◎ メーカー不明 AUTO BEROLINA 35mm/f2.8 silver(M42)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています。
(オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


レンズ銘板に製造元/販売元メーカー銘が附随しない「謎のオールドレンズ」です。

モデル銘の「BEROLINA」で思い浮かぶのは、旧西ドイツISCO-GÖTTINGEN社製広角レンズ「BEROLINA WEITWINKEL 35mm/f3.5 TYP “AUTOMATIC” zebra」で、以前オーバーホールした経験があります。実際、ネットで検索するとISCO-GÖTTINGENのオールドレンズばかりがヒットします。

鏡胴には「LENS MADE IN JAPAN」の刻印がありますが、一見するとまるでCHINONのように、この当時数多く海外に輸出されていた富岡光学製OEMモデルの一つと考えてしまうのですが、実はマウント面に固定ネジがあるので富岡光学製ではありません (富岡光学製M42マウントは側面からイモネジ固定)。また、マウント面の固定ネジを見ると「マイナス」なので生産された時期は相応に古い時代になります。
(実際バラしてみると内部にも一切プラスネジが存在しない)

ネット上で散々別メーカー製の同じオールドレンズを探しまくると見つけました。SOLIGOR製「WIDE-AUTO 35mm/f2.8」と言うモデルが、距離環などの意匠は異なるものの「造り」が全く同一です (マウント面を見れば一目瞭然)。

 

となると、SOLIGOR製オールドレンズでは製造番号に暗号を符番していたので製造元が明確になります。右写真のモデルでは「276xxxx」なのでサン光機製で1976年生産分と言うことになりますが、今回オーバーホール/修理を承った個体の製造番号は、そもそも製造番号の桁数が全く異なっておりSOLIGORの符番法則に則っていません。

しかし、マウント部の構造が同じだとすると製造番号の符番が異なるとしても製造元は同じだと考えなければ辻褄が合いません (何故なら他社の設計をワザワザ真似て生産する必要が全く無いから)。

そう考えると、今回のモデルもサン光機製と考えるのが良さそうですが確証はありません。さらに、このマウント部の構造を見て思いだしたのが左写真のモデルです。アメリカの商社argus社から発売されていた日本製OEMモデル「Argus Cintar 28mm/f2.8 (M42)」です。

 

このモデルのマウント部内部は、今回のモデルと100%同一な構造をしていました。この時に参考にしたのもやはりSOLIGOR製オールドレンズでした (似た筐体のモデルが存在したから)。その際の製造番号を拾うと「トキナー製」であることになったワケですが、今回はサン光機です。
おそらく「SUN ZOOM」レンズをバラせば確定できると思うのですがお試しでもズームレンズはバラす気になりません (自らの技術スキルの低さを目の当たりにするので)(笑)

どうも製造元がハッキリしませんが、少なくともマウント部の構造だけは確証を得たので、
いつの日にか製造元を割り出せるかも知れません(笑)

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今回のオーバーホール/修理ご依頼は「ミラーレス一眼のピーキングに反応しないほどピント面が甘すぎる」と言う内容です。

実際にバラす前に実写確認すると「甘い」と言うよりもピント面が二重像になっていて明確になりません。これは光軸ズレではなく光学系内の硝子レンズの向きを間違えて入れ込んでいるか、或いは光路長が適していない場合 (その両方もあり得る) の描写現象です。

これは大変厄介なオーバーホール工程になることがバラす前の段階でハッキリしてしまいました。しかも、後玉を見るとどうもバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) しているようにしか見えません。

覚悟してオーバーホールに臨んだ次第です・・。

   
   

上の写真はFlickriverにて実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしましたが、今回に関してはモデル銘検索に全くヒットしません(笑)
仕方ないのでSOLIGOR製のほうで検索した次第です。

上段左端から「シャボン玉ボケ・リングボケ・金平糖ボケ・被写界深度」で、下段左端に移って「低コントラスト・発色性・歪み・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

本来ピント面のエッジが明確に出てくるモデルのようなのでシャボン玉ボケも表出できていますしリングボケもキレイです。またダビデの星の「星ボケ」でロシアンレンズのINDUSTAR-61 L/Z 50mm/f2.8などが有名ですが、このような星ボケ (当方では金平糖ボケと呼んでいる) も美しいです。被写界深度はそれほど狭くないように見えますがf値データが不明なので分かりません。

