◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) RoBoT Xenar 37.5mm/f2.8 ▽ (M26)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツのSchneider Kreuznach製広角レンズ『RoBoT Xenar 37.5mm/f2.8 
(M26)』です。


パンケーキレンズ繋がりと言うことで、再びRoBoT用のオールドレンズを扱ってみました。

このモデルの製産/供給メーカーは旧西ドイツのSchneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) ですが、発売元は同じ旧西ドイツで1931年に戦前ドイツのデュッセルドルフで創業したフィルムカメラメーカー「Otto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会)」です。長い歴史の中で「RoBoT Berning & CO、KG」や「Robot Visual Systems GmbH」を経て、現在はJenoptik AGの完全子会社「Jenoptik Robot GmbH」として現存している、主にスピード カメラや公衆監視システム開発/導入に至るオペレーションを請け負っている会社のようです。

基は1933年に世界初のゼンマイ式自動巻き上げ機構を装備した「24x24mm」スクエアフォーマットの連続撮影 (最大54枚) が可能なフィルムカメラ「RoBoT I」を世に送り出した会社であり、その後第二次大戦中にはドイツ空軍にも採用され連続撮影による航空撮影を実現していたようです。

実はこのゼンマイ式自動巻上げによる連続撮影を考案/開発した人物が当方が愛用している世界初のマクロレンズ「Makro-Kilar 4cm/f2.8 D 」の開発/設計者「Heintz Kilfitt (ハインツ・キルフィット)」であり、27歳の頃に想起し5年間の開発期間を経て1931年にようやく 最初のプロトタイプを完成しています (箱形筐体にゼンマイ式の巻き上げ機構を備えCarl Zeiss Jena製Biotar 2cm/f1.4を装備)。

このパテントを基にOtto Berning氏らと共に設立した会社でKilfittはゼンマイ式巻き上げ機構を装備する前の小型フィルムカメラを幾つか開発した後に退社し、長い間温め続けていた自ら光学製品を開発設計する会社「Kamerabau-Anstalt-Vaduz (KAV)」創業へと繋げていき1955年の世界初マクロレンズの発売に漕ぎ着けています。

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今回扱うモデルは、その初代「RoBoT I」や「RoBoT II」用交換レンズ群として用意されたSchneider-Kreuznach製広角レンズ『RoBoT Xenar 37.5mm/f2.8  (M26)』になります。

そもそもフィルムカメラ側が「24x24mmスクエアフォーマット」ですからオールドレンズ側のイメージサークルも小さい設計です。
あるシ〜ンを撮影しようとした時 (右写真)、今ドキのデジカメ一眼/ ミラーレス一眼でフルサイズ (ライカ判:36x24mm) はブルーラインになり「24x24mmスクエアフォーマット (イエローライン)」に対して四隅にケラレ (黒っぽくなる/或いは減光される) が発生しますが、カメラボディ側の撮像素子サイズがAPS-C (26x15mm前後) ならば 四隅のケラレの影響も受けずにちょうどピタリと画角に収まります (ピンクライン)

もちろんフルサイズのデジカメ一眼/ミラーレス一眼で使うならばクロップ、或いはスクエアのフォーマットで撮影すれば良いのですが今回のモデルはまさにAPS-Cサイズのボディにマッチする筐体サイズでもあり、画角も気にせずフルでご活用頂けるメリットがあるので今回扱う気持ちになりました。

RoBoTマウントはフィルムカメラ本体側マウント仕様が初期「M25」から「M26」に代わり、マウントネジ山径:⌀26mm xピッチ:0.75mm、或いは後に⌀26mm xピッチ:1.0mmと チェンジ、さらにその後も「M30」や「M45」と仕様変更を繰り返しており、オールドレンズ側の規格として捉えると後期の黒色鏡胴モデル時代には「M30/M45」が多くなっています。

ちなみに一部のカメラ店などでCマウント (M25:⌀25.4mm xピッチ:0.79mm) のマウントアダプタに装着して使えると案内していますが、初期型はそのままCマウントアダプタに装着可能だとしてもフランジバックがRoBoTは31mmなので使いモノになりません。マウント径が一致しなければ装着できませんがピント合焦しなければ意味を成しません。

今回出品する個体はマウントがRoBoTのM26なので、敢えて利便性の良さを狙いライカ判スクリューマウント「L39」に変換するマウントアダプタ (赤色矢印) をご用意し附属しています (左写真は既にオーバーホールが完了した出品個体にマウントアダプタ装着状態を撮っています)。

