◎ CHINON (チノン) CHINON 50mm/f1.7 MACRO multi coated(M42)

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chinon-logo今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。

ネット上での解説やヤフオク! に出品される場合などに、よく「富岡光学製」と案内されていることが非常に多いのがチノン製のオールドレンズではないでしょうか。確かにチノンのモデルには「富岡光学製」のOEM供給されたモデルが多いのですが、今回のモデルに関しては富岡光学製ではなく「コシナの内製」です。

バラしたところ、内部の構造化から使用されている構成パーツに至るまで、富岡光学製のモデルに類似した要素は一切見つかりませんでした・・皆無です。ネット上の解説では、今回のこのモデル「CHINON 50mm/f1.7 MACRO multi coated」は、同じチノンの標準レンズ「AUTO CHINON 50mm/f1.7」をマクロ化しただけのモデルと解説されていますが、その「AUTO CHINON 50mm/f1.7」にもコシナ内製のモデルと富岡光学製OEMモデルとが混在して存在しています。当方で過去に扱った経験があるのはこの「AUTO CHINON 50mm/f1.7」の「富岡光学製」モデルのほうで、今回のオーバーホール/修理ご依頼では、内部の構造化などに大変興味を持っていましたが富岡光学製ではありませんでした。ちなみにチノン製モデルの「55mm/f1.7」や「55mm/f1.4」などにもコシナ内製と富岡光学製OEMモデルとが存在するので、全てが富岡光学製だと考えてしまうのは違うように思います・・。

チノンがスイスのKern「MACRO-SWITAR」を意識して発売したのが今回のモデルのようですが、確かに最短撮影距離27cmまで寄れる「マクロ的撮影」ができるレンズでしょうか。

今回のご依頼では「光学系内のクモリ」や「絞り羽根がやや緩慢」などの改善が目的とのことでしたが、バラしてみると他の要因から丸一日係りっきりでハマッてしまいました。

CH5017(0315)仕様

CH5017(0315)レンズ銘板

まずはバラした直後の清掃する前の写真です。

CH5017(0315)11当初届いた際のヘリコイドのトルク感は「とても軽く滑らか」に感じる状態であり、ご依頼者様のご要望としても同程度のトルク感に仕上げて欲しいとのことでした。しかし、当方の判定ではこのトルク感は「ヘリコイド・グリースの経年劣化に拠る液化の状態」だと感じた次第であり、距離環を回していると「スリップ現象」さえも生じていました。実際にバラしてみた時の写真が上の写真になります。

使用されていたヘリコイド・グリースは「黄褐色系グリース」でしたが (ヘリコイドのネジ山が摩耗していないのがお分かりでしょうか?)、既に経年に拠る「液化」が進行しておりヘリコイドの端にドップリと溜まっている状態です。さらに、このグリースの経年に拠る揮発油成分が絞りユニットの裏側にもヒタヒタと附着しています。もちろんマウント部内部にも液化した状態でビッチリと湿っていました・・。

最初に問題だと感じたのは、この「経年劣化したトルク感」に合わせて欲しい・・と言うご要望です。これは当方にとってはなかなか難しいご要望です。通常は最初に「粘性:中程度」のヘリコイド・グリースを塗布するのですが、これだけのネジ山数 (ネジ山の距離が長い) があって、さらにトルク感も近づけるとなると「粘性:軽め」を使わざるを得ません。ヘリコイド・グリースの「粘性:軽め」は、将来的な液化が早いので、今ではあまりメインでは使っていないのですが、今回のモデルは近接撮影で使われるモデルですから「軽め」を塗布することにしました。

ちなみに、当方で一番最初に気になったのは、上の写真で「グリースが溜まっている焦げ茶色の部分/ネジ山の端部分」です。このモデルの最短撮影距離は27cmですから、鏡筒の繰り出し量が多いハズなのですが、どうしてネジ山に使っていない部分があるのか (最短撮影距離側)? この疑問が後の工程で大きな問題になっていきました・・。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

