◎ MINOLTA (ミノルタ) MD ROKKOR 45mm/f2(MD)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、MINOLTA製
標準レンズ・・・・、
『MD ROKKOR 45mm/f2 (MD)』です。
標準レンズではありますが、当時発売されていた数多くのオールドレンズの中でもその筐体の薄さから俗に言う「パンケーキレンズ」に分類される数少ないモデルの一つです。
特に流通数が少ないワケでもなく珍しくもないモデルですが、当方での扱いは2016年来なので実に4年ぶりになります(笑)
特に敬遠していたワケでもないのですが、実はこのモデルの光学系が「エンジニアリング・プラスティック製の光学硝子レンズ格納筒に一体成形でモールドされている」為に、コーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが生じていたり、或いは最悪の場合カビが繁盛しているとどうにも処置できません (モールド成形なので光学系をバラせないから)。
従って調達するにもオークションの出品ページに「シロウトなので詳細不明/素人判断なので写真が全て」などの「逃げ口上」で出品されているとどうにも掴めません。光に翳して光学系内を覗き込んだ時に「薄くクモリがあるかどうか」くらいならシロウト/玄人の別なく誰が見ても判定できます(笑) さらにカビについても少なくとも「菌糸状のカビ」くらいはパッと見ただけでも誰でも分かるワケで、最近こういう低俗な出品を平気でやる人が増えてきたので困ったものです(笑)
自分が調達/落札する際は事細かくチェックし、まるで「神経質な人」レベルまで出品ページの写真をつぶさに確認しているクセに(笑)、イザッ自分が出品する立場になると平気で「逃げ口上」を書き連ねます。
はたして世界中に名声を轟かせた「思いやり大国ニッポン」と言う高い民度の国民性などと 揶揄しきりですが(笑)、どうも違っているようにも感じますね(笑)
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
1958年に自社初一眼レフ (フィルム) カメラになる「minolta SR2」を発売しますが、採用したバヨネットマウント規格「SRマウント」はまだ設定絞り値のカメラボディ側への伝達を行う機能 (爪) が用意されていませんでした。従ってフィルムカメラ側には「開放測光機能」をまだ装備していません (正式名称としてSRマウントは存在しない)。
当時発売されたセットレンズも含むオプション交換レンズ群のモデルは全て「AUTO ROKKORシリーズ」になりますが、光学系内の光学硝子レンズに蒸着されている「アクロマチックコーティング (AC)」の色合いから、俗に「緑のロッコール」と当時より今現在も含めて呼ばれ続けています。
(左写真はAUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4)
主だったモデルには全てマウント面直前に「プレビューレバー」を 装備しているので、そのレパー操作により撮影前に設定絞り値まで 絞り込む事で確認できるようになっています。
やがて1966年になるとようやく「TTL測光方式」を採用した一眼レフ (フィルム) カメラ「SR-T101」が登場し、この時に再びセットレンズを含む全てのオプション交換レンズ群が「MC ROKKORシリーズ」と一新されました。
この時に登場した「MC ROKKORシリーズ」にはマウント面に「MC爪」なる突出が用意 され「カメラボディ側への設定絞り値伝達」が実現できています。
(左写真はMC ROKKOR-PG 58mm/f1.2)
従ってマウント面の「MC爪」の有無により装着できるカメラボディ側も変わってきます。
さらに1977年になると世界初の「シャッター速度優AE/絞り優先AE/マルチプログラムAE (疑似的自動露出方式)」を採り入れた一眼レフ (フィルム) カメラ「minolta XD」を発売します。
この時に三たびセットレンズを含む全ての オプション交換レンズ群がフルモデルチェンジし「MDシリーズ」として登場します。
(左写真はMD ROKKOR 85mm/f1.7)
従来よりマウント面に突出してきていた「MC爪」の他に新たに「MD爪」が用意されます。
ちなみに「MD」の「D」は「Dual (デュアル)」の頭文字です。
従ってここでもやはり爪の有無によりカメラボディ側との干渉が発生し一部機能に制限が加わったりしていました。
