◎ VOIGTLÄNDER (フォクトレンダー) COLOR ー SKOPAREX 35mm/f2.8 (SL)《前期型》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するモデルは、VOIGTLÄNDER製広角レンズ『COLOR-SKOPAREX 35mm/f2.8 (SL)《前期型》(M42)』です。

このモデルの扱いは今回が6本目 (累計) ですが、その中でオーバーホール済でヤフオク! 出品したのは僅か2本です。当方ではこのモデルのデザインを「SLタイプ」と呼んでおり、個人的に距離環や絞り環に配された「銀枠飾り環」の意匠がとても美しく見え好きです。特に金属製 (切削) のままローレット (滑り止め) を用意したのが、より洗練された上品な印象に繋がり高級感を醸し出していると評価しています。

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旧西ドイツRollei社から1970年発売のフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」用交換レンズ群として用意された広角レンズ「Carl Zeiss Distagon 35mm/f2.8 SL (QBM)」の派生型になりVOIGTLÄNDER向けのOEM製品と考えられます。

どうしてRollei製フィルムカメラのセットレンズに当時のZeiss IkonからCarl Zeiss銘のPlanarが供給され、且つVOIGTLÄNDERにもOEM供給されたのか? この3つの会社の繋がりを知るには当時の背景が分からなければ掴めません。

【当時の背景について】
 VOIGTLÄNDER (フォクトレンダー)

1756年にオーストリアのウィーンで創業したVOIGTLÄNDER社は、その後1849年ドイツのニーダーザクセン州Braunschweig (ブラウンシュヴァイク) に移転し工場を拡張しています。戦後イギリス統治領となった旧西ドイツのブラウンシュヴァイク市でフィルムカメラなど光学製品の生産を始めますが、日本製光学製品の台頭により業績は振るわずついに1969年Zeiss Ikon (ツァイスイコン) に吸収されます。しかし1971年にはZeiss Ikonもフィルムカメラから撤退したため1972年にはブラウンシュヴァイク工場の操業が停止しました。その後、商標権はRolleiに譲渡されています。

 Rollei (ローライ)

1920年にドイツのハンブルクで創業したRollei社はフィルムカメラの生産を主として、旧西 ドイツのCarl ZeissやSchneider Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) 社からレンズの供給を受けていました。1970年にフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」を発売しCarl Zeiss製の広角レンズ「Distagon 35mm/f2.8 (QBM)」などを供給していましたが、1972年に生産工場が操業停止したため、VOIGTLÄNDER社の商標権譲渡も含め自社のシンガポール工場へと生産を移管しています。

その結果1974年に発売されたのがVOIGTLÄNDER製フィルムカメラ「VSL1」から始まるシリーズ (〜VSL3) で、広角レンズとして当モデル『COLOR-SKOPAREX 35mm/f2.8 (M42)』が発売されました。
従ってマウント種別は従前の「QBM (Quick Bayonet Mount)」の他「M42」マウントのタイプも存在しているワケですね。

時代背景と共に各光学メーカーのポジショニングを踏まえるとこのような流れになります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※Rolleiflex SL35用Carl Zeiss製「Distagon 35mm/f2.8」からの展開として掲載。

前期型

レンズ銘板刻印:Carl Zeiss銘
生産工場:旧西ドイツCarl Zeissブラウンシュヴァイク工場
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成

中期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成

後期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
光学系:6群6枚レトロフォーカス型構成

COLOR-SKOPAREX 35mm/f2.8」

レンズ銘板刻印:VOIGTLÄNDER
生産工場:Rolleiシンガポール工場
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成

 

COLOR-SKOPAREXはシンガポール工場での製産がスタートのように考えられ最初にQBMマウントタイプが1973年に登場したと推測しています。従って旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で製産されておらず、実際に市場に流れている個体も見た事がありません。
右写真はシンガポールのChai Chee Roadに建てられていた1973年当時のRolleiシンガポール工場です。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
レトロフォーカス型光学系構成の広角レンズなので、きれいな真円のシャボン玉ボケ表出はまず不可能で、単なる円形ボケも真円になりにくい状況です。アウトフォーカス部の滲み方がそれほど滑らかに出てこないので、背景が相応に明確に残ってくる為気を遣う必要が生じます。

