◎ CARL ZEISS JENA (カールツァイス・イエナ) PRAKTICAR 50mm/f1.4《後期型》(PB)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、ご依頼者様の要請により有料で掲載しており、ヤフオク! 出品商品ではありません。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するモデルは、旧東ドイツのCARL ZEISS JENA製標準レンズ『PRAKTICAR 50mm/f1.4《後期型》(PB)』です。

今回のオーバーホール/修理ご依頼は、遙々カナダから承り1カ月を掛けて届きました。海外からオーバーホール/修理ご依頼頂く方は、他にアメリカ (ボストン/ワシントンDC/カリフォルニア)、イギリス、オランダ、シンガポールなので、今回5カ国目になります。この場を借りてお礼申し上げます。

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1949年に旧東ドイツのPENTACONから発売された「CONTAX S」や1959年発売の「PRAKTICA」シリーズなど一眼レフ (フィルム) カメラに採用され続けたのは「M42マウント」でしたが、1960年代後半になるとスクリューマウントに対する人気の衰えから1979年に新たな「バヨネットマウント方式」として登場したのが今回の「PBマウント (PRAKTICA Bayonet)」です。

1980年にPENTACONから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「PRAKTICA B200」モデルより順次PBマウントのフィルムカメラが発売されていきましたが、既に当時台頭し始めていた日本製フィルムカメラと様々な国の販路でかち合っていたようです。

当モデルの前身が存在し「Pancolar 55mm/f1.4 zebra (M42)」ですが、光学系の光学硝子材に「酸化トリウム」を含有した、俗に言う「アトムレンズ (放射線レンズ)」で、僅か5,000台程度の生産数から巷では「幻の銘玉」と呼ばれています。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
※Pancolar 55mm/f1.4 zebra (M42) からの展開として掲載。

Pancolar 55mm/f1.4 zebra (M42)
発売:1967年
光学系構成:5群7枚拡張ダブルガウス型 (酸化トリウム含有)
コーティング:モノコーティング
最短撮影距離:36cm
絞り羽根:6枚 (左回り)
マウント種別:M42

前期型:1980年発売
光学系構成:6群7枚拡張ウルトロン型
コーティング:マルチコーティング
最短撮影距離:36cm
レンズ銘板:フィルター枠外周
絞り羽根:6枚 (左回り)
マウント種別:PB

後期型
光学系構成:6群7枚拡張ウルトロン型
コーティング:マルチコーティング
最短撮影距離:40cm
レンズ銘板:前玉側に配置
絞り羽根:6枚 (右回り)
マウント種別:PB

なお、一部サイトでこの他に「最終型」として3つ目のモデル (左写真) を案内していますが、これはモデルバリエーションの相違ではなく、単に輸出先指向国での商品競合問題から旧西ドイツ側Zeiss-Optonによる制約でモデル銘をフル表記できなかった事に由来する、いわゆる「西欧圏向け輸出品」です。

従ってレンズ銘板刻印の「P」は「PRAKTICA」の頭文字を採っており、当時他のモデル「Tessar (T)/Flektogon (F)/Sonnar (S)」などで同じように頭文字による表記しか認められなかった時期と輸出指向国 (地域) があります。

これはドイツ敗戦時の経緯からCarl Zeiss Jenaが東西ドイツに分かれて存在する事になりましたが、戦後1945年〜1953年の期間中互いに密接に協力していたものの、実際は旧西ドイツ側Zeiss-Optonから旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaの製品輸出時に制約を課されるようになってしまい、ついに耐えられずCarl Zeiss Jenaは1953年に「商標権裁判」を提訴します。

これが東西ドイツ分断時期に於いて最も長い18年間にも及ぶ裁判へと発展し1971年に結審後1973年にはCarl Zeiss Jenaの敗訴が確定します。しかし、実際の輸出時は (裁判期間中も製産が続き輸出が行われていたので) 東欧圏向けの輸出品に対する制約は限定されたものの、西欧圏向け輸出品は厳しく制約が課され、特に「Carl Zeiss」表記まで認められませんでした。

