◎ RICOH (リコー) AUTO RIKENON 55mm/f1.4《富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、リコー製
標準レンズ『AUTO RIKENON 55mm/f1.4《富岡光学製》(M42)』です。


このモデルを扱う時いつも思うのは、活躍していたフィルムカメラ全盛時代に於いてはリコーの思惑をよそに、あまり高い評価を受けていなかったモデルではないかと思います。それは開放時の被写界深度の浅さ (狭さ) も然ることながら、ピント面のエッジからボケていく際の極端なボケ味の乱れ方が、フィルム写真で残そうとした時に難しさに繋がっていたのではないかと考えます。

そもそも当方はカメラ音痴で、若かりし頃の当時写真に興味が無かったのでいろいろ詳しくは知りません(笑) 今でこそデジカメ一眼/ミラーレス一眼で (しかもフルサイズで) 使うことができるようになったので、撮影時にはピーキング機能や拡大撮影 (ピント面の確認も含む)、或いは具体的なボケ味を撮影前にチェックしつつシ〜ンに臨むことができます。

そんな写真環境の変化の中で一番影響を受けたのが、フィルムカメラ全盛時代にデメリットとして捉えられていたオールドレンズの要素だったのではないかと思います。それは逆に面白さとしての表現性の拡張 (新領域)、価値観の変化 (進展)、そしてそもそも写真を愉しむ対象そのモノの変化が「新たな要素」として加わったのではないかと考えています。

それは何かと言えば「収差」に他なりません。フィルムカメラ全盛時代に於いて収差の多少はそのオールドレンズの質を左右する要素でしか捉えられていなかったと考えますが、今はその収差を愉しんでいる人々が増えてきているのだと感じています。

オールドレンズ、ひいて言えばその描写性について「収差こそ味」だと考えますね・・収差の改善/排除を極限まで追求するなら、今ドキのデジタルなレンズを使えば良いだけで、そこに敢えてオールドレンズを使う意義があるとすれば、それは「収差の愉しみ」ではないかという考えです。

従って、当方にとってオールドレンズ使いとしての資質は何かと問われれば、それは「自らの価値観に基づく基準で捉えた味わいで選択できる」点であり、従前の長きに渡り語り続けられてきた評価そのものに何ら傾倒しません。良いモノも悪いと言うし、悪いモノも良さを探求してしまいます。

例えば「駄目玉」の代表格に堕ちてしまった旧東ドイツのErnst Ludwing (エルンスト・ルードヴィッヒ) 社製標準レンズ「Meritar 50mm/f2.9 V」と言うオールドレンズがありますが、これ本当に駄目玉 (幽霊玉/迷玉) です・・(左写真)(笑)

今でこそ有名になってしまった3群3枚のトリプレット型光学系を実装していますが、その描写性で言うなら同じく旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズ (やはり3枚玉トリプレット型で非常に有名) とは天と地の差です。階調幅が狭くコントラストが極端に堕ちてしまう描写なので、立体感や質感表現能力が異常に低く「つまらない写真」ばかり量産します。
下手すると不気味なちょっと何か隣に居そうな感じの写真になったりするので、逆に心霊写真には他に右に出るモデルが無いでしょう!(笑)

ところが、このモデルでしか表現できない素晴らしいシ〜ンが存在し、そもそもコントラストが一律的な階調幅の狭いシ〜ンでこのモデルは驚異的なリアル感を表現します。

光学系設計が対応できる階調幅が狭いからこそ、そのようなシ〜ンで見事にリアルなグラデーションを表現していますし、2枚目のピアノの調律写真は音に聴き入って調律している最中の緊張した一瞬をやはり見事に写し込んでいます (黒潰れしたからこそ明暗の差が強調されピ〜ンと張り詰めた緊張感に繋がった写真)。

もちろんこれらの写真を撮るシ〜ンでこのモデルに思い当たらなければ使うことができませんが、撮影スキルが高いからこそのオールドレンズ有効活用の非常に良い例だと考えています。

