◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASHINON DS-M 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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今月も海外から一時ご帰国される方のオーバーホール/修理ご依頼分オールドレンズを、変則的に月初から作業していたのでその分ヤフオク! への出品作業がズレ込んでいます。明日より通常のオーバーホール/修理ご依頼分の作業に戻ります。お待たせしている方には大変長い期間に渡りお待ち頂き大変申し訳御座いません。


今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、ヤシカ製
広角レンズ『AUTO YASHINON DS-M 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)』です。


この当時のヤシカ製M42マウントのオールドレンズについて、一般的に案内されている区分けは全部で3種類存在します (但し一部の焦点距離モデルは以下の区分けに収まりません)。

AUTO YASHINON-DS:モノコーティング (A/M切替スイッチ無し)
AUTO YASHINON-DX:モノコーティング (A/M切替スイッチ装備)
AUTO YASHINON DS-M:マルチコーティング (A/M切替スイッチ無し)

ところが、今回出品する『AUTO YASHINON DS-M 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)』については上記の区分けが当てはまりません。その最大の相違点は「自動手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を装備している点」です。しかし、市場を調べると「A/Mスイッチ未装備」の個体も確かに存在します。

  

上の写真は過去に扱ったモノコーティングの「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8 (M42)」の横方向と後ろ方向の写真を2枚左側にまとめました。今回出品する個体も同じ位置の写真を右側に用意しています。赤色矢印の箇所に自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) が備わっていますから、一般的に案内されているA/Mスイッチ装備の有無をもとにして区分けする方法では上記のように区分けすることができません (特にDS/DXは同じモノコーティング)。

さらに過去に「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8 (M42)」をオーバーホールした時の写真データを見ていくと、内部構造が今回のモデル「DS-M」と100%同一でした (相違点は光学系と鏡筒の設計のみ)。

すると、やはりこれらモデルの登場時期がよく分からなくなってきました。

そこで再び当時のヤシカ製フィルムカメラの取扱説明書を確認して、オプション交換レンズ群の一覧をチェックしモデル銘の記載を確認してみました。

DS-M」モデルを記載しているフィルムカメラは1969年にヤシカから発売された「TL ELECTRO」からなので、それ以前の1968年までに登場したフィルムカメラの取扱説明書は「YASHINON-R」と「DX」しか記載していません。

ところが1970年以降に登場したフィルムカメラをチェックしても、やはり「DS/DX」が交換レンズ群として案内されており「DS-M」は「TL ELECTRO」以外の取扱説明書には出てきませんでした。

● TL SUPER (1967年発売):YASHINON-DX/YASHINON-R
● TL ELECTRO (1969年発売):DS-M
● TL ELECTRO X (1969年発売):YASHINON-DX/YASHINON-R
● TL ELECTRO AX (1972年発売):YASHINON-DS/YASHINON-DX
● FTE (1973年発売):YASHINON-DS/YASHINON-DX

何故にマルチコーティング化されたモデルよりもモノコーティングを優先していたのか、当時の他社光学メーカーの戦略とは真逆なのでよく分かりません。当時の富岡光学とヤシカの状況を考えるに、両社とも経営難に喘いでいた時期なのは間違いありません (富岡光学は1968年にヤシカに吸収合併しヤシカも1974年に大規模な人員整理を行い1983年にはついに京セラに吸収/消滅)。

つまりは製産時にコストが上がってしまうマルチコーティングのモデルよりも低コストで製産できるモノコーティングを優先していたのでしょうか? そうは言ってもコーティング層の蒸着や製産工程時の手間 (人件費) などは、たかが知れているようにも思えます。
ロマンはとめどなく広がっていきます・・。

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今回出品モデルも「富岡光学製」なのですが、その原型モデルを挙げて「富岡光学製の証」をご案内した解説については、先日出品した「AUTO YASHINON DS-M 50mm/f1.7《富岡光学製》(M42)」で掲載しているので興味がある方はご覧下さいませ。