下段に移って左端の低コントラストな写真は、実は当方が昔住んでいた香港の写真です。中国大陸側の九龍 (カオルン) サイドから撮った写真ですが、おそらくスターフェリーと言う香港島を頻繁に往来しているフェリー上からの撮影ではないでしょうか。ジャンク (帆船) が写っていますが、いまだに活用され続けている香港や中国圏独特な帆船です。当方が住んでいた頃は、写真の右端から2本目の高層ビル (屋上が台形型の貿易センタービル) が1本しか立っていなかったので、まるで別世界ですね(笑)
写真のような曇った日が多いのですが気温は高くなっても35度以下です。ところが湿度が凄いのが強く印象に残っていますね。年中ジメジメしていた記憶ですし、土が日本のような赤土ではなく砂利です (お団子が作れない) から、もしも地震が来たらアウトです (地震はまずありません)。島ですが起伏があるので土砂崩れの対策はキッチリ行っていたようです (そこいら中がコンクリート固め)。アグネス・チャンの実家附近もよく行きましたね (現地では特に大騒ぎしてませんが)(笑)

光学系は5群6枚の典型的なレトロフォーカス型ですが、一番最後の第5群に貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) が位置しており、今回の個体は残念ながらバルサム切れが生じています。右の構成図は今回バラした際に光学系を清掃した時にスケッチしたイメージ図ですので、曲率や厚みなどすべて正確ではありません。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。当然のことながら内部構造から構成パーツに至るまで富岡光学製オールドレンズとは全く異なります。但し、いつも思うのですが、光学系だけは富岡光学製っぽい匂いがとてもします。各群の硝子レンズ切削や、硝子レンズの格納筒への格納方法、或いは締め付け固定環の仕上げ方など、まるで富岡光学製オールドレンズそのモノです。もしかしたら、光学系だけは富岡光学から供給を受けていたのかも知れませんが確かなことは何も分かりません。

↑絞りユニットや光学系前群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) なのですが、光学系後群は別の場所にセットされる少々変わった設計です。と言うのも、この鏡筒には絞りユニットを格納する場所さえも無いので珍しいです。

↑単に鏡筒を立てて撮影しただけですが、一見するとフツ〜の鏡筒です。ヘリコイド (オス側) のサイドに深い溝が用意されていますが、ここは「直進キー」と言う板状パーツが行ったり来たりとスライドする場所で「直進キーガイド (溝)」と当方は呼んでいます。距離環を回すとこのガイド部分で直進キーによりチカラが変換されて鏡筒が繰り出されたり収納したりします。

↑いつもは絞りユニットを組み込むのですが、このモデルでは絞りユニットは最後のほうになります。上の写真は距離環用のベース環です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらが距離環やマウント部を組み付けるための基台ですが指標値環を兼ねています。

↑保持しにくいので先に距離環を仮止めしてしまいます。

↑前の工程でヘリコイドを入れ込んでいますから、上の写真のとおり「直進キー」と言う板状パーツをセットしています。直進キーは距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツです。

距離環を回す際のトルク感を決定づけるのは「ヘリコイドグリースの粘性」だと思い込んでいる方が非常に多いですが、実は直進キーや他のパーツからの抵抗/負荷/摩擦などの影響も受けているので、一概にグリースの粘性種別だけで決まりません。

トルクを軽くしたから「粘性:軽め」のグリースを使いたいと考えますが、塗ってみると逆に重い結果になったりします。要はヘリコイドのネジ山切削の設計/仕様と経年の摩耗状態、或いはヘリコイドの金属材質や塗布するグリースの量によっても変わるので、必ずしも粘性はトルク感とは一致しません。良い例が「粘性:重め」のグリースを塗ったにも拘わらずトルク感はむしろ軽く仕上がることがあります。もちろん直進キーの組み付け調整如何でも最終的なトルク感が変わるので直進キーは「要調整箇所」と言うことになりますが、バラしてみると過去メンテナンス時に何ら配慮せず締め付け固定されていることが多いですね (グリースを塗ったくっていることも多い)。きっと直進キーのことを侮っているのだと思いますョ(笑)