市場に流れている様々な黒色のマウントアダプタと比べるとマウントアダプタ自体が違和感を感じないほど一体感あるデザインを採っており、そのまま何も言われなければ「L39」マウントのオールドレンズなのかと勘違いしてしまうほどです。
左写真のグリーンの矢印部分からマウントアダプタになり、ブルーの矢印のように3箇所に マイナスネジが用意されているので緩めることで指標値が真上に来るよう調整が可能です。
もちろんフランジバックも適合しており、必然的に今回のオーバーホールでも無限遠位置などをキッチリ調整して仕上げています (無限遠位置は敢えて僅かにオーバーインフ設定にしています)。

海外オークションebayやプロのカメラ店様、或いは修理専門会社様で販売されている今回の モデルを見ていて一つ気がついたことがあります。

右写真は既にオーバーホールが完了した出品個体を撮影したものですが、赤色矢印の箇所 (光学系前群の位置) の突出量が多く出っ張って いる個体が市場には幾つか流通していました。実は当初バラす前からこの点が気になっており、このモデルを入手する際にチェックする べき非常に重要な要素であることを発見しました (要注意事項)。

もちろんこのモデルをパラして整備済で出回っていることは皆無ですし、ましてやネット上で解説しているサイトも全くありません (それほどマイナーなある意味「通の人」しか知らないモデルです)。このことについても以下のオーバーホール工程の中で 解説していきます (今まで世間に知られていない今回初めて判明した重要な事実です)。

   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。上段左端から「グルグルボケ・ピント面・動物毛・リアル感」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

実はだいぶ以前からこのRoBoT用交換レンズ群の描写性の素晴らしさが気になっており、然しさすがに経年劣化に伴う光学系の状態が悪くなかなか手を出せませんでした。そもそも監視 カメラ用と言う目的からすればピント面の鋭さや現場の雰囲気を臨場感豊に写し込むリアル感はさすがであり、さらにSchneider-Kreuznach製ともなればシアンに振れる発色性と思いきや、何とも誇張感のない自然な発色性を保ちどの写真を見てもまるでその場に佇むかのようなリアル感を留めています。決して情報量だけに頼らず、周辺域の収差や流れなども却って手伝い、結果的に画全体で雰囲気のある1枚を残してくれる素性の良さにスッカリ惚れ込んでしまいました(笑)

光学系は焦点距離が37.5mmの広角レンズのため3群4枚のテッサー型ですが、今回のモデルがパンケーキ型であることからも大変薄い筐体サイズに見合ったテッサー型光学系として設計されていることが判ります。
そもそも広角域の焦点をテッサー型でやってしまうところが感心なのですが、それはイメージサークルが小さいフォーマットであることが大きく関わっています。逆に言えば広角域の焦点距離:37.5mmなのに鋭いピント面を狙えるメリットもありがたいですね(笑)

なお、RoBoT用交換レンズ群の中には焦点距離:38mmの同じ開放f値モデルも存在します。 そして実は、今回の出品個体はこのモデルの中でも市場流通数が非常に少ないモデルバリエーションだったことも判明したので、それも解説したいと思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構成パーツは100%真鍮製なのでズッシリと重みを感じます。

今回のモデルはレンズマウント面からフィルター枠端までの全高が 僅か「19mm (最大径:47mm)」と言う本当に小っちゃなパンケーキレンズです。

左写真は既にオーバーホールが終わった出品商品に附属する「M26→L39マウントアダプタ」を装着し、さらにカメラボディ側のマウントアダプタとして「L39→SONY Eマウントアダプタ」にセットした状態を撮っていますが、ご覧のように突出量が少ないのでこのままAPS-Cカメラで使っても非常に取り回しが楽ですね。むしろAPS-Cカメラなら撮影画角は35mm判換算で焦点距離:約56mmになりますから普段使いの標準レンズとしてもベストマッチでしょう。撮影シ〜ンの切り取り画角としてちょっと広角寄り (本来の焦点距離が37.5mmなので) なのも嬉しいと思いますョ(笑)

バラしてみれば内部の構成パーツ点数は少なめで如何にも簡単な構造のように見えがちですがハッキリ言ってこのモデルは「超難解構造」のモデルであり、まずまともに組み上げられる人はそう多くないと思います (似たような超難解モデルはKodak製EKTRA Ektarなどが真っ先に思い浮かびます)。実際前述のように入手時の要注意事項があるくらいなので過去メンテナンス時の調整をミスっている証でもあります。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する真鍮製の鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在し、鏡胴が「前部」と「後部」に二分割する構造です。