今回のモデルをバラしたところオモシロイと思ったのは、内部構造は100%モノコーティングの「DS」モデルと同一だったのですが、さすがにコーティング層の種別が異なるのでマルチコーティング化によって硝子レンズ面の表面反射のみならず収差の改善や解像度の向上も期待できる為、光学系の設計が異なります。そして自ずとそれら光学硝子レンズを格納する鏡筒の設計まで違ってくるワケですね。

光学系は7群7枚のレトロフォーカス型構成です。右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測してトレース)

DS」の焦点距離28mmと比較するとビミョ〜に各硝子レンズの設計が異なり、第3群のすぼまり方から第5群〜第6群の曲率や厚みまで違ってくるので光学系の設計が別であることがちゃんと分かります。なお、右図 部分は「空気レンズ」を表しています。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
このモデルの実写を検索してもほとんどヒットしません。発色性を見ると高コントラストであることが分かりますし、ネット上で酷評されているピント面が甘いと言う問題も特に感じません (たまたまその個体が甘いピント面だっただけ)。

二段目
明暗部の特性は今ドキのデジタルなレンズと比べればそれほど優秀とは言えませんが、この当時のオールドレンズとしてはずいぶん頑張っているほうではないでしょうか。発色性のコントラストが高い分、ダイナミックレンジも広く採ってきていると考えます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。パッと見で「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8」と違うと分かるのは光学系の設計だけなのですが、それもバラして清掃している人しか理解できないでしょう (鏡筒の相違点は微々たるもの)。部品点数が多めですが、このモデルの最も調整が難しい箇所は鏡筒裏側に集中している「絞り羽根の開閉幅制御部分」です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。

左写真は過去にオーバーホールした「AUTO YASHINON-DS 28mm/
f2.8」の鏡筒なので最深部にもう一つネジ固定するパーツが備わっている違いが分かります。

この締め付け固定ネジ (3本) が備わっている箇所はちょうど光学系後群側が格納される場所であり、絞りユニット直下に当たる光学系第5群が位置する場所になります。

すると締め付け固定ネジでパーツを用意している分、この第5群の格納位置を前玉方向にズラしていることになるので前群側との間隔が違うことになります (つまりDSモデルと同一の光学設計ではないことの証)。逆に言えば一般的に言ってもモノコーティングを単純にマルチコーティング化させただけで (コーティング種別を変えただけで) 同じ設計だとは言い切れないと考える次第です

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。当初バラす前のチェックでは絞り羽根に油じみが無いように見えたのですが、実際にバラして洗浄すると絞り羽根には赤サビがうっすらと生じていました。

しかし、その根本的な原因箇所は絞り羽根自体ではなく、絞り羽根が刺さる「位置決め環」側にビッシリと赤サビが出ていたのが影響していたのです。従って「磨き研磨」して赤サビを除去しなければイケナイのは絞り羽根のほうよりも「位置決め環」と言うことになりますね。

よく整備の必要がないとか調整ができないからと言って、この絞りユニット部分をバラさずに「丸ごと溶剤漬け」している人が居ますが(笑)、根本的な考え方で間違っています。

絞り羽根は光学系に入ってきた入射光を遮ることで光量を調整する役目ですが、その為に開いたり閉じたりする動きをしています。その動作をする仕組みをちゃんと理解していないから「丸ごと溶剤漬け」で良いと考えてしまいます(笑)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

絞り環を回すとことで「制御環」が連動して回り絞り羽根の開閉角度が決まるので、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれることで絞り羽根の「開閉アーム」が瞬時に移動して「位置決めキーを軸にして開閉キーが移動することで絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

つまり「位置決めキー」は軸ですから位置は変化しませんが「開閉キー」の位置は絞り環操作に従い絞りユニット内部で移動している仕組みです (だから絞り羽根の角度が変化する)。するとこれら2つの「キー」が垂直でなくなると絞り羽根の開閉角度に影響が出てしまい「絞り羽根が閉じていく際に歪なカタチになる」結果に繋がります。

もっと言えば「キー」が外れてしまうと絞り羽根の制御ができなくなるので光学系内を覗いた時に1枚だけ絞り羽根が飛び出てきているなどという不具合が発生したりします。「キー」は一般的に製産時にプレッシングで打ち込まれている為、一度外れたらもう二度と戻すことができません (つまり製品寿命に至る)。

