◎ FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) X-FUJINON 55mm/f2.2《後期型》(AX)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
当方での扱い数は今回が累計で4本目にあたる、当時のフジカ製標準レンズ『X-FUJINON 55mm/f2.2《後期型》(AX)』です。
1970年にスクリューマウント規格である「M42マウント」を採用した、フジカ初の一眼レフ (フィルム) カメラ「ST701」が発売され一眼レフ (フィルム) カメラ市場に参入し、1972年に「ST801」1974年「ST901」と発売するものの世界的なM42マウントの衰退に逆らえず、1980年に独自バヨネットマウント「AXマウント」に規格変更します。
この時発売された一眼レフ (フィルム) カメラが「AX-1」になり、
「AXマウント」規格のオプション交換レンズ群が登場しています。
(右写真)
その中で今回扱うモデル『X-FUJINON 55mm/f2.2《後期型》(AX)』は廉価版モデルの格付として登場し筐体外装を全てエンジニアリング・プラスティック製とするバジェットモデルでした。
1980年に印刷されていたカタログからの抜粋ですが (左写真は印刷の年度を示す部分を抜粋)、戦略として開放f値「f1.6」モデルをメインに据えていた事が分かります。
また焦点距離も50mmがあるにも拘わらず55mmを用意しており、
且つそれぞれにモノコーティングとマルチコーティングを分けEBC (Erectron Beam Coating) を用意していました。
従ってパッツパツにプラスティック製の(笑)「廉価版モデル」なのが今回扱うオールドレンズと言うことになりますね。これは裏を返せば、相当厳しい状況に追いやられていたのが当時のフジカだったのではないでしょうか。
ついに富士フイルムは1982年7月に光学硝子事業から撤退してしまいました (富士フイルムの沿革/歴史より)。
今でこそ2011年の「Xシステム」登場により、ついに2014年には黒字化に転じ勢いを取り戻しましたが、かつて引き伸ばしレンズまで主力として市場を席巻していた富士フイルムの血統を感じる、ある意味「最後のフジノン」だったのがこの「AXマウント」規格のオールドレンズ達ではないでしょうか・・ロマンは広がります。
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から真円で非常に繊細なエッジを伴うキレイなシャボン玉ボケが破綻して、滲み溶けて円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。これらシャボン玉ボケを含む円形ボケについては「FUJINON 55mm/f2.2《前期型》(M42)」で詳説しているので、興味がある方はご覧下さいませ。
これだけ美しい真円で繊細感漂うシャボン玉ボケを表出できるオールドレンズと言うのは、実はそれほど多くありません。その意味で今頃になって「インスタ映え」モデルるの如く超絶な人気を博してしまったのがこの4群4枚の独自光学設計を実装してきた「55mm/f2.2」です。
◉ 二段目
さらに円形ボケが破綻しつつ、且つ収差の影響も色濃く受けながら滲んで溶けていくと、それはそれで「特殊効果」的な要素として背景を飾ってくれ、よりピント面のインパクトを惹き出してくれます。特に左から2枚のガラス花瓶の写真などは、非常にビミョ〜なト〜ンのグラデーションを、しかしシッカリと写し込んでくれておりガラスの質感表現能力も然ることながらエッジを明確に表現しており溜息が出ますね (決して収差に負けていない結実した写真)(笑)
◉ 三段目
さらにピント面には甘く優しいボカし風のソフト感を漂わせた写真も撮れるので、単に鋭いピント面だけを追求するよりも、むしろ当方などはボケ味の引き出しが多く感じられて素晴らしいモデルだと高く評価してしまいます (当方は光学の知識が疎いので)(笑)
ピ〜カン撮影でもダイナミックレンジが広い分決して負けずにご覧のとおりリアルな写真を残します。開放f値「f2.2」ながらも相応に被写界深度も狭く (浅く)、これはこれで使い方次第なのではないでしょうか。ちょっとベタ褒めすぎましたかね・・(笑)
基本的にモノコーティングなので「M42マウント」のほうの光学系と 同一の構成になり、4群4枚のフジノン型です。一部第1群 (前玉) の計測ミスが発覚したので、今まで掲載していた光学系構成図を正しました。
(実際は前玉は一体成形なので外径サイズは大凡です)
後で出てくるオーバーホール工程の写真をご覧頂くと分かりますが、 如何に前玉直下に絞りユニットを配置しているのか、この当時のオールドレンズとして考えても珍しい光学系の設計です。