↑カーボン仕上げの10枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。小っちゃいくせにとてもキレイなほぼ真円に近い「円形絞り」です。今回の個体は絞り羽根に打ち込まれている「キー」と言う金属製突起棒に相当量の赤サビが生じており、過去の長い期間に油染みが生じたまま放置され続けていたことが判明します。

この「キー」は絞り羽根の表裏に1本ずつ打ち込まれており、絞り羽根が刺さる位置を確定する「位置決めキー」と絞り環操作に連動して絞り羽根の角度が変わる「開閉キー」の2本です。経年の赤サビによりキーが打ち込まれている絞り羽根側の「」まで錆が進行するとキー脱落の原因になりそのまま製品寿命に至りますから「油染み放置」は本当は恐ろしいです。
(キー脱落の絞り羽根が飛び出てくるので使いモノにならなくなる)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。

↑絞りユニット固定は光学系前群のネジ込みで代用しているため、ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。

↑絞り環をネジ込んで適正な位置で個体します。最後までネジ込んでしまうと正しい絞り羽根の開閉動作をしてくれません。

この工程で鏡胴「前部」が完成したことになりますが、冒頭説明の「要注意事項」がありました。光学系前群の突出量が出っ張りすぎている個体が流通している問題です。

今回の個体を入手時に、事前に複数の同型モデルをチェックしており「光学系前群の突出量が少ない個体が多い」ことに気がつきました。

自ずと安全策を採り今回の個体の調達に至ったワケですがそれが正解でした(笑)

絞り環のネジ込み位置をミスると鏡胴「前部」の固定位置に影響が出る構造の為、結果的に ピント面が甘くなることに繋がる構造なのです (つまり本来のテッサー型光学系のメリットである鋭いピント面が出ない)。しかしこのモデルの「超難解構造」はそんなレベルの話ではなくこの後の工程でイヤと言うほど思い知らされることになります。

↑ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入りますが、鏡胴「後部」はヘリコイド群とマウント部しか存在しないので非常にシンプルです。距離環やマウント部を組み付けるための基台 (上の写真右端) に対してヘリコイド (オスメス) になります。

↑まずはこの基台に対してヘリコイド (オスメス) を組み込んでいきます。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

当方は既にバラす時点で気がついていましたが、このモデルはヘリコイドのネジ山が一般的なオールドレンズとは真逆の方向で切られており、ヘリコイドが繰り出されると「鏡筒が最深部まで収納する」設計を採っています。一般的に光学系前後群が最も深い位置に来ている時に「無限遠位置」になるモデルが多いですから、今回のモデルはその逆の動作をしている構造だと言うことになりますね(笑)

つまりバラしている時にそれに気がつかなければ、まず正しく組み上げることができません。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この時、ヘリコイドには既に「直進キー」なるパーツが両サイドに1本ずつ (合計2本) 刺さっています。「直進キー」とは距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツですから、ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置と直進キーが刺さる箇所が適正でなければ無限遠が出ない (合焦しない) ばかりか、適正な光路長も確保 できずピント面が甘くなることに繋がります。

このモデルが「超難解構造」なのはまさにヘリコイド (オスメス) の組付けと直進キーとの関わりを理解できているか否かに架かっており、それはどれだけオールドレンズの「原理原則」を理解しているのかのスキルの試練でもあります。今回のモデルはヘリコイドの固定位置は本より基台との固定位置さえも「フリー」であり、全てお見通しでない限り適正な光路長が確保できないと言う難しさがありました。

つまりヘリコイド (メス側) の停止位置が適正になり、さらにその次にヘリコイド (オス側) の停止位置が合致する必要があるのですが、そのどの位置でも「直進キー」を入れようとすれば入ってしまう構造なので、ヘリコイド (オスメス) と直進キーがどの位置の時に初めて適正な 光路長を確保できるのかの「原理原則」との鬩ぎ合いになります。

実は当初バラしている際にヘリコイド (オスメス) の組み込み位置が何となくピンと来なかったので、何だかフツ〜のオールドレンズとは違うような気がしつつバラしていました。何のことはなく、イザッ組み立てとなると何処でもそれぞれの停止位置を決められることに気がついた次第です(笑)
当方の技術スキルはその程度ですから、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様のような高いスキルを持っていると買い被らぬよう切にお願い申し上げます。