では、その「キー」が外れる (負荷が増大する) 原因は何でしょうか? もちろん「油染みの放置」が最も大きな要因なのですが (特に油染みが粘性を帯びてくると/絞り羽根の動きが緩慢になってくると最終段階)、その油染みを除去する為に洗浄するのが整備の目的です。

ところが「丸ごと溶剤漬け」すると「界面原理」が働き極僅かに残留した経年の揮発油成分が再び新たな油成分を引きつけてしまいます。具体的には「キー」の付け根の周囲や位置決め環の穴に残留した揮発油成分が集中します。そしてそこに新たな揮発油成分が附着を始めるので、結果的に「キーの周りが錆び始める」現象を用意することに繋がります。

いい加減な整備を施すことで、結果的に製品寿命を存えられない要素を残していることに結びつくことを是非とも認識してもらいたいものです。

↑「富岡光学製の証」の一つですが、鏡筒をヘリコイド (オス側) の内側にストンと落とし込んでから締め付け環で固定する方式を採っている為、この鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を微調整する考え方です。つまり上の写真「調整キー」を微調整することで絞り羽根が閉じる時の大きさが変化し、それはそのまま絞り値との整合性が一致するのか否かに繋がります。

例えば自分では絞り環を回して設定絞り値「f8」で撮っているつもりが、実際は絞り羽根の閉じた大きさが適合しておらず「f11」に近づいた光量だったりするなど、この「調整キー」の微調整でキッチリ絞り環刻印絞り値と整合性を保たせる設計です。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側を撮影しました。ほぼ全ての制御系パーツがここに一極集中しています。

制御アーム」は絞り環と連結して一緒に動くので、上の写真で直下に写っている「なだらかなカーブ」に「カム」が突き当たることで設定絞り値の絞り羽根開閉角度が決まり絞りユニットに伝達されます。

ところが一般的なオールドレンズではこの「なだらかなカーブ」の麓が「最小絞り値側」で勾配を登りつめた頂上が「開放側」なのですが、このモデルでは真逆です (グリーンの矢印)。一方「開閉アーム」はマウント面に用意されている「絞り連動ピン」が押し込まれると、その押し込んだ量の分だけ操作されて設定絞り値まで絞り羽根を閉じるチカラが伝わります。

ブルーの矢印 (2本) で指し示していますが、このモデルは「位置決め環/開閉環」共に動いてしまう設計なので (その為スプリングが2本存在する) 一般的なオールドレンズのように「位置決め環側が固定」ではありませんから、互いに引張力の調整が必須になります。従ってこのモデルは「原理原則」を理解している相当高い技術スキルを有する人でなければ、適切な正しい絞り羽根の開閉動作をセットできません。もちろんこの調整をミスれば絞り環刻印絞り値と実際の絞り羽根の開口部の大きさ (絞り羽根の開閉幅) との整合性もズレが生じますから、意外と重要な調整箇所です。

光学系を組み込んでヘリコイドもセットして最後まで組み上げてから実写して、実際に絞り環操作で各絞り値での絞り具合を検査して初めてここの調整が適切であるのかが判明します。よく「絞り羽根のカタチが歪」と言ってクレームしてくる人が居ますが、確かに絞り羽根が閉じていく際のカタチが歪だと、設定絞り値によってはそのカタチのままボケが表出してしまい写真に写ってしまいます。然し、そもそもその絞り値自体がズレていれば元も子もありません (歪なカタチのボケ具合がもっと滑らかだったのか逆に明確であるべきなのかの相違が出てくる/設定絞り値の範囲が違ってくる)(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) をやはり、無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で6箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成はパーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。経年の揮発油成分のせいで一部に酸化/腐食/サビが生じていました。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」してセットします。今回のモデルは自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を装備しているので、内部に附随している「捻りバネ/板バネ」の調整が適切でなければ、絞りユニットの「開閉アーム」の操作が正しく行われず、それがそのまま「絞り羽根の開閉異常」に繋がりますし、良くても設定絞り値との整合性が保てなくなります。

マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「開閉レバー」が移動して () 絞りユニットから飛び出ている「開閉アーム」を操作し絞り羽根を閉じます。従って捻りバネ/板バネ」の反発力が適切でなければ「開閉レバーの移動量が変わってしまう」ので絞り羽根の開閉が適切ではなくなってきます

オールドレンズの内部は各部位がそれぞれ密接な関係で影響してくるので、特に「チカラの伝達経路」が非常に重要なチェックポイントになってきます。しかし意外と過去メンテナンス時に蔑ろにされたまま (下手するとグリースを塗っただけで済ませている) だったりします(笑)

当方は1日に1本しかオーバーホールできませんが、それは「原理原則」に則って絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を簡易検査具で確認しているからであり、いちいち最後まで組み上げては実写で絞り環操作して絞り値との整合性をチェックしているからです。

逆に言えば、上の写真はあくまでもこのブログでオーバーホール工程の解説をする為だけに撮影しているのであって、実際の工程手順とはかけ離れていますからこのページの工程を参考にして組み上げても適切な調整には至りません(笑)

↑完成したマウント部を基台にセットします。

↑さて、ようやく出てきました。この工程が「富岡光学製の証」を解説しています。

このモデルは絞り環を回す時クリック感を伴い1段ずつ設定絞り値を変更できますが、そのクリック感を実現している仕組みが他社光学メーカーとは全く異なる「富岡光学製オールドレンズだけに見られる独特な設計」である点を上の写真で示しています。
(上の写真では指標値環だけがヒックリ返って上下逆に写っています)

鋼球ボール+スプリングは絞り環にセットされる。
絞り値キー (各絞り値に見合う) は指標値環側に用意されている。
制限キー (グリーンの矢印) がセットされ指標値環固定位置と距離環駆動域を決めている。

この時、指標値環はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定されますが、その固定位置をミスると絞り環操作した時のクリック位置と絞り環刻印絞り値とがズレてしまいチグハグになります。逆に言えば、位置調整が必須なのでイモネジで締め付け固定していると言えます

制限キー」は必ず真鍮製で用意されており、且つ向きの調整で制限範囲までビミョ〜に変化します (完璧な長方形をしていない)。つまりそれによって指標値環の固定位置までズレますしひいては距離環の駆動域も僅かですがズレます。

この当時の他社光学メーカーで採用していた設計 (左写真) は、マウント部側 (或いは基台側) に鋼球ボールを入れ込んでしまい「絞り環の内側に絞り値キー/溝が刻まれている」方式が多く、ワザワザクリック位置を調整する工程を省いています (赤色矢印)。

富岡光学はこのような調整を伴う設計をレンズ銘板に「TOMIOKA」銘が刻印されていたM42マウントのオールドレンズ時代から延々とず〜ッと続けており、マウント種別が「C/Yマウント」や他のマウントに替わるまで踏襲されました。

従ってバラさなければ判明しませんが、このような設計になっていれば100%間違いなく「富岡光学製」です (レンズ銘板にTOMIOKA刻印があるオールドレンズと同一の設計だから)。

↑イモネジの締め付け位置を調整した上で指標値環をセットしたところです。もちろんこの状態で絞り環を回した時のクリック感と刻印絞り値とがピタリと適合しています (ちゃんと刻印絞り値の中心でクリック停止します)

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を鏡筒に組み込んでセットし無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑海外オークションebayでも数ヶ月に1〜2本レベルでしか出回らない少々品薄状態が続くモデル、ヤシカ製広角レンズ『AUTO YASHINON DS-M 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)』です。「DS-M」なのでマルチコーティングなのですが大変美しいグリーン色の光彩を見る角度によっては放ちます。

今回の個体は残念ながら光学系内の至る箇所にカビが生じており、第1群 (前玉) も左写真の赤色矢印で指し示した箇所は裏面側のグリーン色コーティング層が剥離してしまい、その下のパープルなコーティング層が表出しています (全て前玉外周附近に集中しています)。これはコーティング層を浸食したカビが清掃時に除去されるので剥がれてしまうワケです (コーティング層の蒸着が経年劣化で弱っているからカビ除去と共に一緒に剥がれる)。

