◎ CARL ZEISS JENA DDR (カールツァイス・イエナ) FLEKTOGON auto 35mm/f2.4 MC《後期型−II》(M42)

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いため今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

毎月、欠かさず必ずこのモデルのオーバーホール/修理を扱っていますが、今月の1本目になるCarl Zeiss Jena製広角レンズ『FLEKTOGON auto 35mm/f2.4 MC《後期型−II》(M42)』で、いわゆる俗に「白MC」と呼ばれるタイプです (レンズ銘板のMC刻印が赤色ではない)。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型1972年発売
最短撮影距離:19cm
最小絞り値:f16
MC刻印:MC
前玉固定環:薄枠
銀枠飾り環:距離環
製造番号:9,800,000〜10,000,000の前で消滅

前期型-Ⅰ
最短撮影距離:20cm
最小絞り値:f22
MC刻印:MC
前玉固定環:薄枠
銀枠飾り環:距離環
製造番号:混在 (10,000,000〜、リセット後0700〜30,000)

前期型-Ⅱ
最短撮影距離:20cm
最小絞り値:f22
MC刻印:MC (マウント面に電気接点端子装備)
前玉固定環:薄枠
銀枠飾り環:距離環
製造番号:混在 (10,000,000〜、リセット後0700〜15,000)

中期型-Ⅰ1980年代
最短撮影距離:20cm
最小絞り値:f22
MC刻印:MC
前玉固定環:幅広枠
銀枠飾り環:距離環
製造番号:リセット後0700〜70,000

中期型-Ⅱ
最短撮影距離:20cm
最小絞り値:f22
MC刻印:MC
前玉固定環:幅広枠
銀枠飾り環:
製造番号:混在 (リセット後47,000〜70,000)

後期型-Ⅰ
最短撮影距離:20cm
最小絞り値:f22
MC刻印:白MC (auto表記附随)
前玉固定環:幅広枠
銀枠飾り環:フィルター枠
製造番号:混在 (リセット後30,000〜)

後期型-Ⅱ〜1990年まで生産され終焉
最短撮影距離:20cm
最小絞り値:f22
MC刻印:白MC (auto表記附随)
前玉固定環:幅広枠
銀枠飾り環:
製造番号:リセット後14,000〜,70,000〜220,000サンプル取得終了

・・こんな感じです。上のモデルバリエーションの中で製造番号に関しては当方で整備した個体の他、海外オークションのebayでサンプル取得して参考にしています。

なお、上のモデルバリエーションで製造番号のグリーン色の文字に関しては、製造番号のシリアル値がMAX値に到達してしまい一旦リセットされた後の符番を表しています (実際の符番はリセット後0001ではなく1,000番台からスタートしている)。また上のモデルバリエーションで製造番号欄に「混在」と記載されているタイプは、その前のタイプと混在した製造番号の符番になっているので「並行生産」していたことになります・・例えば、「後期型-Ⅰ」は「中期型-Ⅱ」と混ざった製造番号で存在しているので同時期に2つのタイプが生産され完成した個体から順番に製造番号をシリアル値として符番していたことになります。これは何を意味するのか・・生産工場がCarl Zeiss Jenaの本体工場だけではなかったことが窺えます (つまり複数工場で並行生産して増産していた)。しかし、最後の「後期型-Ⅱ」(製造番号:70,000〜) の段階では増産をやめてしまい1990年の東西ドイツ再統一に至っているようです。

このように「製造番号」とモデルバリエーションとの関係づけで捉えると、結論として当時の生産工場はCarl Zeiss Jenaの本体工場ひとつだけではなく複数の工場で同時期に並行生産しており、且つ製造番号は各工場に生産前の時点で先に割り当てられていたことになります (生産完了時に各工場が割り当てられている製造番号をシリアル値として符番)・・それ故モデルバリエーションが製造番号の中でバラバラに混在してしまう事象に至ったのではないでしょうか。そう考えないと、一つの工場で生産ラインを変えて、別々の構成パーツをワザワザ用意して生産しなければイケナイ「必然性」が全く浮かんできません。工場が別だったとすれば、そもそもその工場は基はCarl Zeiss Jenaではない全く別の光学メーカーだったハズ (つまり吸収した光学メーカーの工場設備) ですから、納得できます。

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今回オーバーホール/修理を承ったモデルは最後の「後期型−II」にあたりますが、おそらく1989年の「ベルリンの壁崩壊事件」近くの生産品ではないかと推測しています・・理由は、コーティング層の光彩に「グリーン色」が含まれているからです。

ご依頼の内容は・・、

  • 距離環を回す際に異音があり感触が悪い
  • 光学系内のゴミと汚れ清掃

・・と言うご依頼です。届いた現物を確認すると、距離環を回す際の「異音と感触」とのことですが、「異音」は擦れている音であり、「感触」は距離環を回そうとしても相当なチカラをかけないと回らないほどにキツイ印象の駆動でした・・この「異音と感触」を例えるならば、アルミサッシの窓枠で窓がレールにちゃんと填っておらずに「キーキー音」をたてながらチカラいっぱい開閉させているようなイメージです。正直、こんなに酷い状態の「Flektogon 35mm/f2.4」は初めてです。

