◎ Enna München Lithagon 35mm/f2.8 zebra(M42)

「Lithagon 35mm」は、国内や海外のオークションでも数多く出回っているのは開放F値「3.5」のモデルで大抵は「exakta」マウントの個体が多いようです。「M42」マウントの個体になると相場は格段高額になり今は2万円〜3万円が主流でしょうか。筐体の意匠デザインも距離環と絞り環の両方のローレットが大きめのアルミ材削り出しが施されたデザインです。中にはマウント部のローレットまでアルミ材削り出し処理が施された個体も見受けられますね (exaktaマウント)。Lithagonの初期型モデル開放F値「4.5」や一部の「3.5」はアルミ材削り出しのクロームメッキが施されたシルバー鏡胴になります。筐体の意匠デザインだけでなく内部構造や構成パーツまで含めてすべてが異なっています。この初期型のLithagonは個人的には操作方法が使いにくいのであまり好んで調達はしていません。素材としての造りも粗く簡易な印象を拭えません。さらにEnna Münchenの

現在出品中の「Lithagon 35mm/f2.8 zebra」はそこそこ状態の良い個体でした。元々は距離感のヘリコイドが重めでまぁスムーズかなと言う状態でしたが、完全にオーバーホールを施しましたので距離環や絞り環、或いはプリセット絞り環なども含めて、とても軽く滑らかな操作性になりピント確認も大変楽になりました。実際に撮影でご使用頂くとその操作性の良さがありがたく感じられると思います。と言うのも当レンズはピントの山が掴み易くほんの僅かなチカラで距離感を動かしたくなるのですが、それがちゃんとできていて、嬉しくなりますね(笑)

当レンズの光学系は典型的な6群7枚のレトロフォーカス型構成になります。開放F値「4.5」や一部の「3.5」の初期型モデル (シルバー鏡胴) ですと光学系は4群4枚の変形トリプレット型レトロフォーカスになり、光学面でのムリがその写真にも見て取れます。少々誇張的な色付き方と収差や画周辺部の流れなど当レンズよりも多く感じます。「RETROFOCUS (レトロフォーカス)」と言うコトバから連想される・・「古めかしい写り」「一枚絹のスクリーン越しに撮っているような描写」或いは「甘い画像」「癒やしレンズ的なソフトな写真」と言った評価をよく目にしますが、それは誤った認識です。このコトバの構成語は「focus (合焦)」を「retro (後退する)」の意味であり光学系もそのように配置されています。従って光学系の状態がキッチリ整備されていれば、現在の出品写真の実写のようにキリッとした端正な画を残してくれます。フランスの光学メーカー「Angenieux (アンジェニュー)」のレトロフォーカス型モデルがありますが、そのレンズに比べるとピント面のエッジは非常に太く、且つ色乗りもむしろこちらのLithagonのほうが強いて言えばコッテリした印象を受けます。コントラストは似たような描写になりますが、Lithagonは暗部がマゼンタ寄りに振れ、色飽和も出てくるのでAngenieuxの大人しい雰囲気の写真ではなく、どちらかと言うと誇張的な描写傾向でしょうか。特にシアン系に反応するので「ブルー」の描写が特徴的で、空の色合いなどはシュナイダーブルーよりも寄り個性的でしょうか。その意味で画全体の印象としてはスッキリクッキリ系の元気の良い画造りです。この画の傾向に向き合うとクセになる方がいらっしゃると思いますよ。


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

当レンズは一部絞りユニットが完全に固着しており外すことができなかったので、この部分のみ解体していません。

ここからは解体したパーツを実際に組み上げていく組立工程写真になります。

この個体は絞りユニットを外せなかったので既に組み上がった状態です。絞り羽根はこのままの状態で清掃を施しました。中玉を装着し絞り羽根がバラけないようにします。

薄紫色のシングルコーティングがとてもキレイです。

前玉を組み付けて光学系前群を完成させてしまいます。

前玉外周部には除去できなかった汚れが2箇所ありますが写真への影響はありませんでした。

シングルコーティングの中玉は見る角度によっては下の写真のように美しいブルシアンブルーに輝いています。

Ennaの「Lithagon 35mm」には開放絞り値「F4.5」に「F3.5」と「F2.8」がありますが、すべてのモデルで筐体の意匠デザインから大きさや構造まで全く異なっています。もちろん光学系も初期の頃の「F4.5」や最盛期の「F3.5」辺りでは4群4枚構成のトリプレット型変形レトロフォーカス型ですが、当レンズは典型的な6群7枚構成のレトロフォーカス型を導入しております。