CH5017(0315)12ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

CH5017(0315)13絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

CH5017(0315)14写真ではいきなり解説していますが、もうこの時点で「富岡光学製ではない」ことが明確になってしまいました。鏡筒の内側に「直進キーが通るガイド (溝)」が両サイドに用意されています。富岡光学製モデルの場合、この直進キー用ガイドはヘリコイド (オス側) に用意されており、鏡筒自体は単純にストンとヘリコイド (オス側) の中に落とし込む方式になっています。それは富岡光学製のOEMモデルはもちろん、富岡光学が供給していた東京光学の「RE, AUTO-Topcor」シリーズのモデルでも同様です。

さらに富岡光学製モデルでは、鏡筒内の絞りユニットを直接固定ネジで締め付け固定する方式を採っていません。今回のこのモデルでは、絞りユニットはもちろん、絞り羽根のベース環までも全てが「ネジ止め固定」でした。この部分も富岡光学製ではない要素のひとつになります。

6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

CH5017(0315)15この状態で鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して撮影したのが上の写真です。いろいろ解説していますが・・。

「絞り羽根開閉アーム」
マウント面の「絞り連動ピン」の押し込みによって、それに連動して絞り羽根をダイレクトに「開いたり閉じたり」をしているアームです。

「絞り環連係ガイド」
絞り環を回すと同時に絞り羽根の開く度合い (閉じる度合い) を調整するための「連係」を絞り環と鏡筒とで行っているパーツです。このパーツは全長2cmの長いガイドになっていて、鏡筒が繰り出されても絞り環で設定した絞り値まで絞り羽根が開閉するようになっています。

「絞り羽根開閉幅制御カム」
なだらかなカーブを真鍮製のカムに用意されている「金属棒」が辿っていくことで、そのカーブの起伏に見合う角度で絞り羽根を「開いたり閉じたり」制御している「カム」です。

・・つまりは絞り環の操作性や絞り羽根の動き方など、凡そ「心臓部」に近い部位がこの鏡筒の裏側になっています。この部位の不具合で「絞り羽根が正しく動かない」と言う開閉異常になります。

今回の個体は、この絞りユニットを鏡筒に組み付ける際に「絞り羽根開閉アーム」が僅かに斜め方向に曲がっているのを発見しました。しかし、この時点では深く考えずに、単に垂直状態に戻して工程を進めてしまいました・・後になって考えれば、全ての問題点がある一つの「事実」に向かって繋がっていくことになります (点と線の状態です) が、この時はまだ気がついていませんでした。

CH5017(0315)16距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

CH5017(0315)17ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

今回の個体はご依頼者様が入手されてから15年間もお使いとのこと・・当然ながら、ここの無限遠位置のアタリ付けでは当初バラした時点の無限遠位置が「正しい」と考えていた次第です (15年間も使っていたのですから)。それが結果として、後の工程で起きた問題を見抜くことができない障害になっていきました・・。

CH5017(0315)18鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で19箇所のネジ込み位置が用意されているので、さすがにここをミスると最後にまたバラして、ここまで戻るハメに陥ります。

上の写真で2つのネジが締め付けられているのは距離環用の「制限キー」で、無限遠位置と最短撮影距離の位置の2箇所で距離環を停止させる役目です。

CH5017(0315)19ここで距離環を仮止めしておきます。

CH5017(0315)20クリック感を伴う絞り環の操作なので、マイクロ・スプリング+ベアリングをセットして絞り環を組み付けます。

CH5017(0315)21こちらはマウント部内部を撮っています。既に当方による「磨き研磨」が終わっている状態です。当初バラした時は、この内部は経年に拠り腐食が進行しており、絞り連動ピンの押し込みで連動して動く「絞り連動ピン連動アーム」や自動/手動スイッチなども、摩擦で滑らかに動く状態にはなっていませんでした。

CH5017(0315)22こちらが当初の「絞り連動ピン連動アーム」の形状です。こんなに長いアームが絞り連動ピンの押し込みで同時に動く「連動構造」なのを説明しようと思い当初撮影したのですが、実はこの部分が大きな問題になっていきます。

