◎ Heintz Kilfitt München (ハインツ・キルフィット・ミュンヘン) Makro-Kilar E 4cm/f2.8 ●●● (black)(M42)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回扱うのはオーバーホール/修理のご依頼分になり、そのご依頼内容は「距離環のトルクを軽くしてほしい」との事ですが、届いた個体をチェックしていくと以下のような問題点が出てきました。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すトルクが異常に重い。
フィルターがはめにくい。
 光学系内の清掃。
最小絞り値まで絞り羽根が閉じきっていない。
プリセット絞り環が浮きすぎている (隙間が空きすぎ)。
ピント面が僅かに甘い印象。

【バラした後に確認できた内容】
絞り羽根の組み付け向き (表裏) が逆。
光学系の光路長確保が適正ではない。

・・とこんな感じですが、ご依頼者様からのご依頼内容は上記だけです。

  ●               ● 

今回のモデルは1955年に旧西ドイツのKamerabau-Anstalt-Vaduz (Heintz Kilfitt Münchenの最初の社名) から発売された、世界初のマクロレンズの「後期型」にあたります。この当時の背景やこのモデルに関する解説は、過去に扱った「Makro-Kilar E 4cm/f2.8 (black) (exakta)」をご覧下さいませ。

光学系は3群4枚の典型的なエルマー型ですが、レンズ銘板には「」刻印があるので「アポクロマートレンズ」を意味しています。ちなみにこの刻印は当初のKamerabau-Anstalt-Vaduz時代のモデル「前期型」では「」の順で刻印されており、入射光3波長に対する色消しの設計が変化している事が分かります (単なる並び順の違いではない)。

アポクロマートレンズ
厳密に入射光の3波長に対して色収差の改善を図ったレンズを指す

すると、このモデルで言えば第1群 (前玉) の光学硝子にランタン材が 含有されており僅かに「茶褐色」に見えます。

当方がこのモデルを気に入って愛用している最大の理由をひと言で表現すると「味付けのない客観性」です。

確かにマクロレンズなので対物レンズとしてマクロ撮影に適しているワケですが、実はこの後の時代 (特に1970年代前後) に登場した、いわゆる巷で銘玉と揶揄されている数多くのマクロレンズとこのMakro-Kilarは、大幅にその描写性に於いて違いがあります。

後世に登場したマクロレンズの多くが「何かしら味付けが施されている」のに対し、この
Makro-Kilarにはその味付けが一切ありません。それは例えばトロトロボケに溶けるような滲み方に光学設計してきたり、或いは繊細なピント面のエッジを伴ったりなど、凡そ飾り付けが施されているのが後世に登場したマクロレンズですが、そのような飾り付けが一切無いので 良く言えば「ドライな印象の画造り」であり、悪く言えば「個性を感じない味気なさ」とでも言いましょうか。

それは例えば被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の部分で大きく相違が表れてきます。金属質の表現性に於いて、今ドキのマクロレンズを使うとどうしてもキレイに写ってしまうので(笑)、いわゆるオールドレンズとしての (特に当方は完全解体してバラしているので) 古いパーツの表情を撮りきれていない事がままあります。

その不満を解消してくれたのがこの世界初のマクロレンズMakro-Kilarだったワケであり、
もはや手放せない状況です(笑)

被写体の「素の状態」をありのままに包み隠さず撮ろうと考えるなら、当方にとってこれ以上のマクロレンズは存在しないと今でも感じています

今回の個体は冒頭の問題点のとおり、当初バラす前の実写で「僅かに甘いピント面」との 印象でした。その解説も交え以下でオーバーホール工程をご案内していきます。

※使用可能フィルターは外径:⌀30mm/厚み:4mmのコニフィルターです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルを完全解体できるスキルを持っている人はそれほど多くなく、且つヘリコイド (オスメス) のトルク調整や特に光学系の光路長確保まで微調整するとなると、なかなか難しかったりします。