ところが逆にそれがメリットとなり3枚目のような絶妙な「空気感/距離感」を留めたリアルな写真を残せます。さらにピント面の鋭さかも相まり右端のような被写体の素材感や材質感まで写し込む質感表現能力も高いですが、実はこの右端写真は原色の発色性についてピックアップしました。

二段目
ピント面の鋭さとアウトフォーカス部の独特な滲み方は、このようなダークな光量のシ〜ンでも質感表現能力の高さを発揮するので、単に解像度を上げれば良いとも考えられない非常に良い例だと思います。

それは次の2枚目の写真でビミョ〜なレンガの質感の違いを絶妙なグラデーションで描ききっている事からも相当広いダイナミックレンジ幅を持っていることが覗えます。その結果が3枚目の海の写真で、このブル〜をちゃんと出せるオールドレンズと言うのはそれほど多くないと考えています。鮮やかになりすぎてもダークに締まりすぎても見ている海の色とは違ってしまうこのブル〜です。それは鉄柵の色合いや砂浜/舗装面の砂の色合いまでちゃんと表現できていることから、この海の色が被写体色に近いとも感じられます。

ところが右端の森の写真ではグリーンは鮮やかになってしまい元気の良い色合いですから、シ〜ンや光量によって発色性が変化するオモシロイ描写性と評価しています。

三段目
ダイナミックレンジが広ければこのような夜景も隅々まで黒潰れせず解像しますし、ディストーション (歪み) も素晴らしい正確さを維持しています。

光学系は5群5枚のレトロフォーカス型構成で、Carl Zeiss製Distagon 35mm/f2.8と全く同一です。第1群 (前玉) と第2群のたった2枚の光学硝子レンズだけで光学系前群を構成していながら、前述ピックアップ写真のようなハイレベルな描写性を実現してしまった点にオドロキを隠せません。逆に言えば、口径が小さな光学系後群側で収差改善を最大限に図っていることの現れでもあり、何度見てもこの光学系構成には感心してしまいます。

第1群 (前玉) の径が33.02mmに対し第5群 (後玉) は僅か19.02mmしかありませんから、決して大口径とも呼べないワケで、この小さな光学系から吐き出される写真として考えると本当にさすがとしか言いようがありません。そもそもDistagon譲りの光学系である点からしても納得できる話です。

後に登場する「後期型」では光学系が再設計されて6群6枚のレトロフォーカス型構成に変わっていますが、その様相はガラッと変わっていて大幅な再設計とも言えそうです。

おそらくは1972年に開発されたマルチコーティングたる「HFT (High Fidelity Transfer)」の影響から大幅に再設計する必要性が生じたのではないかと推測していますが、すると「中期型」で既に採用されている点と光学系の構成との問題が出てきます (まだ扱ったことがないので現状不明のまま)。

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体は当初バラす前のチェック段階で以下の不具合が確認できました。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すとスカスカの状態でトルクムラも酷い。
距離環を回した時にシャリシャリ感を相当感じる。
 鏡胴に相当なガタつきが発生しておりカタカタしている。
光学系は開放時に絞り羽根が極僅かに顔出ししている。
光学系の中玉に微細な水滴状のポツポツが全面に渡り視認。
光学系後群側には指紋や汚れなどがやはり全面に渡り視認。
無限遠位置が相当なオーバーインフ状態。

【バラした後に確認できた内容】
 ヘリコイド (オスメス) にグリースが塗られていない。
内部に極微細な金属摩耗粉が粉状に散乱している。
基台を締め付け固定する締付ネジ (3本) が半締めのまま。
各部位別の微調整がデタラメ状態。
絞り環の絞り値キーに故意に曲げた変形有り。

・・こんな状況ですが、ハッキリ言ってヘリコイド (オスメス) のネジ山にヘリコイドグリースが一切塗られていないまま組み上げられていたオールドレンズと言うのは、今まで2,000本以上扱ってきて2〜3本しかありません(笑)

これらの状況から過去メンテナンスされていることは間違いありませんが、特に絞り環側に塗布されていたグリースをチェックすると「白色系グリース」であり、且つまだ新しいので過去メンテナンスは数年以内と踏んでいます。