この「FUJINON 55mm/f2.2」のシリーズ (光学系) が大好きなので(笑)、ついついチカラが 入ってしまいます。逆に言えばそれほど今ドキの「インスタ映え」オールドレンズと言い替える事ができるのではないでしょうか。何が出てくるから分からない楽しさを感じます。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。光学系の設計が同一なので基本的な構造概念も同じですが、マウント規格がバヨネット方式の「AXマウント」に変わった分、絞り羽根の制御方法が違う為にその反映手法に「戸惑い」を感じていたのが、単にバラしただけでも伝わってきます。
つまり各構成パーツと構造面での整合性がスマートではないのです(笑) 筐体外装がエンジニアリング・プラスティック製で、且つとても薄い肉厚の成形なので、できるだけ狭い箇所に締付 ネジの類を配置したくないハズなのですが、意外にもその辺の工夫が間に合っていません(笑) その結果工程数まで増えてしまうので、おそらくこの「AXマウント」が成功してプラス10年でも製産が続いていれば、もっと合理化が進んだ非常に扱い易い (しかし強度を保つ) 構造化に変遷したのではないかと受け取っています。
思惑や期待とは裏腹に現実は厳しいものです・・(涙)
左写真は、当初バラす前に撮影した前玉側方向から撮った絞り羽根の状況です。
ご依頼者様のお話では整備済の個体を手に入れられたとの事ですが、ご覧のように既に相当な枚数で「油染み」が発生しています (赤色矢印)。当方ではこのように「油染み」が生じている状態を以て「整備済」とは決して表示しません (出品しません)(笑)
実際にバラし始めたところの写真ですが、フィルター枠を取り外して光学系第1群 (前玉) を写しています。
写真がド下手なので皆様には申し訳ない限りですが(笑)、赤色矢印で指し示した箇所にはヒタヒタと液状化した「揮発油成分」が相当附着しています。
さらに解体を進めて、今度はマウント部の爪を外したところを後玉側方向から撮影しています。
するとやはり赤色矢印で指し示した箇所にほぼ全周に渡って「油染み」が液体状で附着しており、且つグリーンの矢印のマウント部内側にもビッチリ附着しています。
グリーンの矢印で色を変えたのは理由があり「黄褐色系グリース」だからです。一方赤色矢印のほうの揮発油成分は全て「白色系グリース」から滲み出た経年の揮発油成分です。
こちらは距離環を解体して、その内側を綿棒で拭った時の写真です。
ほぼ全周に渡って距離環の内側には「砂」が附着していました (赤色矢印)。さらに附着していた経年の油染みは「黄褐色系グリース」です (グリーンの矢印)。
いよいよヘリコイド (オスメス) まで解体しました。するとやはり「白色系グリース」が塗布されていたワケですが、既に経年劣化進行から「濃いグレー状」に変質しています。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) がエンジニアリング・プラスティック製ですが、アルミ合金材のヘリコイド (メス側) や基台も同様に「白色系 グリース」が塗られています。
この塗られている「白色系グリース」をよ〜く観察すると、実は一部分が微かに黄色っぽく 見えます。
距離環の内側を綿棒で拭った際に黄色くなりましたから、おそらく「整備時」は古い「黄褐色系グリース」を軽く拭き取っただけでその上から「白色系グリース」を塗り足した「グリースの補充」をやったのではないかとみています。
はたして「整備済」を謳いつつも、これら「砂」はいったい何処から侵入してきたのでしょうか?(笑) 相当な強風の日に窓を開けて整備作業をしていたのでしょうか・・?(笑)
違いますね(笑)、過去メンテナンスしてから最低でも一度は「砂浜」でこの個体を使って撮影をしています。つまり「整備済」と謳いつつも、実はだいぶ昔に整備した話なのでしないかとみています (おそらくグリースの劣化状況から5〜6年内)。
一度整備してから誰かが使った後のオールドレンズを出品する際に、フツ〜「整備済」を謳うでしょうか?(笑)
全く以て酷い出品者です!(怒) などと言いつつも、実は当方も同じ穴の狢「転売屋/転売ヤー」なので、同様煮ても焼いても食えない輩の類ですから人の事は言えませんね(笑)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイドけオス側) です。エンジニアリング・プラスティック製の一体成形で造られています。
「M42マウント」モデルでは光学系後群側のガラスレンズ格納筒が「金属製」だったのですが、こちらの「AXマウント」では同じエンジニアリング・プラスティック製一体成形に変わってしまいました。
つまり徹底的にコスト削減を図っています・・。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑絞りユニットの内部に組み込まれる「開閉環/制御環」を並べて撮影しましたが、この3つのパーツは「金属製」です。すると肝心な光学系のほうが格納筒までエンジニアリング・プラス ティック製に変えてしまったのに、どうして絞りユニットだけは従前の「金属製」に拘ったのでしょうか?