冒頭問題点のとおり、当初バラす前のチェック時点では距離環を回すには非常に重いトルクだったワケですが、その原因は過去メンテナンス時に塗布されたヘリコイドグリースが「機械用黄褐色系グリース」だったからに他なりません。おそらくだいぶ前にメンテナンスされている個体なのではないでしょうか。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。3群4枚のエルマー型光学系を実装するワケですが、第1群 (前玉) 径が僅か「⌀15.13mm」しか無いので、とても小っちゃな鏡筒です。

まず最初のポイントは、この鏡筒をちゃんと取り出せたのかどうかが問題になってきます (また後で解説します)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

冒頭問題点で指摘しているとおり、当初バラす前のチェック時点で最小絞り値「f22」まで閉じた時に「絞り羽根が開きすぎている」ように感じた為、実際に簡易検査具で絞り値を検査してみると、やはり「f16」にも到達していない状況でした。

するとこのモデルは「絞り羽根開閉幅の微調整機能」を装備していないモデルなので、辻褄が合いません (絞り羽根開閉幅が狂うワケがない)。

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく際の開口部の大きさ/カタチを表し制御する「入射光量」を意味する

つまりその答えは一つしか無いのでバラす前の段階ですぐにピ〜ンと来ましたが(笑)、バラしてみれば一目瞭然。過去メンテナンス時に「絞り羽根の表裏を間違えて組み込んでいる」事が分かりました。

実はオールドレンズをバラしていると時々このようなミスが過去のメンテナンス時に起きているワケですが(笑)「単にバラして組み戻すだけの整備をしている整備者が居る」事を示唆しています。「観察と考察」をしておらず、もちろん「原理原則」すら理解できていない整備者なので、そもそもオーバーホールする資質自体がありません(笑)

逆に言えば「原理原則」を理解できている整備者なら、取り外した絞り羽根の向きは見ただけで表裏を指定できます (いちいち記録しておく必要が無い)。従って組み付ける際に表裏を間違える事があり得ませんね(笑)

かく言う当方も今までに2,000本以上オーバーホールしてきて、絞り羽根の表裏を間違えて組み込んだ事は1本もありませんが、そうは言っても作業中に枚数が多い場合には (緊張が途切れて) 一部の絞り羽根だけ表裏をミスって組み付けていたりします(笑)

もちろんオーバーホール工程の中の検査段階で引っ掛かり判明しますから、結果的に1本も間違えたまま仕上げた事がないことになります。

↑10枚の当時としては先進的な「フッ素加工が施された絞り羽根」を組み付けて絞りユニットを完成させます。ご覧の大きさが最小絞り値「f22」の閉じ具合であり、前述のとおりこのモデルは「絞り羽根開閉幅微調整機能」が備わっていない為、開閉幅が狂う事があり得ません

逆に言えば、経年によって絞り羽根に打ち込まれている「キー」の向きが垂直を維持しなくなった場合には、絞り羽根の閉じ具合に影響が出ても改善のしようが無いことに繋がりますね。

このように一つの事柄 (ここで言えば絞り羽根の開閉幅微調整機能が備わっていない点) を「観察と考察」で知る事により、合わせてそこから派生する様々な問題点をちゃんと頭の中で整理できたのか否かが、その後のトラブルの対処で改善度として実際に現れてくるワケで、オーバーホール/修理を承れる技術スキルを有するのかどうかが決まってきます。

従って「単にバラして組み戻しているだけの整備者」は、いつまで経っても「原理原則」が理解できないので、様々なトラブル時に「ごまかして整備する逃げの常套手段」ばかり使うハメに陥ります。

しかしそのような「ごまかしの整備」も当方がバラすと総て白日の下に曝される運命です(笑)

今回の個体に関して言えば、過去の整備者は「原理原則」を全く理解できていないので、絞り羽根の表裏が違えている事を全く気がつかないまま組み込んでいます (何故なら10枚全てが同じ向きだったから)(笑)

