◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) RoBoT Xenon 40mm/f1.9 ▽(M26)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツSchneider-Kreuznach製標準レンズ『RoBoT Xenon 40mm/f1.9
(M26→L39変換マウントアダプタ付)』です。


RoBoT (ロボット)」とは何ぞや?(笑)

ご存知ない方にご案内すると、1931年に戦前ドイツのデュッセルドルフで創業したフィルムカメラメーカー「Otto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会)」ですが、長い歴史の中で「RoBoT Berning & CO、KG」や「Robot Visual Systems GmbH」を経て、現在はJenoptik AGの完全子会社「Jenoptik Robot GmbH」として現存している、主にスピードカメラや公衆監視システムの開発/導入に至るオペレーションを請け負っている会社のようです。

基は1933年に世界初のゼンマイ式自動巻き上げ機構を装備した「24x24mm」フォーマットの連続撮影 (最大54枚) が可能なフィルムカメラ「RoBoT I」を世に送り出した会社であり、その後第二次大戦中にはドイツ空軍にも採用され連続撮影による航空撮影を実現していたようです。

実はこのゼンマイ式自動巻上げによる連続撮影を考案/開発した人物が当方が愛用している世界初のマクロレンズ「Makro-Kilar 4cm/f2.8 D 」の開発/設計者「Heintz Kilfitt (ハインツ・キルフィット)」であり、27歳の頃に想起し5年間の開発期間を経て1931年にようやく 最初のプロトタイプを完成しています (箱形筐体にゼンマイ式の巻き上げ機構を備えCarl Zeiss Jena製Biotar 2cm/f1.4を装備)。

このパテントを基にOtto Berning氏らと共に設立した会社でKilfittはゼンマイ式巻き上げ機構を装備する前の小型フィルムカメラを幾つか開発した後に退社し、長い間温め続けていた自ら光学製品を開発設計する会社「Kamerabau-Anstalt-Vaduz (KAV)」創業へと繋げていき1955年の世界初マクロレンズの発売に漕ぎ着けています。

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今回扱うモデルは、その初代「RoBoT I」や「RoBoT II」に装着されていたSchneider-Kreuznach製標準レンズ『RoBoT Xenon 40mm/f1.9  (M26)』になります。

RoBoTマウントはフィルムカメラ本体側マウント仕様が初期「M25」から「M26」に代わり、マウントネジ山径:⌀26mm xピッチ:0.75mm、或いは後に⌀26mm xピッチ:1.0mmと チェンジ、さらにその後も「M30」や「M45」と仕様変更を繰り返しており、オールドレンズ側の規格として捉えると後期の黒色鏡胴モデル時代には「M30/M45」が多くなっています。
ちなみにCマウントが「⌀25.4mm xピッチ:0.79mm」なので、初期型はそのままCマウントアダプタに装着可能ですがRoBoTのフランジバックが31mmなので使いモノになりません。

今回出品する個体はマウントがRoBoTのM26なので、敢えて利便性の良さを狙いライカ判の スクリューマウント「L39」に変換するマウントアダプタをご用意し附属しています。下記 写真のとおり、市場に流れている様々な黒色のマウントアダプタと比べるとマウントアダプタ自体が違和感を感じないほど一体感あるデザインを採っており、そのまま何も言われなければ「L39」マウントのオールドレンズなのかと勘違いしてしまうほどです(笑)

さらに今回附属したマウントアダプタはネジ山位置をビス (3本:マイナスネジ) を緩めることで指標値が真上に来るよう位置調整できるので大変ありがたいです。もちろんフランジバックも適合しており、必然的に今回のオーバーホールでも無限遠位置などをキッチリ調整して仕上げています (無限遠位置は敢えて僅かにオーバーインフ設定にしています)。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ・背景ボケ①・背景ボケ②・ピント面」で、下段左端に移って「リアル感・被写界深度・動物毛・ゴースト」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

実はだいぶ以前からこのRoBoT用交換レンズ群の描写性の素晴らしさが気になっており、然しさすがに経年劣化に伴う光学系の状態が悪くなかなか手を出せませんでした。そもそも監視 カメラ用と言う目的からすればピント面の鋭さや現場の雰囲気を臨場感豊に写し込むリアル感はさすがであり、さらにSchneider-Kreuznach製ともなればシアンに振れる発色性と思いきや、何とも誇張感のない自然な発色性を保ちどの写真を見てもまるでその場に佇むかのようなリアル感を留めています。決して情報量だけに頼らず、周辺域の収差や流れなども却って手伝い、結果的に画全体で雰囲気のある1枚を残してくれる素性の良さにスッカリ惚れ込んでしまいました(笑)