つまり「駄目玉」だからと言ってカビだらけにしてしまうのではなく(笑)、それを活かす使い方を用意してあげれば良いだけで、そんなシ〜ンはいくらでも探せると思います。デメリットを欠点とだけ捉えてしまうのではなく、むしろ「愉しみの幅が広がる」と受け入れればまだまだ活用できるオールドレンズはたくさん存在すると思いますね(笑)

例に挙げたMeritarに関して言えば、このモデルは当時の白黒写真だけを想定した光学設計をしていて、且つコーティング層蒸着技術に協力してくれたMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズとは市場でそもそも競合しないよう、予め同じ3群3枚トリプレット型を使いながらもマイルドな写りになるよう「計算尽くで設計した光学系」だったのではないかと踏んでいます (ちなみに駄目玉だとしてもいっちょ前にMeyer-Optik Görlitzのモノコーティング「V」です)。

当方がこのモデルに注目したのは2014年からなのですが、最近市場で少しずつ着目されつつあるようですね(笑) 一つくらい「駄目玉と誇れる」くらいのオールドレンズを持っているのもまた愉しさを倍増させてくれる (改めて実感できる) 新鮮さを用意してくれる良き友になったりしますョ?(笑) 脇役あっての主役です・・。

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1967年にリコーから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「SINGLEX TLS (シングレックス)」用のセットレンズとして用意された標準レンズの一つが今回扱うモデルです。後に登場する「RICOHFLEX TLS401 (1970年10月発売)」でもセットレンズの設定のまま供給が続き、その後1970年代中盤に登場する一眼レフ (フィルム) カメラにまでセットモデルを用意してきていたようなので、相当長い期間供給が続いたようです。

このモデルのレンズ銘板には「RICOH」銘しか刻印されていませんが、当方の判定では『富岡光学製』としています。当方がそのように言うとまた「富岡狂」と揶揄されますが(笑)、以下にご案内する具体的な「根拠」があって『富岡光学製』と判定しているので、批判するならそれに見合う具体的な反論を (証拠を) 掲示してほしいものですね(笑)

オールドレンズの外観や距離環/絞り環の回転方向、或いは指標値刻印や意匠の相違/近似だけを以て判定しているワケではなく、ましてや当時の噂話や書籍記載内容を基に明言しているワケでもありません。

富岡光学以外の光学メーカーによる製産なのだとすれば、どうして近似した内部構造の設計を採ってきたのかを具体的にご案内頂かない限り当方の考察は覆すことができませんが、このような話を言っているのは当方だけであり誰も居りませんから(笑)、このブログをご覧の皆様も当方が案内する話は信用性/信頼性が非常に低いのだとご承知置き下さいませ

オールドレンズを扱う時『富岡光学製』の判定をする根拠は以下の3点です (いずれか1点或いは複数合致した場合)。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。

上記3点は今までに2,000本以上のオールドレンズを扱ってきて、富岡光学以外の光学メーカーで採っていない設計なので判定の基準としています。それは、そもそもオールドレンズを設計する時、他社の設計をそっくりそのまま真似て (模倣して) 設計図面を起こす必要性が薄いからです。推測の域を出ませんが、たいていの光学メーカーでは自社工場の機械設備などを勘案して、最も都合の良い設計で図面を起こすハズだと考えられるからです (ワザワザ費用を掛けてまで同じ設計を採る必要性が見出せないから)。

 特異なマウント面の設計

cn5514091128先ずは『富岡光学製』と明言できる根拠となるモデルが必要です。それはレンズ銘板に「TOMIOKA」銘がモデル発売会社名とは別に刻印されている、いわゆる「ダブルネーム」のモデルです。

右写真は過去にオーバーホールしたチノン製標準レンズ「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」からの転載写真です。

cn5514091123M42 (内径:42mm x ピッチ:1mm) ネジ込み式マウントの場合に、マウント面に薄枠の「スイッチ環」を有し、その環 (リング/輪っか) をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使い、横方向から均等配置で締め付け固定している点を指して『富岡光学製』の判定が可能な外観上の特異点と捉えています。