一瞬考えるとどう考えても光学系のほうを金属製にするべきではないでしょうか?(笑)
実は「駆動部かどうか」がポイントになります。駆動部をエンジニアリング・プラスティック製で用意してしまった場合に耐用面で限定されてしまうので逆なワケです (駆動部分は金属製)。
では絞り環も駆動部ですが、どうしてエンジニアリング・プラスティック製なのでしょうか?
絞り環のほうは手で掴んでダイレクトに操作する駆動部ですが、上の絞りユニットはマウント部のレバーからのチカラの伝達だけで駆動している箇所になりますから、その分チカラの伝達経路として余計な抵抗/負荷/摩擦があってはならないワケです。
従って「金属製」に拘る必要があったワケであり「絞り環の駆動」とはそもそも意味が (前提が) 違うのです。
このように「観察と考察」をキッチリできるか否かが、実はオールドレンズの整備者には問われる資質の一つになりますね(笑)
すると、ここの工程「絞りユニットの組み込み工程」では、可能な限り各絞り羽根に対して抵抗/負荷/摩擦を与えないよう配慮する事が肝心です。
さらに「開閉環」の他にもう一つ「制御環」が存在し、その途中に「なだらかなカーブ」が備わっています (ブルーの矢印)。
この「なだらかなカーブ」の坂 (勾配) にカムが突き当たる事で絞り羽根の開閉角度が決まる仕組みです。また「開閉アーム/制御アーム」も備わっています。
↑各構成パーツを組み付けて絞りユニットを仕上げます。「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、勾配 (坂) を登りつめた頂上部分が開放側です (ブルーの矢印)。従って上の写真ではカムが頂上で突き当たっているので「絞り羽根は完全開放状態」ですね。
すると「制御アーム」が移動すればカムが突き当たる箇所の「勾配 (坂) が変化する」事になりますし、一方「開閉アーム」が操作されると逆に「カムが動いて突き当たる」事になりますから、この2本のアームの役目が重要になってきます。
◉ 開閉アーム
マウント面絞り連動ピン (レバー) が押し込まれると連動して動き勢いよく絞り羽根を開閉する
◉ 制御アーム
絞り環と連係して設定絞り値 (絞り羽根の開閉角度) を絞りユニットに伝達する役目のアーム
◉ カム
開閉アームによりなだらかなカーブの勾配部分に突き当たり絞り羽根開閉角度を決める役目
つまり別の部位から伝わってくるチカラの伝達により、これらアームやカムが移動している ワケで、如何にそれらチカラ伝達経路が重要なのかがお分かり頂けるのではないでしょうか。
↑完成した絞りユニットを鏡筒 (ヘリコイド:オス側) に組み付けます。第1群 (前玉) のすぐ 真下 (直下) に絞りユニットが配置されている事を赤色矢印で指し示しています。
↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して後玉側方向から撮影しました。すると「開閉アーム/制御アーム」の棒状が相当長く飛び出ています。
これら2本のアームはどうしてこんなに長い棒状になっているのでしょうか?