従ってこのモデルは「個体別にピント面を調整する作業が必須」なモデルであると断言できます。同じような前提条件があるモデルが冒頭でご案内した「Kodak製EKTRA Ektarシリーズ」のオールドレンズ群 (すべてが銘玉中の銘玉です) であり、ヘリコイド (オスメス) などをバラす前と同じ位置で組み上げても光学系の描写性 (調整) はその都度ズレてくるのでピタリと合致させる作業が必ず発生します。

考えるに、実はこのモデルはRoBoT用交換レンズ群の中で最も市場に出る確率が高いモデルなのですが、実のところそもそもが監視カメラ用レンズですから広角域の焦点距離:37.5mm (或いは38mm) に採ってきている理由、そして広角域にも拘わらずテッサー型光学系を実装した理由、それはまさに「監視すること」を命題とした設計だったからこそと結論できます。

それ故に個体別にフィルムカメラたる「RoBoTカメラ」に装着した上で、1台1台カッチリと 描写性を適合させていたのだと気がつきました。故に都度個体別に光路長確保をキッチリ調整する必要がある「超難解構造」なのだと納得です。

↑実は前の工程でそれらの事柄に気がついたので、意外と簡単に (と言うかEktarで慣れている)「原理原則」に気がつき適正な位置でヘリコイド (オスメス) と直進キー、或いは基台との関わりを合致できました。カラフルな刻印が施されている指標値環をセットしますが、もちろん この時も指標値環はどの位置でも固定できる構造なので前の工程でミスっていたら全く以て 意味がありません(笑)

↑距離環を仮止めではなく本締めで固定します。

↑延長筒のスリーブ環をセットしてこの後完成している鏡胴「前部」を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが終わった出品商品の写真になります。

↑今回の個体にも別途用意した「M26→L39マウントアダプタ (新品)」と前後キャップが附属します (上の写真オールドレンズ本体の下に写っている黒色の円形台は撮影の小道具なので 附属しません)。

↑今回出品個体は製造番号からシュナイダーのサイトで調べると何と戦中戦後すぐの1942年〜1948年の間に生産されていた個体だったことが判明しました。どうりで全く同一の個体を ネット上で調べても見つからなかったワケです。今回の出品に際しサンプルとしてネット上で32本を調べましたが同一タイプは僅か3本でしたから如何に貴重なのかが判ります。

少なく見積もっても製産されてから既に「70年」が経過しているワケで全く以てオドロキです。よくぞ激動の戦中戦後を乗り越えて生き続けてくれたものだと感銘を受けてしまいました (それで既に筐体外装のメッキが薄くなっていたワケですね)。

光学系内の透明度が非常に高い個体です。ご覧のように光学系内には塵/埃、或いはキズのように見えがちなのですが実は「極微細な気泡」が含まれています。この当時の光学メーカーは 光学硝子材の精製時に一定時間規定の高温度を維持し続けた「」として気泡を捉えており、製産後の全数検査でも「正常品」としてそのまま出荷していましたからもちろん写真にも影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

光学系のコーティング層は一見すると「ノンコーティング」のように見えがちですが、レンズ銘板の刻印「」のとおりSchneider-Kreuznachの「モノコーティング」がちゃんと蒸着されています (ノンコーティングの個体にはが刻印されません)。監視カメラ用レンズとして踏まえれば可能な限り収差を排除して正確で忠実な写真を記録することが大前提だったでしょうから至極納得です。

さすがに製産されてから70年もの経年ではコーティング層蒸着のハガレが進行しておりご覧のとおりだいぶ薄くなってきています (製産時のコーティングムラではなく経年で剥がれてきているのです)。

↑光学系後群側も貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) にも拘わらずバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年 劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が生じていません!

まさにオドロキですね・・むしろ1970年代のオールドレンズのほうが同じテッサー型光学系を実装していてもバルサム切れしていたりするので本末転倒です(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。後群側は清掃時にチェックした硝子レンズの光彩からもしかしたら「シングルコーティング」かも知れません。

光学系内の点キズや塵/埃の類に非常に神経質な方がいらっしゃるので、下記状態表示はワザと誇張的に記載しています。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:19点、目立つ点キズ:14点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
・今回附属するM26→L39変換マウントアダプタ、及び当方所有L39→SONY Eマウントアダプタに装着した状態で最も鋭いピント面になるよう光学系を調整済です(このモデル特有の必須作業です)。

↑当初バラす前の時点では、絞り環の絞り指標値「f2.8」の先まで回って停止していましたがそもそも「f2.8」位置で絞り羽根が僅かに顔出ししていたのでオーバーホール工程で位置調整しています (開放時完全開放しています)。その分最小絞り値「f16」側がその先まで回るのでオーバーホール後に簡易検査具で実測したところ「f18〜f20」くらいまで絞り羽根が閉じているようです (必然的に回折現象の影響を受けます)。