しかしこのモデルを例え一部にしても一度バラして組み戻せるスキルを有する整備者なので、シロウト整備は不可能であり「プロ」ではないかと考えます。特に今回の個体はいろいろ懸念材料があったにせよ、一応ちゃんと使えて無限遠も合焦しており (オーバーインフ量が凄い) それなりにオールドレンズの内部構造に詳しい整備者の所為と推察します。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。今回のモデルは広角レンズなので、いつもオーバーホールしている標準レンズ (50mm/f1.8) とは当然ながら光学系構成が違うので、その分鏡筒の深さや切削状況も設計が異なります。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑上の写真は絞りユニット内の構成パーツ「開閉環」を撮影しました。絞り羽根枚数6枚なので、絞り羽根に打ち込まれている「開閉キー」がささる為の切り欠きも6箇所用意されています。また「開閉アーム/制御アーム」の2本の薄い板状アームが垂直状態で飛び出ています。

2本のアームのうち「開閉アーム」側の一部側面に「擦れて削れた痕」が地が剥き出しになっているので判ります (グリーンの矢印)。

↑同じ「開閉環」をひっくり返して裏面を撮影しましたが、2本の薄い板状アーム「開閉アーム/制御アーム」はこの「開閉環」製産時にプレッシングだけで (単に折り曲げて) 用意した設計です。これがこのモデルで (QBM/M42共に)「絞り羽根開閉異常」を来す根本原因に至っています。単にプレスして曲げただけのアームなので、根元部分 (グリーンの矢印) が弱ると途端に絞り羽根が正しく駆動しなくなります

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑この状態で鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して撮影しました。「開閉アーム/制御アーム」が鏡筒裏側から飛び出ています。

そしてこのモデルで距離環を回した時に「重い」トルク感に陥ってしまう個体が多い根本的な理由が上の写真で分かります。ヘリコイド (オス側) のネジ山がご覧のとおり「微細なネジ切り」だからです。

つまり塗布するグリース種別をミスると途端に重い印象のトルク感に仕上がってしまいます。また少々詳しい方なら上の写真を見ただけで気がつきますが、このモデルの標準レンズ「COLOR-ULTRON」などと比べてヘリコイド (オス側) のネジ山距離が短いのが分かります。

つまりこのモデルは広角レンズなので、距離環を回した時の回転域 (距離感の駆動域) が標準レンズに比べて少ないと言えますね。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。グリーンの矢印で指し示した箇所には、やはり距離環用のネジ山が切削されていますが「さらに微細なネジ切り」なので、塗布するヘリコイドグリース種別も距離環を回す時のトルク感を決める重要な要素の一つになります。

↑ヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

左写真は、この状態でひっくり返して裏側 (後玉側方向) から撮影していますが、ご覧のようにヘリコイド (メス側) をネジ込んでいくと、最後は基台を貫通して抜けてしまいます。

つまり停止する箇所が用意されていないので (そういう設計なので) 何処でヘリコイド (メス側) のネジ込みを止めれば良いのか、つまり「無限遠位置の確定」が重要な話になってきます。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で15箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は、どんどんネジ込んでいくと最後はネジ込めなくなり止まってしまうので貫通しません。

するとどんな事が言えるのか?

前述で無限遠位置のアタリを付けてネジ込んだヘリコイド (メス側) が適正なのかどうかが問われる話であり、光学系前後群をセットして最後まで組み上げて無限遠位置を実写確認したら大幅にズレが生じていた場合、再びここまでバラして戻らなければイケマセン(笑)

整備業者がこのモデルを嫌う一つの理由が、この無限遠位置アタリ付けの難しさです。当方は数多く手掛けているので、凡そどの辺でヘリコイド (メス側) のネジ込みを停止すれば無限遠位置に近い位置なのかが分かっています(笑)

同様、この状態で再びひっくり返して撮影しました。ちゃんと鏡筒裏側に「開閉アーム/制御アーム」が飛び出てきています。

もっと言えば、ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置をミスった場合、この2本のアームの長さが足りなくなるので最短撮影距離の位置で「絞り羽根開閉異常」が発生します。

↑鏡筒裏側に各制御系パーツを組み込みました。ほとんど全ての制御系パーツがこの鏡筒 (ヘリコイド:オス側) 裏側に一極集中します。「直進キーガイド」の環に「カム」が備わり「制御環」の途中に「なだらかなカーブ」が用意されていて、そこに「カム」が突き当たることで具体的な絞り羽根の開閉角度が決まる仕組みです。

なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側で坂 (勾配) を登りつめた頂上部分が開放側です (グリーンの矢印)。この「制御環」にはコの字型の部分が用意されており、ここに絞り環からの連係アームが刺さって絞り環操作がダイレクトに伝達される原理です (つまり絞り環を回すとなだらかなカーブが移動する)。

