◎ KONICA (コニカ) HEXANON AR 57mm/f1.4 EE(AR)
1966年にバヨネットマウント (AR) 方式に規格を変更した際に同時発売された当時の高速標準レンズです。初代のモデルには絞り操作にプリセット絞り方式が採用されていました。モデル・バリエーションは全部で5つありますが、初代のプリセット絞りのモデルを含めると6種類になります。
当レンズはバリエーションの中では第4世代にあたり、この後完全な黒色鏡胴のモデルへと引き継がれていきますが、1973年には「EE」から「AE」として焦点距離「50mm/f1.4」のモデルに集約され、このモデル「57mm/f1.4」は終息していきます。
- 初代:「HEXANON」表記,プリセット絞り、シルバー環、EE無し、フィート無し
- 第1世代:「HEXANON」表記、シルバー環、EE、フィート無し、艶有り
- 第2世代:「HEXANON」表記、シルバー環、EE、フィート無し、艶有り
- 第3世代:「HEXANON」表記無し、シルバー環、EE、フィート無し、艶消し
- 第4世代:「HEXANON AR」表記、シルバー環、EE、AEロック、フィート有り、艶消し
- 第5世代:「HEXANON AR」表記、黒色鏡胴、EE、AEロック、フィート有り、艶消し
内部の構造化には一部に富岡光学製と受け取れる構成パーツが見受けられますが、第1世代から最後まで一貫して絞り環の機構部のみ富岡光学製かどうかが不明な部位が存在しているのでまだ分かっていません。絞り環自体を「ネジ山」を切った方式で組み込んでいるのは富岡光学製の他のモデルではひとつも存在していないからです・・しかし、絞り羽根の「キー (位置決めの金属製の突起)」が片側だけで一方は「穴」を開けている方式や、鏡筒の格納方法、或いは光学系の格納方法、絞りユニットの構造などは富岡光学製の他のモデルでも採用されている構成パーツが見受けられます。
描写性能はネット上でも評価が高く、線が細く鋭いエッジを伴うピント面を構成し、アウトフォーカス部はすぐに滲んでいくトロトロのボケ味を持っています。僅かに二線ボケの傾向が否めませんが被写体の素材感や材質感をキッチリ写し込む質感表現能力に優れ、ボケ味と相まって距離感や空気感までも表現する立体的な画造りは富岡光学製のモデルに共通した要素です。シーンによってはキレイな真円に近いリングボケ (玉ボケ) も表出し、なかなか使い出のあるモデルです。逆光耐性が高くハロやゴーストも出ず諸収差が良く改善された周辺域までキッチリ解像する、優れたオールドレンズのひとつですね。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの 中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、 同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて 経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。この鏡筒をヘリコイド (オス側) の中にスライドさせて入れ込み、最後に前玉側から「鏡筒固定環」で締め付けて固定する方式 (つまり鏡筒をネジ止めしていない) なのも富岡光学製のモデルでは多く採用されている仕組みです。
上の写真は「絞りユニット」をバラした時の写真です。この構造化の絞りユニットは富岡光学製のモデルでは僅かなモデルにしか採用していません。鏡筒の裏側 (マウント側) に絞り羽根制御用の機構部を配置せずに、ワザワザこのような絞り羽根の組み付け位置に「ねじりバネ」をセットして制御しています。このねじりバネの線径がとても細いので、既に経年劣化で緩んでしまい、絞り羽根の戻りが緩慢な個体が最近は多いようです・・。
この細い線径のねじりバネは、上の写真左横の「絞り羽根角度制御環」をダイレクトに動かす役目なので、絞りユニットの内部構成パーツに僅かな「腐食」や最悪「錆」などが生じていると、負荷が強すぎ制御することができずに「絞り羽根開閉異常」を来します。もちろん経年劣化の進行を促す結果にもなるので好ましくありません。
今回の個体も過去にメンテナンスされた痕跡があり、グリースの粘性が「軽い」タイプを使っていたために既に液化が進んでおり、この絞りユニット内部に「腐食」と一部には「錆」まで発生していました (粘性が軽いと液化が進み錆が出てきます)。絞り羽根も「油染み」があり粘っていましたが、やはり既に一部の絞り羽根の「穴」には「変形」が生じており、ちぎれて破断してしまう一歩手前の状態でした。
何でもかんでも「ヘリコイドは軽い方がイイ」・・と粘性の軽いグリースを好まれる方が多いですが、オールドレンズの内部構造によっては逆効果でかえって寿命を短くしてしまう結果になり兼ねません。オールドレンズの「撮影スタイル」として「じっくりピント合わせをして撮る」と言うスタンスも、今でも必要性のある心がけとも考えます・・。
絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。光学系の径が大きいためにメクラ蓋が必要なので装備されていますが、当時富岡光学製のモデルではメクラ蓋を直接「ネジ止め」する方式は少なかったようです (鏡筒の外側からイモネジで締め付け固定)。この絞りユニットの構造も富岡光学製とは確信がまだ持てていない部分です・・。
鏡筒の裏側 (つまりマウント側) を撮影しました。絞り連動ピンとの「連係環 (上の写真では径が大きい黒色の輪っか)」と光学系後群用の「格納環」との間にシルバー色の径が小さい「固定環」が位置しています。
この3つの「環 (輪っか)」を仲介しているのが「50個のマイクロ・鋼球ボール」です。それぞれの環は順番に外径が小さく「入れ子構造」になっているので、もしもマイクロ・鋼球ボールを入れずに組み付けようとすると簡単に「スポッと落ちて」しまいます。一切引っ掛かりも擦れ合う部分も無く、ストンと抜け落ちます・・つまりは「マイクロ・鋼球ボール」の「径」で保持している仕組みなのがこの部分の構造で、いい調子になってバラしてしまうと組み立ての際に大変な目に遭います。