これは、例えば他社光学メーカーでも (海外モデルでも) マウント面に薄枠環が存在している事がありますが、その薄枠環固定をイモネジ (3本) による締め付けでワザワザ設計している会社が存在しません。たいていは薄枠環自体がネジ込み式か、或いはマウント面方向から具体的な皿頭ネジなどを使って締め付け固定していることが多いです (横方向からイモネジで締め付け固定していない)。

左写真は前述モデルのオーバーホール工程でマウント面の解説を示していますが (絞り環固定環が薄枠環/スイッチ環)、梨地仕上げのシルバーな薄枠環を横方向からイモネジ (3本) で締め付け固定する方式を採っています (赤色矢印)。この時「イモネジ (3本)」を使う理由があります。純粋に薄枠環を固定するだけの目的 (設計意図) なら一般的な微細皿頭ネジ (プラスなど) を使えば良いワケですが、位置調整が必要な箇所なので「イモネジ (3本)」を用意した必然性があります。つまりこの方式の設計の場合、必ず固定位置の微調整が必須になり、その仕上がり如何で絞り環を回した時のクリック感や刻印されている絞り値との整合性 (絞り値の位置や具体的な絞り羽根の開閉度合いなど) が変化してしまうと言えます (実際にオーバーホール工程の中でその微調整を実施しているから知っている)。

単に外観上の近似点だけを指して『富岡光学製』と判定しているワケではなく (そんな単純な話ではない)、あくまでも設計上の意図/工程手順として微調整が必要だから「イモネジ固定なのだ」と納得している次第です (逆に言えばイモネジを使った理由が理解できる事になる)。

設計上のクリック方式の特異点

cn5514091122これは外観からは一切判定できる要素ではありません (バラさなければ分からない)。同様前述モデルのオーバーホール工程から転載した写真 (右) ですが、絞り環を回した時にカチカチとクリック感を伴う設計です。

この時、そのクリック感を実現するには「ベアリング」が必要になりますが、そのベアリングを組み込んでいる箇所が問題になってきます。絞り環には「絞り値キー」と言う「」が用意され、そこにベアリングがカチカチと填ることでクリック感に至ります。

その「ベアリング」は絞り環の次に上から被さる「前述のスイッチ環/絞り環固定環/薄枠環 (リング/輪っか)」なのです。従って、その薄枠環の固定位置をミスると絞り環を回した時のクリック感が刻印絞り値とはチグハグになってしまいますし、絞り環に刻印されている絞り値の前後どちらの絞り値で絞り羽根が開閉しているのかも非常に不明瞭になります。

だから「イモネジ (3本)」による位置調整機能が設計上必要になってきます。

これは例えば他社光学メーカーなら、こんな面倒な設計にせず絞り環の裏側 (接触している面) にクリック感を実現する「ベアリング」を組み込んでいます。するとこの絞り環の上から薄枠環を被せて微調整する必要性が無く、そもそも絞り環操作と絞り羽根開閉との整合性が絞り環のセットと同時に整う設計であり、そのような設計を採っているオールドレンズ (他社光学メーカー) は数多く存在します。

従って、このような面倒な微調整を伴う設計をしてきたのは『富岡光学製』オールドレンズだけだと判定しているワケです。

設計上の絞り羽根開閉幅微調整機能の特異点

cn5514091115こちらも外観からは一切判定できません (バラす必要あり)。前述のモデルの鏡筒には「絞り羽根開閉幅微調整キー」が用意されており (左写真でここと示している箇所)、鏡筒の位置調整で絞り羽根が閉じる際の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を微調整する概念 (設計) です。

これは例えば他社光学メーカーなら組み立て工程の途中で鏡筒に光学系前後群をセットし終わった時点で、専用治具で検査して絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) をチェックすれば良いだけで、たいていは「絞りユニットそのものの位置調整だけで微調整」を済ませています。何故なら、絞り羽根を包括する絞りユニットは光学系の前後でサンドイッチ状態だからです。

