◎ Schneider – Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Xenon 50mm/f1.9 zebra(M42)

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XN5019z(0527)レンズ銘板

Schneider-logo②今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いため掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像加工ソフトで編集し消しています。

Schneider Kreuznachから1963年に発売された「Xenon 50mm/f1.9」の後継型にあたるモデルで1950年代後半から当時流行っていたゼブラ柄のモデルとしては終焉期に発売されたモデルです。

XN5019z(0527)14オーバーホール/修理のご依頼として承っていますが、当方で認識していたモデルは左の写真のモデル (前期〜中期型) で今回の後期型を整備するのは初めてでした。

ご依頼の内容は「絞り環の操作がクリック感なく無段階絞りのようになっている」のを改善するご依頼です。恐らく内部で鋼球ボールかマイクロ・スプリングが脱落してしまっているか、最悪欠品していても当方で調達すれば間に合いそうです。

XN5019z(0527)構成図バラしてみると光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型でした。前期〜中期型のモデルに比べると鏡筒を収納している時の筐体の厚みが薄くなり、その分僅かに外径は大ぶりになっていますが光学系の仕様は変わっていません。

届いた個体の確認をすると、確かに絞り環を操作してもクリック感は全く無く無段階絞りの状態になっていました。さらに当方所有マウントアダプタに装着すると絞り羽根の駆動が適正ではありません・・f値「f5.6」以降で絞り羽根が動きません。念のためフィルムカメラ (旭光学工業のSPOTMATIC SP) に装着して試してみると絞り羽根は問題なく駆動しました。思った通りです。

この当時のSchneider製やSteinheil製のオールドレンズではマウントアダプタに装着すると絞り羽根の駆動に異常を来すモデルが多々あります。今回も残念ながらそのようです・・。

XN5019z(0527)仕様

XN5019z(0527)レンズ銘板

XN5019z(0527)11こちらの写真はバラした後に清掃を施し当方による「磨く研磨」が終わった状態で撮っています。鏡胴の「指標値環」と「絞り環」の部分になり、組み上がった時にはこのような感じで組み上がります。

XN5019z(0527)12それぞれをバラして撮影しました。指標値環の裏側 (左) と絞り環の表側 (右) です。当初バラした際は筐体の内部に鋼球ボールやマイクロ・スプリングが落下している可能性もあるので注意深く作業しましたが発見できませんでした。

しかし、問題なのはこの部位のほうです。指標値環にはネジ止め用の穴が3箇所用意されているだけで全くの「環 (輪っか)」です。それ以外にパーツを取り付ける箇所も何かのパーツが噛み合ったり接触する箇所も一切ありません・・本当の輪っかです。

そして問題の絞り環は、こちらも表側には何もありません・・やはりネジ止め用の穴が空いているだけです。

XN5019z(0527)13今度は同じパーツを別の角度で撮影しています。指標値環は向きを変えて裏側の奥部分を撮っています (左)。このように穴しかありません。また絞り環のほうはひっくり返して裏側を撮りました・・やはり穴しか用意されていません。

結論から申し上げると、鋼球ボールやマイクロ・スプリングが脱落や欠落していて無段階絞りになっていたのではなく、そもそもクリック感を伴う機構部自体が存在していません。

絞り環操作でクリック感を伴う通常のオールドレンズですと、必ず鋼球ボールがカチカチと填るための「キー」と言う「溝」が用意されている部分と、鋼球ボールやマイクロ・スプリングが組み付けられる場所も用意されています。しかし、今回の個体にはそのような箇所は全く存在せず、もちろん鋼球ボールやマイクロ・スプリングを入れる「穴」さえも存在していません。

冒頭に載せた当方が過去に整備した経験のあるモデルの写真をご覧頂くと分かりますが、製造番号から捉えれば今回の個体のほうが間違いなく後の時期に生産された個体です。しかし当方が過去に整備した前期〜中期型のモデルはちゃんとクリック感が伴う絞り環操作になっていました。後期型になって無段階絞りに退化してしまうことはほぼ考えられません。

そこで再度今回の個体の内部を注意深く観察してみると、この指標値環と絞り環とが重なり合った時に「その間に奥行き方向4mm/高さ2mm」の空間が存在していることに気がつきました。つまりこの空間に本来入っていた「何かの環 (輪っか)」がひとつ欠品していると推察します。それは鏡筒 (絞りユニットや光学系前後群が格納される筒) の外側に使っていない切削部分が存在することと、鏡筒にやはり使われていないネジ穴が1箇所あることで疑問に感じて気がついた次第です。鏡筒にも関わっていた何かしらの構成パーツも欠品しているのかも知れません。いずれにしても同型モデルをもう1本バラしてみないことには明確にはなりません。

ちなみに上の写真で見えている指標値環の「Lens made in Germany」刻印の部分は絞り環が被さるのでほぼ見えない状態になります。これも妙だと思います。輸出する際に必要な生産国の明示をわざわざ隠してしまうようなことは普通はしないと思います。従ってもしかすると今回の個体はニコイチをしたモノなのかも知れませんが確かなことは何も分かりません・・。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

XN5019z(0527)1市場でもあまり出回らない後期型の「Xenon 50mm/f1.9 zebra」です。この後には完全な黒色鏡胴のモデルへと移行していきます。