ここまで当時発売された一眼レフ (フィルム) カメラとの関わりからマウント規格が進化してきた流れをみましたが、各時代に登場した (都度一新された) オプション交換レンズ群だけに注目した時「各シリーズで光学硝子レンズの色合い/緑のロッコールの発色度合いが違っている」事に気がつきます。
そもそもこの「緑のロッコール」の光彩は前述のとおり「アクロマチックコーティング (AC) 層」を指しますが、このMINOLTAが世界に先駆けて開発した「複層膜コーティング技術」の一つは、実はよく当時の旧東ドイツ (戦前ドイツ) のCarl Zeiss Jenaで開発されたモノコーティング「zeissのT」が1939年の登場である事から「世界初ではない」とネット上で解説され 続けていますが、それは違います。
MINOLTAが1958年に開発した「アクロマチックコーティング (AC)」技術は単なる「複層膜のコーティング技術」ではなく、正しくは「薄膜蒸着複層膜コーティング技術」と言い替えられます。つまり確かに本来の「複層膜コーティング技術:zeissのT」は、1939年の登場でそれこそが世界初なのですが、MINOLTAが開発したのはされらその複層膜コーティングの上から蒸着する「薄膜蒸着技術」であり、その「複層膜」の意味が全く別モノです。
つまりここがポイントで (この認識を見誤ると当時登場していたMINOLTA製オールドレンズのコーティング層自体を見誤ってしまう)「zeissのT」はそれ自体単独でしか蒸着できませんがMINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC)」はモノコーティング/マルチコーティングの別に関係なく、いずれのコーティング層にもさらに新たな蒸着層としてその次に加味させる事が可能な「薄膜蒸着技術」なのです。
簡単なコトバで表現してしまえば「まるで薬味のようにメインディッシュ (主体のコーティング層) に追加で被せられる薄膜蒸着層」と言えば理解し易いでしょうか。
そこで前述の話に戻ると、当初「緑のロッコール」として登場 (AUTO ROKKORシリーズ)
以降は、徐々にその「緑色の光彩の濃さ」が薄くなっていきます。
最後の「new MDシリーズ」が登場した1981年時点ではついに「アクロマチックコーティング (AC) 層の蒸着をやめてしまった」とも言えます。もっと正確に言うなら、当初登場した「AUTO ROKKORシリーズ」では光学系前群/後群両方の構成光学硝子レンズ面に「アクロマチックコーティング (AC)」を「緑色の光彩」として薄膜蒸着していましたが、その後の「MC ROKKORシリーズ」では光学系前群/後群のいずれか、或いは枚数を減じて蒸着しています。さらに「MDシリーズ」となるとほぼ数枚 (例えば光学系前群の第2群裏面のみなど) レベルにまで「アクロマチックコーティング (AC)」蒸着が大幅に減じられています (これらの話は全て当方が今までに数多くの個体をバラして光学硝子レンズを実際に1枚ずつ清掃して確認してきた事実)。
この事実を正しく認識する為に前述の「複層膜コーティング層蒸着の捉え方」が非常に重要になってくるワケです。従ってMINOLTAが当時のカタログなどで謳っていた「世界初の複層膜蒸着技術」と言うのは紛れもない正しい認識なのだと明言できますね。
(右写真は当時のカタログから転載したアクロマチックコーティング (AC) 層蒸着専用の釜)
ちなみにそもそもMINOLTA製オールドレンズに与えられている「ROKKOR (ロッコール)」銘は、当時光学硝子溶融工場が六甲山付近に位置していた事から転じて付けられたとの事です。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から美しい明確なエッジを伴うシャボン玉ボケが破綻して滲んで溶けていく様をピックアップしています。シャボン玉ボケの輪郭/エッジはすぐに緩やかに溶けていくので、円形ボケに至るまでの間に融解してしまい明確な円形ボケまで到達せずに大まかにボケてしまいます。
◉ 二段目
この段ではダイナミックレンジの広さをピックアップしました。暗部から明部まで黒潰れや白飛びする直前ギリギリまで粘って凌ぐので、チープ感漂うプラスティック製のパンケーキレンズながら意外にもシッカリした発色性を持っています。また右端の写真のように極端に赤色がビビッドに偏らず、やはりミノルタらしい「あくまでも人の瞳で見た自然な発色性の追求」が納得できます。
◉ 三段目