↑このモデルは絞りユニットの「開閉環」を締め付け固定する役目を「光学系前群」の格納筒が兼務している為、ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます (上の写真は光学系前群側をセットした状態を撮っています)。

すると冒頭問題点のとおり、当初バラす前の実写チェックで「ピント面が僅かに甘い」印象だったワケですが、その原因は何の事はなく「経年で着色されてきた黒色反射防止塗料の塊のせい」だったワケです(笑)

つまり、第1群 (前玉) を締め付け固定する「締付環」にビッチリ塗られている黒色反射防止塗料がガチガチに固形化している為に、締付環を締め付けていく時の「圧力」に影響を来し、ちゃんと最後までネジ込めていなかったことになります。

ここでよく行われている整備者の所為が一つ思い浮かびます。非常に多くの整備者が「光学系の締付環に固着剤を注入して固定している」ワケですが、さらにプラスしてその「締付環」に経年で塗布されている「黒色反射防止塗料」を一切除去せずにそのまま使っています(笑)

この当時の光学メーカーの設計諸元書をチェックすると、たいていの光学メーカーで設計時の許容誤差は「±0.02mm」だったりします。はたして「締付環」に固着しているそれら古い「黒色反射防止塗料の塊」が影響して、ちゃんと最後まで締め付けできているのか否かが問題にならないと、どうして断言できるのでしょうか?(笑)

例えば今回のモデルで言えば、光学系第1群 (前玉) の外径は「⌀15.13mm」程度ですから、さらにその前玉を締め付け固定している「締付環」は小さなアルミ合金製です。その「締付環」の締め付けがどうして最後まで確実に締め付けられていると言い切れるのでしょうか。

少なくとも当方は、過去に塗布された古い (ガチガチに固まった)「黒色反射防止塗料」を総て確実に削ぎ落としてから締め付け固定します (必要があれば最後にまた黒色反射防止塗料を着色すれば良い)。

オールドレンズをバラしているとよくある事なのですが、過去に使われていた「固着剤」や、このような「黒色反射防止塗料」をそのまま流用している整備者が非常に多いのですが(笑)、はたしてその都度組み上げていく時の固定位置が、過去の固定位置とは100%ズレていないとどうして断言できるのか、当方はいつも不思議で仕方ありません(笑)

例えば単なる締め付けネジ一つでも、ネジ穴には「マチ (極僅かな隙間)」があったりしますから、どうして100%過去と同じ位置で固定できていると言い切れるのか、当方には残念ながら説明ができません。

つまりオーバーホールに限らず、オールドレンズをバラして整備する上で「微調整」は必須であり、同時に調整する以上「検査」も必ず実施しなければイケマセン。もっと言えば、はたして光学系を外して清掃している人達は「どうやって光路長検査をしているのか」ですね (いつも不思議に思います)(笑)

↑面倒なのでここで先に光学系後群側もセットしてしまいます。するとご覧のように鏡筒の周囲には「締め付け固定用のネジ穴 (4箇所)」があります。つまりこのモデルの鏡筒は締付ネジによる固定方法を採っているワケで、絞りユニットをバラそうと考えたらこの鏡筒を取り外す必要があるワケです。

ところが・・はたしてどうやってこの鏡筒を鏡胴 (ヘリコイドオスメスの筒の中) から取り出すのでしょうか?(笑)

何を言いたいのか?