ところが富岡光学製オールドレンズの場合は、光学系前後群をセットし終わってからヘリコイド (オス側) の内側にストンと落とし込んで鏡筒を固定しない限り検査できません。何故なら、鏡筒自体の位置調整で絞り羽根の開閉幅が変化するので全て組み込んでからでなければ検査する意味が無いからです。これもの絞り環のクリック感を実現している方式 (設計) 同様、富岡光学製オールドレンズだけが採っていた設計概念だと言えます。

以上、特に様々なオールドレンズと異なる設計 (概念) 部分で『富岡光学製』と判定している根拠を解説しましたが、これらの話は全て当方だけが案内している内容ばかりであり、信用/信頼性が非常に低いことをこのブログをご覧頂いている皆様はご承知置き下さいませ。表現の自由ですからSNSなどで当方を揶揄するのは致し方ありませんが、少なくとも誹謗中傷の類を送りつけてくるのはおやめ頂きたいと願うばかりです。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが玉ボケへと変わり単なる円形ボケに堕ちていく様をピックアップしています。そもそも光学系の設計がダブルガウス型を基本にしているので、収差や口径食の影響を受けて真円の円形ボケ表出が苦手だったりします。それでもエッジが際立つ円形ボケを出せるところがこのモデルのピント面の鋭さを表しています (何故なら開放での撮影が多いから)。

二段目
背景ボケは下手すれば左端写真のように乱れた収差ボケへと変わります (決して二線ボケのモデルではない)。もちろんトロトロボケモ出せるのでボケ味の表現としてみればオモシロイのではないでしょうか。富岡光学製オールドレンズに共通するピント面のエッジが繊細で細い特徴から被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の優れ、開放f値「f1.4」も手伝い彩度の幅もあるので差し込んでいる日射し感まで写し込んでくれます。もちろん富岡光学製ならば動物毛の表現性は天下一品です。

三段目
富岡光学製オールドレンズの独特な赤色表現が見事に出ています。また開放f値「f1.4」から来る人物撮影のリアルさも特徴的ですから、焦点距離的に1.5倍換算でポートレートレンズ域に達するので、APS-C撮像素子のカメラボディでも使い出があります。

光学系は5群7枚の拡張ダブルガウス型構成で、後群側を1枚追加しています。このモデルを調達する際に必ずチェックしなければイケナイ要素があり、それは「後玉の状況」です。

後玉が突出しているので、もちろん当てキズや擦りキズが無いのか確認が必要ですが、そもそもこのモデルのコーティング層蒸着レベルがそろそろ限界に到達しており、コーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが生じている固体が多かったりします。

つまりこのモデル調達時は後玉の確認が必須条件になりますが、なかなかそのような良い状態の個体にめぐり合いません。上の構成図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図ですが、メーカーサイトのカットモデル図も参考にしています (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。冒頭で『富岡光学製』の根拠としてご紹介した「TOMIOKA」銘が附随するダブルネームのモデルと比較しながらオーバーホール工程を解説していきます。

左写真は当初バラして清掃する前に撮影したヘリコイド (オスメス) と基台の写真です。過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」の経年劣化進行により液化した揮発油成分の影響で酸化/腐食/錆びがだいぶ進んでいますが、そもそもその過去メンテナンス時もそれら酸化/腐食/錆びを一切除去しないまま、上から「白色系グリース」を塗っていますから経年劣化をどんどん促進していく「悪循環」に陥っています。

一方左写真は、溶剤洗浄した後に当方による「DOH」を施した後に撮影しています。パーツがキラキラと光り輝いていますがも何もキレイに光り輝かせる目的で処置したワケではありません(笑)

経年の酸化/腐食/錆びはそっくりそのまま「不必要な摩擦」を生じる原因になるので、その影響を最小限に防ぐ意味からグリースを塗ったくって「グリースに頼った整備」に至らざるを得ません。