何しろ引っ掛かりが全く無い環同士ですから、片側に集中させて鋼球ボールを入れ込んでいても、反対側に鋼球ボールを入れる際に、せっかく入れ込んだ最初の鋼球ボールがポロポロと抜け落ちていきます。コツは、最初に一方にギリギリの位置で鋼球ボールを入れ込み、すぐに反対側の隙間に鋼球ボールを入れる・・これを繰り返しつつ均等に鋼球ボールを入れ込み、「中心位置」に環を配置したまま作業しないと組み上げられません。このマイクロ・鋼球ボールは全部で50個もあるワケですから、それはそれは楽しい時間を過ごせます(笑) 生産時にはきっと専用の保持具があったのではないでしょうか・・人力でこんな作業をしていたのでは生産性が悪くて仕方ありませんから。こんな作業に「職人技」を突き詰めても何の徳にもなりません。一般的には「バラしてはイケナイ」禁断の部位ですね。
今回の個体は「砂」が混入していた (ヘリコイドにも) ので「ジャリジャリ」とした感触で・・イヤだったのですが仕方なくバラして50個の鋼球ボールとシッカリ戯れさせて頂きました。
距離環やマウント部を組み付けるための基台です。明るいほぼ平滑に近い梨地仕上げ (つまりマット仕上げ) の加工を施したキレイな基台ですね。当方の「光沢研磨」にて経年の腐食箇所などをキレイに仕上げてあります・・美しい艶消しの輝きを取り戻していますよ。
このモデルでは (コニカのARマウントモデルはすべて) 先にヘリコイド (オス側) に鏡筒を入れ込んでおかないと、絞り環との位置合わせが面倒なので、ここで作業しておきます。鏡筒をヘリコイド (オス側) の内部にスライドさせて入れ込みます。
片や先ほどの基台に真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込んでおきます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので、大凡のアタリで構いません。
鏡筒を入れ込んであるヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。実際今回はミスってしまいネジ込み位置をひとつ間違えており、一度バラしてここまで戻りました・・。
この状態で基台をひっくり返した写真です。ネジ山が切ってあり「絞り環」を「ネジ込んでいく」方式で組み付ける珍しい方式ですね。
絞り環をネジ込んだ後に「EE (AE) 解除ボタン」の機構部と「絞り値制御キー」の機構部をセットします。その後に両サイドに位置している「絞り値キー」の「穴」にマイクロ・鋼球ボールをポトンと落としてマイクロ・スプリングを入れイモネジで固定します。コニカのモデルではどう言うワケか「両サイド」にこの「絞り値キー」が用意されており、絞り環のクリック感を伴った操作性になっています。片側だけで一式あればクリック感のある絞り環操作ができると思うのですが・・両サイドに必要な意味がよく分かりません。
ここで光学系前後群を組み付けてしまいます。まずは大玉の光学系前群です。
上の写真 (3枚) は光学系前群のキズの状態をご覧頂く為に拡大撮影した写真です。1枚目は前玉外周附近にある目立つ点キズを撮っています。2枚目〜3枚目はその他の極微細な点キズを撮影していますが、微細すぎてほとんど写っていません・・。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:9点、目立つ点キズ:3点
後群内:5点、目立つ点キズ:2点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:前後群共に薄い極微細なヘアラインキズが2〜3本あります。
・その他:バルサム切れなし。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
やはり上の写真 (3枚) は光学系後群の極微細な点キズの状態を撮影しています。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
純正の金属製前キャップが附属しています。後のモデルでは焦点距離が「50mm/f1.4」へと変遷していきますが、描写性能ではこちらの「57mm/f1.4」を選ぶ方がいまでも多いようですね・・。
今回の個体は光学系が非常に良い状態を維持した個体です。第4群の貼り合わせレンズにもバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が進行しておらず、またコーティングの劣化も微少なので結果的に極微細な点キズの数も少なめです。
ここからは鏡胴の写真です。経年の使用感が少々感じられる個体ですが、当方にて一部着色しています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を使用。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。極僅かな負荷を感じる箇所がありますが「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます (グリス溜まりの位置は多少移動します)。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
内部の構成パーツは、ヘリコイドも含めてすべて当方にて「磨き研磨」を施しているので、ほぼ生産時の環境に近づいた状態に戻っています。また、使用したヘリコイドグリースは、距離環を回す際は「僅かに重め」なのにピント合わせをする時は「とても軽いチカラ」でスッと微妙なピント合わせができる (ピント合わせしていることを意識したチカラの入れ具合) ことを最優先した粘性を選択しています。すでに1,000本を越える本数の整備をして参りましたが、ヘリコイドグリースに纏わるクレームは数件レベル (まだ1桁) です。
数件だとしても、この「言葉じり」を引用してクレームを付けてくる人が居ますが、感覚的な要素なのでそのようなクレームはご勘弁下さい。何かしら適確に説明したいので「コトバ」で表現しているに過ぎませんから・・。
明るい梨地仕上げの指標値環がとても美しく輝いています。描写性能としては第1世代から徳に変化は無いようなので、どの世代のモデルを選んでもイイかも知れません。
光学系後群もキレイになりました。マウント面も「光沢研磨」をしてあります。
当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。端正な素晴らしい写りです・・。