人物写真は開放f値「f1.4」クラスの標準レンズと比較してしまうとそれなりにしか写せませんが、パンケーキレンズの範疇で捉えればよく頑張っているほうではないでしょうか。焦点距離「45mm」と僅かに広角寄りですが意外にもパースペクティブは広角レンズっぽく出せるので、これはこれで貴重な存在です。
光学系はこの当時のCanonやNikonのパンケーキレンズが3群4枚のテッサー型構成を採用する中、こだわりを持った5群6枚のウルトロン型構成を採ってきています。その意味ではKONICA製パンケーキレンズ「HEXANON AR 40mm/f1.8 AE (AR)」と同一の光学系構成でもあります。
KONICAの構成図と比較すればよ〜く分かりますが、同じウルトロン型構成でも特に光学系前群の曲率を抑えて設計してきたのがMINOLTAの特徴だとも言えます。
僅か「40mmと45mm」の焦点距離相違 (開放f値:f1.8とf2の相違) ですが、例えばKONICAは第1群 (前玉) の外径が⌀ 27.47mmに対しMINOLTAは⌀ 24.39mmなので、むしろ焦点距離が長くて小径とも言えます。にもかかわらずKONICAに比べてMINOLTAのほうが上手く収差を改善し画造りをまとめているところがさすがとしか言いようがありません (逆に言えばKONICAが欲張りすぎたのか?)(笑)
それは実は描写性に対する狙いが違うからなのではないかと当方では評価しています。例えば同じパンケーキレンズで3群4枚のテッサー型陣営の写り具合と比較すると、やはりピント面のエッジの鋭さ、或いはカリカリ感はテッサー型のほうが有利であり、逆に言えば少々誇張的な表現性にお腹が一杯になることがあったりします(笑)
ところがMINOLTAのこのモデルの写りにはそのようなギラギラ感が伴わないので、ある意味 安心して観ていられる落ち着きがあります。その辺の違いが実はKONICAと比べても感じられ、特に収差の影響が多い分シ〜ンによっては極端な写真になっていたりします。
その意味でMINOLTAのパンケーキレンズは「あくまでも大人しく地味に慎ましく」みたいなイメージだったりしますね(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。モデル自体が後期のほうの「MDシリーズ」なので内部構造は簡素になり構成パーツ点数も合理化が進み少なめです。しかしこのモデルの最大の難関は「光路長確保」であり、ちゃんと適切な鋭さのある描写性で組み上げられるかどうかだと思います。何故なら、エンジニアリング・プラスティック製のモールド一体成形で光学系が作られている為、できることが限られているからです。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。ご覧のとおりエンジニアリング・プラスティック製です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させますが「位置決め環」もエンジニアリング・プラスティック製になります (金属製固定環で締め付け固定)。上の写真を見れば分かりますが、エンジニアリング・プラスティック製ながらもネジ山が利くほど硬いのでまるで金属製のように締付ネジを使えます。
ところがここで一つ大きな問題/懸念が残ります。エンジニアリング・プラスティック製である以上、どんなに硬くても「熱による膨張/収縮がある」点です。つまりある特定の温度まで耐えますが、その温度に近づくとネジ山が柔らかく変質してくるので一部のネジ山が利かなくなります。その意味でエンジニアリング・プラスティック製のパーツを使ったオールドレンズは「耐用年数を考慮していない設計」とも考えられますから、いわゆる「造りきり」の概念で当時用意されていたのかも知れません。
↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向) から撮影しました。鏡筒の外壁全てに「オスのネジ切り」が用意されていますが、一箇所に「直進キーガイド」と言う「溝」が備わっています。この「溝」を「直進キー」と言う板状パーツが行ったり来たりスライドすることでオスのネジ切りによって鏡筒が繰り出したり/収納したりする仕組みですね。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
◉ 直進キーガイド
直進キーにより変換されたチカラの方向を伝達する役目
◉ 開閉アーム
マウント面の絞り連動レバーから伝達されるチカラにより開閉環を制御する役目