つまりこの鏡筒を取り外して整備していない場合は「綿棒などを使って絞り羽根を拭いて掃除しただけ」と言うことになります(笑)

このような部位でも、ちゃんと何処まで完全解体して整備したのかが明白になってしまいますね(笑)

よく「完全解体に拘らない」と威張って明言している整備者が居ますが(笑)、ではその個体の経年の汚れや揮発油成分はどうやって清掃したのか、説明してほしいものです(笑) もっと言えば、解体していない箇所と解体した箇所との微調整の整合性をどうやって執ったのか教えてほしいです (当方の後学の為参考にさせて頂きます)。

完全解体しなくても良いなどと、全く以て意味が分かりません・・(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台 (ヘリコイド:オス側) です。このモデルは基台がヘリコイド (オス側) を兼務しています。

↑まず最初に基台に「絞り環」をセットします。どの位置までネジ込めば適切になるのかがポイントなのですが、残念ながら過去メンテナンス時の整備者はその辺もいい加減だったようです(笑)

冒頭問題点の「プリセット絞り環が浮きすぎ」の根本原因は、この「絞り環」のセットミスです。「絞り環」には「絞り値キー」言う円形の溝が用意されており、そこに鋼球ボールがカチカチとハマる事で「プリセット絞り環のクリック感」が実現されます。

↑一方こちらは「プリセット絞り環」ですが伏せて撮影しています (下側がレンズ銘板側)。するとその途中に解説のとおり「円形ハガネ (鋼)」がセットされており、この内部に「3つのダボ」が組み込まれています。

左写真はその「ダボ (3個)」を並べて撮りましたが、ネット上や一部の解説で「鋼球ボール」と案内されているのは間違いで、ご覧のように「ダボ」です。

この「ダボ」はフィルター枠を兼ねる「フロントベゼル」をカチャッとハメ込む (シッカリ保持して固定する) 役目として備わっており、鋼球ボールではありませんね(笑)

ご依頼者様のご要望で「フィルター枠のハメ込みが硬い」とありましたが、残念ながらご覧のように「ハガネ」を使っているので、この強さを調整する事はできません (弱くしようとチカラを入れると折れる/破断する)。

実際のところ、このモデルの「フロントベゼル (フィルター枠と呼ばれているパーツ)」は、相当なチカラでガチャッとハメ込んで全く問題無いので、怖がらずにガチャッとやってみて下さいませ。

↑「プリセット絞り環」を撮影しました。

↑「鋼球ボールスプリング」を組み込んでからご覧のように完成した「プリセット絞り環」を組み込みます。当初バラす前の時点で隙間が空いていたので、キッチリ詰めています (この状態が正しい状態です/隙間は空きません)。

↑完成した基台 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して鏡筒を4本の締付ネジを使って締め付け固定しました。

例えば鏡胴 (ヘリコイド:オスメス) の隙間からドライバーを差し込んで、この4本の締付ネジを取り外す事は可能ですが、ネジを外しても鏡筒自体は取り出す事ができませんね(笑) そこで仕方ないので綿棒などを使って絞り羽根を拭いて整備した事にしている整備者が多いワケです(笑)

↑後玉にガイドをセットします。

↑企業秘密なのでヘリコイド (オスメス) の組み込み工程をご案内しません(笑) 既にヘリコイド (メス側) の鏡胴を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込んでいます。このモデルは全部で26箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりましたから、このモデルのベストな状態まで仕上がっています。今回の個体は珍しい事にちゃんとフィルターが填っています。

ネット上の解説や一部ライター (執筆者) の記事で「フード」と案内されてしまいましたが(笑)、決して「フード」ではありません。

そもそも光学系の第1群 (前玉) が最も奥まった位置にセットされているのがマクロレンズですから、フードの役目はちゃんと筐体自体が反射防止の役目を兼ねていますね?(笑)

もっと言えば、レンズ銘板から「僅か3mmしか突出しない」のに、いったいフードの役目を果たせるのでしょうか?(笑)

このパーツは「フード」ではなくて「フィルター装着用のフロントベゼル (前カバー)」です。例えばムリヤリですがレンズ銘板の直下辺りにフィルターを少々強制的にハメ込んでしまう事は可能です。

しかしそもそも開発/設計者のHeinzt Kilfitt氏は「第1群 (前玉) 直前にフィルター装着」しか認めていません。何故ならフィルターの光学硝子面との反射など影響を極力抑えたいからです。