ちなみに、光学系は6群6枚のレトロフォーカス型で、光学系内には貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) は配置されていません (すべて単独の6枚)。銘玉中の銘玉としても非常に有名なモデルですが、念のためご存知ない方のために、Flickriverにて実写を検索してみましたので興味がある方はご覧下さいませ。

↑上の写真は、当初バラした際に清掃する前に撮影した写真ですが、分かり易くするためにワザと露出オーバーで撮影しています。

バラした部位で言うと、左奥が距離環のヘリコイド (メス側) で、右奥は鏡筒 (光学系のみ外した状態)、さらに手前中央はヘリコイド (オス側) でスライド筒を含む一式です。

上の写真の「グリーンの矢印」の部分には「茶褐色の液状のモノ」が相当な量で附着していました。液状とは言っても、ほとんど揮発してしまい非常にネバネバした状態で一部は厚みを帯びて「まるで接着剤」の状態になっていました・・誤って液状の部分を指で触ってしまったら、何と指の腹にパーツがくっついたまま持ち上がったほどの粘着性ですから、最初は接着剤かと感じたほどの粘着性です。

また、バラしてみると、ヘリコイドのネジ山には全部で3種類のグリースが塗られていた形跡が窺えました。一番最初に塗布されたのは、もちろん生産時の「黄褐色系グリース」です。次に塗られたのが過去のメンテナンス時に古いグリース (つまり黄褐色系グリース) を除去しないままに上から塗り足しで「白色系グリース」が塗られています。最後がグリースではないのですが「潤滑油」でした。従って「白色系グリース」と「潤滑油」が反応してしまい白色系グリースは変質してしまい、さらに液化も進行しています (ヘリコイドのネジ山にほとんどグリースが残っておらずダイレクトにネジ山が摩耗している状態です)。

ここまでのことならば、今までにも数多くのオールドレンズで「潤滑油」が注入されており、且つ「白色系グリース」と化学反応してしまったケースがありましたが、今回問題になったのは「茶褐色の液状のモノ」です・・こんなのは初めてです。

バラしてみると、この「茶褐色の液状のモノ」は、鏡筒がスライド筒に入っている状態で鏡筒の場所から流れ出ているのが判明しました・・従ってヘリコイド (オスメス) 側には流れ込んでいないのですが、一部がヘリコイド (オス側) の縁部分にも到達していました。どうやら、この「茶褐色の液状のモノ」は「固着剤」のようです。しかも、純正の固着剤ではなく (おそらく) 過去に「白色系グリース」を塗布されたタイミングで入れられた固着剤ではないかと推測しています (何故ならば、生産時にはこれほど多量の固着剤を塗らないから)。当方ではもう何本も同型モデルをオーバーホール/修理していますから、生産時に塗られている (使われている) パーツを固定する目的で塗られていた「固着剤」の量を把握しています (ポチポチと極微量を塗っていた)。しかし、今回の個体は数センチに及ぶ範囲でドップリと塗られています。

そして最後に注入されてしまった「潤滑油」によって固着剤が反応してしまい流れ出したのではないかと推察しています。結果、ジワジワとゆっくり時間をかけて変質して流れ出たものの、その間に揮発してしまい固着剤の「接着成分」だけが残ったと言う次第です。それゆえ、まるで接着剤のようなベタベタ感を伴っていたワケですね。

今現在でも、ネット上の解説を見ると「潤滑油」を勧めていらっしゃる方が居ますが、確かに注入した時点で即効果が現れるため大変便利ではありますが、間違いなく1〜2年で既に塗られている古いヘリコイド・グリースの変質を招き、その結果ヘリコイドのネジ山の摩耗は極致にまで達します。ご自分で、そのオールドレンズを使い倒すつもりならば良いと思いますが (必要なくなったからと言って決して市場に流さないで頂きたい)、不特定多数の方々が閲覧するネット上サイトに「お勧め」として案内するのだけは「やめて頂きたい!」と切に切に願う次第です。下手すれば「潤滑油」を好んで使っているプロのカメラ店様や修理専門会社様も存在しているので、当方にしてみれば全く以てオドロキでした。

こう言う方々は、そもそも「グリース」と「潤滑油」との使用目的や適用箇所の相違が全く理解できていないのだと思います。恐ろしいことです。当方が単に「潤滑油」をキライだと言うことではなく、具体的にヘリコイドのネジ山に対してマイナス要因にしかなり得ていないことを問題視して嫌っているワケであり、平気でオールドレンズのメンテナンス時に「潤滑油」を使っている方々は、日々オールドレンズを正常な状態に戻している当方からすれば異端者にしか見えませんね・・。

↑ご覧のように、鏡筒の縁部分に当初塗られていた (相当量の) 固着剤が流れていた痕跡が残っています。この中で、前玉側寄りの一番右端に「白っぽく塊になっている部分」が生産時に塗られていた固着剤で (流れていません)、その後に塗られた固着剤がすべて流れてしまっていることが判明しました。