このモデルは距離感のヘリコイド(オス側)が真鍮製で独立しています。

距離感を組み付けます。光沢黒色塗装にシルバーな指標値と赤色指標値の組合せがドイツ製レンズらしい配色です。

アルミ材削り出し部分は光沢研磨を施したので艶めかしい輝きを復活しています。

距離感を基台に組み込みます。

絞りユニットが装着されている鏡筒(ヘリコイド:オス側)をネジ込みます。

この際に絞り連動パーツや絞り羽根開閉機構をセットして絞り羽根の開閉域の当たりをつけておきます。

少々手の込んだ構造になっているので内部構造を理解していないと組み付け手順が分からずに面食らうと思います。

絞り環とプリセット絞り機構部を組み付けて調整しておきます。

開放F値が「F2.8」とこのモデル内では最も明るい仕様で、「F値3.5」のモデルでは手動絞り(実絞り)機構ですがこのモデルはありがたいことに「プリセット絞り機構」を装備しています。

出品ページにも記載しましたが、このプリセット絞り機構部の操作は、写真右側に移っている黒色のレバーを少しだけ押し込みながら同時に絞り環を回転させ希望するF値に赤色「△」刻印の位置を合わせると「カチッ」とお隣さんがして内部でクリックストップする仕組みになっています。

このモデルでのネック部分になりますが、このクリックストップがベアリングでもシリンダー状のピンでもなく「真鍮製の細い板」を溝に填め込む方式を採っています。しかもその板は「半田付け」で付けられているので、この部分の操作をムリにチカラ任せで行うとその板が変形してしまい、クリックストップが効かなくなります。

そのような個体が市場では最近多くなってきていますので「手動絞り (実絞り)」などと平気で記載していますが、それは本来のクリックストップ機構が「壊れた」個体でもあります。

現在出品中の個体は、この部分がとても気になったので確実に整備してあります。但し、「F値2.8」の位置ではマチが無く「カチッ」とハメ込むには少々コツがあります。ひとつ手前の「F値4」からズラして「スライドさせて」ハメ込むような感じに行うとちゃんと「カチッ」と音がして「開放」の設定のまま動かなくなり開放撮影できます。開放からまた他のF値に設定変更したければ普通にレバーを少し押し下げつつ回転させれば問題ありません。開放にする時だけコツが必要です。数回操作してみればすぐにコツが掴めます。

光学系後群を組み付けます。不用意に後群側を下にして置いてしまいキズ付ける可能性もあるので、後群は最後に組み付けます。

次の写真は中玉の外周部に1箇所あるレンズ欠け部分を拡大した写真です。写真への影響はありませんでした。

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

最近では稀少な開放F値「2.8」の「M42」マウントの個体です。

海外オークションでよく出回っているのは最盛期に生産されていた「F値3.5」の「exakta」マウントモデルが多いですね。

光学系前群もキレイになりました。相応の拭きキズが光に翳して見ると目視できますが経年の使用にワリに程度のよい状態です。

中玉のシングルコーティングブルシアンブルーに輝きとても魅惑的です。

絞り羽根もキレイになり確実に機能しています。絞りユニットを外せなかったのでそのまま清掃を実施しています。元々油染みもしていなかった個体でしたので、とても状態が良いです。

ここからは鏡胴の写真です。経年の使用のワリに使用感をあまり感じない外観をしていますね。

光沢黒色にシルバーとレッドの指標値、そしてオリーブ色のプリセット絞り環と・・その配色はドイツ製レンズのセンスの良さを感じます。

距離感のアルミ材削り出し部分も光沢研磨により美しく輝いています。

光学系後群は出品ページ記載の通り、マウント面より最大で10mmも突出しているために、やはり経年の使用に於いて後玉を下にして不用意に置いてしまったのだと思います。中心部に擦りキズが見受けられます。ドットスポットも数点ありますが、Lithagonにしては程度のよい状態です。

当レンズによる最短撮影距離40cm附近での開放の実写です。光学系の整備がキッチリできたのでピント面のエッジがシッカリ来ています。骨太ですよね。広角レンズにしてはこの近接撮影でも程良くボケてくれています。収差の影響もあるのでボケ味はシーンによっては二線ボケ傾向が否めませんが、このように柔らかなボケ方もしてくれます。なかなか使い出のあるモデルです。