◎ FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) FUJINON 50mm/f1.4《初期型》(M42)

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FJ5014レンズ銘板

FUJICA-logoこの焦点距離50mmのFUJINON (フジノン) は久しぶりにオーバーホールをしました。特に今回の「初期型」に関しては今までに取り扱いが無く初めての整備になります。個人的には「前期型〜後期型」モデルの「EBC FUJINON 50mm/f1.4」よりもこちらの前期型のほうがその描写性として誇張感が無く自然な印象を受けるので気に入っています。FUJINONレンズの良さを優先しながらも優しく柔らかな画造りを楽しみたい方には魅力的なモデルと判断しています。

1970年に発売されたフィルムカメラ「ST701」用のセットレンズとして用意された標準レンズ群の中のひとつで当レンズは一番最初に発売された「初期型」にあたります。

FJ5014(0709)8「初期型」発売:1970年

コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:無

FJ5014前期「前期型」発売:1972年

コーティング:マルチコーティング「EBC
開放測光用の爪:有

FJ5014後期「後期型」発売:1974年

コーティング:マルチコーティング「EBC
開放測光用の爪:有

FJ5014構成図光学系は6群7枚の拡張ダブルガウス型で分類はUltron型に属すると思います。近似した光学系のモデルとしては銘玉の「AUTO YASHINON 55mm/f1.2 TOMIOKA」や「HEXANON AR 57mm/f1.2」なども挙げられます。ボケ味が大変素直で違和感を感じずにス〜ッと溶けていく様は大変魅力的で、特に今回の「初期型」に関しては自然な印象を受ける発色性とコントラストが被写体に忠実な描写を好まれる方にはお勧めのモデルと言えます。

光学硝子レンズの硝子材に収差の改善を狙い屈折率を高める目的で「酸化トリウム」を含有している俗に言う「放射能レンズ (アトムレンズ)」になり経年劣化に拠り光学系には「黄変化 (ブラウニング現象)」が生じています。今回の個体は光学系の第2群〜第3群、及び光学系後群が固着が酷く解体できなかったのでそのままの状態でUV光の照射を行い黄変化を半減程度まで改善させています。

光学系が「黄変化」で濃い黄色になっていたとしても現在のデジカメ一眼に装着して使うならばカメラボディ側の「AWB (オート・ホワイト・バランス)」設定にて瞬時に適正化され黄色味がかった写真などにはならないので問題ないのですが、入射光レベルで適正化させているワケではないのでコントラストへの影響はそのままになってしまいます。従って白黒写真を好んで撮影している方にとってはコントラストの強調となり、ひとつの味として考えればむしろ魅力的な要素になるのですが一般的な撮影ではこのオールドレンズの諸元値を逸脱した描写傾向に陥り好ましくありません。それ故に「黄変化改善」はしないよりはしたほうが良いと考えています。

 この「酸化トリウム」の光学硝子レンズ材への含有により屈折率を20%ほど向上させ諸収差の改善を狙っています。「酸化トリウム」を含有したレンズは俗に「アトムレンズ (放射能レンズ)」と呼ばれており、その半減期の長さからもいまだに放射線を放出したままになりますが、後玉直下での放射線レベルは実際には皆さんが受診される「レントゲン撮影」時の80%に満たないレベルであり、その放射量と使用時間から考察すれば、むしろ「空気中」に含まれる様々な物質の放射線レベルのほうが問題になるくらいの程度です。それは「被曝量」として勘案した際に最も健康被害が懸念されるのは「内部被曝」であり「酸化トリウム」を硝子材に含有したオールドレンズを「いじる」程度ではカラダで受ける「外部被曝」に価するので年間の「自然被曝量」からすれば何の懸念材料にもなりません。そもそも日本で製品化されて発売されていること自体を考えれば心配するレベルのお話ではないのですが、食品を買う際に被曝量を気にして買っている方などはアトムレンズは避けたほうが心の健康のためには良いかも知れませんね・・(笑)

1977年以降になると経年の使用に於いて「黄変化」が問題になり (フィルムカメラではホワイトバランスの適正化が面倒だった) 光学硝子材への含有を各光学メーカーすべてがやめています (従って放射線/被曝の問題でやめたワケではありませんがそう言う解説のサイトも多いのは事実です)。

FJ5014仕様

FJ5014レンズ銘板

 オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。一部を解体したパーツの全景写真です。

FJ5014(0909)13ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体は光学系の第2群〜第3群と光学系後群の固定環固着が酷かったためにバラすことができませんでした。従ってそれら光学系と絞りユニットなどは清掃ができていませんが、ラッキーなことに大変キレイな状態をキープしていたのでそのまま工程を進めることにしました。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

FJ5014(0909)14絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) ですが、前述の通り絞りユニットや第2群〜第3群、或いはフィルター枠などはバラすことができずにそのままです・・しかし光学系は第2群の表面と第3群の裏面は清掃をしたのでカビなどの除去が完璧にできており非常に透明度の高い光学系になっています (LED光照射でも薄いクモリすらありません)。また絞り羽根も油染みなど無く大変キレイな状態をキープしています。

