◎ MINOLTA (ミノルタ) MC MINOLTA CELTIC 28mm/f2.8(SR)
今回の掲載はヤフオク! 出品用ではなく、オーバーホール/修理ご依頼を承ったオールドレンズの掲載になります (有料にて掲載しています)。ヤフオク! には出品していませんので、ご注意下さいませ。
今回はあまり見かけない珍しいモデル「MC MINOLTA CELTIC 28mm/f2.8」と言う広角レンズをオーバーホールしました。このモデルの原型はもちろんMINOLTAの「MC W.ROKKOR 28mm/f2.8」になります。オーバーホールのご依頼者がちゃんと調べてくれまして、1975年に発売された海外輸出用モデルとのことでした。
このレンズのモデル銘「CELTIC」は英語圏で調べてみると「ケルティック」と言う発音になりそのまま直訳してしまうと「ケルト族」になってしまいますが、果たしてそうなのでしょうか? 何とも意味深げなモデル銘です・・。
バラしてみると内部の構造化はMINOLTAの純正「MC W.ROKKOR 28mm/f2.8」と全く同一ではなく、僅かに異なる部分もありました。例えば、距離環のラバー製ローレットの下には鏡筒にアクセスするための「隠しネジ」用の丸窓が用意されていたり (実際にはそのような隠しネジは鏡筒には存在せず、この丸窓が用意されている意味自体が不明です)、鏡筒そのものの格納方法も違っていました・・なかなか謎を含んだモデルです。
またオモシロイことには、光学系の中にミノルタの「グリーン色」のコーティング層を持つレンズが1枚も存在しませんでした。オーバーホール作業前に試写したところ、どうも写っている写真の発色が「アンバー寄り」のような印象を受けていたので、納得できました。「緑のロッコール」たる「アクロマチックコーティング (AC) 」もこのモデルの光学系には成されていないようです・・。
ちなみに、光学系の仕様は7群7枚の典型的なレトロフォーカス型であり、純正「MC W.ROKKOR 28mm/f2.8」と全く同一の光学系設計を採っています。どのような理由で輸出用モデルには「アクロマチックコーティング (AC) 」を施さなかったのか、興味深い事柄です。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。広角レンズでレトロフォーカス型ですから、奧の深い鏡筒になっています。
絞りユニット直下の第4群 (つまり後群のレンズ格納筒) が固着化しており、外せませんでした。絞りユニットは外せたので、取り敢えず清掃作業には支障ありません。
絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。当初バラす前の時点で、絞り羽根には油染みも無く粘りもありませんでしたが、バラした直後ではこの鏡筒の外周部分、或いは光学系前群の周囲にまで揮発した油成分がヒタヒタと液状化してビッチリ附着していました。その影響で上の写真のように、鏡筒の外周部分に「腐食痕」が残っています。もちろん当方による「磨き研磨」を施しましたが、除去できていません。
この状態で鏡筒を立てて撮影しました。上方向が前玉側で下が後玉の向きになります。鏡筒の中腹アタリに銀色のネジが飛び出ています・・。
飛び出ているネジは「絞りユニット」を固定するための「イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種)」なのですが、このようにネジ長の半分近くが外に飛び出た状態の (つまり長さが長すぎる) イモネジを締め付けている個体は、実は今回が初めてです(笑)
このイモネジはアルミ合金材のようですが、このオールドレンズが発売された当時の1975年前後を考えると、ちょうど真鍮製のイモネジから変わる頃でしょうから、このようなアルミ合金材のイモネジを使うにはまだ早すぎると思います・・。
しかも、このように必要なネジ量の「倍の長さ」をワザワザ使う理由も必要もありません。つまりは、近年のメンテナンス時に付け替えられたイモネジであることが判明します。
ヘリコイド (メス側) をネジ込むためのベース環です。わざわざ基台と別にこのようなベース環を用意しているところが、サービスメンテナンス性を向上させる意味合いを含んでおり、ミノルタの凄いところですね・・完璧に基台 (マウント部や絞り環) と距離環を含む鏡筒部分を容易に分離させることができます。基台と一体型で用意してしまえばコストも作業工数も掛からないものを、メンテナンス性に配慮したがためにコストを掛けてまで拘った設計をしています・・さすがです。このような考え方をした設計をしているオールドレンズは、他社光学メーカーでもあまりありません。NikonやCanonのレンズはまだ多くを手掛けていないので、詳しくは知りませんが、それ以外の日本製レンズでは、このような考え方で一貫した設計思想で発売していたのはMINOLTAだけだと思います。
真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。このモデルではキッチリネジ込んだ位置から2週分戻した場所が「無限遠位置」でした。「無限遠位置調整機能」も装備されているので、この時点でのアタリは大凡で構いません。
ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ません (合焦しません)。再びバラしてここまで戻っての再組み直しに陥ります。
ようやく基台が出てきました・・距離環やマウント部を組み付けるための基台です。絞り連動系や連係パーツはすべて外しており、当方にて「磨き研磨」が終わっています。それらパーツが接する部分の磨き研磨を施すことにより、必要以上のグリース塗布を防げます。
この状態でひっくり返して、先にマウント部を組み付けてしまいます。理由は、このマウント部を固定する「固定ネジ」が基台の内部で「隠しネジ」になっており、連動系・連係系パーツをセットした後ではネジを入れられないからです。