そうですね、ヘリコイド (オスメス) の駆動により鏡筒が繰り出されたり/収納した時、絞り羽根を操作するチカラがちゃんと伝達されるよう、その「繰り出し量/収納量の分だけの長さがある」ワケです。
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ 込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
実は過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗られていたワケですが、相当「粘性の軽いグリース」だったようで「白色成分」がヘリコイドのアルミ合金材ネジ山部分に浸透してしまい、一部が白っぽく変質しています。
逆に言えば、このようにアルミ合金材が白っぽく変質していれば「軽めの白色系グリース」を塗っていた事がバレバレになります(笑) それはソックリそのまま「グリースの粘性だけでトルク調整を軽く仕上げていた技術スキルレベルの整備者の仕業」であるとも言え(笑)、それほどスキルの高い整備者ではなかった事が明白になります。
この「白色成分」がアルミ合金材に浸透したままの状態で、例えばこの次に「潤滑油」を注入したりすると化学反応を起こしてしまい「まるで接着剤のようにベタベタになる」為、1〜2年で非常に重いトルクに堕ちてしまいます。
すべてに因果関係が成り立つのもオールドレンズの世界でもあります。
↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をネジ込んだところでひっくり返して、再び後玉側方向から撮影しました。目の前にある「直進キー盤」という環 (リング/輪っか) をセットする事で、距離環を回した時に鏡筒の繰り出し/収納が実現します。グリーンの矢印で指し示した箇所が「直進 キー」の役目です。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
こんな感じで「直進キー盤」がセットされて、基台の両サイドに用意している「直進キーガイド」と言う溝部分を「直進キー」がスライドして行ったり来たりする事で繰り出し/収納する原理ですね。
↑こちらはエンジニアリング・プラスティック製のマウント部内部を撮影しています。ここまでエンジニアリング・プラスティック製ですから相当気合いが入った徹底的なコスト削減策です。
↑解説のとおりマウント面から飛び出る「開閉レバー」があるので、この構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を施し、グリースを塗らずとも一切の抵抗/負荷/摩擦が無い状態でキッチリ駆動するように仕上げています。
何故ならこの「操作爪」があるアーム (2本) は円弧状の金属製ですが、刺さっている軸が何とエンジニアリング・プラスティック製なのです(笑)「開閉レバー」が操作される時 (ブルーの矢印) そのチカラはすべてエンジニアリング・プラスティック製の「軸」に一極集中しますから、ここが折れたり破断したら「製品寿命」を迎えてしまいます。
そのような理由から「磨き研磨」に拘るワケであり、ここに過去メンテナンス時には「白色系グリース」が塗られていましたが既に赤サビが発生していました(笑)
グリースに頼りすぎるとこのような事に堕ちる良い例ですね(笑)
↑マウント部を基台にセットした後、やはりエンジニアリング・プラスティック製の絞り環を「鋼球ボール+スプリング」を組み込んでからセットします
すると絞り環には「連係アーム (爪付)」が備わっているので、その爪部分がガッチリと「制御アーム」を掴みます (グリーンの矢印)。
↑こんな感じで絞り環と鏡筒から飛び出てきていた「制御アーム」が (掴まれながら) 連係し (赤色矢印)、且つ前述のマウント面から飛び出る「開閉レバー」に附随する「爪」も、もう1本の「開閉アーム」を内部でガッチリ掴んでいます。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) に附随する「開閉アーム/制御アーム」が最終的にマウント部までチカラの伝達経路として連係し完遂する事が動作原理になるので、はたしてグリースを塗る べき箇所なのか否か「観察と考察」が重要になってきますし、その結果が結局数年で油染みを生んでしまうのかどうかを左右してきます。
すべてに因果関係がありますね・・(笑)
↑エンジニアリング・プラスティック製の距離環を仮止めしてから光学系前後群を格納し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
↑上の写真は今回の個体の光学系の光学硝子レンズを第1群 (前玉) から順に並べて撮影しましたが「M42マウント」モデルと4群4枚すべて同一です。
