◎ Schneider – Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Curtagon 35mm/f2.8 zebra《後期型》(M42)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。
整備作業が遅れており、催促が来てしまいましたので急いでこのページにアップさせていきます。
今回オーバーホールする「Curtagon 35mm/f2.8 zebra」は、当方での扱いは5本目に当たります。過去に扱った同型モデル銘の個体は、すべて「絞り羽根開閉異常」を来しておりましたが、今回の個体も同様に「絞り羽根が開放のまま」と言う状態でした。当方では100%の確率で絞り羽根が正常駆動しない個体ばかりを手掛けています・・その理由は以下のオーバーホール工程の中で出てきます。
今回の個体が同じモデル銘では都合5本目なのですが、何とすべて内部構造が異なっていると言う状況・・オドロキです。外見上は筐体の意匠には相違が見られず、せいぜいレンズ銘板の表記が異なるくらいの違いしかありませんが、バラしてみると内部の構造化から構成パーツに至るまで、同じモデルに出くわしていません。
正直、Schneider-Kreuznachのモデルは内部構造が複雑なので扱いたくなく、特にこのゼブラ柄が流行っていた頃のモデルに関しては調整も相当な難しさです。
過去に取り扱いがある場合は、通常このブログ上にアップしないのですが、同一モデルでも内部構造の相違や構成パーツの違いなどから「新規扱い」として (当方のデータベース上に) 記録する意味から掲載しています。
今回の個体は「後期型」にあたりますが、バラしてみると内部の構造化はさらに複雑化しており、恐らく最後のほうに生産された「ゼブラ柄」ではないかと推測します。
今回の個体のオーバーホールご依頼内容は「絞り羽根が開放のまま動かない」と言うことでしたが、バラしてみると不具合箇所はそれだけではなく、以下の内容が浮かび上がりました・・。
- 絞り羽根が開放のまま動かない
- 各連動系・連係系パーツは揮発油成分固着化で腐食・錆が出ている
- 固着した連動系・連係系パーツの一部は既に変形している
- ネジの欠品 (3本)
- 連動系・連係系が正しい動き方をしていない
- 絞り連動ピンとの連係動作が異常
- 被写界深度計の透明パーツが破損
- 絞りユニットの回転機後部が損傷
- ヘリコイドの直進キーが削れている
・・などなどです。実際には上記の事柄が互いに影響し合ってさらに問題を起こしている状態です。シュナイダーのオールドレンズは、なかなか一筋縄ではいきません。
まずはバラした直後の写真です。
距離環に附随した「被写界深度マーカー」の透明パーツは樹脂製 (プラスティック製) なのですが、既に割れています。また内部は固着化した油成分が酷く、表層面の腐食が進行しており一部は既に錆も出ていました。過去のメンテナンスから相当な時間が経過しているようです。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。シュナイダーのオールドレンズの特徴として、構成パーツは非常に細かい部品が多く調整箇所もその数に比例して増えていきます。上の写真の中央にまとめてある細かいパーツなどは、日本製オールドレンズなどでは上手く工夫して最低限の構造化にしていますが、この当時の富岡光学だけは似たように細かいパーツが多かったりします。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。まずこの当時のシュナイダー製オールドレンズで最初の難関になるのがこの中に組み込まれる「絞りユニット」です。
上の写真は、5枚装備している絞り羽根の中から2枚を撮りだして撮影しています。5枚の絞り羽根の内4枚は普通の絞り羽根なのですが1枚だけ上の写真のように「制御カム」が直付けされている独特な設計です。この仕組みのために「絞り羽根開閉幅の異常」を来している個体が最近は多発しています。あまりにもムリのある設計だと言わざるを得ません。
今回の個体では既に絞り羽根の一部が固着化しており、上の写真の右側 (カム付) の絞り羽根を固定しているリベットが浮いていたため、たたき込みを行い再度シッカリと固定させています (絞り羽根を固定している2つある「穴」の上/銀色のほう)。
この絞り羽根がキッチリと固定されていないとどんなにキレイに仕上げたとしても絞り羽根は正しく動いてくれません。
シュナイダー製オールドレンズに多く採用されている「絞り羽根を回している構造」です。鋼球ボール5個を使って絞り羽根のベース環を回転させています。上の写真は説明用に鋼球ボールを固定している真鍮製の固定環をワザと半締めの状態で浮かせて撮影しています。
