◎ Ernst Leitz GmbH Wetzlar (Leica) Elmar 9cm/f4(LM)《前期型》

Leitz-logo100今回の掲載はヤフオク! への出品用ではなく「オーバーホール/修理」のご依頼分として掲載しています。そのため、ご依頼者様へのメッセージも含んだ内容になっていますので (写真付で解説したほうが分かり易いため)、予めご留意下さいませ (ヤフオク! には出品していません)。

ご依頼の内容は「撮影すると酷いフレアが出るためカメラ店で見てもらったところ、カビ・キズあり」とのことです。このモデルの当方での扱いは今回が初めてになります。

1954年〜1968年まで生産され出荷されていたライカ「Mマウント」の沈胴式モデルで、今回の個体は「前期型」のようです。距離環にロックボタンが装備されており、ロック解除しない限り鏡胴を伸張させることができず、且つ伸張させてスライドした鏡胴を固定することもできない仕様になっています。

光学系は3群4枚構成のTessar型になり、絞り羽根枚数10枚装備の最短撮影距離1m、最小絞り値「f32」です。


EL94s(1130)1今回は鏡胴「後部 (距離環〜マウント部まで)」を解体することができなかったので、鏡胴「前部」のみの解体整備になります。上の写真は整備が完了した後の写真になります。

EL94s(1130)2ロックボタンを押して解除した後、鏡胴をスライドさせて伸張させた状態の写真です。

EL94s(1130)11距離環〜マウント部までを解体できなかった理由が、上の写真の「革張り」です。凹み部分にピタリと適合させた形状で「本革」がキッチリと貼り付けられています。この本革を剥がさない限り、距離環を固定している固定ネジを外せません。当方ではこの本革などの替え材がありませんから、今回は距離環を解体してのヘリコイド・グリース入れ替えは断念しました。

また、やはりスライド筒を抜いてしまうと、内部の内側に硬質フェルトが貼り付けられており、経年劣化が進んでいた場合には再びスライド筒を入れ込むことができず、同様に替え材が必要になってしまいます。

従って今回は鏡胴「前部」のみを解体してご依頼の内容である「カビの除去」を最優先させました。

EL94s(1130)3上の写真は、鏡胴「前部」を外した後に、絞りユニットをバラすために鏡筒を解体しようとした時の写真です。写真で中央にあるのは「イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種)」です。しかし、残念ながら既にネジ山が潰れて削れてしまっています。恐らく前回のメンテナンス時に潰してしまったのだと思われます・・。

この状態では絞りユニットや鏡筒をバラすことができませんから、絞り羽根の油染みも清掃できません。また光学系第2群〜後群の貼り合わせレンズ (第3群〜第4群) 自体は、絞りユニットの直下に固定環で固定されているようなので、どうしても絞りユニットを外す必要があります。

すべては上の写真のたった一つの「イモネジ」が外せるかどうかで鏡胴「前部」の整備が可能か否かが決まってしまいます・・。

EL94s(1130)4仕方ないので、まずは光学系前群 (前玉:第1群) をレンズ銘板ごと外した状態の写真です (整備前のバラした直後の写真)。絞り羽根に僅かな油染みが見えています・・。

EL94s(1130)5こちらは光学系後群です。写真後のほうでボケてしまっていますが、既に絞り環をバラしており、各絞り値でのクリック感を伴う操作性を実現している「絞り値キー (溝)」が微かに写っています。

鏡筒の内部の配置順序は・・前玉 (第1群)→絞りユニット→第2群→第3群〜第4群 (貼り合わせレンズ) の順番で配置されています。

そもそも絞りユニットを外す必要があるのは、光学系第2群が絞りユニットのすぐ直下に位置しており (絞り羽根から僅か3mm程度の距離) 光学系第2群の清掃をする際に洗浄剤が絞り羽根に流れ込み「油染み」が滲み出てくるのが予測されるからです。光学系第2群のレンズ自体は清掃すればキレイにはなりますが、問題は洗浄剤が流れ込んでしまった絞り羽根は、液剤が残ってしまい後々残っている「揮発油成分」と一緒にレンズ面に移る可能性も否定できません (つまり将来的にまた汚れが酷くなる)。

従って、絞り羽根の「油染み」を清掃してからでなければ光学系の清掃自体ができない・・と言うのが絞りユニットをバラしたい理由です。

EL94s(1130)6そこで考えた方策が上の写真です。上の写真では既に5回ほど洗浄剤を流し込んだ途中の写真です。錆と共に揮発油成分がコットンパフに附着しています。

光学系第2群に「光学レンズ専用ワイパークロス」を敷いて (キズス付防止のため)、その上に「コットンパフ」を置きました。この状態で洗浄剤を塗布して絞り羽根の油染みを除去していきます。絞り羽根の表面 (写真では手前側) は容易に拭き取ることができますが、問題は絞り羽根の「裏側」です。絞り羽根の表面に洗浄剤を塗布すると、すぐに染み渡り裏側にも流れてしまいます。その状態で絞り羽根を閉じたり開いたりを繰り返します。

「光学レンズ専用ワイパークロス」と「コットンパフ」をそれぞれ1cm四方にカットしたものを10セット用意します。先に光学系第2群のレンズの上に「ワイパークロス」を敷いてから次に「コットンパフ」を載せます。そして洗浄剤を絞り羽根に塗布して「閉じて開いて」を2〜3回行うと・・錆と油で真っ黒にになります。新しいクロスとパフに入れ替えてこの作業を10回繰り返しました。

EL94s(1130)9上の写真は既に整備作業が完了した時の写真です。絞り羽根の油染みも錆もキレイに除去できました (前玉も組み付けてあります)。

絞り羽根の清掃が終われば、ようやく光学系第2群「表 (つまり前玉方向)」と光学系後群 (第3群〜第4群)「裏 (マウント側)」の両方を清掃できます。

ご依頼の「酷いフレアが生じるカビとキズ」と言うのは、カメラ店で視て頂いた際のお話のようですが「カビではなくコーティングの劣化」です。カビとして視認できるのは極微細な点状のモノが1点あっただけで、絞りユニット直下に位置していた「第2群」の表面に蒸着してある「コーティング層の経年劣化」に拠り、とても微細な点状のクモリが全面に渡って生じていました。それが酷いフレアを招いていたのかも知れません。

EL94s(1130)7

EL94s(1130)8上の写真 (2枚) は、絞り環の内部の固定環です。既に揮発油成分で腐食しており真っ黒でした。上の写真はすでに当方での「磨き研磨」が終わっています (一部研磨する必要が無い箇所はそのまま残っていますから黒くなっています)。ここが絞り環と接触している箇所なので、当初絞り環の操作はクリック感があるものの、操作性としては相応に重かったようです。

EL94s(1130)10前玉 (つまり第1群) も清掃しクリアになりました。問題の第2群のクモリも「硝子研磨 (コーティング層の表層面の研磨)」を実施したので、ほぼ除去できています。残念ながら絞りユニットをバラすことができませんでしたから、第3群〜第4群の貼り合わせレンズ自体はバラしての清掃ができていません (後玉のみ清掃しています)。しかし、それほど汚れが酷くはないので順光目視では上の写真のように光学系内はクリアな状態に改善できています。


なお、ネット上でこのモデルでの実写をいくつか見てみますと、そもそもこのモデル自体の写りとして「ハロ」が相応に発生する写りのようです。結構な枚数の写真でハロが出現していました・・フードの装着が必須になるモデルかと思います。

また、今回の整備では距離環〜マウント部までも解体できていませんので、距離環のトルク感などヘリコイド・グリースの入れ替えがされていませんから当初のままです。