光学系はネット上のどの解説を見ても4群6枚のダブルガウス型と案内していますし、そもそもSchneider-Kreuznachのサイトでそのような仕様として掲載しています。ところが今回バラしたところどう見てもこの「M26」マウントのXenar 40mm/f1.9は5群6枚のウルトロン型構成にしか見えません (右構成図は今回バラした際の光学系清掃時にスケッチしたイメージ図なので曲率や寸法などは正確ではありません)。

元々が24 x 24mmスクエアフォーマットを踏まえた光学設計ですから、コンパクトな筐体ながらも光学系が使えるギリギリのサイズで拘った設計を採っているのか相当なポテンシャルを有するモデルと評価しています。今ドキのフルサイズデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着した場合は四隅にケラレが出ますが、クロップしてもスクエアフォーマットで撮っても良いですし特にAPS-C撮像素子のカメラボディならば35ミリ判換算で焦点距離60mmですから、ギリギリ標準レンズ域のオールドレンズとして使えるのでまさしく光学系内をフルで活かしていることになります (四隅のケラレ無し)。

海外オークションebayでは流通価格が個体の状態如何でピンキリで、2万円前後〜4万円後半までの価格帯で流れています。今回「これでもか!」と拘りのオーバーホールを気合い入れて施したので、現物を手にしたらきッとご満足頂ける仕上がりに達しています。小っちゃな、然しズッシリと重みを感じる今回の出品は製造番号から「1952年の夏」に製産された個体なので66年の歳月を感じつつもその素晴らしい描写性をご堪能頂きたいと思います。きっと間もなく迎える夏には復活を歓んで遺憾なく性能を発揮して活躍してくれることでしょう・・。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。オール真鍮製の構成パーツぱかりでアルミ合金材は一つも存在しません。一見すると簡単に見えますがちょっとしたトラップが仕掛けられている構造なので「原理原則」を理解している人でないとバラせても組み上げられません。さらに真鍮製のヘリコイド (オスメス) のみならず真鍮製の絞り環 ネジ山となれば、白色系グリースを塗布してしまうとその経年劣化から液化進行に伴うトルクの重さが顕著に表れるので、相手が特に真鍮材の場合は当時使われていたであろう「黄褐色系グリース」の塗布が大前提になります。

しかし過去メンテナンス時に塗られていたのは白色系グリースでしたから(笑)、既に真鍮材の摩耗が進んでしまい「黄土色」の摩耗粉だらけになっていました。

上の写真のとおり中央白紙に並べた光学系が5群であるのがお分かり頂けると思います。しかも貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) は第4群 (右端から2番目) のみなので「ウルトロン型」と言うことになります。何故にそこいら中で4群6枚のダブルガウス型と案内しているのでしょうか?

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。絞りユニットまで真鍮製ですから経年劣化による酸化/腐食が酷いと絞り環の操作性自体も重くなってしまいます。ご覧のとおりキレイに「磨き研磨」を施し表層面の平滑性を確保しています。

↑15枚もある絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。大変キレイな真円に近い円形絞りになています (絞り羽根に打ち込まれているキーの変形が無いので本当に真ん丸の開口部です)。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。ネジ山の塊です・・。

↑まずは絞り環用ベース環をネジ込んでいきますが最後までネジ込んでしまうと絞り環操作が適正ではなくなります (ネジ込みを停止する位置が存在する)。

↑このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式ではないので、ここで先にヘリコイド (オス側) をセットしてしまいます。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みますが、ネジ山の使い方が一般的なオールドレンズとは逆なので、ここの工程が「原理原則」を理解していないと 調整できません。

↑鏡筒とヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑面倒なのでここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。他にもヘリコイドが回転する際に「トルクムラ」を発生させる要因になるトラップまで仕掛けられている構造です(笑)

↑マウント部をセットします。

↑距離環を組み付けてから最後に絞り環に鋼球ボールを組み込んでセットします。無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

 DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回の出品にはRoBoTの「M26」マウントからライカ判「L39」への変換マウントアダプタを附属させています (新品です)。また汎用品ですが前キャップを用意しました。なお、附属のM26→L39マウントアダプタは距離計非連動なのでライカ判カメラに装着時は目測になりますのでご注意下さいませ。