また、最近のヤフオク! では整備を施して出品していらっしゃる出品者が居ますが、この当時のオールドレンズのヘリコイド切削について、現在のマニュアル・フォーカスレンズのヘリコイド切削との相違を挙げて「切削加工の甘さ」と表現しています。しかしそれは言い逃れで、当時のヘリコイド切削、或いは経年のネジ山摩耗 (白色系グリース/潤滑油塗布等に拠る原因)、ひいてはヘリコイドの材質/成分に対応するヘリコイドグリースを用意していないのが、そもそも問題なのです。

もちろん、当方で用意している「5種類 (厳密には7種類)+ロシアンレンズ専用グリース」でも対応できていない場合は多いですから、当方でも同じ事なのですが、少なくとも当方は「ヘリコイドの切削の甘さ/粗さ/粗雑」などを理由にして逃げません。当方の技術スキルの低さゆえです (数多くのヘリコイドに対応したグリースを調達できていない対応スキルの問題)。
偏にどのような成分/粘性/種別のグリースが必要なのかは、その整備者のスキルに懸かっていると考えます (つまり当方もその程度のレベルだと言うことです)。

↑制御系のパーツを組み付けてしまいます。制御環に用意されている「なだらかなカーブ」部分を絞りユニットから飛び出ているカムが勾配に沿って進むことで絞り羽根が開閉しています。上の写真ではまだ絞りユニットはセットできません。

↑ベアリングを組み込んでから絞り環をセットして初めて絞りユニットを組み付けられます。

↑コイルばねやアームの噛み合わせなどをキッチリ行ってから6枚の絞り羽根をセットしたところを撮りました。絞り羽根の開閉幅調整 (開口部/入射光量の調整) も絞りユニット自体で執り行っているので、やはり「要調整箇所」であり少々神経質な調整が必要ですが、特に制御環と絞りユニットとの関係を熟知している人でなければ、このモデルの調整はキッチリできないかも知れません。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。このカムのカタチと仕組み (構造) を冒頭の写真 (Cintarの28mm) と比較頂ければ同一であることがご理解頂けると思います。

上の解説のとおり、絞り連動ピンが押し込まれると (ブルーの矢印①)、カムがそれに連動して動き () 絞りユニットの絞り羽根を開いたり閉じたりしています。

↑自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の機構部を撮影していますが、Cintarと全く同じ設計なのがお分かりだと思います。Cintarは標準レンズ55mmと中望遠の135mmが富岡光学製ですが広角レンズの28mmだけは違うようです。

↑完成したマウント部をセットします。この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑上の写真は、光学系後群の第5群 (後玉) を取り出して撮影しましたが、ご覧のとおり貼り合わせレンズの硝子レンズ内に虹色の渦が見えていますからバルサム切れの証です。

↑こちらの写真は「シム環」と言う薄いアルミ材の環 (リング/輪っか) なのですが、無限遠位置の調整用に厚みを加減して適正値になるよう枚数分入れ込まれています。全部で5枚使っていましたが、最終的に当方のチェックで必要となった4枚を撮影しました。

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DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑そもそも今回のオーバーホール/修理ご依頼内容「ピントが甘い」に関しては、以下の原因が事前予測できます。

  1. 光学系硝子レンズの向き/位置を間違えて格納している
  2. 光学系前群と後群の締め付け固定不足
  3. 光学硝子レンズが極僅かに斜めに入っている
  4. シム環の調整/枚数/厚みが適正ではない
  5. バルサム切れの影響
  6. 過去メンテナンス時のバルサム切れ処置ミス
  7. ヘリコイドのネジ込み位置ミス
  8. 距離環の無限遠位置調整ミス

ザッと思い付くまま列挙してもこれだけ浮かびます。これらを順番にチェックしていけば良いワケですが、問題なのは今回の個体はバラす前の実写チェック時点で既に無限遠位置が適合しておらず出ていません (合焦しません)。