CH5017(0315)23こちらの写真はマウント部内部に連動系・連係系パーツをセットした状態の写真です。「絞り連動ピン」の押し込みによって「絞り連動ピン連動アーム」が動いて鏡筒の「絞り羽根開閉アーム」を動かします。また「自動/手動スイッチ」の位置 (自動:Aか手動:M) によっても「絞り連動ピン連動アーム」の動き方が変わります。

上の写真では、既に「絞り連動ピン連動アーム」の形状を本来の状態 (真っ直ぐな状態) に戻しています。

CH5017(0315)24マウント部をセットして、この後は光学系前後群を組み付け、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

・・となるハズでしたが、無限遠位置確認をしても無限遠は出ておらず、さらに絞り環の操作でも、或いは自動/手動スイッチの設定を変えても「絞り羽根が正しく動かない」状態に陥ってました。

正直、この写真を撮影したのは昨日の午前中の話であり、それから丸一日ハマっていたことになります(笑) ちなみに、絞り環の刻印は「1.7」がありますが、絞り環はその位置まで回りません。実際には「1.7と2の間の●」が開放F値「f1.7」の場所になっています。

CH5017(0315)25こちらの写真は光学系前群の「第3群」の写真です。当初バラした時点で、ここも気になっていました。

CH5017(0315)26こちらが「正しい状態」にした写真です。第3群だけが硝子レンズのコバ部分に反射防止塗膜がありませんでした。入射光の集光をする役目ですから「レンズ面反射」の問題にもなり兼ねませんから疑問に感じました。コバ部分をよく観察すると、元々はコバ塗膜がちゃんと塗られていたことが分かりましたが、どう言うワケか拭き取られているのです。当方にて着色したのが上の写真であり、コントラストの低下の一因などになってしまうところでした・・ちなみに、他のレンズ群は問題なくコバ塗膜が残っていました。

CH5017(0315)27オーバーホールの工程はここで行き詰まってしまい、以下の問題点が出てきました。上の写真は「改善後」の写真です。

  • 無限遠位置がズレている (オーバーインフ)
  • 自動/手動スイッチの「自動」時に絞り羽根が開放にならない
  • 絞り羽根の開閉幅 (開口部) が小さすぎる (f値でf22近く)
  • 最短撮影距離附近 (0.3〜0.27m) で絞り羽根が正しく動かない
  • 絞り連動ピン連動アームが故意に曲げられていた
  • 絞り環連係アームのパーツが逆付けされていた
  • ヘリコイド (メス側) のネジ込みが奥までネジ込まれていた

・・ザッと挙げてもこれだけ問題点が出てきてしまいました。

結局、丸一日かかって判明した事実は次のような事柄でした。

  1. ヘリコイド (メス側) のネジ込み位置をミスったまま組み上げてしまった。
  2. 結果、絞り羽根の駆動に影響が出たのでバーツを逆付けしてムリヤリ改善させた。
  3. 最終的に無限遠も出て絞り羽根も「手動」時のみ正しく動いていた。

通常、多いのはヘリコイド (メス側) のネジ込みは最後までネジ込みません。しかし、今回の個体は最後ギリギリの手前までネジ込まれていました (余裕僅か1cmほど)。その時点で疑問に思っていたのですが、今まで15年間も普通に使えていたことから「正しい」と判断して当方も作業をその位置で進めてしまいました。

しかし、今度は「絞り連動ピン連動アーム」が曲げられているような気がしてなりません・・自動/手動スイッチを「自動」にすると、絞り羽根が正しく動いてくれないのです (手動時は問題なし)。

チノン製のモデルで今回の個体ほど曲げられている「絞り連動ピン連動アーム」は見たことがなかったので、取り敢えず真っ直ぐに戻しました。そこから少しずつ判明していった次第です。

結局、ヘリコイド (メス側) のネジ込み位置がそもそも間違っていました。オールドレンズに多いのは「ネジ込み位置が関係ない」タイプ (オス側にだけネジ込み位置が関係する) なのですが、今回のモデルにはメス側にも全部で「5箇所」のネジ込み位置が存在しました・・当方も最初それに気づかなかったのです。