最初の問題はここで発生しました。この鋼球ボールを固定している固定環 (真鍮製) をネジ込んでいくと鋼球ボールが止まってしまうのです。今回の個体は、恐らく長い期間にわたって放置されていたようで、鋼球ボールの一部分が腐食しているようです。清掃時に赤サビが出ていましたが、その影響で負荷が増大してしまい (或いは真円を維持していない) 鋼球ボールが滑らかに動いていないようです。この部分の調整如何で絞り羽根の駆動が影響を100%受けてしまいます。さすがに鋼球ボールを磨くのはそう簡単ではないので (下手に削るとさらに悪化していく)、まずはここで躓いてしまい1時間超掛かりっきりで調整するハメに陥りました・・。
簡単に絞りユニットが完成しているように見えてしまいますが、既にこの写真を撮った時点で2時間が経過しています(笑) 5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させました。
鏡筒の裏側 (つまりマウント側方向) はこのような感じになっています。絞り環の操作と共に動く「絞り羽根開閉幅制御アーム/写真下側」と絞り連動ピンの押し込みで同時に駆動する「絞り羽根開閉アーム/写真上側」です。しかし、前述のように鋼球ボールの影響を受けているので、これらの連動系・連係系パーツを動かしてもなかなか正しく絞り羽根が動いてくれません (途中で止まってしまいます)。
結果として、鋼球ボールを固定する「真鍮製固定環」の締め付け固定を最後までしないことにしました。どの程度締め付ければ良いのかの調整が難しいので、固定環にマーキングを入れて (上の写真では固定環の左端に線を数本入れています)、位置調整し易くしています。この部分の調整も1時間以上かかってしまいました・・。
ヘリコイド (オスメス) を内包する「ヘリコイド筒」です。写真では分かりにくいですが濃い緑色のメッキ加工が施されています。このヘリコイド筒の内外周も表層面に腐食が出ており当方による「磨き研磨」も相当時間が掛かってしまいました。特にこの内側部分は念入りに磨かないとヘリコイドの直進動に影響が出てしまいます・・。
こちらは先に完成していた鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を真鍮製のヘリコイド (メス側) の中にネジ込んだ状態で撮影しています。既に無限遠位置のアタリ付けを終わっています。
ヘリコイド (オスメス) をヘリコイド筒の中にセットした状態の写真です。写真だけだと単純に中に入れ込んでいるように見えますが、実は鏡筒が前後に動くための「直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目)」を両サイドに1本ずつ組み込んでおり、且つ絞り羽根の開いたり/閉じたりを制御しているパーツも同時にセットしています。つまり「3箇所の位置合わせをしながら」ヘリコイド (オスメス) を入れ込まないとイケマセン・・。
入れ込んだこのヘリコイド (オスメス) は、何とヘリコイド筒の中で「宙ぶらりんの状態」で、上の写真のように3つの「固定用爪」で内壁に引っ掛けているだけです。そしてヘリコイド筒の外壁を貫通して飛び出ている「距離環連係アーム」が距離環に刺さって、距離環を回すことでダイレクトにヘリコイドがグルグルと回る仕組みです。この方式の欠点は、ヘリコイドの前後動の負荷がそのまま「トルクムラ」として現れ易いと言う問題です。ここの調整でもやはり難儀してしまい時間が掛かってしまいました(笑)
前述の3箇所ある調整箇所 (同時にセットしなければならない) が上の写真の解説です。これらのパーツの位置調整をしつつヘリコイド (オスメス) を入れ込まなければならないので、単にストンと入れるだけではありません。これがシュナイダーの厄介な部分で (つまりヘリコイドが浮いちゃってる) 当方は好きではないのです・・面倒くさいです(笑)
無事にヘリコイド (オスメス) がヘリコイド筒の中にセットできました。
距離環用のゼブラ柄ローレットをセットして距離環用の指標値環を固定します。
このモデルには「被写界深度マーカー」が装備されています。その透明窓のパーツ部分、樹脂製 (プラスティック製) が既に1箇所割れています。同時にこの透明パーツを固定している「固定ネジ」が3個必要なのですが1本しか入っていません。これが後々にまた問題化していきます。
欠品していた「固定用ネジ2本」を当方の部品の中から調達しました。簡単なように考えられますが、ネジの「径」と「長さ」が同じネジと言うのは、そう簡単には見つからないものです・・。