となると、ヘリコイドのネジ込み位置ミスなのか距離環の固定位置ミスなのか、或いはヘリコイド自体の固定ミスなのかまで調べなくてはならないのですが、その調査で確認するのは実写による無限遠位置の確認ですから、ピント面が甘いとなると調整して確認するにも為す術がありません (ご理解頂けるでしょうか?)。これが当方の手元に工程手順書や設計諸元値表などがあり、且つ検査機械設備が整っていればきっと容易いことなのでしょう(笑)

そのようなモノが一切無い当方にとっては、原因が予測できていてもそれを調査して突きとめ改善策を考え調整を施して仕上げるのは至難の業です。当方にとってはこのような「ピント面が甘い」現象のオーバーホール/修理は、それはそれは「地獄のような作業」が待っているだけになりますね(笑)

↑まず最初に、バラした直後光学系前群の固定が全くダメでした。そもそも光学系前群の硝子レンズ格納筒自体がユルユルです。さらには、光学系前群の第3群 (つまり絞りユニット直前の群) の締め付け固定環も半周以上回っており、やはりユルユルでした。おそらく過去メンテナンス時に「手締め」で締め付けしただけだったのではないでしょうか?

上の写真はオーバーホール完了後の撮影ですが、光学系内の透明度は非常に高い状態になりました。

↑光学系後群も大変キレイになりました。そもそも当方ではバルサム切れの処置を行っていません。しかし、今回の個体はバルサム切れを処置しない限り、そもそもご依頼内容の原因調査も改善も何もできないことになります。仕方なく今回はバルサム切れの処置を施した次第です (通常は絶対やりません)。

なお、光学系内の各群は硝子レンズのコバ端塗膜が剥がれたり薄くなっていたので当方にてコバ着色して、光学系内の内面反射によるコントラスト低下を防いでいます。

↑当初バラす前のチェック時点で、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) が閉じすぎており、最小絞り値側 (f16〜f22) が半段分ほど閉じきっていたので適正幅に戻しています。

ここからは鏡胴の写真ですが、経年の使用感が感じられるものの本来のこのモデル外観上の「美しさ」は、何と言っても「梨地仕上げされたマットなホワイトシルバー」が魅力です。
当初バラす前の届いた個体を見ると、さすがに経年の汚れや手垢が附着しており、ちょっと可哀想かなぁ〜(笑)

従って当方が家具屋に勤めていた頃に職人から伝授頂いた「磨きいれ」を施して、それはそれは時間を掛けて丁寧に磨きつつ美しい梨地仕上げの輝きを取り戻した次第です (フツ〜に磨くとアッと言う間に汚れが表層面の非常に微細な凹凸梨地塗膜に入ってしまい薄くグレーになります / 但しキズやハガレは修復できません)。
なお、筐体外装の清掃時に指標値刻印 (黒色) が全て褪色していたので当方にて視認性アップのために着色しています。

↑焦点距離35mmの広角レンズともなれば、そもそもピントの山を掴むのが難しいので (と当方は思っていますが単に老眼が酷いだけです)、距離環を回すトルクに気を配り、塗布したヘリコイド・グリースは黄褐色系グリースの「粘性:軽めと中程度」を使い分けて塗りました。

結果、とても滑らかになりとても「軽い」トルクで全域に渡って「完璧に均一」なトルク感で仕上がっています。実際にオーバーホール後に実写確認していますが、なかなかの操作性に仕上がったのではないでしょうか。もしも軽すぎると言うご不満が御座いましたら、ご請求額より必要額分減額下さいませ。申し訳御座いません。

↑最終的に、ご依頼内容「ピント面が甘い」原因は複数の要素が関係していました。おそらく過去メンテナンス時に光学系の組付けをミスッてしまい適正な描写にならなくなり、何とか「らしく」仕上げて処分したのではないでしょうか? 確かなことはもちろん分かりません。

まず、光学系前群の硝子レンズ格納筒と第3群の締め付け固定環が共にユルユルでした。次に、第5群のバルサム切れの問題もあります。

そして、ヘリコイドのネジ込み位置は適正でしたが距離環の固定位置がズレており、そもそも無限遠が出ない (合焦しない) 状態でした。

また、5枚のシム環のうち1枚は途中で切れて内部に落ちていたので、光学系前群がユルユルだったために擦れて切れたのだと推測します。無限遠位置を調整したところシム環は4枚が適正でしたので5枚目を外しています。