「開閉アーム」の金属棒の長さ分がちょうど「鏡筒の繰り出し/収納の移動距離」にあたるワケで「距離環」を回すと伝達されたチカラの一部は最終的にこの「開閉アーム」にまで到達します。
つまり「距離環」を回した時の指のチカラは、一部がヘリコイド (オスメス) を回転させるチカラとして伝達され、一部が絞り羽根制御の為に伝達されていきます。ここが皆さんがよく思い違いしている点で「距離環」を回す時のトルクを決定づけるのはヘリコイドグリースだと言う思い込みです。
もちろんヘリコイド (オスメス) のネジ山が互いに接触しながら回転する時のヘリコイドグリースの種別/粘性も重要なのですが、その他にチカラの伝達経路として「絞り羽根開閉制御」或いは「マウント部からのチカラ伝達経路」などが大きく影響しているワケで、時に前述のとおり「開閉アーム」は常に掴まれたまま鏡筒は繰り出し/収納を繰り返しているので、必然的にトルクにも影響大ですね。
↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台で金属製になります。
↑金属製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑ヘリコイド (オスメス) がネジ込まれた状態でひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向) から撮影しました。「開閉アーム」や「直進キー」がセットされています。すると一般的なオールドレンズでは「直進キー」は両サイドに1本ずつ備わりますが、このモデルでは片側に1箇所だけなので「特に距離環を回すトルクに対してさらに影響が現れる」とも言えます (距離環を回すチカラが全てここに一極集中するから)。
↑僅か「⌀1mm」と言う微細な鋼球ボールとスプリングを組み込んでエンジニアリング・プラスティック製の「絞り環」をセットします。
↑こちらはマウント部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。当初バラした際は過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」が経年で「濃いグレー状」に変質していました。
↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」してから今回のオーバーホールでは「グリースを一切塗らずに」組み付けます。
するとマウント面から飛び出る「絞り連動レバー」がどの位置で停止するべきか決めている「停止板」が備わり、且つレバーが自動的に復帰する (戻る) 為に「捻りバネ」が1本だけ附随しています (グリーンの矢印)。
この「捻りバネ」が前述の過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」のせいで「酸化/腐食/錆び」が生じてしまい弱ってしまいますから、今回のオーバーホールで「赤サビ」を除去して微調整します。
コトバのとおり「捻りバネ」は左右に棒状に広がったバネ部を中央でクルクルと巻き上げた「ハの字型のバネ種」なので、左右に飛び出ている棒状バネ部 (ハの字の部分) の反発力が弱ってしまえば「絞り連動レバーの動きが緩慢になる」不具合に結びつきます。
従ってこのマウント部内部に「赤サビ」が発生するのは結果的に「絞り羽根開閉異常」に直結する話であり、それがそのまま「製品寿命」に繋がりますね(笑)
なお「絞り連動レバー」の途中に備わる「カム」の役目を担う金属製棒状ピンが飛び出ています。この「カム」が制御壁 (なだらかなカーブ) の勾配に突き当たることで「絞り羽根の開閉角度が決まる」仕組みです (ブルーの矢印)。
前述の「絞り環」の工程を再び掲載しますが、左写真のとおり「絞り環」の途中に用意されている「制御壁 (なだらかなカーブ)」に「カム」が突き当たるので、絞り羽根の開閉角度が決まっています。
「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、勾配 (坂) を登りつめた頂上部分が開放側にあたります (グリーンの矢印)。
従ってマウント面から飛び出ている「絞り連動レバー」には「開閉アーム」を掴んだまま、同時に「カム」により絞り羽根の開閉角度を決定づけながら、最終的に「距離環」を回すチカラにより鏡筒が繰り出し/収納を繰り返している原理です。
これがマニュアル操作のオールドレンズに於ける「トルク感を決めている要素」ですから、決してヘリコイドグリースの問題だけではない事を認知するべきですね。
