◎ CHINON (チノン) AUTO CHINON MULTI − COATED 55mm/f1.4《中期型》(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、CHINON製
標準レンズ『AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4《中期型》(M42)』です。
今回のCHINON製標準レンズ『AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4《中期型》(M42)』は初めての扱いになりますが、実は『富岡光学製』OEMモデルなので、当時の様々なモデル銘で日本国内の光学メーカー向けはもとより、アメリカや旧西ドイツ、或いはその他の欧州などに供給された同型OEMモデルとして捉えると「42本目の扱い」になります。
↑上の写真は今までに当方で扱った同じ「富岡光学製OEMモデル」を列挙してみました。
(いずれもM42マウントのモデルでA/M切替スイッチ装備)
まるで宝石箱を見ているが如くコーティング層の放つ光彩が綺麗ですが、モノコーティングならアンバーパープルに光り輝きますし、マルチコーティングならパープルアンバーです。
つまりモノコーティングだとアンバーが主体でマルチコーティングはパープルですが、一部のマルチコーティングには見る角度によりブル〜やグリーンの光彩を放つモデルがあります。
今までに42本扱ってきてこのブル〜やグリーンの光彩を放つマルチコーティングのモデルは、ハッキリ言って希少です (つまり市場に流れているのは圧倒的にアンバーパープル/パープルアンバーが多い)。
たかがコーティング層が放つ光彩の色合いですが、このブル〜やグリーンの光彩は、当時MINOLTA製オールドレンズが「緑のロッコール」と俗に呼ばれていたように、或いは実際のミノルタのカタログに記載されているように「アクロマチックコーティング (AC) 層」の効果を狙った設計なのではないかと考察しています。当時のMINOLTAでは「人の目で見た自然な色再現性の追求」とも案内されていました (左赤色ライン)。
もちろん『富岡光学製』とすればMINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC) 層」が蒸着されている事はあり得ませんが、それに近い目的で蒸着してきた「第三のコーティング層」なのがこのブル〜やグリーンの光彩の正体 (狙い) ではないかと考えています (そのように考えないと3色目の光彩をワザワザ蒸着してきた理由が説明できない)。
MINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC) 層」との相違は「薄膜コーティング層」ではない点です。MINOLTAの場合は経年劣化の進行により「グリーン色のコーティング層」だけが清掃時に剥がれ、その下から普通のパープルアンバーなマルチコーティング層が出現しますが富岡光学も含めて他社光学メーカー品では「グリーン色のコーティング層蒸着そのモノ」です (つまり仮に剥がれたら下は無色透明)。今まで実際に光学系を清掃してきて検証済です。
従って、当時MINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC) 層」技術が世界初の「薄膜コーティング層技術」であった点を考慮すればライカが技術提携してまで協業したのも納得できますし、CONTAX版CARL ZEISS製オールドレンズに多く見られるグリーン色のコーティング層も理に適っています。
つまりマルチコーティング化により解像度の向上と諸収差の改善を狙いつつも、同時に「自然な色合いの発色性」を追求した考え方だったのかも知れません。それは裏を返せば「違和感を感じないカラーコントロール (色表現性)」とも言えます。
何故なら、コーティング層技術そのものが光学硝子レンズの表面反射で失われる4%分 (片面) の入射光減衰を防ぐ目的で発展した技術 (面数 x 4%が減衰) であり、光学系内に入ってきた入射光を総天然色で写真に記録しようとした時、光を「色 (光) の三原色」として「赤黄青」成分でコーティング層を蒸着し、光学硝子レンズ表面で反射せずにそのまま透過させる概念だからです (だからその成分の混ぜ合わせとしてアンバーパープル/パープルアンバーの比率になる)。
これは例えば現在のデジタルでは「RGB (赤緑青)」或いは最新技術で「RGBY (赤緑青黄)」による総天然色の表現/発色になりますね(笑) 最新技術で「Y (黄)」を4色目として採り入れた理由は「輝度の確保」です (4K/8K技術で既に利用されている)。絵の具で実験すると分かりますが、全ての色を混ぜ合わせると黒色になります。黒色の反対色は白色なので明るさを上げようとした時、白色を強くすると彩度が下がりコントラストが低下します (黒色の反対色だから)。コントラストや色再現性を低下させずに明るさだけ増幅させる考え方が「Y (黄)」を使う概念ですね。
すると、今でこそ「RGBY (赤緑青黄)」ですが、この当時の一部マルチコーティング化されたオールドレンズにも同じ「RGBY (赤緑青黄)」の考え方が (ある意味共通概念として) 使われていたとしても至極納得できる話ではないでしょうか (自然な色再現性の追求と言う意味)。