↑光学系内の透明度が信じられないほどクリアな状態を維持している個体です。コーティング層の経年劣化が決して「無い」とは言えないのですが (何しろ製産されてから66年が経過していますから)、それを見越しても驚異的な透明度です。製造番号から「1952年の夏」製産個体と推測できますから恐ろしいですね(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。第1群 (前玉) 表面には経年相応な極薄い微細な拭きキズが複数ありますが写真には影響しないレベルです。

微細な気泡」が数点ありますが、この当時の光学メーカーは光学硝子精製時に一定時間規定の高温度帯を維持し続けた「」として気泡を捉えており、全数検品時も正常として扱われてそのまま出荷していました (つまり写真への影響はありません)。

↑光学系後群も非常にクリアな状態を維持しています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:7点
後群内:13点、目立つ点キズ:10点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・第1群(前玉)表面に経年相応の非常に薄い微細な拭きキズが複数ありますが写真に影響しません。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑15枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。ご覧のとおり全く変形していない大変キレイな真円に近い円形絞りです。また絞り環のクリック感も鋼球ボールの反発調整 (ハガネ) を施したので程良い (ちょっとクセになりそうなくらいの) 大変小気味良い感触で操作できるよう仕上げています。絞り環操作はクリック感を伴う無段階式 (実絞り) です。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリース「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し、シットリしたピント合わせが可能な独特な操作性で仕上げてあるので、ほんの僅かな軽いチカラだけでビミョ〜に微動しますから厳密なピント合わせが楽に操作できます。もちろん、筐体外装のクロームメッキも「光沢研磨」を施したので当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。当方がオーバーホールしたオールドレンズをご落札頂いている方は既にご存知ですが、一見パッと見では「新品同様品」と言われても信じてしまうくらい美しく仕上げてあります(笑)

【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しました。距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは人によっては「普通」或いは「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で小気味良いクリック感を伴い適正な操作性で仕上げています。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

今回の個体は光学系の透明度が素晴らしく (極微細な点キズはある)、距離環を回すトルク感も当方にしては上出来な仕上がりで組み上がっています。もちろん無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かな オーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環の絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。また当方所有のマウントアダプタにて装着時に指標値「Ι」マーカーが真上に来るよう位置調整も済んでいます。もちろん、クロームメッキ部分の「光沢研磨」は研磨後に「エイジング」工程を経ていますから、数年で再び輝きが失せたりポツポツと錆が浮き出たりすることもありません (昔家具屋に勤めていたので職人から磨きについて直伝されており多少なりとも詳しいです)。

当方がヤフオク! に出品するオールドレンズで特にシルバー鏡胴の場合に「光沢研磨」により自然で美しい仕上がりになっているのは、この「エイジング処理」を施しているからであり「光沢剤」などの化学薬品を塗布したり (却って将来的に問題を起こす)、金属質が剥き出しになるまで磨ききったり (1年で再び酸化してしまう) していません。同じことは黒色鏡胴や今回のような光沢ブラツクにも通用する話で、すべてに於いて必ず「磨きいれ」工程の最後には「エイジング」処理を経ています (エイジングにより酸化被膜で再び保護され耐食性を得る)。

なお、黒色鏡胴のオールドレンズを光に翳すと塗膜面に「斑模様」が見えたりしますが、これは汚れ/手垢などではなく経年で「カビ」が塗膜面に根を下ろしている状態であり、必然的にカビの代謝からいずれ腐食が進行します。つまり筐体外装の「磨きいれ」は最終的に製品寿命の延命に僅かながらも貢献しています。

しかしそうは言っても、描写性には一切関係ない話なので何の価値もありませんね(笑)

↑今回のヤフオク! 出品に際し同梱する附属品です。「RoBoT M26 → L39マウントアダプタ (新品)」と汎用前後キャップです。同じM26マウントのRoBoTならば他モデルもそのまま装着してご使用頂けるので利便性は高いのではないでしょうか?

↑「RoBoT M26 → L39マウントアダプタ」を装着するとこんな感じで一体感を伴うので、まるで最初っから「L39」マウントかと思ってしまうほど違和感がありません。お使いのマウントアダプタに装着して指標値が真上に来ない場合は黒色部分にネジ込まれている固定用ネジ (マイナスx4個) をほんの少しだけ緩めて位置調整して下さいませ (完全に外すとレンズが落下するのでご留意下さい)。

↑このRoBoTのロゴマークを眺めているだけでウットリです・・(笑)

↑汎用前後キャップをセットするとこんな感じなので本当にコンパクトなモデルですね。

↑当レンズによる最短撮影距離75cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです (クロップ撮影なのでケラレがありません)。

この光沢感のある写りが堪りません・・(笑)

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」にセットして撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値「f5.6」になっています。
↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。