絞り羽根はカーボン仕上げですから既に相当量の赤サビが発生していましたが、1時間がかりでセコセコとセコイですが錆取りしたので(笑)、とても滑らかに開閉するばかりかキレイな 真円に近い「円形絞り」が戻りました。

何しろ70歳ですから、最大限の畏敬の念を以てオーバーホールに臨まなければイケマセン。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が相当あるので筐体外装のメッキも既に薄くなりイブは剥がれたり赤サビも生じています。真鍮材に対するメッキ加工は薄いので当方による「磨きいれ」を最低限で施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しました。距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・距離環を回すと距離指標値の2m前後と0.6m〜最短撮影距離0.5mの間で極僅かにトルクが重くなる箇所がありますが内部パーツの経年摩耗が原因なのでこれ以上改善できません(事前告知をしているのでクレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・真鍮製の筐体は経年の使用感が相応にありメッキがだいぶ薄くなっています(一部地金露出箇所があります)。
・洗浄時に筐体外装の刻印指標値全てが褪色してしまったため当方で着色しています。
・当方所有L39→SONY Eマウントアダプタ装着時に基準マーカーが真上に来るよう位置を調整済みです(マウントネジ部のマイナスネジ3本を緩めて再調整可能です)。
・フィルター枠はネジ山が無いのでスナップオン式の内径:⌀ 43mmが必要です(純正の金属製フードも存在します/今回出品に附属せず)。

↑もともと入手時点で既に筐体の刻印指標値がだいぶ褪色していましたが洗浄時にすべて消えてしまったので当方にて再着色しています。

今回の個体は光学系の透明度が素晴らしく (極微細な点キズはある)、距離環を回すトルク感も当方にしては上出来な仕上がりで組み上がっています。もちろん無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/ 入射光量) と絞り環の絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。また当方所有のマウントアダプタにて装着時に指標値「▲」マーカーが真上に来るよう位置調整も済んでいます。もちろんメッキ部分の「光沢研磨」は研磨後に「エイジング」工程を経ていますから、数年で再び輝きが失せたりポツポツと錆が浮き出たりすることもありません (昔家具屋に勤めていたので職人から磨きについて直伝されており多少なりとも詳しいです)。

当方がヤフオク! に出品するオールドレンズで特にシルバー鏡胴の場合に「光沢研磨」により自然で美しい仕上がりになっているのは、この「エイジング処理」を施しているからであり「光沢剤」などの化学薬品を塗布したり (却って将来的に問題を起こす)、金属質が剥き出しになるまで磨ききったり (1年で再び酸化してしまう) していません。同じことは黒色鏡胴モデルにも通用する話で、すべてに於いて必ず「磨きいれ」工程の最後には「エイジング」処理を経ています (エイジングにより酸化被膜で再び保護され耐食性を得る)。

なお、黒色鏡胴のオールドレンズを光に翳すと塗膜面に「斑模様」が見えたりしますが、これは汚れ/手垢などではなく経年で「カビ」が塗膜面に根を下ろしている状態であり、必然的にカビの代謝からいずれ腐食が進行します。つまり筐体外装の「磨きいれ」は最終的に製品寿命の延命に僅かながらも貢献しています。

しかしそうは言っても、描写性には一切関係ない話なので何の価値もありませんね(笑)

↑今回の出品に際しRoBoT用M26マウントからライカ判スクリューマウントに変換する「M26→L39マウントアダプタ」を新たに手に入れてセットしています。汎用の金属製前キャップ (中古品) と樹脂製後キャップ (L39) が附属します。

↑附属品を全てセットするとこんな感じです・・。

↑ご覧のように赤色矢印の箇所には真鍮材の錆が出ています (消すことはできません/他にも 複数あり) し、グリーンの矢印のようにメッキが剥がれてしまっている箇所も多くあります。

↑絞り環トップのメッキもご覧のとおり薄くなってしまいシルバーではなくなっています (赤色矢印)。

このモデルはフィルター枠の内周に一般的なオールドレンズのようなネジ山が切られていない為、純正の金属フードが存在し「スナップオン式」でカチャッとハメ込む方式です。その際に爪がロックされるようフィルター枠部分は内側に凹んでいる構造になっています。