これらの原因や調整はコトバで書き表すと簡単に済んだように見えますが、実際は数時間 (おそらく6時間) を要しています。

とにかく、当初の状態では無限遠位置の確定ができませんから「原理原則」から本来こうであろうと考えられる位置でヘリコイドを固定しました。次に、ユルユルだった光学系をキッチリ締め付けてシム環を全部外した状態で組み上げました。

すると全く光路長が適正ではない描写 (距離環を何処まで回しても画全体がぼんやりした写り) だったので、そこから1枚ずつシム環を増やしたり減らしたりを8回ほど組み直してチェックしました。結果、4枚が適正だと考えられたので切れている5枚目を破棄しました。

最後にバルサム切れの処置です。正直、ヤリたくない作業です(笑) その理由は貼り合わせレンズの接着をミスると光軸ズレになりますし、接着するバルサムの量を間違えると光路長が適正ではなくなりぼんやりした写りに堕ちてしまいます。ところが硬化してしまったら一切修正ができませんから一発勝負なのがバルサム切れの再貼り合わせ処置になります。もちろん貼り合わせレンズを剥がすのにも時間と手間が掛かりますから、それだけで半日仕事になりません (パーツを広げたままなので)(笑)

現物をご覧頂ければ後玉の貼り合わせレンズがとてもクリアになったのがお分かり頂けると思いますが、そのような時間と手間を掛けていたワケです。

最終的に、ピント面の鋭さを詰める作業は5つの群の硝子レンズの向きをチェックしながら執り行います。具体的には、前玉と後玉の向きは確定ですから、それ以外の第2群〜第4群までが疑わしいことになります。今回の個体は第2群〜第3群の位置が逆でした。また第4群の向きも逆向きに入っていました。

つまり、何通りの組み合わせになるのか頭が悪いのですぐ分かりませんが(笑)、第2群〜第4群までの位置や向きを入れ替えたり戻したりしつつも、実はシム環の枚数まで加減しながら光路長の確保をチェックし、同時に距離環の固定位置まで調査していた次第ですから (すべて同時進行) 、それはそれは十数回に及ぶ組み直しを伴う「地獄のような作業」になるワケですョ(笑)
十回以上の組み直しをしていると、正直自らの技術スキルの低さを痛感し始めます(笑) 7年間もオーバーホールしてきて、いったい自分は何を学んできたのかと・・哀しい気持ちと共にやるせない憤りに駆られます。そうやって自信を失いつつもかくも作業だけは同道巡りの中で延々と続き、のたうち回りながら時間だけが過ぎていくワケです(笑) 恥ずかしいですョ。

久しぶりに超ハードなオーバーホール作業になり、2日掛かりになりました。以下オーバーホール後の実写をご覧頂ければ適正な状態に戻ったのがお分かり頂けると思います。おそらくこのモデルの本来の鋭さではないかと思いますが、如何せん初めての扱いなので確かなことは申し上げられません (但し、これ以上調整すると再びピント面が甘くなっていくのをちゃんと確認しているので適正状態と判断しました)。スミマセン。

もちろん、光軸ズレも光路長の過不足も無く、無限遠位置は僅かにオーバーインフでセットしています。絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) も絞り環絞り値との整合性を確保しチェック済ですし、距離環を回す際のトルク感も一応当方なりにピントの山を掴む時のことを配慮して具体的なグリース種別と粘性をチョイスしています。絞り環の操作性もスイッチ部の詰まった感じも改善されていると思います。

・・とは言いつつも、これが当方でのオーバーホールの限界です。もしもご納得頂けない要素が御座いましたら、ご請求額より必要額分を減額下さいませ。申し訳御座いません。まさしくヤフオク! で信頼が高く有名な出品者様達が仰っているように (よく当方のことを指していると具体的に分かる記載を見かけるので)(笑)、確かにプロのカメラ店様や修理専門会社様のような厳密な検査機械設備も無く、単に勘に頼った手による曖昧な整備を行っているワケで、自らの技術スキルの低さに感じ入ったオーバーホールでした。反省しきりです・・(泣)

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」になっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

3カ月間と言う長きに渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。