なお、当初バラす前のチェック (或いは調達時の掲載写真) ではこれらカビの発生状況は視認できませんでしたし、もちろんカビがあると知っていて入手したワケでもありません。

各光学硝子レンズを1枚ずつ清掃していると、カビ除去薬を垂らした瞬間にその拡散状況を見ただけでカビ発生の有無が判断できたりします。今回の個体も各硝子レンズの清掃時にそれをチェックしながら清掃した次第です (確実に清掃/除去できています)。

また、オールドレンズの光学系内にカビが生じる際、その因果関係の根本は「経年の揮発油成分」が原因なのですが、それによって引き寄せられ留められてしまった水分/湿気に含まれる有機物を糧にしてカビが生じ繁殖します。するとその時、原因たる「経年の揮発油成分」は光学系内でどのように光学硝子面の表面に附着していくのでしょうか?

これはオールドレンズをバラして数多くの光学硝子レンズを清掃していると、その個体別の経年揮発油成分の状況と共にある要素が見えてきます。

それは「界面原理」であり、例えば今回の個体の前玉で言えば、中心部よりも外周附近に先にカビが発生します。隅のほうが留める率が高くなるからですね。例えばコップに水を入れていって溢れる直前で止めた時、入れた水がコップの端よりもさらに盛り上がる表面張力もそうです。一方イキナシ中心部にカビ菌が繁殖している場合はどうでしょうか?

これは「界面原理」と言うよりも、そもそもコーティング層の経年劣化進行により、たまたまその箇所のコーティング層にクラック (微細な剥離) が生じて、そこに留まってしまったが為にカビ菌の胞子が繁殖してしまったと考えられます (水分/湿気が留まる際は界面原理が働いている)。もちろんカビ菌と言っても様々な種別が存在し必ずしも好湿性ばかりとは限りません (好乾性もある) し、もっと言えば例え電子防湿庫の中に保管していても、オールドレンズ内部にはカビ菌の胞子が自由自在に往来しているのが現実です。重要なのはカビ菌の胞子の栄養源になり得る水分/湿気を留めてしまう要素たる「経年の揮発油成分」を可能な限りオールドレンズ内部に留めないことが大切ではないかと考えますね。何故ならカビ菌はオールドレンズの構成パーツである金属 (アルミ合金材や真鍮材) 或いはグリースや固着剤の類など、凡そ無機物を糧としては繁殖できないからです。

カビとは異なりますが、光学系内 (特にコーティング層表層面) に留められてしまった水分/湿気に含まれるCO2 (二酸化炭素) も、実はその溶解の際にコーティング層を浸食し光学硝子レンズの表層面に影響を来します。それが当方が「極微細な点キズ」と表現している箇所になりますが、一見すると「/」に見えてしまうので「埃が多い」などのクレームに繋がっています。然しそれは何度清掃しても除去できません。そもそもポツッとコーティング層がクラック (剥離) している箇所なので、確かに見た目では「微細な塵/」に見えるのでしょうが、LED光照射すると物理的に光学硝子面を浸食しているので (従ってLED光照射で視認できてしまう)、清掃でどうにかできる問題でもなく当方の技術スキルの問題から光学系内をキレイに清掃すらできないヤツだと言われる始末です(笑)

要は経年劣化に伴いコーティング層を破壊していく原因 (カビの発生やクラックなどに至る) になる、オールドレンズ内部を廻っている「経年の揮発油成分」はできる限り少ないほうが安心だと言えますし、ひいては将来的にオールドレンズの製品寿命を存える一つの手段になり得るのではないかと言うのが当方の考えです。その為に「DOH」に拘ったオーバーホールを施している次第です (グリースに頼った整備をしない/できる限りグリース塗布量を少なくする)。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体ですが、こちらも残念ながら前玉裏面と後群側の第6群にコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリがLED光照射ではほぼ全面に渡り視認できます。一応念の為に実写確認しましたがスタジオ撮影やその他の試写では影響が出ていません。