これは制約のレベル (種類) と制限の程度の他、輸出指向国 (地域) とも密接に関わっていた為に、同時期でも様々な表記でブランド銘やモデル銘、或いは生産国表記が細かく指定されていたようです。例えば「Carl Zeiss」表記を禁じられてしまったCarl Zeiss Jenaは「aus Jena/
asu JENA/aus JENA DDR」などの表記でレンズ銘板を刻み、且つ輸出指向国 (地域) によってはモデル銘表記まで禁じられた為に「頭文字刻印」を採っていた場合もあります。また他に「GDR (German Democratic Republic)」をレンズ銘板や鏡胴に刻印を義務づけられていた場合もありその種別は多岐に渡ります。

ちなみに「GDR (German Democratic Republic)」は旧東ドイツを表すラテン語/英語表記であり、また「DDR (Deutsche Demokratische Republik)」はドイツ語表記ですが、これらは国際輸出法上東西ドイツがそれぞれ国家ではなかった事に由来する取り決め (国際輸出法上の附則) による問題が背景にはあります。また「aus (オース)」はドイツ語で「〜製」の意味になるので (東の意味ではない)「aus JENA (イエナ製)」を謳っていたことになります。それらはあくまで国としては「戦前ドイツが一つの国」であり、単に敗戦により旧ソ連と連合国によって東西ドイツに分割占領統治されていたにすぎない事に由来します。

各モデルの製造番号をもとにシリアル値で追っていくと、これらレンズ銘板の表記がバラバラに混在してしまう事実を当方は様々なCarl Zeiss Jena製オールドレンズで調査済であり、最終的にはネット上で案内されている文献 (研究者の論文) に書かれているとおり「輸出指向国 (地域)」別に細かくZeiss-OptonがCarl Zeiss Jenaに対して制約を課していたと考察しています。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
光学系が6群7枚の拡張ウルトロン型構成なのですが、珍しく真円のきれいなシャボン玉ボケが表出できています (焦点距離が標準レンズ域なので繊細なエッジには至らない)。他社光学メーカーの近似した光学系と比べると円形ボケは非常にキレイです (口径食や残存収差の影響を受けにくい)。

ところがアウトフォーカスが滲んでいくとシ〜ンによって右端の写真のように乱雑で乱れ気味な背景ボケに変質することがあるようです。

二段目
ピント面のエッジは基本的に繊細なのですが、アウトフォーカス部が突然破綻するのが影響して骨太に見えることもあります。また被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力が相応に高いハズなのですが「何かが足りない」のかシ〜ンによって質感が出ない場合があるのが不思議です。それは右端から2枚の写真で相当に広いダイナミックレンジの幅を持つことが分かりますが、S/N比が優れていてピント面の鋭く表現できるにも拘わらず質感表現能力がバラバラになると言う、これも不思議です。

三段目
このモデルの最大の魅力は、何と言っても発色性に尽きると思います。いわゆる「シアンに振れる」発色性なのですが旧西ドイツ側のオールドレンズと異なる色付き方で、さらに鮮やかに表現されるかと思いきや (左端) 2枚目の街の全景スナップのように独特なコントラストを伴うコッテリした発色性にまとまることがあります。さらに人物撮影もご覧のようにキリッと引き締まる要素があると思えばノッペリした印象 (グラデーションが不足気味) もあり、なかなかコントロールするのが難しそうなモデルです。一言で言えば「まさに東ドイツの色」とでも評価できるほどに個性的な (渋みのある) 発色性です。

前身たる「Pancolar 55mm/f1.4 zebra (M42)」では5群7枚の拡張ダブルガウス型構成でしたが、それは光学硝子材に「酸化トリウム」を含有させることで屈折率を最大20%まで向上させていた光学設計の現れではないかと考えています。

前期型」では6群7枚の拡張ウルトロン型に設計変更していますが、この時の最短撮影距離は「36cm」のままで、且つ絞り羽根や絞りユニットの設計も前身のPancolarを踏襲したものでした。

特に後群側の各群外径を見れば分かりますが同一径なので「マルチコーティング化」に伴う光学設計の変更が目的だったとも受け取れます。

ところが「後期型」では最短撮影距離が「40cm」と改悪になります。各群全てが再設計されており、特に第2群と第3群の曲率変更、及び第6群 (後玉) の曲率変更が特徴的です (前期型では後玉は同一曲率の両凸レンズだった)。