↑距離環を回すと赤色矢印のように鏡筒が全群繰り出し方式で出てきたり収納したりします。

さらに前述のとおりこのモデルは距離環の回転に対してヘリコイド (オスメス) のネジ切りが 一般的なオールドレンズとは逆ですから、距離環が繰り出されるとその時に鏡筒は収納されて無限遠位置に向かっていることになります (実際に距離環を∞刻印方向へ回している時)。

つまりこの点が冒頭の「要注意事項」に関わっている話で、絞り環のネジ込み位置が適正ではないと無限遠位置の時絞り環が接触してしまうので鏡胴「前部」のセット位置自体がズレます。すると必然的に光路長まで変化するので無限遠位置のみならず、全ての任意距離に於いて「甘いピント面」と言う結末に至ります。

↑その根本的な理由が上の写真で赤色矢印のとおり光学系自体の光路長調整自体が「フリー」とした設計だからであり、それは取りも直さずフィルムカメラボディに装着した上で1台1台を全数調整していたことの証でもあり、要は監視カメラたる宿命だったと考えられます。

と言うことは何を言いたいのか???

今回の出品に際し「M26→L39マウントアダプタ」を装着し、さらに「L39→カメラボディ側マウント」のマウントアダプタにもセットした状態で初めて「描写性の検査ができる」ワケで実際にオーバーホール工程の中でそのように実施した次第です。つまりいちいちカメラに装着して実写確認しながら簡易検査具でピント面をチェックして適正になるよう光学系やヘリコイド (オスメス) 、或いは基台と直進キーなどの設定を都度替えたワケで、その組み直し回数たるや20回を優に超えてしまいました(笑)

如何に当方の技術スキルが低いのかイヤと言うほど思い知らされた次第ですね・・(笑)

↑こんな感じでイチイチ組み上げては最終的なカメラボディ側マウントアダプタにセットして実写しつつ簡易検査具で確認していったワケです (もちろんその都度再びバラして光学系の 固定位置を変化させてまた組み上げる作業の繰り返し)。

相当気の遠くなる作業でしたが(笑)、それもこれも70歳を過ぎているからこそその栄誉を認めなければイケナイと言う想いだけですョ。先人達の苦労/苦心/苦悩の上に今の時代が成り立っていることを決して忘れてはイケナイと思います。イザッ自らを省みた時、何と恥ずかしい 気持ちだことか・・これからもっともっと努力して先人達の恩に報うべく精進しなければならないと今回のオーバーホールで決意を新たにした次第です。

左写真が最も現在も市場に多く流通している同型モデルのタイプであり、赤色矢印グリーンの矢印の箇所に締め付け用のイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) が 存在しますし、そもそもブルーの矢印の指標値環はカタチもデザインも異なりますからよ〜く観察しながらチェックすると相違点が分かります。

本当に70年間もご苦労様でした・・(涙)
そしてこれからもまだまだご活躍を願うばかりです・・。

次回のメンテナンスの時には当方はもう居ませんから、また何方かもっともっと技術スキルが高い方に巡り逢えることを願いつつ・・全く以てチカラ及ばずですが一応当方の役目は果たせたでしょうか、ご落札者様がきっとご判断下さるでしょう。

↑なおRoBoT用の交換レンズ群は後の黒色鏡胴も含めて全て鏡胴にはカラフルな着色が施されています (赤色矢印)。これはこのモデルが「目測撮影用」だったことを表しており目測の目安を示しています。絞り環絞り指標値の「2.85.611」のそれぞれにセットした時 (▲基準 マーカーに合致させた時:)、距離環距離指標値をそのカラーリングに合わせると ()、その時のパンフォーカス (近くから遠景までピント合焦していること) 領域 () を同色ドット (●) で表しています。

例として上の写真ではf値を「5.6」にセットしましたから距離指標値を参照すると3.5m〜∞域までにピント合焦することが示されています。実際に実写確認すると各絞り値のカラーリングで確かにほぼパンフォーカスであることを確認しました。但し、そもそもこのモデルはピントの山がアッと言う間なので老眼の当方では確実に見切れていない部分もあります。一応距離環を回すトルク感はそれを考慮して「普通」或いは人によって「軽め」に感じられるトルクに 調整して仕上げています。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」になっています。

↑f値「f11」です。

↑本来モデルの仕様諸元としては最小絞り値である「f16」での撮影になります。

↑開放側が完全開放するよう調整したので最小絞り値側が「f16」の先まで回ります。最後まで絞り羽根を閉じた状態での実写なので「回折現象」が現れておりコントラスト低下を招いています。