年を追う毎に皆様のクレームが重箱の隅を突くが如く大変細かくなってくるので、逐一ご案内するのが大変です。そもそも未整備のオールドレンズに比べれば大変キレイな状態を維持した光学系なのですが、そうは言っても整備したとなると今度は逆に「整備の問題」を突いてくる人が後を絶ちません(笑)

もちろん人の感覚/受け取り方はバラバラなのですが、然し「透明度」となると100%クリアであることを透明と言うのだと頑なにご指摘される方もいらっしゃり、はたしてそのようなオールドレンズがどれだけの量で市場を出回っているのか考えた時に疑問に感じたりします。

当方の技術スキルが低い問題もあるので、気にされる方は当方がオーバーホール済でヤフオク! 出品するオールドレンズのご落札はスル〜したほうが良いと思います。もっと信用/信頼が高いヤフオク! の出品者様がたくさんいらっしゃるので、そちらをお勧め致します

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。前玉裏面側の極薄いクモリも撮影できていません (反射の具合で薄く曇っているように見えますがLED光照射しないと視認できないレベルです/撮影で撮ることができませんでした)。

↑光学系後群側も透明度が高い状態を維持していますが、前述のとおり第6群にLED光照射で視認できるほぼ全面に渡る極薄いクモリが生じています (順光目視では視認できません/LED光照射でないと分かりません)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。第6群の極薄いクモリも撮影できていません (反射の具合で薄く曇っているように見えますがLED光照射しないと視認できないレベルです/撮影で撮ることができませんでした)。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:9点、目立つ点キズ:4点
後群内:10点、目立つ点キズ:6点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
但し第6群はコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリがほぼ全面に渡って生じています。
(事前告知しているのでクレーム対象としません)。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。開放から絞り羽根が閉じる際に歪なカタチにならず「正六角形を維持」しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっていますし、唯一存在するクロームメッキの「銀枠飾り環」も「光沢研磨」したので当時のような艶めかしく眩い光彩を放っています。もちろん「エイジング処理済」なのですぐにサビが出たりカビが生じたりしませんし、距離環のラバー製ローレット (滑り止め) も業務用中性洗剤で洗浄しているので気持ち悪くありません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑珍しく自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を装備しているほうの『AUTO YASHINON DS-M 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)』です。もちろんA/Mスイッチの切替動作も確実に連係するようチェック済なのでフィルムカメラに装着してご使用頂いても大丈夫です。

この当時の同一焦点距離のオールドレンズで、最短撮影距離が25cmくらいになるとモデル銘に「MACRO」の刻印が附随していたりしますから、今回のモデルは最短撮影距離が30cmですからほぼ近い距離まで寄れるので有難いですね。但し「MACRO」と言っても本当のマクロレンズとしての光学設計ではないので、あくまでも「疑似マクロ」的な意味合いで当時流行っていただけの話です。

その意味ではマクロレンズの範疇には入りませんし、もちろんスイス製標準レンズなどで有名な「MACRO-SWITAR」などと比較しても光学系の設計概念が違うので、モデル銘にMACRO文字を附随させた「疑似マクロ」をマクロレンズと騒ぐワケにはいきません (マクロレンズは最短撮影距離の接写時に特化した光学系設計をちゃんとしているから/MACRO-SWITARはちゃんと接写域での光学設計をしている)(笑)

また以下の実写をご覧頂ければ一目瞭然ですが、一部ネット上で案内されている「甘いピント面/解像度不足」とも言えないと考えます。これだけピント面の鋭さが出ていれば充分なのではないでしょうか。被写体ミニカーの浮き出し方など、まさに高コントラストとピント面の鋭さが相まり具体的な描写性として写っているように思います (写真がド下手なのでまるで合成写真の如く見えますが)(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮っています。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。

↑試しにミニスタジオで最短撮影距離30cm付近で被写体のミニカーの後に光りモノを置いて円形ボケの表出状況を撮っていますが、たいして明確に表出しません(笑)