従って上の写真のように「フロントベゼルにフィルター装着」して使うのが正しいセット方法になります。なお前述のとおりこの「フロントベゼル」は強めにガチャッとハメ込んでしまって構いません (何処かにキズが付いたりしません/ちゃんと水平を保ってハメ込む)。

なお、冒頭問題点のフィルター着脱に関しては、そもそも予めセットされていたTEFFENのフィルター外径が大きすぎる為に最後まで入りきらずに (斜め状に) 浮いていた事が、特にハメ込む際の「硬さ」に繋がっているのを突きとめました。

おそらくテキト〜に計測して前オーナーがこのフィルターを用意して使ったのでしょう。この「フロントベゼル」に装着可能なフィルターはネジ切りのないタイプのコニフィルターで、「外径⌀30mm厚み4mm」です。

今回の個体で使っていたTEFFENのフィルターは外径が大きすぎたので、一生懸命 (ひたすらに)「磨き研磨」して何とか最後まで填りきるようサイズを極僅かに小さくしました。現状キッチリ填っており突出が無い状態になったので、正しい位置で「フロントベゼル」が固定されています (だからハメ込みも硬くなくなった)。ガチャッとやってしまって全く以て構いません。
(怖がらずにどうぞ)(笑)

↑このモデルにしては珍しく光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。そもそもコーティング層自体が経年劣化で剥がれたり汚れたりしていない個体と言うのが、実はこのモデルでは珍しい状況ですから本当にラッキ〜だっと思います。良い買物をされたと思いますね・・。

↑もちろん光学系後群側の透明度も極薄いクモリが皆無で、最もこのモデルで気になる「バルサム切れ」の兆候も一切ありません。当然ながら (当方も狙っていたくらいですから) ご覧のように経年の「当てキズ」さえ皆無です(笑) 後玉が突出しているので、距離環を無限遠位置にしたまま下向きで於いたりするとガツッとやってしまいます(怖)

その意味でも後玉周囲のガイドはありがたい存在です・・。

↑ちゃんと正しい表裏の向きで絞り羽根をセットしたので(笑)、ご覧のとおり適正な最小絞り値「f22」まで閉じきっています。絞り羽根が閉じる際は「ほぼ真円に近い円形絞りを完璧に維持」したまま閉じていきますね。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、ご指示に従い軽い操作性になるよう「粘性中程度重め」を使い分けて塗布しています。距離環を回すトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一なトルク感」に仕上がっています。

このモデルはご覧のとおり、距離環を回していくと鏡筒やプリセット絞り環/絞り環などが一緒にクルクルと回転しながら繰り出したり/収納したりする「回転式ヘリコイド駆動方式」を採っています (一般的なオールドレンズはレンズ銘板の位置が変わらない直進式ヘリコイド駆動方式)。

従って、距離環を回してピント合わせを行った後に「絞り環操作」するのが一般的だと思いますが、その際に (絞り環を操作した時に) 一緒に距離環まで微動してしまうと、せっかく合わせたピント面がズレてしまいます。

そこで今回のオーバーホールではその辺を見越して絞り環側の操作性を故意に (ワザと) 軽めに仕上げています。但しそうは言っても「最小絞り値方向」に近づくと、さすがに抵抗/負荷/摩擦の分で距離環が微動してしまうので、上手く使って下さい。

なお、距離環のラバー製ローレット (滑り止め) は経年劣化が進行しているため相応に伸びが発生しています。今回貼り付け時に縮めて貼り付けていますが一応ラバーのシットリ感まで復活させています (元家具屋なのでそういう方法を知っているから)。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。おそらくこのモデルでこれだけ完成度の高い状態まで仕上がる整備は、それほど多くないと思います。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑マウント部直前には「Lens made in Germany」刻印があるので輸出向けの個体だった事が分かりますし、ちゃんと「DBP und Ausl. Pat. angem.」とドイツ語でパテント登記済である事を謳っており、当時の旧西ドイツ郵政省「特許庁 (DBP) 」及びその「先使用権 (Ausl.)」について「パテント登記申請中 (Pat. angem.)」を、当時の国際輸出法に則り表記しています。