しかも、この流れてしまった固着剤の部分だけではなく、経年の使用に於いて揮発してしまった潤滑油の成分によって鏡筒〜スライド筒〜基台などなど、オールドレンズ内部の至るところまで「ベタベタ感」が残っています。通常、オールドレンズは溶剤で1回洗浄するだけでツルツルとした感触になり、ベタベタ感は一切ありません。ところが、今回の個体は2回洗浄しても全く変わらず「ベタベタ感」が残っています (つまり洗浄だけで除去できません)。これにはさすがに参ってしまいました。

仕方なく、パラした構成パーツを1個ずつ個別に「アセトン」を使って洗浄していくハメに陥りました。しかも、そのアセトンでさえも綿棒でゴシゴシと擦って50〜60本使わなければ1個のパーツがツルツルにならないと言うしつこさです・・何と構成パーツの洗浄だけで2時間を要してしまい、手も指もプルプル状態でチカラが入りません。こんなことは・・初めて(泣) 恨めし潤滑油・・です!

なお、今回の個体は、内部で使われている固定ネジがすべて機械締め (おそらく充電ドリル) されているので、白色系グリースを塗布したメンテナンスの時期はそれほど昔ではないように思います。さらにベタベタ感から「潤滑油」が注入されたのも2〜3年内ではないかと推察します。潤滑油なのか白色系グリースなのか不明ですが、香料が入っているようで香りがしますから、おそらく海外でのメンテナンスではないかと思います (日本国内で使われているグリースや潤滑油に香料が含まれているのはあまり聞いたことがない)。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑ご覧のように角度によっては「グリーン色」の光彩を放つコーティング層が蒸着されているFlektogon 35mm/f2.4としては、珍しいタイプです。

↑光学系内の透明度も高い部類です。前玉以外はご覧のように従前の「パープルアンバー」なコーティング層の光彩を放っています。ちなみに、今回の個体も第2群の光学硝子レンズを締め付け固定している固定環は反射防止塗膜が隙間無くビッチリと塗られており、描写性の関係から外さないまま清掃を施しました。光学系前群をバラしたところ (第2群のみ解体せず)、第3群の中玉が既に固定環が緩んでいる状態でしたので、当初バラす前の実写確認では甘い印象のピント面を構成していました。

↑光学系後群もキレイになり透明度も高くなっています。光学系内は極微細な点キズや微細で薄いヘアラインキズなどは、そのまま残っています。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環とも共々小気味良いクリック感を伴って確実に駆動しています。当初バラす前の確認では絞り羽根が閉じすぎていたように感じましたので適正な開閉幅 (開口部/入射光量) に調整しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、筐体外装は当方による「磨きいれ」を施したので落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑塗布したヘリコイド・グリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗っています。距離環を回すトルク感としては「普通〜重め」の印象ですが、残念ながらヘリコイドのネジ山は、特に「ネジ山の谷間部分」だけは「磨き研磨」ができないので、冒頭の解説の「ベタベタ感」が残っており (何と潤滑油による白色系グリースの変質によりアルミ材に浸透してしまっています)、抵抗 (摩擦/負荷) が架かってしまうのでトルクムラを解消できていません。

ここで、改めて申し上げておきたいと思いますが、「潤滑油」と「白色系グリース」の組み合わせでは、そもそも「白色系グリース」のマイナス要素でもある「液化の進行が早い」特性から、化学反応を経て変質してしまったグリースの成分が、アルミ材に浸透してしまうことを当方では数多くのオールドレンズで確認しています・・具体的には「白色系グリース」の白っぽい成分がヘリコイドのネジ山のアルミ材 (特に谷間部分) に浸透して、溶剤の洗浄でも一切除去できません。つまり、除去できないのでアルミ材に浸透していると判断している次第です。

ヘリコイドの材質が真鍮製の場合には、いままでに浸透していた個体は1つも確認できていませんが、アルミ材の場合にはほぼ6割以上で浸透している箇所が確認できています。結果、ヘリコイドのトルク感に影響が残ってしまうのですが、オーバーホールに際し同じ「白色系グリース」を使えば、将来的にまた劣化する懸念が出てくるワケで、可能な限り「黄褐色系グリース」を当方ではメインとして使っています (但し理由があって仕方なく白色系グリースを再び塗布することも希にあります)。特にトルク感が改善できない場合などは、仕方なく「白色系グリース」を使います。

↑当初バラす前の距離環が動かない (固まったりスッと突然回ったり) などの症状からすれば、滑らかに操作できる状態まで改善できていますが、それでもトルク感の印象としては「普通〜重め」です。さらにヘリコイドのネジ山摩耗の影響からトルクムラも残っている (擦れる感触も残っています) ので、これ以上は改善できませんでした。申し訳御座いません。もしもご納得頂けない場合はご請求額よりご納得頂ける必要額分を減額下さいませ

↑当レンズによる最短撮影距離20cmタキンでの開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値をF値「f4」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f5.6」で撮りました。

↑絞り値はF値「f8」になっています。

↑F値「f11」で撮りました。

↑F値「f16」になります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。