XN5019z(0527)2光学系内の透明度は非常に高い個体です。当初バラした時点では、光学系の第2群と第3群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) は、コバ (硝子レンズの外側/切削面) にはコバ塗膜が塗られていませんでした。白色の剥き出し状態であり、且つ裏面の硝子レンズ側にだけコバ部分だけは「油性黒色マジック」が塗られていました。マジックだと判る理由は黒色を塗っているのに「濃い紫色」だからです。油性のマジックの顔料は濃い紫色ですから・・。

当初の試写でコントラストが僅かに低い描写に感じたので確認したところ前群も後群も硝子レンズのコバ塗膜がありませんでした。今回の整備で着色していますので上の写真のように真っ黒な状態の光学系内に戻っています (マジック塗り部分も着色しています)。

XN5019z(0527)9光学系後群は薄いクモリ状になっていましたが清掃でキレイになっています。

XN5019z(0527)3絞り羽根も油染みが進んでいましたがキレイになりました。

問題のご依頼内容であるクリック感を伴う絞り環操作ですが、構成パーツが欠品している、或いはそもそも機構部自体が存在しないとなればどうにも対処できません。しかしご依頼の内容ではそれがメインの作業でしたから、仕方なく「擬似的」なクリック感の機構部を作りました。

この作業に丸1日架かってしまいましたが、結論から申し上げると「ほぼ無段階絞りに近い状態」で仕上がっています。ほんの微かなクリック感を感じるのですが確実な操作性にはなっていませんし、そもそも各絞り値に見合う場所に「溝」をルーターで彫り込んだだけですので、絞り指標値とも完璧には一致していません。

作業空間が僅か「4mm x 2mm」なので、そこに溝を用意して、且つ鋼球ボールの代用品を組み付けなければなりません。しかし、鋼球ボール+マイクロ・スプリングを入れ込む場所が無い・・絞り環の内側部分の厚みは僅か「1.5mm」しかありません。その厚みにマイクロ・スプリングを入れる穴を用意することは不可能です。鋼球ボールはどうにでも調達できますがマイクロ・スプリングが無いのではカチカチと填る操作性には決してなりません (鋼球ボールがあれば良いワケではない)。

従って、仕方ないので思考錯誤の上で鋼球ボールの代用とする細いネジを「鋼 (ハガネ) の板」で押さえ込んでクッション性を持たせ、それをルーターで用意した溝にカチカチとハメ込む方法を採りました。結果としては、残念ながら開放から最小絞り値側へ向かう際はカチカチ音がしますが (ほんの微かなクリック感がありますが) 最小絞り値絞り値側から開放側へ戻る際は無段階絞り状態です。これはルーターによる溝がキッチリ垂直ではないのでそのようになっていますが、精密な旋盤設備が当方には無いのでキッチリ製作することはムリでした・・誠に申し訳御座いません。

きっとご納得頂けないと思いますので、ご請求額より必要額を減額下さいませ・・スミマセン。

また、当初より絞り羽根の駆動に異常がありましたが (ご依頼の内容にはご指摘がありません)、これはこの当時のモデルがフィルムカメラでの使用しか前提としていない構造化を内部にしているからなので、これもどうにも改善ができません。現状、マウントアダプタ経由の場合は「f8」以上になると絞り羽根は動きませんが、フィルムカメラでは全く問題なく駆動しています。

フィルムカメラではシャッターが押された瞬間だけ「絞り連動ピン」を押し込む方式であり、且つその押し込み板にはマイクロ・スプリングによる「適度なチカラ」が掛けられるような仕組みになっています。片やマウントアダプタの装着では絞り連動ピンは「押し込みされたまま」になるので、そのチカラを逃がす機構がこのレンズの内部に用意されていないからです (絞り連動ピン自体のクッション性とは異なるお話を言ってます)。

この件についても、当方ではどうにも改善できませんから (恐らく内部の改造を施さなければ改善できません) ご納得頂けなければ必要額を減額下さいませ

XN5019z(0527)4

XN5019z(0527)5

XN5019z(0527)6

XN5019z(0527)7ご指示では「トルク:重め」とのことでしたが、6回の組み直しで最終的に塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」にしました。「粘性:重め」を塗ってしまうとこのモデルのヘリコイドのネジ山が大変細かくネジ山数が非常に多いので非実用的なトルク感に仕上がってしまったからです。

当初バラした際は、純正のヘリコイド・グリース「黄褐色系グリース」を拭き取った後に「白色系グリース」を塗布するメンテナンスを過去に行っているようでした。既に経年劣化が進み液化が進行していたのでトルク感はスルスル状態でしたが、それに比べれば多少は重めに感じるかも知れません・・これも当方では限界なので、やはり必要額を減額下さいませ

XN5019z(0527)8筐体は「磨き」をいれたので光沢のある美しい仕上がりになっています。またゼブラ柄のアルミ材削り出し部分も「光沢研磨」を施したので本来の輝きを取り戻しています。

XN5019z(0527)10当レンズによる最短撮影距離40cm附近での開放実写です。当処の写りと比べるとコントラストが戻ったと思います。

今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。このような不本意なる整備で誠に申し訳御座いません。お詫び申し上げます。