↑レンズ銘板には開発/設計者のHeinz Kilfittがドイツ隣国のオーストリアから故郷に戻ってきた後である事を示す会社名「Hentz Kilfitt München」が刻印されており、1960年以降の生産個体であることが分かります。

↑「Makro-Kilar E 1:2.8/4cm」とモデル銘が刻印されていますが「Makro」だけが赤色刻印なのは、モノコーティング層が蒸着されている事を表しています。

またモデル銘の中にモデルバリエーションのタイプが「タイプE」であると刻印されており「シングルヘリコイド方式 (1段だけ繰り出す)」のモデルである事が分かります。もう一つの別のモデルは「ダブルヘリコイド方式 (2段階繰り出し)」があり「タイプD」になります。或いは最後期に開発された「タイプA」も「ダブルヘリコイド方式 (2段階繰り出し)」ですが、最短撮影距離はシングルヘリコイド方式と同一のままです。

従って「シングルヘリコイド方式 (1段だけ繰り出す)」の当モデルは「最短撮影距離:10cm」なのですが、最短撮影距離の位置まで距離環を回して繰り出した時の鏡胴全長が「約6cm」になります。

すると撮影している被写体とフロントベゼルまでの距離は「僅か4cm」しかありませんから、はたしてそれでももっと寄りたいと感じるかどうかですね。

何を言っているのか?

タイプD」の「ダブルヘリコイド方式 (2段階繰り出し)」は「最短撮影距離:5cm」なので、下手すると被写体に接触してしまうと言っているワケです。つまり当方も毎日使っていますが「最短撮影距離:10cm」のほうが良かったと (使い易かった) と感じている次第です。
そのくらい被写体に接近するので、接触する事よりも影になってしまい撮影時の角度や微調整が面倒だったりします(笑)

Makro-Kilarは「タイプE」の「シングルヘリコイド方式 (1段だけ繰り出す)」で十分です。

↑冒頭解説のとおり「アポクロマートレンズ」を表す3色ドット「」が誇らしげです。

↑ここからはこのモデルの「プリセット絞り機構」をご存知ない方の為に解説していきます。

まずこのモデルの「プリセット絞り環/絞り環」の区別を正しく知っていないと間違った操作をしてしまいます。

上下に2列でジャギーのギザギザが備わっている環 (リング/輪っか) が用意されていますが、上側のギザギザの環 (リング/輪っか) に絞り値が刻印されていて「プリセット絞り環」になり、その直下のギザギザ環 (リング/輪っか) が「絞り環」です。

すると基準「」マーカーの位置にどの絞り値が来てるのかが常に問題になります (グリーンの矢印)。上の写真では当初の状態で開放f値「f2.8」が来ています (赤色矢印)。

この時、基準「」マーカーに合致している絞り値が「現在の絞り羽根の状態を表す」ので、今は開放状態になっている事が覗き込まなくても分かります。

ここでこの解説では設定絞り値を「f5.6」にセットする方法を解説していきます。まずは「プリセット絞り環」側を掴んでブルーの矢印①方向に回します。

↑カチカチとクリック感を伴って回っていきますから、設定絞り値「f5.6」が (赤色矢印) 基準「」マーカーに合致したところで指を離します (グリーンの矢印)。

これで (クリック感を伴ってプリセット絞り環を回したので)「プリセット絞り値f5.6」がセットされた事になります。この時基準「」マーカーの位置に来ているのが「f5.6」なので、絞り羽根は覗き込まなくても「f5.6まで閉じている」ことになります。