可能な限りオールドレンズ内部にグリースを塗らずに (将来的な経年劣化の因果を用意しない為に) 組み上げる目的から酸化/腐食/錆びを除去した結果、ピカピカと光り輝いているだけの話です(笑)

これらの写真を見ると、過去メンテナンス時に塗布した「白色系グリース」は白色ではなく「濃いグレー色」に変質しています。左側のアルミ合金材で用意されているヘリコイド (オス側) を見ると「グレー色」に変質した過去メンテナンス時の「白色系グリース」が附着していますが、その上に重ねた真鍮材のヘリコイド (メス側) のネジ山を見ても、やはり「グレー色」だけです。

このことから経年使用で「白色系グリース」によって摩耗したのはアルミ合金材のほうのネジ山だけだったことが判明します。これがもしも仮に真鍮材まで摩耗しているなら「茶色」の摩耗粉まで混じっていないと説明できませんね?

つまり「白色系グリース」を使うことで摩耗するのは軟らかいアルミ合金材のほうであり、それはヘリコイドのネジ山を削っていく話になるのでトルクムラ発生の因果関係に至ることを知るべきです。何故なら、これらオールドレンズが製産されていた当時にメーカー工場で使われていたであろうグリース種別は「黄褐色系グリース」だからです。そもそも設計段階で「黄褐色系グリース」を塗布する前提で設計生産していた各構成パーツだったハズなので、当方は「敢えて白色系グリースを使わず黄褐色系グリースに拘っています。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを鏡筒最深部にセットします。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (つまり後玉側) を撮影しました。「開閉アーム」だけが1本飛び出ていますが、それに附随しているスプリング (引張式コイルばね) によって「常に絞り羽根を開こうとするチカラ」が及んでいることがポイントです (だから上の写真でも絞り羽根が完全開放している)。

↑さらに鏡筒側面に用意されている特殊ネジを解説しています。「絞り羽根開閉幅微調整キー」と呼んでいますが (赤色矢印)、このネジは中心から外れた位置に軸が存在するので (グリーンの矢印)、ネジを回すとグルグルと大きくブレて回ります。

つまりこのネジを操作することで鏡筒の格納位置を左右方向に微動させているワケで、それによって最終的な絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を微調整している設計概念です。

この話は冒頭の 設計上の絞り羽根開閉幅微調整機能の特異点で解説していますね・・つまり『富岡光学製の根拠の一つ』です (今までに2,000本以上オールドレンズを扱っていますが同じ設計概念のモデルが他社に存在しない)。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。このモデルは最短撮影距離50cmなので、開放f値「f1.4」とも相まり相当な鏡筒繰り出し量をもっています。ところが基台の厚みがこのように薄いとなれば、ここにネジ込まれるヘリコイド (メス側) のネジ山数が相当多いことが容易に推測できます。つまりそれが何を意味するのか、ここで既に気がつかなければイケマセン。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

基台側面に「制限キー」の役目を兼務する「無限遠位置微調整キー」をネジ止め固定します (赤色矢印)。このキーの締め付け位置をズラすことでヘリコイド (メス側) が突き当て停止する位置を延伸させたり手前で停止させたりできる仕組みです。

ところが、この真鍮製のヘリコイド (メス側) は距離環が被さるので、距離環を締め付け固定する為の「イモネジ用の下穴」が用意されています (グリーンの矢印)。スキルが高い方々はもう既にお気づきでしょうか・・。

そうですね、せっかく「無限遠位置微調整機能」を附加した設計にしたのに、距離環を固定する位置が (イモネジの下穴で) 決まってしまうので、距離環に刻印されている「∞」位置をズラすことがそもそもできません。

最後まで組み上げて光学系を組み込んで無限遠位置を実写チェックしたらズレていた時、この「制限キー」の位置をズラせば対応可能なのですが、それに合わせて「∞」刻印位置が一緒にズレていくことになります。このような「意味不明な設計」も富岡光学製オールドレンズに多く見られる特徴のひとつです。

イモネジ
ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種で締め付け位置を微調整する場合に使うことが多い

