◎ RICOH (リコー) XR RIKENON 50mm/f2 L《後期型:富岡光学製》(PK)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
RICOHが1978年に発売したフィルムカメラ「XR500」や1980年発売の「XR1000S」などにセットレンズとして使われ、且つ単体でも販売されていた標準レンズ群の中のひとつです。この「XR RIKENON 50mm/f2」に関しては幾つかのバリエーションが存在しますが富岡光学製OEMモデルとして供給されていたのは「前期型」と「後期型」の2種類のみとなります。それ以降のモデルは日東光学製に委託先を遷移しています。
鏡胴:全金属製
最短撮影距離:45cm
焦点距離表示:有 (指標値環)
鏡胴:総エンジニアリング・プラスティック製
最短撮影距離:60cm
焦点距離表示:無
光学系は5群6枚の拡張ダブルガウス型ですが前期型と後期型で最短撮影距離が変わっているため光学系の設計も再設計されたようです。「和製ズミクロン」の異名を持ちその優れた描写性ながらも低価格で手に入ることから「貧者ズミクロン」とも呼ばれています。
ピント面のエッジがワリと骨太ながらも明確に出てくるのでボケ味の柔らかさとしてはズミクロンには及ばないにしても画全体に漂う優しい画造りが好感を得ます。ピントの山が大変掴み易いので特に距離環の操作性としてのトルク感は撮影に於いて非常に重要な要素になってきます (滑らかでないとピント合わせし辛い)。
今回初めてオーバーホールを行いましたが、このモデルはいくらでも低価格で市場に出回っているので割高感のある当方の出品レンズを手に入れる必要は無いかも知れません。特にこの「XR RIKENON」シリーズは光学系の状態が良い個体は大変少なく (クモリやカビの発生が当たり前の状態)、ましてや低価格品であればあるほど整備済で出回ることはありませんからお探しの方は是非ともご検討下さいませ。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。ネット上の解説ではこのモデル「XR RIKENON 50mm/f2 L」は鏡胴だけではなく内部の鏡筒やヘリコイドまでが硬質樹脂製 (エンジニアリング・プラスティック製) に変わったと解説されていますが・・それは違います。鏡筒やヘリコイド、或いは基台など主要構成パーツ部分は従前のアルミ材削り出しによる金属製でありエンジニアリング・プラスティックを使っているのは内部構成パーツとしては極一部分だけです。
そのような解説もあってか市場価格は底に達しているかのような低価格で流通しています。確かに外見からはチープな印象を拭えませんが光学系も然ることながらその構造化からしても決してチープなだけに終わっていないシッカリした造りをしています。この鏡筒では一番底部分にプラスティック製パーツを使っています。
6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根には「キー」と言う金属製突起棒 (円筒) が2本ずつ打ち込まれており1本が絞り羽根の位置を確定させる役目で、もう1本が絞り羽根の角度を決める役目になっています。上の写真では絞りユニットの「メクラ蓋」を指し示していますが絞り羽根の位置決め環も兼ねています。従来富岡光学製オールドレンズで古くから多く採用され続けていたのは絞りユニットをネジ類で固定しない方式でしたが、ようやくこの当時 (1970年代後半) になって他社光学メーカー並みのコスト改善策を採り入れたようです・・このモデルはネジ止め (3本) に変わっていますね。
この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。この部位の仕組みはこのモデルの「前期型」からそのまま継承しています。カムの金属板が「絞り羽根開閉幅制御環」に用意されたなだらかなカーブ部分に沿って動いていくことで絞り羽根が閉じたり開いたりの角度を決めていく仕組みです。
距離環やマウント部を組み付けるための基台です。「前期型」の基台と比べると2倍近くの高さがありコスト削減どころか逆に豪華な基台に変わってしまいました。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを着けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを着けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
さて、こちらが基台の高さを長く採ってきた理由です。上の写真は指標値環をセットしているところを撮っていますが、基台には指標値環を固定するネジ穴などが一切無く、プラスティック製の指標値環には内側に突起が用意されていて取り付ける場所が決まっています。最後に指標値環が動いたりしないよう上の写真のような「C型ワッシャー」で固定してしまう方式です。
マイクロ・鋼球ボール+マイクロ・スプリングを組み込んでから絞り環をセットしますがカチッと填らずに、マウント部を組み付けて初めて絞り環も同時に固定される方式に変わっています。