被写界深度マーカーを組み付けてから絞り環をセットした状態の写真ですが・・この写真を撮るまでにまた2時間も経過しています。前述の割れている箇所が絞り環と干渉してしまい絞り環が正しく動いてくれません。また調達したネジがビミョ〜に影響しているのか、距離環のトルクムラも酷い状態です。
「被写界深度マーカー」はこんな感じで、絞り環を回すと同時に赤色マーカーの位置が変わっていく、なかなかギミック感タップリの機構です。
ようやく出てきましたが、距離環やマウント部を組み付けるための基台です。パーツの大きさからすればヘリコイド筒のほうが基台のように見えてしまいます・・やはり、経年の腐食が酷かったので当方による「磨き研磨」をとても念入りに行っています。ある意味この部分がこのモデルでの心臓部分にあたります・・。
組み立て工程を進めていくと、案の定再び別の問題が出てきてしまいました。次から次へと楽しませてくれます。レリーズ用の機構部を装備しているのですが、その機構部を自動/手動スイッチと連係させてしまっている構造です。
「レリーズ機構+自動/手動スイッチ+絞り連動ピン」と言う3つの連動・連係が影響し合っている部分なのですが、上の写真の通り一度押し込まれるとマイクロ・スプリングが入っているにも拘わらず止まってしまいます (スプリングのチカラで戻ってくれません)。基台の内壁や棒状パーツの表層面など、腐食や錆が出ていた部分の摩擦が影響しているようです・・その度に再びバラして「磨き研磨」を施しまた組み立て直します(笑)
次から次へと出てきた問題をひとつずつ克服させて、ようやく基台のセットまで進みました。ちゃんと絞り連動ピンが飛び出ています (当初は自動/手動スイッチの位置に拘わらず入りッ放し)。あまりヤラないのですが、今回は「絞り連動ピン」までバラして磨き研磨した次第です・・相当な腐食と錆が進行していましたから、充分なくらいのストレッチをさせて頂きました(笑) 最近運動不足なのでありがたいです。
マウント部をセットします。一応ちゃんとフィルムカメラにセットして指標値が真上に来るように位置決めしてからマウントを組み付けています。この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認を執り行い、フィルター枠とレンズ銘板をセットすればいよいよ完成です。ここまで来るのに何時間かかったでしょうか・・丸1日かかりっきりでしたね(笑)
ちょうど完成した頃に催促のメールが着信してしまいましたので、良かったです(汗)
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
外観上は全く同じなのですが、当方では5本目の扱いになる「Curtagon 35mm/f2.8 zebra」です。しかし、内部構造は5本共すべて全く異なっていました。
光学系内部はコーティングの経年劣化が進行しています。LED光照射では前玉裏面に非常に薄いクモリが、また後玉にはコーティング層の浮きが見受けられます。しかし、いずれも写真への影響を来すレベルではありません。
絞り羽根の駆動は正しく動くようになりましたが、問題が全く無いワケではありません。
- マウントアダプタに装着すると「自動」時正しく動かない
- 絞り環開放側が重い
- 引っ掛かりを感じる操作性
- 「f5.6〜f2.8」の間が硬い/重い
・・などです。上記以外の問題点はすべて解消しました。上記の現象は、内部のマイクロ・スプリングが既に経年劣化でヘタっているので (改善処置を施しましたが) これ以上の改善はできませんし、冒頭のほうの鋼球ボールの問題も影響しています。当方ではこの状態まで落とし込むのが精一杯です・・誠に申し訳御座いません。
ここからは鏡胴の写真になります。
使用したヘリコイド・グリースはご指示により「粘性:中程度」を塗布していますが、当初の酷いトルクムラは改善できました。しかし、距離環指標値の「0.5〜0.6m」辺りで一度重くなるトルクムラは残っています。3箇所の爪の位置調整や内部の直進キーその他、考えられる箇所の調整を施し、最終的に全部で11回の組み直しを行いましたが当方の技術スキルレベルではここ迄が限界です。
筐体の外装は、本来オリジナルの状態では「光沢のあるブラック」ですが、当初お預かりした時点では少々経年でマット化していましたので、当方にて「光沢研磨」を施しています。もちろんアルミ材削り出し部分のゼブラ柄もキレイに光沢を蘇らせてあります。レンズ銘板も含めて艶めかしい美しい輝きが復活しているハズです。
相当ハードな整備作業になってしまいましたが、まぁシュナイダー製オールドレンズでは多いことです(笑) 不本意ながら完璧な状態でオーバーホールが完了していません。仕上がり状態をご確認頂き、もしもご納得できないようでしたらご請求金額より減額下さいませ。当方の技術スキルレベルの低さ故であり、誠に申し訳御座いません・・。