これから撮影するので「絞り羽根を開放状態まで開ける」動作を行います (開放状態でピント合わせを行う為)。「プリセット絞り環/絞り環」共々2つとも指で掴んだままブルーの矢印②方向に回します。

特に意識して「プリセット絞り環/絞り環」両方を掴まずとも、単に指で掴んで左方向に回せば絞り羽根が開きます。

↑絞り羽根が開放状態になった (赤色矢印) ので距離環を回してピント合わせを行い、ピントが合ったらカメラボディ側のシャッターボタンを押し込む前に「絞り羽根を設定絞り値まで閉じる」動作をする為に、再び基準「」マーカー位置 (グリーンの矢印) まで「プリセット絞り環/絞り環」を共に回して絞り羽根を設定絞り値まで閉じます (ブルーの矢印③)。

つまり「プリセット絞り環/絞り環」は右方向 (反時計方向) に回せば「絞り羽根が閉じる」ワケで、その逆 (時計回り) は「絞り羽根が開く」ワケですね (ブルーの矢印)。

一番最初のクリック感を伴う操作を行っている時だけ「プリセット絞り値の設定」をしているだけで、後は両方どちらを掴んでも必ず一緒に回るので「とにかく止まるまで回しきれば良い」ことになり操作は簡単です(笑)

従ってカツンカツンと絞り羽根を開いたり閉じたり勢い良く操作しても全く問題がありません。これが「プリセット絞り機構」の原理であり操作方法です。

↑撮影が終わったので、また「プリセット絞り値」を開放状態まで戻します。基準「」マーカー位置 (グリーンの矢印) に「プリセット絞り値:f5.6」が来ているので (赤色矢印)「絞り環」側を保持したまま「プリセット絞り環」側をクリック感を伴いながら開放位置まで回していきます (ブルーの矢印④)。

↑一番最初の状態に戻っただけですが(笑)、基準「」マーカー位置に開放f値「f2.8」が合致しました (赤色矢印)。これで絞り羽根は覗き込まなくても完全開放している事が分かります。

従って、このモデルをある程度使い込むと、自分の好みのボケ味が「設定絞り値幾つなのか」が分かってきます。例えば好きなボケ味として「f8」くらいまでが多いと感じるなら、予めプリセット絞り値を「f8」にセットしておけば、後は絞り羽根の状況をいちいち確認せずともカメラのファインダーで実際のボケ味をチェックしつつ (撮影に専念しつつ) 絞り環操作だけすれば良いことになりますね(笑)

ちゃんと「プリセット絞り機構」の原理さえ理解してしまえば、とても簡単です・・。

逆に言うと、ある程度使い込んできた時になって初めて「絞り環が軽いのが助かる」と言う気持ちが湧いてくるワケで、距離環を回すトルク (つまりピント合わせ時のトルク) は軽めのほうが良い (楽だ) と言う話ですね(笑)

このように、オールドレンズのモデル別に使い方まで配慮してオーバーホールしていくのが当方の特徴でもあり、一概に必ず同じトルク感に仕上げていません。但しそうは言ってもトルク感の「重い/軽い/ちょうど良い」は個人差があるので、何とも言えませんね。

↑当レンズによる最短撮影距離10cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

当初バラす前の実写チェックで「甘い印象」だったピント面は、ご覧のとおり鋭く改善しました。それは取りも直さず当方が拘って「光路長確保」したからに他なりません。逆に言えば単にバラして組み上げるだけの整備ならここまでピント面の改善には至らなかったでしょう(笑)

但し、それがそのままイコール「当方の技術スキルの高さを示す」話ではないので、買い被らないようご注意下さいませ(笑) 何度も言いますが、当方の技術スキルは低いです(笑)

なお、既に検査済ですがご覧のとおり「色ズレ」がありませんね。「アポクロマートレンズ」なので当然と言えば当然な話です(笑)

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。何とかギリギリですが「回折現象」に堪えている感じです。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。