑)

単にバラして組み上げるだけの整備をしてヤフオク! 出品しているプロの写真家さんにお任せ致します(笑) 当方が真似してオーバーホール済でヤフオク! に同じような価格帯で出品しても人気は無く(笑)、しかも相当長い期間残ったままになるので (過去に試し済) 普段敬遠しています。技術スキルが低い当方の出品よりも、是非ともそちらの商品を選ばれたほうが信用/信頼も高く安心です!

↑光学系内はLED光照射すると第3群の貼り合わせレンズにバルサム切れしていた時の境界面 (白濁していた箇所) がそのままうっすらと残っています。これはコーティング層の化学反応なのか清掃しても全く改善しませんでした。

他、各群の透明度は高い状態を維持しているので当ページ最後の実写のとおり鋭いピント面でキレイに撮影できています。

↑光学系後群側もとても透明度の高い状態を維持していますが、経年の拭きキズ等はそのまま残っています。

↑ハマってしまい(笑)、丸一日 (二日目) を費やした分、ちゃんと正しく絞り羽根は開閉するよう調整が終わっています (当初より最小絞り値側は極僅かに広がっています)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。ゼブラ柄部分も「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びすることもありません。

↑前述のとおり、距離環刻印距離指標値の「18cm」とその反対側「25cm30cm」辺りでトルクが重くなりますが、当初のトルクムラよりはだいぶ改善できています。距離環を回す時のトルク感は「普通」人により「重め」で「ほぼ均一なトルク感」に仕上がっています。もちろん当方の特徴たる「シットリ感漂うピント合わせの微動」も実現しています。

↑上の写真 (3枚) は、当初無限遠位置「∞」の時 (赤色矢印) に絞り環を開放「f2.8」にセットすると (グリーンの矢印)、距離環を回していくと (ブルーの矢印) 同時に絞り環が勝手に動き始めて「f2.8→f4」へと位置がズレていくのを撮影しました。従って、これをムリなチカラを加えて「f2.8に戻そうと試みる」と内部パーツが壊れるのでおやめ下さいませ。

開放f値「f2.8」に戻す際は、必ず最初に距離環を回して無限遠位置「∞」にセットしてから絞り環操作して下さいませ。

無限遠位置 (当初バラす前の位置から変更/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離18cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFす。

上の写真青丸中心辺りに、当初バラす前の時点では「紫色の点」が現れていました。オーバーホール後はご覧のように「紫色の点」の類は全く表出しません。この時最短撮影距離:18cm付近での撮影なので絞り環のf値は「f4」手前辺りまで勝手に移動していますから、前述のとおり開放f値「f2.8」での撮影になっていません。

従って、それは背景のボケ方をチェックしても確認できますね (期待したほどボケていないから)。これがこのモデルでの「見なし開放f値」たる問題ですから、最短撮影距離近くで撮影してキレイにボケると期待するとガッカリすることになります。

ちなみに、無限遠位置「∞」時の開放f値「f2.8」は簡易検査具で検査すると「f2.8f2.9」のようなイメージですが、最短撮影距離位置「18cm」でのf値は実測すると「f3.7f3.9」辺りの印象です。

それは次の写真の絞り環を回してf値「f4」にセットした写真と背景のボケ味を比較してみると、たいして変化が無い事からも分かります。ところが次の「f5.6」では劇的にボケ方が変わりますからこのモデルの開放f値「f2.8」に囚われすぎると後悔するとも言えそうですね(笑)

その意味で、当方は何故に市場でこのゼブラ柄モデルの人気が高いのかがあまり理解できていません(笑) 当方が選ぶなら、むしろちゃんと最短撮影距離位置「36cm」で開放f値「f2.8」を実現している「シルバー鏡胴モデル」のほうが所有欲をそそられます。何故なら、近接撮影できる距離の「36cmと18cm」はそれほど大きい問題とはならないからですが、背景のボケ味の印象は大きな問題だと考えているからです。こればかりは光学系の設計が違うのでどうにもなりません。

仮にどうしても近接撮影したいなら、本来の光学系の描写性能から逸脱した写り (よりボケ量が増えてアウトフォーカスが顕著に滲んでくる収差ボケの影響を大きく受けた写り) になってしまいますが「ヘリコイド式マウントアダプタ (M42)」を装着して、さらに近接撮影すれば良いと考えます。するとその時「開放f値f2.8」をちゃんと実現している「シルバー鏡胴モデル」の有難味は、むしろゼブラ柄モデルよりも高くなると思うのですが、天の邪鬼な当方の趣味指向に反して市場の人気は逆ですね(笑)

オールドレンズの仕様諸元値たる最短撮影距離よりさらに近接する事になる「ヘリコイド式マウントアダプタ」使用時の描写性は、必ずオリジナルな状態に於ける描写特性からは逸脱した写りに至ります。それは実装している光学系の設計が諸元値を越えた撮影時の描写特性を一切想定していないからです。

ヘリコイド式マウントアダプタ」使用時の写りは、よりボケ量が増えてアウトフォーカス部の滲み方に顕著な収差の影響が現れるので、オリジナルの描写特性のままに最短撮影距離を短縮化させてさらに近接撮影できると謳っている一部のヤフオク! 出品者の案内は不適当だと考えます。
(仮にオリジナルの描写特性のまま更なる近接撮影が愉しめるなら、ヘリコイド式マウントアダプタはもっと普及しているハズ/通の人は写り方が変わってしまうので必ずしも諸元値を越えた近接撮影に拘っていない)

あくまでも光学系のオリジナルな描写特性から逸脱した写りになる事を愉しむと言う前提のもと、最短撮影距離を短縮化した更なる近接撮影を愉しむべきと思います。

前述のプロの写真家なども最短撮影距離「18cm」ばかりを強調して勧めていますが、オールドレンズである以上当方はどちらかと言うと今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着して使った時の「ボケ量の愉しみ」のほうに重きを置いているので「見なし開放f値」にたいして魅力を感じません。

但しこれは、あくまでも信用/信頼が皆無な当方の考え方なので何の参考にもなりませんね(笑)

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。「回折現象」の影響が出てコントラストと解像度の低下が現れています。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。