◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Flektogon 20mm/f4 zebra(M42)
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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いため掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像加工ソフトで編集し消しています。
今回のオーバーホール/修理ご依頼は・・
- 距離環が重くなる箇所がある
- 絞り羽根の動きが緩慢
- レンズ自体を振ると音がする
・・と言うご依頼内容です。
当初の状態で距離環は無限遠位置と最短撮影距離の位置で僅かに重くなるのを確認しました。絞り羽根が緩慢である部分については特にそのようには見えません。そして「音」に関しては確かに微かながら内部からカタカタ音が聞こえます。
バラしてみると今回の個体は内部の構成パーツの一部を「改修」した個体であることが判りました。それが原因のひとつでもありますが久しぶりに相当ハードな修復作業でした。
このモデル「Flektogon 20mm/f4 zebra」は当方では今回が6本目の整備にあたります。過去に実施した5本の整備では内部の構造化に大きな相違点は無く、今回の個体も本来の構造化と同じ部類に入ります。しかし「光学系 (描写)」に関しては過去には問題点がありました。今までに整備した5本中3本が「ピントが甘い」描写だったのです。その3本のうち1本は明らかに光学系後群が異なる個体でしたが (つまりニコイチ) 他の2本に共通していたのは「後群にコーティングが施されていない」点でした・・今回の個体には後群にコーティングが施されており、非常に鋭いピント面を構成する描写でした。
ちなみに光学系は6群10枚の典型的なレトロフォーカス型構成ですが、第5群の光学硝子レンズ固定環がちゃんと締め付け固定されていませんでしたので改善させています。
こちらの写真は当初バラしている最中に撮った写真です。鏡筒の絞りユニットに附随する機構部で「絞り羽根開閉アームとカム」の部部を拡大撮影しています。判りにくい写真ですが、今回の個体はこの「絞り羽根開閉アームとカム」部分に「改修」が施されていた個体でした。もちろん過去にメンテナンスされています。
上の写真は問題の構成パーツ「絞り羽根開閉アームとカム」部分を取り外して撮影しています。上の写真の解説通り、青色矢印の分だけ「カム」が折れ曲がっています (変形している)。本来このカムは「水平」をキープしていなければイケマセン。
さらにこの構成パーツは本来の純正パーツではなく同じCarl Zeiss Jenaの中望遠モデル「Sonnar 135mm/f3.5 zebra」に使われているパーツを流用しており、且つ「カム」部分には接着剤とハンダ付けが施されていました。「カム」の強度を補強する改修が施されています。
こちらの写真は当方にて問題の変形していた「カム」を水平位置まで修復してセットした状態を撮っています。各構成パーツは既に当方による「磨き研磨」が終わっているので相応に綺麗な状態になっています。
「カム」はこんな感じで水平位置に戻しましたが、既に変形に拠りハンダ付けした部分に「剥がれ」が生じており、次回変形した場合には「破断」の危険があります。過去のメンテナンスでハンダ付けした理由はどうやらカムが折れてしまったのを補強剤する目的で接着すると共にハンダ付けも施したようです。従って必要以上のチカラがカムに架かると容易に変形してしまうほどに柔らかくなってしまっています。
絞り環の操作を行う際は少々ゆっくりと回して丁寧な操作を心掛けて頂くほうが良いかも知れません・・。
上の写真は組み立てている工程の途中を撮っています。本来鏡筒は附随するすべての連動系・連係系パーツを取り外した状態でなければ組み込みができません (上の写真のように鏡筒を入れること自体ができません)。
外していた各連動系・連係系パーツ (真鍮製なので黄金色をしています) を組み付けた状態の写真です。
これが「距離環が重くなる箇所がある」と言う現象の根本原因です。実際には距離環を回す時「無限遠位置」と「最短撮影距離」の2つの位置で僅かにトルクが重くなっていました。「無限遠位置」では上の写真のように「コの字型の枠」の「コの字の上辺」が基台の天井部分に接触して当たってしまい押さえ込まれている状態でした。また「最短撮影距離」の位置では同様に「コの字型の枠」の「コの字の下辺」がヘリコイドに接触し押されていました。
それでこの「絞り羽根開閉アームとカム」が純正パーツではないと判断したワケで、実際に外して確認したところこのモデルに使われているパーツではないことが判りました・・Sonnar 135mm/f3.5 zebraで使われているパーツです。
当方では過去にこのモデルを5本整備しているので純正パーツを把握していますしSonnarのほうも整備経験があるので知っているワケです・・ちなみにこのモデルの「絞り羽根開閉アームとカム」部分は非常に変形し易い設計のパーツなので「絞り羽根の動きが緩慢」という現象が発生していた場合には「内部のマイクロ・スプリングの経年劣化」或いは「絞り羽根開閉アームとカムの変形」の2つが大きく予想されます。しかし今回はこの部分のパーツ自体を流用してきたのがそもそも上手くいっていません・・。