ヘリコイド (メス側) のネジ込み位置を正しいポジションにして入れると、結局「絞り連動ピン連動アーム」が曲がっているのが問題になり真っ直ぐに戻して改善できました。逆付けされていたパーツも本来の裏側に正しく固定することで問題が解消しました。

すべての不具合の要因は「ヘリコイド (メス側) のネジ込み位置ミス」でした。それを改善させるためにいろいろと手を入れられてしまったようです・・しかし、最終的には問題なく使えるようになっていたと言うことですね (スイッチが「手動」時のみ)。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

CH5017(0315)28今回の個体には当方も初めて見た「CHINON multi coated lens」と書かれている前キャップが附属していました・・誇らしげです。ちなみに、当方では附属している「前後キャップ」もちゃんと清掃しています(笑) それは理由があり、せっかく整備を施してキレイになっても砂埃が付いたような前後キャップを装着してしまったら、意味がありませんから・・。

CH5017(0315)1マクロスイターを意識して設計されたと言われている「CHINON 50mm/f1.7 MACRO multi coated (M42)」です。コーティングの光彩はアンバー色パープル色グリーン色の3色に美しく輝いています。

CH5017(0315)2光学系内、特に第2群の「薄クモリ状」は、実際には極微細な点状の汚れが無数に附着していました。これは恐らく「結露」によって生じた汚れではないかと推測します。

と言うのも、実は古いグリースの経年に拠る揮発油成分がこの光学系前群を格納する「格納筒」の中にまで進入していたからです。各レンズのコバ部分にはビッチリと油が付いて濡れていました・・相当な揮発油成分です。その油成分が結露の際に水滴にも含まれていたので、汚れ状としてクモリのようになっていたのではないかと思います。

清掃によりキレイになり高い透明度が戻りました・・揮発油成分に拠るコーティング層の劣化には至っておりません。なお、各群の硝子レンズ面には、極微細な点キズが数点レベルですが残っています (清掃で除去できなかったので極微細な点キズと判断します)。

CH5017(0315)9光学系後群も大変キレイになりました。極微細な拭きキズや極薄いヘアラインキズなども僅かにあります。

CH5017(0315)3絞り羽根もキレイになり確実に駆動するようになりました。自動/手動スイッチは「自動」「手動」いずれの設定でも、正しく絞り羽根が動いていますし、開閉幅も適正な「f16」に戻しています。

ここからは鏡胴の写真になります。

CH5017(0315)4

CH5017(0315)5

CH5017(0315)6

CH5017(0315)7使用したヘリコイド・グリースは、当初ご指示の「粘性:中程度」ではなく「粘性:軽め」を使っています。バラす前のトルク感に近い状態に仕上げる必要性から「軽め」にしていますのでご了承下さいませ。無限遠位置の手前で極僅かな負荷が掛かりますが、トルクはほぼ均一です (当初のネジ込みミスによる15年間使っていなかったネジ山が存在するため)。

また、筐体は外装表層面を「光沢研磨」しているので、光沢のある美しい黒光りになっています。距離環のラバー製ローレットも清掃しておりますし、附属していた前後キャップも清掃しています。絞り環の操作性やクリック感も確実になっています。もちろん無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認もすべて滞りなく終わりました。

CH5017(0315)8当方がすぐにネジ込み位置の違いに気がつかなかったばかりに、いろいろと問い合わせのメールを送ってしまい誠に申し訳御座いませんでした。完璧なオーバーホールが完了しましたので、どうかご安心頂ければと思います・・スミマセンでした。

CH5017(0315)10当レンズによる最短撮影距離27cm附近での開放実写です。実際には40cmほど離れた処で撮っています。そうしないと全体が入らないからです(笑) ピントはミニカー手前のヘッドライトの「本当にライトの玉の部分」にしか合っていません(笑)

今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き2本目の作業に入ります。今暫くお待ち下さいませ。