いずれの構成図もバラして清掃した際にデジタルノギスで計測し、ほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ひたすらに環 (リング/輪っか) の集まりですが、マウント種別こそ最後期の「PBマウント」ですが、内部の設計概念には従前の「M42マウント」時代からの「悪しき設計」が踏襲され続けています(笑)

よくヤフオク! などのオールドレンズ出品を見ていても「当時の東ドイツ製レンズは切削が甘い分、操作面はご容赦ください」的な「逃げ口上」を当然のように謳って出品している出品者が多いですが (中には自ら整備していながらこのような逃げ口上を平然と掲載している輩も居る)、それは全くのウソ (言い訳) です。

少なくともこの当時の (1970年代初頭までの) ロシアンレンズに比べたら真っ当な切削技術のレベルで「切削が甘い/精度が低い」などと言うことは一切ありません!

こればかりは「声を大にして」言いますね(笑)
出品する個体に係る不具合やクレームを避けるが為の「逃げ口上」であり、全く以て低俗な出品者の類です

旧東西ドイツ製オールドレンズに限って言えば、決して切削技術レベルが低かったとは言えません。切削技術が問題なのではなくて「設計概念」が問題なのです。切削技術は真っ当でも設計がダメなので上手く機能しない部位が多いのです。これを履き違えると、本当は整備レベルの問題なのに「東ドイツ製だから仕方ない」的な認識で納得してしまいます。

違います!
整備が正しく実施されていないのです。設計概念を汲んで、それに配慮してちゃんと整備してあげれば正しく機能し素晴らしい仕上がりに至ります。

どうかそれを間違えないよう皆様には切に願うばかりです・・。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環が1.5m辺りから「∞」方向に回らない。
距離環を回すとトルクムラが酷い。
 無限遠位置を全く確認できない。
光学系の特に後群側に汚れが酷い。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時に「白色系グリース」塗布。
 直進キー (2本) が変形している。
光学系は全ての締付環が最後まで締め付けされていない。
必要箇所に固着剤が無く不必要な箇所に固着剤を塗っている。

・・と、ハッキリ言って距離環が回らないので使いモノにならない状態です (近接撮影のみ何とか使える状態)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。鏡筒の両サイドには「」が1本ずつ用意されていて (計2本)、ここを「直進キー」と言う板状パーツが行ったり来たりスライドしてきます (赤色矢印)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しましたが、このモデルは焦点距離50mmの標準レンズにも拘わらず、当時としては「最短撮影距離40cm」と短めの設計です (当時多いのは45cm〜50cmの最短撮影距離)。必然的に鏡筒の繰り出し量が多くなるハズなので、自動的に光学系前後群の奥行き方向も嵩んでくると予測できるのですが、ご覧のように鏡筒の厚みは薄いです。

つまり何が言えるのか?

光学系前後群の屈折率を相当高く設計しなければ、ここまで鏡筒を薄くできないことがこれだけでも分かります。

完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (後玉側方向) を撮影しました。「開閉アーム」が1個だけ用意されていますが、附随スプリングのチカラで「常に絞り羽根を閉じるチカラ」が及んでいます。


↑上の写真は気を罹患やマウント部が組み付けられる基台です。

本来ならここで鏡筒にヘリコイド (オス側) をセットして固定するのですが、今回の個体は冒頭の問題点のように無限遠位置「∞」まで距離環が回っていません。つまり「無限遠位置のアタリ付けができていない」ことになるので、無限遠位置の微調整は最後に実施するとしてもヘリコイドのネジ込み位置アタリ付けは必須になります (ヘリコイドのネジ込み位置をミスると無限遠位置の微調整ができなくなるから)。

従って、仕方なく今回は別の方法 (逆の方法) で組み上げていく事にしました。

具体的には個別の構成パーツを「原理原則」に則り組み込んでいくことで、このモデルの設計ならば無限遠位置はこの辺りだろうと言う位置を探っていきます。

↑基台にヘリコイド (メス側) を取り敢えずネジ込んで、無限遠位置を探ります。さらに今度はヘリコイド (オス側) もネジ込んで、やはり無限遠位置を探っていきます。この時、当然ながらヘリコイド (メス側) の停止位置が無限遠位置でなければ、ヘリコイド (オス側) をネジ込んでも意味がありません (無限遠位置が適合しないから)。