左写真は前回扱った同型モデル光学系を並べた写真ですが、グリーンの矢印で指し示したように第1群 (前玉) の一体成形枠には締付ネジ用の穴が成形で用意されていました (3箇所)。
ところが今回の個体にはその穴が用意されていません。第1群 (前玉) は単に鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の絞りユニットの真上に「ハマる だけ」の仕様です。
↑実際に第1群 (前玉) をセットしたところを撮影していますが、解説のとおり従来の「締付ネジによる締め付け固定」ではなく「締付環による押さえ込みだけ」に変わってしまいました。
つまり従来から設計変更しています・・。
これが意味するところをちゃんと「観察と考察」で認識できていたのかが、最終的にピント面の鋭さに表れてきます。
従来の締付ネジ (3本) による締め付け固定方式では「締付ネジを締め付ける強さで樹脂材が撓り光路長がビミョ〜に変化してしまう」から、おそらく収差レベルで検査に引っ掛かりが多かったのではないかと考えています。
そこで全体的にできるだけ均一なチカラで押さえ込んで固定する方式にワザワザ設計変更してきたのだと推測しています。
つまりこれを以て当方では「後期型」とモデルバリエーションを認識しましたが、残念ながら外見から判定できない要素なのでバラす以外方法がありません (実際は製造番号で大凡の目星が付く)。
当初バラす前の実写チェックで「このモデルにしては僅かに甘いピント面」との印象でした ので、キッチリ簡易検査具を使いつつピント面を鋭くしています。
ご指示に従い当方にとっては新たな発見を伴うオーバーホール作業に至りましたので、この ようにブログ掲載させて頂きました。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。このモデルピント面の山がアッと言う間なので (僅かに掴み辛い要素もある) 今回のオーバーホールでは故意に (ワザと) 距離環を回すトルクを「軽め」に仕上げています。特にお気に入りのオールドレンズであればあるほど、ビミョ〜なボケ具合の微調整ができる環境がありがたいハズなので(笑)、そのように仕上げた次第です。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持し個体です。LED光照射してもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
オーバーホール/修理ご依頼内容の一つであった「微細な塵/埃」や「汚れ状」或いは「第3群の外周油膜」などはすべてそのまま残っています。
① 極微細な塵/埃
第1群 (前玉) 〜第4群 (後玉) に至るまで、すべての光学硝子レンズに残っているのは「極微細な塵/埃」ではなくて、経年でCO2溶解に伴う「極微細な点キズ」なので、一応念の為3回清掃しましたが一切除去できていません。申し訳御座いません・・。
② 汚れ状
第2群にあるとのご指摘の「汚れ状」もそのまま残っています。残っていると言うか、これは「汚れ」ではなく光学硝子レンズの「コバ端」が前玉側方向や後玉側方向から覗き込んだ時に視認できているだけの話なので、除去しようがありません。申し訳御座いません・・。
③ 第3群外周油膜
こちらも②同様コバ端の影部分 (写り込み) であり除去しようがありません。
以上①〜③から、この個体の光学系内はとても透明度が高い状態を維持した個体であると、
当方では認識しています。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
ご覧のとおり、当初と同じレベルで「極微細な塵/埃」に見える、しかし実は「極微細な点
キズ」がそのまま残っています。
↑光学系後群側も (と言うか光学系の殆どが後群側ですが)(笑)、LED光照射で極薄いクモリが皆無の状態です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
光学系前群側同様に、これら「極微細な塵/埃」に見えてしまうのは「極微細な点キズ」なので3回の清掃でも除去できていません。
↑絞り羽根の「油染み」はキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑前述のとおり塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:中程度+軽め」を使っていますが、このモデルのピント面の山がアッと言う間で、且つ分かりにくいので故意に (ワザと) 距離環を回すトルクを「軽め」に調整して仕上げています。距離環を回すトルクは「全域に渡り完璧に均一」です。