ところがこのモデルは「イモネジ用の下穴」が用意されているので、微調整の為にイモネジを使ってないことに気がつく必要があるワケです。

↑やはり無限遠位置の当たりを付けた正しいポジションでヘリコイド (オス側) をネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

距離環は横方向からイモネジ (3本) で締め付け固定するので、ご覧のように真鍮材のヘリコイド (メス側) は均等配置で3箇所分イモネジ用の下穴が備わっています。

↑完成したヘリコイド部をひっくり返して基台の反対側 (後玉側方向) から撮影しました。ご覧のように「直進キー」が両サイドに1本ずつ固定されています。「直進キー」はアルミ合金材のヘリコイド (オス側) に用意されている「直進キーガイド (溝)」に刺さって、そこをスライドします。

何を言いたいのか?

このモデルは解体する際にフィルター枠を保持して時計の反対方向に回して外そうとしたら、アッと言う間に「直進キー」が根元から折れてイキナシ「製品寿命」に堕ちます。何故なら、フィルター枠はこのヘリコイド (オス側) にネジ止めされるので、回したチカラの全てがこの「直進キー」に一極集中するからです。

以前、距離環が空転してしまい繰り出し操作できない (つまりオールドレンズとしての体裁を成していない) と言うご依頼内容でオーバーホール/修理を受けたことがありますが、バラしてみたらこの「直進キー」がものの見事に折れていたワケです。不具合がある個体を入手されたのかご依頼者様に確認したところ、実はご自分で解体しようとして回してしまったらしいのです(笑)

フィルター枠を回してバラすのか、別の方法でバラすのか「観察と考察」で判断しないとダメですね(笑)

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑上の写真はマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑取り外していた各構成パーツも「磨き研磨」を施して組み付けます。マウント部は狭い空間の中に「スイッチ環/絞り環連係環/絞り連動ピン連係機構」などがギッシリと詰まっています。

マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれることで (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「絞り連動ピン連係アーム」が移動して先端部の「開閉爪」が動きます ()。この時、内部に「捻りバネ」が1本介在するので、そのチカラにより「絞り羽根を常時閉じようとするチカラ」を及ぼしますが、経年劣化で弱ってしまうと正しく最小絞り値まで絞り羽根を閉じることができなくなります。

絞り連動ピン連係アーム」の途中に配置されている「確定キー」が「なだらかなカーブ」に突き当たる () ことで、具体的な絞り羽根の開閉角度が決まります。「なだらかなカーブ」の麓が最小絞り値側になり、勾配を登りつめた頂上が開放側です。上の写真では (分かりにくいですが) 麓部分に「確定キー」が突き当たっているので、最小絞り値側になります。

なおオレンジ色矢印で指しているのは、マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が必要以上に押し込まれてしまった時に内部パーツが真鍮製のリング/輪っかに突き当たって停止してしまう位置を指し示しています。つまり必要維持用に絞り連動ピンが押し込まれ続けることを想定していない設計であることが分かります。

何を言いたいのか?

当然ながら、このモデルが製産されていた当時はフィルムカメラへの装着しか想定していないので、今ドキのマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) にセットして、絞り連動ピンが最後まで押し込まれ続けたまま使うことは想定外の設計です。従って、マウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) に装着することを想定した調整を施す必要があるワケですね (単に組み立てて戻せば良いだけではない)(笑)

↑完成したマウント部を基台にセットします。赤色矢印で指し示した箇所にマイナスの皿頭ネジがネジ込まれます。ここはイモネジを使わないワケです。

↑ところが指標値環のセット時は、ご覧のように横方向から均等配置でイモネジ (3本) を締め付け固定します (グリーンの矢印)。

前述のマウント部セットは皿頭ネジだったのに、ここの工程ではイモネジを使う理由があり、それは指標値環の固定位置を微調整する必要があるからです (基台側にイモネジの下穴が用意されていないので微調整だと判断できる)。