従って、ここで既に「こうあるべきだから」と言う「原理原則」に則りヘリコイド (オスメス) の「ネジ込み位置」と「停止位置」を個別に考察しながらセットしていく作業です。

むちろん最後に光学系前後群を組み付けて実写確認で無限遠位置をチェックした時にちゃんと合焦しなければ、再びここまで戻るハメに陥ります(笑)

↑こちらはマウント部の絞り羽根制御部で絞り環がセットされるベース部分です。「PBマウント」なのでマウント面に電気接点端子が出てくる為にその回路基板が附随します。

↑外していた個別の構成パーツも「磨き研磨」を施してセットします。鋼球ボールを組み込んでから絞り環を組み付けて「絞り連動レバー」との連係アーム (真鍮製) もセットします。

このモデルは前述の鏡筒に附随する「スプリング1本だけ」で絞り羽根の開閉をしているので (他にスプリングや捻りバネの類が存在しない)、このマウント部内部に経年による酸化/腐食/錆びが残っていると抵抗/負荷/摩擦が生じてしまい正しく絞り羽根が開閉しなくなります。

↑こんな感じで「PBマウント」部がセットされます。一般的なオールドレンズでシルバーな真鍮製のマウント部が多い中、どう言うワケかCarl Zeiss Jena製「PRAKTICARシリーズ」のマウント部は「シャンパンゴールド」なので、これがまた通には堪りません(笑)

↑組み上げたマウント部を基台にセットします。

ここで初めて前述の鏡筒にヘリコイド (オス側) をセットして、実際にネジ込んでみることができるようになります。何故なら、鏡筒の裏側には「開閉アーム」が飛び出ており、スプリングが1本だけ附随するのでその駆動状況を確認できるようになったからです。

つまりここまでの組み上げ工程は全て「仮止め」状態で組んでおり、すべては「無限遠位置のアタリ付け」を得るが為です。

↑再び鏡筒の工程に戻ります。鏡筒の外回りにはネジ山が用意されていますが、ここにヘリコイド (オス側) がセットされて「締付環」で締め付け固定されます (グリーンの矢印)。

今回の個体で発生していた不具合 (冒頭の) の根本原因は、実はこの工程の過去メンテナンス時の処置が問題だったのです。

このモデルはヘリコイド (オス側) がフリーのままです。そう言う設計を旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaはず〜ッとゼブラ柄時代のオールドレンズから延々と続けました。

フリーな状態のヘリコイド (オス側) を鏡筒にハメ込んでから「締付環」で硬締めで「締め付け固定」する方法で設計し続けたのが「悪しき設計」と申し上げた理由です。

この「締付環による硬締め」が適切に施されないと、経年で使っているうちに今回のようにヘリコイド (オス側) が緩んでしまい、距離環が回らなくなり無限遠位置まで到達しない。或いは逆に最短撮影距離位置まで回らない現象が発生します。

このヘリコイド (オス側) をネジで固定方式の設計をしてくれれば、このような問題に悩まされることは無かったのですが、如何せん全てのCarl Zeiss Jena製オールドレンズでヘリコイド (オス側) がフリーです(笑)

つまり今回の個体は「締付環」が緩んだ為にヘリコイド (オス側) がズレてしまい、距離環が回らなくなったという症状です。

さらに問題だったのが左写真で「直進キー」と言うパーツです。前述のように鏡筒の両サイドに「直進キーガイド (溝)」が用意されていて、そこをこの「直進キー」と言う板状パーツがスライドすることで「距離環を回すチカラ」を使って鏡筒が繰り出されたり収納されたりする原理です。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

左写真がちょっと分かりにくいですが、残念ながら今回の個体の「直進キー」は2本共に捻れが生じています。この「直進キー」は直角/垂直を維持している必要がありますが、極ビミョ〜に直角ではなく、且つ垂直も維持していませんでした。

これらのことから、そもそも過去メンテナンス時に解体する際「フィルター枠部分を保持したまま反時計方向に回してしまった」ことが見えてきました。

フィルター枠部分 (つまり鏡筒カバー) は鏡筒にネジ込まれてイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 1本で締め付け固定されています。

従ってイモネジを外さずにそのまま外そうとしてフィルター枠部分を回すと鏡筒が回ろうとしてしまいます。しかし鏡筒の両サイドには「直進キー」が刺さったままなので当然ながらチカラを入れても回りません。結果「直進キーが捻れてしまった」のだと言えます。

つまり何を言いたいのか???