↑絞り環をセットします。このモデルの絞り環操作時はクリック感を伴いますが、まだこの段階ではベアリングがセットされていません。

左写真はこの「M42マウント」モデルだけに備わるエンジニアリング・プラスティック製パーツで「絞り値伝達制御環」です。

このプラスティック製の環 (リング/輪っか) が経年で削れてしまったり変形するとフィルムカメラ側への伝達絞り値が正しくなくなるばかりか、実は絞り環操作にまで影響してきます。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。このマウント部はアルミ合金材削り出しパーツですが、当初バラした直後は経年の酸化/腐食/錆びから黄褐色に変質しています (つまりたいていの場合錆びたまま使われ続けている)。

↑上の写真はこのマウント部内部に組み付けられる「絞り連動ピン機構部」の主要パーツを撮影しました。右側の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ左側の「操作爪」が動きます ()。

この「操作爪」は鏡筒 (ヘリコイド:オス側) から飛び出てきている「開閉アーム」を爪部分で掴んでいます。従って「開閉アームは横方向から爪によって常時チカラが及んでいる」ことがこの解説で明確になりますね。

するとどのような懸念が出てくるでしょうか?

絞り環操作が重いから/引っ掛かりを感じるからとムリなチカラを加えて操作し続けると、そのムリなチカラがそのまま伝わり「開閉アームの根元部分」に集中します。これが経年使用で「絞り羽根開閉異常」へと繋がる因果関係です。

またその時、マウント面から飛び出た「絞り連動ピン」が押し込まれると「操作爪」が動いて絞り羽根を開閉している仕組み (絞り連動ピンはオレンジ色矢印のように操作爪に刺さる) ですが、ここで「チカラの伝達経路」がより具体的に明確化したのではないでしょうか?

グリーンのラインで明示してありますがマウント面から飛び出る「絞り連動ピン」の長さは「約2.8mm」です。どうしてグリーンのライン部分から飛び出るのかと言えば、それは「絞り連動ピンが飛び出ないようアームが附随しているから」と言えます。つまり附随する左右のアームから先の部分しかマウント面から飛び出ないことが自明の理です

何を言いたいのか?

よくこのモデルのオーバーホール/修理ご依頼で「絞り連動ピンの飛び出ている長さが足りない (或いはオーバーホール/修理完了後も改善されていない)」とご指摘を受けるのですが、ご覧のとおり絞り連動ピンの突出量を調整できる設計になっていません。左右に飛び出ているアームでどうしても引っ掛かるので、これ以上絞り連動ピンを突出させることができません (当方の技術スキルの問題ではない/何故ならマウント面には絞り連動ピン用の穴が単に用意されているだけだから)。

・・と言っても聞く耳を持たない人が時々居ますが、当方に信用/信頼が無いのだと諦めるしかありませんね (悲しい現実です)(笑)

↑実際に各構成パーツを個別に「磨き研磨」してから組み込みました。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

ベアリング用の穴
絞り環にクリック感を実現させるベアリング+スプリングが入る穴

上の写真を見ると少々分かりにくいですが、絞り連動ピン機構部の「操作爪」付近 (直下) の薄いアルミ材の環 (リング/輪っか) が僅かにバタバタと凹凸に変形しています。

過去メンテナンス時に精密ラジオペンチを使って故意に変形させた痕が残っていました (ラジオペンチのギザギザ痕が付いていた)。

過去メンテナンス時の整備者はどうしてこの「操作爪直下の環 (リング/輪っか)」をイジったのか???

理由はたったの一つしか無く「絞り羽根の開閉異常」を改善する為に「操作爪の向き」を微調整したかったのですが、いわゆる「ごまかし整備」の類ですね(笑)

↑さらに「絞り連動ピン機構部」を拡大撮影しました。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれれると (ブルー矢印①)、その押し込まれた量の分だけ左隣の「操作爪」が左右に首振り運動します ()。

この時、グリーンの矢印で指し示したように絞り連動ピンが必要以上に飛び出ないよう「ストッパー」の役目としてご覧のようにアームがマウント部内部に突き当たる (停止する) 設計になっています。つまりこのモデルの「絞り連動ピン」は最大値で「約2.8mm」しか突出しないのが正常と言えます (設計上の問題なので当方には改善のしようがない)。