FJ5014(0909)15こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

FJ5014(0909)16真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを着けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

FJ5014(0909)17鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを着けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

FJ5014(0909)18こちらはマウント部内部を撮影しています。既に各連動系・連係系パーツを取り外しており当方による「磨き研磨」を終わらせている状態で撮っています。当初バラした直後ではこのマウント部内部にも過去のメンテナンス時にグリースが塗られており一部は腐食しサビも出ていました。

FJ5014(0909)19外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。今回のオーバーホールではマウント部内部には絞り環連係環を除いて他にはグリースを塗りません。

FJ5014(0909)20大変キレイな梨地仕上げの絞り環を組み付けてからマウント側よりメクラ蓋 (絞り環固定環) をセットします。ローレットの滑り止めジャギー部分もブラシで清掃しているので経年の手垢なども無くとても美しい輝きが戻っています。

FJ5014(0909)11

FJ5014(0909)12上の写真 (2枚) は、光学系第1群 (つまり前玉) と光学系後群 (第4群〜第7群) の黄変化改善度合いを写しています。1枚目が当初UV光の照射をする前のバラした直後の状態で2枚目がUV光照射後に半減程度まで改善できた状態の写真です。上の写真の撮影ではカメラのAWBが働いてしまうので黄変化がだいぶ消えていますが実際の現物では相応にまだ黄色味が残っており、且つこれらのレンズ群がすべて鏡筒にセットされるワケですから相応な黄変化の状態になります・・ご留意下さいませ。これ以上の改善が必要な方は一生懸命直射日光に曝す処置をして頂ければまだ少しは改善できると思います (今回はスミマセン、暑いので日光浴はやってません)。

FJ5014(0909)21光学系後群を先にセットしてしまいます。マウント部の開口部面積をギリギリまで使って設計している大柄な後群です。

FJ5014(0909)22鏡筒から飛び出ている2本のアームを正しく噛み合わせてマウント部をセットします。

FJ5014(0909)23距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

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DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

FJ5014(0709)1個人的には「EBC」が蒸着されたマルチコーティングのモデルよりもこちらのモノコーティングのほうがその描写性が好みです。ちなみに「EBC」は「Electron Beam Coating」の略で当時旭光学工業の「Super-Multi-Coated (SMC)」でさえも7層の蒸着だったのに対して11層のコーティング層でしたから驚異的だったのではないでしょうか・・さすがフィルムメーカーです。

FJ5014(0709)2光学系内の透明度は非常に高くLED光照射でも薄いクモリすら浮かび上がりませんが、残念ながら前玉の状態は良くなく経年相応の拭きキズや点キズ、或いはヘアラインキズやコーティングスポットなどが相応に見受けられます。

FJ5014(0709)2-1

FJ5014(0709)2-2上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚が中央付近にある擦りキズで、2枚目が拭きキズやヘアラインキズ、或いは極微細な点キズやコーティングスポットを撮っています。

FJ5014(0709)9光学系後群のほうがまだ状態は良く、特に後玉には大きなキズが見受けられません。

FJ5014(0709)9-1

FJ5014(0709)9-2

FJ5014(0709)9-3上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目が極微細な点キズを撮っており2枚目は外周附近の汚れ状 (コーティングスポット?)、3枚目はそのままの位置でピント面を中央部分のヘアラインキズに写して撮影しました。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
後群内:12点、目立つ点キズ:7点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ:僅かにあり
・その他:バルサム切れなし。光学系前玉にカビ除去痕や擦れキズ他ヘアラインキズがありますが前玉でもあり写真への影響には至りません。
・光学系内の透明度は非常に高い個体です。
・光学系内の黄変化は半減程度なのでまだ黄色味が残っています。デジカメ一眼のカメラ側AWB設定で適正化される範疇でありコントラストの影響には至らないレベルです。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

FJ5014(0709)3絞り羽根はキレイな状態をキープしていた個体だったのでラッキーでした (解体して清掃していません)。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられる個体ですが当方の判定では「超美品」としています。

FJ5014(0709)4

FJ5014(0709)5

FJ5014(0709)6

FJ5014(0709)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

FJ5014(0709)8この「初期型:FUJINON 50mm/f1.4」が整備済で出回ることはまず無いと思います。「EBC」ではないが故に「前期型〜後期型」ほどの人気も無いのでしょうか・・? しかしFUJINONレンズとしての性能は同じままなのでまた味の異なる趣のモデルとしてもう少し日の当たる場所で活躍してもいいのではないかと寂しい気がしますね。焦点距離55mmの普及型モデルでも同じですが当方はこの初期型「無印FUJINON」のほうが好きです。

FJ5014(0709)10当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。被写界深度が大変浅いので分かりにくいですがピントはミニカーの手前側ヘッドライト (の本当に縁辺り) に合わせています。

FJ5014(0709)24筐体には経年相応の使用感を感じるキズや凹み、ハガレなどがありますが絞り環には上の写真のようなキズも集中的にあります。