過去メンテナンス時の整備者は「直進キー」が捻れてしまった為に酷いトルクムラが発生し、それをヘリコイドグリースだけでごまかすことができず「直進キーの固定とヘリコイド (オス側) の固定を軽くした/最後まで締め付けなかった」ことが分かります。実際「直進キー」もキッチリ最後まで硬締めされていなかったので間違いありません。

ここでもやはり「ごまかし整備」だったワケですね(笑)

↑上の写真は6時間経過後に撮影しています(笑)

その6時間でひたすらにやっていた作業は「直進キー変形の修復」と「距離環を回すとトルクムラ解消」です。

直進キー」をほんの微か (0.1〜0.2mm程度) 曲げては組み上げて距離環を回してトルクムラをチェックして、再びバラして洗浄後にまた「直進キー」を曲げて組み上げてを繰り返しました。

さすがにこの作業を6時間延々とヤリ続けていると「恍惚化」してきて目が点になってきます(笑) そのうちに「直進キー」をどっちに曲げたのか分からなくなったり、何をチェックしているのか忘れたりします(笑) すると同じことを気がついたらやっていたり同道巡りだったりします(笑)

例えば何かのパーツの向きを変えたりする作業ならどの向きをチェックしたのか分かりやすいですが、今回のように「0.1〜0.2mmの曲げ」世界となると、次第に何をやっているのか分からなくなります (頭良くないので)(笑)

上の写真はトルクムラが解消しとても滑らかにヘリコイド (オスメス) が駆動するようになった状態で撮影したワケです。

↑再びマウント部を組み付けて、今度はヘリコイド (オスメス) ではなく絞りユニットの微調整に入ります。

↑上の写真 (2枚) は、絞り羽根の開閉動作をチェックしているところです。鏡筒の外回りにヘリコイド (オス側) が組み付けられる為、ヘリコイド (オスメス) のトルクムラが解消するまでは、この絞り羽根の開閉をチェックしても意味がありません。

従って最後の最後で絞り羽根の開閉動作を調整した次第です (いつもとは逆の手順)。

↑絞り羽根の開閉 (つまりは絞りユニット) が適正になったので、やっと光学系前後群を組み付けられます。ご覧のように相当な曲率を誇ります。

↑ここでやっとマウント部も本締めで締め付け固定できました。ここまで工程を進めるのに何と遠かったことか・・(笑) 何度も組み上げてはバラして、また組み上げてはバラしての繰り返しで、ちょっとお腹いっぱいなので当分このモデルは見るのも触るのも遠慮したい気分(笑)

この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑当時は相応に出荷台数が多かったであろうモデルなのですが、それほど多く市場には出回りません。と言っても「PBマウント」であるが故に人気が無いと言う点もあるかも知れません。しかし「Pancolarシリーズ」には前述の「幻の銘玉」は別として、フツ〜は開放f値「f1.8」モデルしか存在しないのでキチョ〜な「f1.4」のMCタイプです。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑後群側もLED光照射で極薄いクモリすら皆無です。前後群共に数点ですが清掃で除去できない「点キズ」が残っています (汚れはキレイに除去できました)。

マウント面には「Made in German Democratic Republic」の刻印があるので、この個体が「西欧圏向け輸出品」だったことが分かります (東欧圏ならばDDR)。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧な正六角形」を維持しています。各絞り値でほとんどの場合「星形」のカタチになります。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性中程度軽め」を使い分けて塗っています。距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一なトルク感」に仕上がりました (トルクムラ解消しています)。当方の特徴たる「シットリした操作性」も実現しているのでピント合わせ時は極軽いチカラだけで微動できます。

黄褐色系グリース」の性質上、ヘリコイドのネジ山が擦れる感触が指に伝わりますが、改善させることはできません。

↑距離環のラバー製ローレット (滑り止め) がプニプニと軟らかくて気持ちいいです(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置不明なので適合させました/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離40cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.0」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮影しました。

↑f値「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になっています。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。

大変長い間お待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。