↑ここで先に光学系前後群を組み付けますが、ご覧のとおりエンジニアリング・プラスティック製の光学硝子レンズ格納筒に光学硝子レンズが一体成形でモールドされているので「光学系内を清掃できない/バラせない」ことになります。
従って経年で光学系内のコーティング層に「極薄いクモリ」が生じていた場合、或いは最悪 カビが発生していた場合など内部に関しては一切処置できません。処置できるのは唯一前群/後群の表裏だけ (露出している側だけ) になりますね。
↑光学系前後群を組み付けたら完成したマウント部をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ご覧のとおり光学系前後群は「締付ネジで締め付け固定されているだけ」なので、ネジ込み式ではない分「厳密な光路長確保」に大きく影響が出る為「甘いピント面に陥りやすい懸念」があることを認識する必要があります。
途中のオーバーホール工程の中でエンジニアリング・プラスティック製の構成ハーツに用意されているネジ山は相応に硬く「ちゃんとネジが利く」と解説しましたが、その一方で耐熱性に対して弱いので「ネジ山が潰れる懸念」も同時に顕在することを認識しなければイケマセン。
何を言いたいのか???
つまり市場流通している個体の中にはネジ山が緩んでしまい締付が緩くなってしまった個体、要は「甘いピント面」の個体が隠れて流通し続けている事を覚悟しなければイケマセン。もちろんそらにプラスして「光学系内の薄いクモリ」或いは「カビの発生」は致命的だったりします(怖)
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑オーバーホール済でのヤフオク! 出品は4年ぶりですが、完璧なオーバーホールが終わりました。5群6枚のウルトロン型光学系を実装した、おそらくパンケーキレンズの中で最もアウト フォーカス部が柔らかく階調表現が滑らかな「人の目で見た自然な発色性」が魅力なモデルです。その意味ではパンケーキレンズの中でこのモデルの評価を高く認識している方が多いのも事実なのでしょう。
↑光学系内の透明度が非常に高くLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側も透明度が高くLED光照射でも極薄いクモリが皆無です。パッと見で「微細な塵/埃」に見えてしまいますが、極微細な点キズが僅かに多めです (清掃しても除去できません)。と言っても前述のとおりこのモデルの光学系は解体できないので、それら極微細な点キズは露出面に生じています。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:12点、目立つ点キズ:9点
後群内:19点、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い2ミリ長が数本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑5枚の絞り羽根もきれいになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
↑絞り環の刻印絞り値「f2」の箇所に深めの引っ掻きキズがあります。距離環を回すトルク感も滑らかでシッカリした軽さに仕上がっており、ピント合わせの時は軽いチカラだけで微動できます。絞り環操作もクリック感が確実で絞り羽根開閉も正常です。
筐体はフィルター枠と基台にマウント部だけが金属製 (赤色矢印) で、その他はエンジニアリング・プラスティック製です (グリーンの矢印)。
同じエンジニアリング・プラスティック製でも当時のフジカ製廉価版 モデル「FUJINON 55mm/f2.2」或いは「FUJINON 55mm/f1.6」のようなヒビ割れや欠損が生じる成分配合ではなく、ちゃんと耐用年数まで考慮した造りになっています。
マウント面には左写真のように「MCカプラ (爪)」と「MDカプラ (爪)」が飛び出てきますが、正しくはマウント面ではなくて「絞り環の縁に用意されている」ものの接触する先はフィルムカメラ側と言う話です。
従ってマウントアダプタに装着して今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼で使うにも何ら支障ありません。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。