結局「コの字型の枠」が当たっている限りは距離環が重くなる現象は改善できないことがハッキリしたので、仕方なく上の写真のように基台の天井部分 (上の写真では基台の底面) ・・写真で銀色になっている部分・・をヤスリで削りました。この部分の厚みを少しでも薄くしないとコの字型の枠に当たってしまうからです。
ここまでの解説では容易に原因や改善方法が判明したように見えていますが、実はここまで至るには相当な時間が経過しており、当初バラして清掃後に「磨き研磨」を施した後、組み立て工程を進めましたが・・「組み立て」「バラし」「組み立て」「バラし」・・を数回繰り返しています。組み立てては現象の改善度合いを確認し再びバラして調整を施すからです。
最終的に基台の天井部分を削らなければどうにも改善できないと言う結論に達したワケです。
ちなみに「コの字型の枠」が当たっていると距離環の駆動が重くなるのですが、それは結果の話であり問題だと考えたのは「コの字型の枠」に今後もチカラが架かることです。特にカム部分が次に変形したもぅアウトです・・。
上の写真は基台の天井部分を削った後に組み上げた時の状態を拡大撮影しています。ご覧のように僅か0.1mm泥土の隙間しか確保できませんでした。この基台の天井部分の裏側は「マウント面」になっているので、そこが薄くなりすぎても良くありません。また「コの字型の枠」の取り付け位置自体を下側にズラすと (固定ネジの締め付け位置で微かな調整が可能) 今度はヘリコイドの縁に当たってしまい最短撮影距離でのトルクが非実用的な重さに陥ります・・つまり「削る」以外に選択の余地がなかったワケですが加工してしまい申し訳御座いません。もしもこの処置に対してご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
内部から「音」が聞こえていたのは幾つかの要素が重なっていました。1つは光学系の一部が確実に固定されていなかったために硝子レンズ自体がカタカタしていました・・第5群の中玉にあたります。むろん光学系の清掃も実施したのでキレイになっていますが、今回の個体は非常に透明度の高い個体でした。
今までに整備した5本の中で最も透明度の高い個体であり、同時にコーティングが施されているのがその光彩で分かります。
なお、光学系の第5群の硝子レンズを固定している固定環の締め付け位置が適正ではなかったので、レンズを振るとカタカタ音が聞こえていましたが今回は確実に締め付け固定しています。しかしそれでもまだレンズを振るとカタカタ音が聞こえます・・この音は絞りユニットが鳴っている音ですので改善はできません (仕様なのでこの程度は正常の範疇です)。申し訳御座いません。
特に光学系後群にもコーティングが施されている点が大きなポイントです。今回の個体は上の写真の通りマウントカバーに使われている「固定ネジ (2本)」が別のオールドレンズ (恐らくシルバー鏡胴のモデル) に使われている固定ネジを流用していました。シルバー鏡胴のオールドレンズの距離環を固定しているネジから持ってきたようです。本来このモデルの純正パーツ (ネジ) は「皿頭」なのですが今回の個体のネジは「丸頭」です。丸頭だとほんの微かにマウント面からネジ頭が飛び出ているので、もしもマウントアダプタをご使用の場合にはマウント面に当たってしまいビミョ〜にピントが甘くなる懸念があります (なので皿頭のネジを本来は使っている)。
流用元がシルバー鏡胴のオールドレンズだと判った理由はネジの材質が「真鍮製」であり、且つ真鍮製の受け部分にネジ込むタイプだったからです (心棒があるタイプ)。このような方式のネジはシルバー鏡胴のオールドレンズによく使われていました。従って真鍮製 (ガンメタルの硬いほう) なので削るのが大変であり丸頭のままにしています。当方所有のマウントアダプタでは問題が起きていませんが使用するマウントアダプタによっては干渉するかも知れません。
絞りユニット、及び絞り羽根も特に手を加えていません。絞り羽根の位置がほんの僅かにズレていますがこの個体の仕様なのでどうにもできません。絞り羽根の動きが緩慢だったのはマウント内部の連動系・連係系パーツの位置調整が適正ではなかったからですが、それも何度か組み立てとバラしを繰り返す中で判明していった次第です。
ここからは鏡胴の写真になります。
当方による「磨き」を筐体にいれたので相応に落ち着いた美しい仕上がりになっています。ゼブラ柄のアルミ材削り出し部分には「光沢研磨」を施したので本来の輝きに近づいています。
塗布したヘリコイド・グリースはご指示により「粘性:重め」を使いましたが、それほど重くはなっていないと思います・・当方ではこれ以上重めのグリースは無いのでスミマセン。
当初の試写でも相当なオーバーインフ状態でしたが、数回の組み直しをしながら確認したところ当初のヘリコイドネジ込み位置が適正と判断したのでそのままで仕上げています・・つまりオーバーインフです。
当レンズに最短撮影距離16cm附近での開放実写です。鋭いピント面を構成しています。