↑絞り環を組み込んで右隣に上から被せる「スイッチ環」を並べています。絞り環には裏側に「絞り値キー (溝)」が刻まれており、ここにベアリングがカチカチと填ることでクリック感を実現します。

ところがそのベアリング (とスプリング) は反対側に被さる「スイッチ環」側に穴が用意されています。つまり「スイッチ環」の固定位置をミスるとクリック感と絞り環の刻印絞り値とがチグハグになってしまい違和感になりますし、そもそも適切な絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) なのかどうかさえ疑問になります。

この設計概念 (スイッチ環の固定位置微調整でクリック位置を変更する設計概念) が冒頭解説の 設計上のクリック方式の特異点であり、同様『富岡光学製』の根拠の一つです。

↑実際に「スイッチ環」をセットしてイモネジ (3本) で締め付け固定しました。もちろん既に位置調整も終わっているので、適切なクリック感の位置で絞り環操作できますし、当然ながら絞り環に刻印されている絞り値と基準「|」マーカーとも位置ズレしていません。そしてスイッチの操作性も確実にA/M切り替えができています。

これが冒頭解説の外観から判定できる『富岡光学製』根拠 特異なマウント面の設計です。

この「スイッチ環」を横方向からイモネジで締め付けるのか、或いはマウント側から締め付けるのかはそのメーカー設計者の勝手なので、締め付けネジの位置の相違だけで製造メーカーを特定するにはムリがあると言っている人が居ますが、当方が言っているポイントからズレています。

当方が言っているのはネジの締め付け方向の問題だけではなく、使っているネジ種の相違 (イモネジか皿頭ネジなのかの違い) を言っているワケで、イモネジを使うことで微調整が発生し「その工程が一つ増える」ことを指摘しています。仮にこの製造メーカーが富岡光学ではないとするなら、どうしてワザワザ工程数を増やしてまで富岡光学と近似した設計にしてきたのかを逆に説明してほしいと言っています。その具体的な説明がないままに単にムリがあると言われても当方は納得できません (考察を改める気持ちにはなりません)。

このように「スイッチ環」を横方向からイモネジ (3本) で締め付け固定しているM42マウントのオールドレンズであるにも拘わらず、頑なに富岡光学製ではないと判定している人が居ますが、どうしてなのでしょうかねぇ〜(笑)

↑前述解説のとおり、距離環を締め付け固定する「イモネジの下穴」が決まっているので、無限遠位置を微調整することができません (つまり仮止めではなく本締め固定)。

この後は光学系前後群を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑このモデルの当方での累計扱い数が今回の個体で14本目にあたります。その中で考えると驚異的な光学系の状態を維持した個体です。

↑もちろんコーティング層の経年劣化や点キズ (CO2溶解に拠る) や極微細なヘアラインキズなどは僅かにありますが、おそらくとんでもなくクリアだとの印象を受けるのではないでしょうか。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑問題の後群側も驚異的な透明度を維持しており、且つご覧のとおり後玉に何もキズと言うキズがありません (もちろん薄いクモリも無し)。同様にLED光照射で極薄いクモリすら皆無です。ポツポツと非常に微細な点があるのはCO2溶解に伴う極微細な点キズでカビ除去痕ではありません (この個体はカビ除去痕がほぼありません)。それ故、光学系内が微細な薄いクモリも無くスカッとクリアなのです

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:11点、目立つ点キズ:6点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り連動ピンぢねもキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じていく際は「正六角形を維持」し続けます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりもしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑このモデルはピント面の山が掴みにくいので、今回のオーバーホールでは敢えて僅かに「軽め」のトルク感に仕上げています。また距離環距離指標値の「∞」刻印位置が、上の写真のとおり無限遠位置で突き当て停止した時「∞」の中心部に基準「|」マーカーが来ません。これ以上改善できない (と言うかそもそもバラす前は相当なアンダーインフだった) のでクレーム対象としません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑ご覧のように後玉の突出が「3.3mm」あるのでカメラボディ側マウント部内部の干渉などご注意下さいませ。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」です。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。