↑以上、筐体の外装はもちろん内部構成パーツもほとんどがエンジニアリング・プラスティック製なので、極力内部にグリースの塗布を今回のオーバーホールでは避けています (経年の揮発油成分の原因になるから)。それでもヘリコイドグリースのせいで揮発油成分はいずれ生じますから、特に光学系の光学硝子レンズ格納筒が前群/後群共にエンジニアリング・プラスティック製である以上、内部のグリースをできるだけ減らす配慮が必要と考えた次第です (コーティング層経年劣化を防ぐ目的)。
しかしそうは言っても、本来のオーバーホール/修理ご依頼内容であった①〜③のパッと見で「極微細な塵/埃」に見える部分はそのままですし、さらに距離環を回すトルクまで「軽め」に仕上げていますので、この2点についてもしもご納得頂けない場合は大変お手数ですが「減額申請」にてご申告の上、ご請求額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける最大値は申し訳御座いませんが「ご請求額まで (つまり無償扱い)」とし、当方による「弁償」などは対応できません。
申し訳御座いません・・。
なお、当初バラす前よりも極僅かですがピント面の解像度が向上しているハズです。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影していますが、絞り環状の刻印では単なる「● (ドット)」です。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう 御座いました。
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なお、もう1本のロシアンレンズLZOS製「MC VOLNA-9 50mm/f2.8 (M42)」について以下にご案内申し上げます。
↑上の写真はバラした後で溶剤で洗浄してから撮影したヘリコイド (メス側) の内側写真です。すると赤色矢印で指し示している箇所に「ネジ山の摩耗/削れ/変形」が生じており、もともと塗布されていたヘリコイドグリース「白色系グリース」で相殺させていたので「ザリザリ感のあるトルク」だったワケです (純正グリースではありません)。
そして「その犯人を逮捕」して「ビニル袋責め」に処しています。
(オールドレンズに添付して同梱します)
何とヘリコイド (オスメス) の間に左写真の小さな「ワッシャー」が挟まっていました。おそらく過去メンテナンス時に侵入してしまったのだと思いますが、残念ながらこの金属製ワッシャーが悪さして、ヘリコイド (オスメス) のネジ山を相当な箇所で削っていました。
前述の赤色矢印で指し示した箇所以外にも複数あるのですが (ほぼ全周状態)、それらすべてを当方で「磨き研磨」して、オーバーホール/修理ご依頼内容の「ザリザリ感排除」に努めました。一部ネジ山は上の写真のように既に欠損しており、ヘリコイドを一度外すとネジ込みが できなかったので、その「欠損したネジ山数箇所の再生処置」まで執り行っています。
このような状況からとても「開封済未使用品」と言うのは不適当と判断しています。
・・と言いますか、海外オークションebayではいわゆる「常套手段」の一つなので、おそらく指摘してもたいした反応は示さないでしょうし、頻繁に行われている話でもあると思います。時々日本国内のヤフオク! でも、ロシアンレンズについて「未使用品」を謳って出品している場合がありますが、ほぼ間違いなく「新古品」レベルの話であり、未使用品ではありません。
(当方はすぐにバラして確認してしまうのでごまかしようがありません)(笑)
つまり確かに一部には製産時点の純正グリースがほぼ塊の状態で残っていましたが、とても「製産時点を維持」とは申し上げられませんね。「未使用品/ほぼ新品同様品」などのコトバに惑わされてしまいますが、届く現物はそれなりです (但し日本人の感覚と違いロシア人にはそれでも新品同様品と認識されるのかも知れませんが)。
しかしそうは言っても当方ではこれ以上の滑らかさには仕上げられませんでした。
申し訳御座いません・・。
マクロレンズなので、それを勘案した距離環を回すトルク感に仕上がるように最大限配慮したつもりですが、決して「軽め」のトルク感ではなく「普通〜軽め」程度の仕上がりの為 (いろいろと何度も申し訳御座いませんが)、こちらもご納得頂けない場合は大変お手数ですが「減額申請」にてご申告の上、ご請求額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける 最大値は申し訳御座いませんが「ご請求額まで (つまり無償扱い)」とし、当方による「弁償」などは対応できません (つまり2本とも無償扱いが限度です)。
申し訳御座いません・・。
【お 願 い】
このブログをご覧の皆様も、当方の技術スキルはこのように低いレベル止まりですので、どうかくれぐれもご承知置き下さいませ。
以上、こちらも大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。