前述のとおり「操作爪直下の環 (リング/輪っか)」には「操作爪機構部の軸」がささる穴が空いているので、その「」部分を中心に凹凸を付けることで故意に爪の向きを左右方向に斜めにしたかったことが判明します。

その目的は、鏡筒から飛び出てきている「開閉アーム」を掴む時の位置を微調整したかったワケですが、たいてい過去のメンテナンス時にこういった「ごまかし整備」が施される場合、多いのは「爪自体の向きを左右に曲げてしまう」荒療治だったりします。

すると、この過去メンテナンス時の整備者は爪を曲げてしまうことで「開閉アーム」の掴む位置が変化して爪がアームから外れることを警戒していた為に、軸から強制的に向きを変えることを思い付いたのではないでしょうか(笑)

そのような「開閉アームと爪の関わり (とその目的/結果)」を理解している人なので、必然的にシロウト整備ではないと断言できます。

今回のオーバーホールでは本来の正しい状態に「」が用意されている環 (リング/輪っか) を正し、工程を進めました。

↑完成したマウント部を基台にセットします。この時「ベアリング+コイルばね (スプリング)」を組み込んで絞り環にクリック感を与えます。

上の写真では簡単にセットしたように見えてしまいますが、このモデルの最大のポイントがここの工程です。マウント部を組み付ける際に以下の要素について全てキッチリと微調整しない限り適正な仕上がりに至りません。

(1) 直進キーと直進キーガイドの咬み合わせ位置 (マチの調整)
(2) 操作爪と開閉アームの咬み合わせ位置とチカラの伝達レベル
(3) なだらかなカーブとカムの位置合わせ (絞り羽根開閉幅との関係)
(4) マウント部組み付け箇所の位置合わせ (1箇所のみ)
(5) もちろん無限遠位置合わせ (ヘリコイドオスメスの位置合わせ)

今回の個体が冒頭のまで不具合が発生していた中で、光学系の問題を除いた他の原因がこの基台をセットする工程に係っています。

つまり過去メンテナンス時の整備者は(1)(5)の微調整を個別にしか考えていなかったことがここで判明してしまいます。詰まるところ「原理原則」を理解していない「単にバラしてグリース入れ替え後に組み戻す」作業をしていた整備会社の類であることが推測できます。

すると、ではどうして過去メンテナンス時の整備者はヘリコイドグリースを塗らずに組み上げてしまったのでしょうか???

各部位の微調整が互いに連係して影響し合っていることに気がつかなかった為に、ヘリコイドグリースを塗ると非常に重いトルクに至ってしまい、且つ同時に相当酷いトルクムラが起きていたとも推測できます。

それを解消する (ごまかす) 為にヘリコイドグリースを塗らずに組み上げて、さらに基台の固定も締付ネジを半締めのままにすることで距離環を回す時に発生するトルクムラを低減させていたことが、当方がバラせば一目瞭然です(笑)

また開放時に極僅かに絞り羽根が顔出ししていたのも (逆に言えば最小絞り値側が閉じすぎの状態)、結局は「制御環とカムの突き当て位置」の微調整がキッチリできていなかったことの証であり、何とか開放に近い状態まで戻して組み上げたと考えられます。

つまり、過去メンテナンス時の整備者は相当な時間を掛けてあ〜だこ〜だ試みたと思いますが(笑)、如何せん希望する状況には至らず何とかそれらしく組み戻して処分したというレベルでしょうか(笑)

↑全ての調整が終わったのでマウントをセットします。ご覧のように「開閉アーム」が飛び出てきています。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑もちろん当方がオーバーホールすればキッチリ「本来あるべき姿」にオールドレンズは戻ってくれます(笑) オーバーホール/修理のご依頼者様お一人しか分かりませんが、如何に依頼する前後でこの個体の仕上がり状態が変化したのかをご納得頂けると思います。

距離環を回すトルクは、当然ながら当初ご依頼時の個体はヘリコイドグリースが塗られていなかったワケですから、オーバーホール完了後は塗布したヘリコイドグリースの分「トルクを感じる」状態に至りますが、そうは言ってもちゃんと「軽め」のトルク感に仕上げてあります。

と言うのも、このモデルのピントの山が少々掴み辛いので故意に「軽め」に仕上げました。もちろん鏡胴にガタつきなど一切無く (当たり前) 絞り羽根も開放時に顔出ししていません(笑)