外してあった連動系・連係系パーツをすべて組み付けます。これらパーツのひとつひとつも既に「磨き研磨」が終わっており、グリースの塗布などせずに滑らかに、且つ確実に連動・連係動作が行われるようになっています。つまり生産時の環境に近づいたワケですね・・既にマウント部の「固定ネジ (4本)」は隠れて見えなくなっています。
基台にベース環をセットします。上の写真では手前側に左右2本だけが見えていますが、基台を固定するネジ (4本) も、同様に「隠しネジ」になっており、この上に「絞り環」がスッポリ被さってしまい見えなくなります。なかなかよく考え拭かれた構造化です。
僅か直径1mmと言う極小なマイクロ鋼球ボールとマイクロスプリングをセットしてから「絞り環」を組み付けます。この状態では基台の固定ネジ (4本) は既に見えません。
最後に絞り環用の「固定環」をイモネジ (3本) で締め付けて固定します。ちなみに、このイモネジは「真鍮製」です。先の鏡筒に飛び出ていたイモネジはアルミ合金材ですから、年代的に適合してるのはこちらの真鍮製のイモネジになりますね・・。
実は、この個体は過去に一度メンテナンスされている痕跡がありました。その際は光学系の清掃を一切行っていません。光学系の各レンズを止めていた「固定環」の固着剤がオリジナルのまま剥がされていないから分かります。しかし基台の内部にはグリースが多目に塗布され、しかもヘリコイド・グリース (白色系) をそのまま使ってしまっています。また肝心なヘリコイド (オスメス) には、粘性「軽め」の白色系グリースが塗布されており、既に液化していました。この先数年でグリース抜けに陥る手前といった感じです。従って、この「軽め」のグリースの揮発した油成分が、前述の鏡筒周囲にベットリと液状化して附着していたために、鏡筒の一部が腐食してしまったのだと推測できます。
これがもしも「錆」であれば、湿度の高い場所に長年放置されていたか、最悪結露や水没なども考えられますが「腐食」となると、どちらかと言えば「揮発した油成分の液状化」が主因であることが多いのだと考えます。
何度も言いますが、ヘリコイドは軽いほうが良いと、何でもかんでも「軽めの粘性」グリースを塗ってしまうのは、かえってヘリコイドのネジ山摩耗を促し、スリップ現象や最悪経年劣化に拠る揮発油成分がレンズ内部に回ったり、連動系や連係パーツの腐食を早めてしまう結果にもなり兼ねません。
このような感じで鏡筒をスライドさせて入れ込めるようになっています。この角度から眺めると、なかなかギミックな感じですね・・。
まずは光学系前群を組み上げます。極僅かにコーティングの劣化が進んでおり、極微細な点キズが少しだけありますが、とてもクリアな状態を維持した個体です。
上の写真 (2枚) は光学系前群の極微細な点キズの状態を拡大撮影しています。
光学系後群もキレイな状態を維持しています。しかし、後玉ではなく、その手前の第6群のレンズ面に微細なキズが数点集まって見受けられます。これがカビ除去痕なのかどうかは既に付いていたので不明です。カビと思しきモノは除去できています。
同様に極微細な点キズの状態を拡大撮影しています。微細すぎてほとんど写っていませんが・・他に大変薄い微細なヘアラインキズも2本確認していますが、角度に拠っては見えたり見えなかったりのレベルです。
さて、ここが純正「MC W.ROKKOR 28mm/f2.8」との相違部分です。鏡筒 (上の写真では既に光学系前群がセットしてあります) を固定する方法が従来の「固定ネジでの直接締め付け」ではなく「固定環 (輪っか) で挟んでネジ止め」する方式なのが相違点です・・どうしてワザワザこのような面倒な方式に変えているのか、やはり不明です。上の写真では左下の真鍮製の「環 (輪っか)」が固定環で、ネジ (4本) で締め付けて固定します。つまり鏡筒は一切固定されずにフリーのままと言うことになり、何とも心許ない感じがします・・この固定環もビチョビチョに揮発油成分に浸っていたので、同様に腐食しています。
ここからは組み上げが完成したオーバーホール済のオールドレンズの写真になります。
「CELTIC」直訳すれば「ケルト族」の意になるのは英語圏では当たり前なのでしょうが、果たして人種名としての意味合いなのかどうかは別としても、そのように受け取れるモデル銘を付けてしまうコト自体どうかとも考えますが・・?
光学系内は後群 (第5群〜第6群) の極微細なキズ以外はとても良い状態を維持しており、大変クリアです。当方の老眼ではこの程度の焦点距離が限界でしょうか・・21mm辺りになるともうなかなか見えません。
当初「絞り羽根開閉幅」がズレていたようで、開放時にほんの僅かですが絞り羽根のお尻が顔を出していましたので、キッチリ合わせてあります。
ここからは鏡胴の写真になります。指標値の褪色などは無かったので当方での着色などは行っていませんが「光沢研磨」だけは僅かながらも外装に「カビ」が見受けられましたので実施しています。
今回の個体には「粘性:中程度」のヘリコイド・グリースを使っています。当初基準の「粘性:重め」を塗布しましたが、ヘリコイド (メス側) を受けるベース環側のネジ山数が多いのか (?) あまりにも重すぎたので一段軽くして「粘性:中程度」に替えました。それでも最終的には基準粘性の「重め」に匹敵するくらいのトルクを感じます。トルクムラも極僅かながら残っています・・これは古いグリースが液化していたためにネジ山の摩耗が進んでいるからかも知れません (ネジ山を見ると磨き研磨を施した後でも凹凸が極僅かに見受けられます)。
絞り環の操作性は当初よりもシッカリと確実に仕上がっています。
光学系後群もコーティングの劣化がそれ程進行しておらず良い状態を維持しています。
当方のカメラボディがSONY製ですから、元々アンバー寄りの傾向が発色性にあるのですが、それを差し引いても僅かにアンバーがかって見えます・・ミノルタのレンズでは少々珍しい傾向でしょうか (もちろん撮影前にAWB設定をしています)。当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。