マウント部を組み付けてしまうと光学系後群をセットすることができないので、ここで先に光学系後群を組み付けてから最後にマウント部をセットします。
光学系前群も組み付けますが、やはり光学レンズを収納する格納筒もネジ止め固定の方式に変わりました・・つまりはほとんどの固定方法がネジ止めによる他社光学メーカーと似たような組み上げ手順に切り替えているのが判ります。富岡光学が経営難からヤシカ傘下に入ったのは1968年でしたが、母体のヤシカさえも倒産の危機に瀕しておりこのようなコスト削減策 (材料・工程数・人件費などなど) を講じるのはあまりにも遅すぎたと言わざるを得ません。
今回バラしてみてひとつ判ったのはアルミ材削り出し部分の工作精度がたいして進歩していないことです。同じく東京光学にOEM供給していた「RE,Auto-Topcor」シリーズのモデル同様ヘリコイドのネジ山から基台やその他の構成パーツに至るまでアルミ材削り出し部分の面取りや切削精度はお世辞にも良いとは言えません・・それは指で触ってみれば一目瞭然で指を切りそうになるからです。片やMINOLTAやNikon或いはCanon、OLYMPUS、旭光学工業など大手光学メーカーの当時のオールドレンズの切削技術は完成の域に達しており、作業中に指を切ったりすることは皆無です。表層面の滑らかさが全く異なりますね・・その意味では当時のドイツ製レンズやロシアンレンズとほぼ互角な程度の切削レベルでしかなかったのが富岡光学製オールドレンズだったと言えるでしょうか。もはやそのような技術に拘っている余裕すら無かったのかも知れません。バラしていると内部のそのような事柄までハッキリしてしまいます。
距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
「後期型」のモデルになるので鏡胴はすべてが硬質樹脂製 (エンジニアリング・プラスティック製) になっているチープ感が否めないモデルです・・レンズ銘板の「L」は「light (軽い)」の意味なのでしょうか? それとも「long (長い)」の頭文字でしょうか? 最短撮影距離が前期型の45cmから60cmに長くなってしまったのが後期型です。
光学系内はこの「XR RIKENON」シリーズに総じて多いコーティング層の経年劣化に拠るクモリなどが一切無い大変透明度の高い個体です。上の写真で右下部分が白く写っているのはスタジオの光の関係なので現物は至極透明です。残念ながら前玉のカビ除去痕が残ってしまったので前玉だけはLED光照射により薄いクモリがそこかしこに見受けられますが写真に影響するレベルではありません。
上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は極微細な点キズを撮りましたが微細すぎてほとんど写っていません。2枚目は極薄いヘアラインキズ (2本) を写しています。
光学系後群もカビ除去痕がありますが前玉ほど酷くはありません。
上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目が極微細な点キズの状態を撮っています。2枚目は薄いヘアラインキズ (数本) を写しました。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:18点、目立つ点キズ:11点
後群内:13点、目立つ点キズ:10点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:複数あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:微かにあり
・その他:バルサム切れなし。前玉にカビ除去痕がありLED光照射で浮き上がります。
・光学系内の透明度は非常に高い部類ですが前玉や後玉も含め経年相応で極微細な拭きキズや点キズ他ヘアラインキズなどがあります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れ、クモリなどもあります。・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられる個体ですが当方の判定では「超美品」としています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・フィルター枠のネジ切り部分は経年で汚れたように見えていますが、これは汚れではなく材質の問題なので清掃しても除去できません。
正直、このモデルをオーバーホールしても当方が出品時に設定する即決価格はそれなりの工賃を含んだ価格になってしまいますから魅力が無いのではないかと思います。まして最短撮影距離も60cmと寄れなくなったモデルですし・・しかし「拾う神もあり」を期待して整備してみました(笑) XR RIKENONの写りはそのままなワケですからオールドレンズの魅力としては十分だと思います。貧者ズミクロン・・和製ズミクロン・・お助けズミクロン (当方にとっては) として是非とも宜しくお願い申し上げます。
当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。撮影していて本当にピントの山がピタッとアッと言う間に合うので楽です・・もちろん距離環のトルクも滑らかですから(笑)