また最大のポイントは光学系でしょうか・・「これでもか!」と言わんばかりにクリアです。

ハッキリ言ってこのモデルは一般的なオールドレンズの整備レベルのスキルでは歯が立ちません。ヘリコイド (オスメス) のネジ込みをどの位置で止めれば無限遠位置に至るのか、或いは「直進キー」やガイドとの咬み合わせ「開閉アーム」を爪が掴む位置、或いは「制御環とカムの突き当て位置」などなど、凡そ「原理原則」を熟知していて且つ「観察と考察」により各構成パーツの状況を瞬時に把握でき、微調整としての「チカラの伝達経路」確保をキッチリ執り行えるスキルレベルが必要です。

なお、オールドレンズ内部に散乱していた粉末状の金属粉は「直進キー」が削られてしまった摩耗とヘリコイド (オスメス) ネジ山の摩耗ではないかと推察していますが、確かなことはもちろん分かりません (あくまでも実際に構成パーツの中で削れている部分をチェックした範疇でしか確認できません)。

今回のオーバーホールではそれら摩耗の影響で距離環を回す際のトルクムラが残ってしまい、組み上げてはバラして洗浄し、再び「磨き研磨」してからグリースを塗って組み上げてトルクをチェックする作業を7回繰り返して改善させました (規定数は3回まで)。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。もちろん当初バラす前に視認できていた「ポツポツとした微細な点状痕」はキレイに消失し、指紋や汚れなども一切残っていません。

↑光学系後群側も極薄いクモリすら皆無です。

光学系の各群コーティング層は・・、

第1群 (前玉):パープルアンバー (表面)/ブルーパープル (裏面)
第2群グリーン (表裏面)
第3群パープルアンバー (表裏面)
第4群グリーン (表裏面)
第5群 (後玉):グリーン (表裏面)

・・でした。アンバー成分が非常に少ないので (皆無ではない) その傾向がちゃんとこのモデルの描写性に表れているのが納得です。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。当初バラす前のチェック時に開放で顔出ししていた絞り羽根はキッチリ「完全開放」状態に調整しました。従って最小絞り値側「f22」の閉じ具合は逆に広がっていますが、簡易検査具で実写チェックの上で微調整したので適正です (当初は閉じすぎていた)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろん距離環/絞り環の「銀枠飾り環」も「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑ヘリコイド (オスメス) に塗ったヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性軽め」を塗布し、距離環を回すトルク感は「普通」人により「軽め」です。「全域に渡り完璧に均一なトルク感」に仕上がっていますが、塗布した黄褐色系グリースの性質上「ヘリコイドのネジ山が擦れる感触」は指に伝わり易いです。もちろん当方の特徴たる「シットリ感漂い軽い微動でピント合わせできる」操作性の良さもちゃんと実現しています。

絞り環操作は冒頭問題点のとおり、絞り環に附随する「絞り値キー」と言うベアリングがカチカチとハマる板状パーツが、やはり故意に曲げられていたので完全解体して水平に戻しました。その関係で絞り環を回すトルクもクリック感も全て小気味良くカチカチと気持ち良い状態に戻りました。

↑距離環/絞り環の細かいジャギーを刻んだローレット (滑り止め) に配された「銀枠飾り環」の光彩が美しいです。 もちろんピッカピカに磨き上げています (結構それが気合い入っていたりして)(笑)

オールドレンズと言うのは、その個体が生産された当時の時代背景にまで思いを巡らせることができてロマンが広がります。さすがに今ドキのデジタルなレンズではそのようなロマンを楽しむことは叶いません(笑)

また同時に、このように距離環を回しただけで心地良くヌルッとした操作感を愉しめるのも悦に入りますし(笑)、もちろん吐き出す写真に一喜一憂するのは醍醐味そのモノではないでしょうか。

すべては所有欲を充たし愛着に繋がっていけばとの想いだけで「DOH」しているワケで、ご活用願えれば誠に本望です(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置から適正化済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

このモデルのマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」は突出量が「2.8mm」と案内しましたが、最後にもう一度実測したら「2.9mm弱」でしたのでご案内しておきます。

また光学系後群格納筒の迫り出しが「4.4mm」ほどあるので併記しておきます。

↑当レンズによる最短撮影距離40cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になっています。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。「回折現象」の影響が出始めています。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。