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今回扱うモデルも『富岡光学製』と当方は捉えているのですが、そのように案内すると「何でもかんでも富岡光学製にしてしまう」とSNS等で批判対象になるようです(笑)
その根拠の基になるモデルがあり、レンズ銘板に刻印されている発売メーカー刻印以外に「TOMIOKA」銘を刻んでいるいわゆる「ダブルネーム」のオールドレンズが存在します。
「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」の特異的な構造要素から判定しています (右写真は過去オーバーホールした際の写真)。
具体的には『富岡光学製』の構造的な要素 (特徴) として大きく3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に判定しています。
① M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
② 内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
③ 内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。
上記3点は今までに2,000本以上のオールドレンズを扱ってきて、富岡光学以外の光学メーカーで採っていない設計なので『富岡光学製』判定の基準としています。
今回のモデル『AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4《中期型》(M42)』は、上記判定の①のみ適合しており、当時のM42マウント規格のオールドレンズ中で同一の設計仕様品は存在しません (外観だけではなくバラした上での内部構造面から判断)。
【チノン製一眼レフカメラ】(M42マウントモデルの発売年度別時系列)
① CHINON M-1:1972年発売 (GAF L-17)
② CHINON CM:1974年発売 (GAF L-CM/aurgus CR-1)
③ CHINON CE MEMOTRON:1974年発売 (GAF L-ES/SEARS 2000)
④ CHINON CX:1974年発売 (GAF L-CX/argus CR-2)
⑤ CHINON CXII:1976年発売
⑥ CHINON CS:1976年発売 (?)
⑦ CHINON CEII MEMOTRON:1976年発売 (GAF L-ESII/argus CR-3)
⑧ CHINON CE-3 MEMOTRON:1977年発売
⑨ CHINON CM-1:1978年発売 (?)
⑩ CHINON CM-3:1979年発売
⑪ CHINON CS-4:1980年発売
ネット上を検索しても当時チノンが発売していたフィルムカメラのwikiがありません。主要のモデル発売時期などを調べて時系列でまとめたのが上の列記です。
発売されていた各フィルムカメラの取扱説明書を調べて、そのオプション交換レンズ群の一覧に今回のモデルが載っていれば、そのタイミングが発売時期だと判明します。
右写真は⑦の「CEII MEMOTRON」で1976年時点で発売されていた
フィルムカメラです。
すると取扱説明書のオプション交換レンズ群は左写真のとおり、一世代前の合皮製/ラバー製が距離環ローレット (滑り止め) に巻かれていた「銀枠飾り環」の頃のモデルばかりです。
まさに今回のモデルがセット用標準レンズとして販売されていた事が分かります (実際に取扱説明書は今回のモデルを使って説明が記載されている)。
一方翌年の1977年に発売された⑧「CE-3 MEMOTRON」の時点では、取扱説明書をチェックすると距離環のローレット (滑り止め) がラバー製に変わっています。
実際に印刷されている当時のカタログから抜粋した標準レンズ群のオプション交換レンズ一覧が左です (ちゃんと「f1.4 MC」が記載されている)。この事からから今回のモデルの発売時期は1976年時点だと結論できますし、もっと言えばマルチコーティングだけではなくモノコーティングのモデルも併売されていたとも言えます (f1.4の記載が別にあるから)。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
前期型:1972年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印あり/無も有り
距離環ローレット:エンボス加工/幅広
銀枠飾り環:有
コーティング:モノコーティング
コーティング層光彩:アンバーパープル
中期型:1976年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:幾何学模様ラバー製/幅広
銀枠飾り環:有
コーティング:マルチコーティング
コーティング層光彩:グリーン含む3色
後期型:1977年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:幾何学模様/薄型ラバー製
銀枠飾り環:有
コーティング:マルチコーティング
コーティング層光彩:グリーン含む3色
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系が5群7枚のビオター/クセノン型なので真円で繊細な (明確な) エッジを伴うシャボン玉ボケの表出が苦手です。
◉ 二段目
さらに円形ボケが収差の影響を大きく受けて乱れた滲み方をしていく様子を集めてみました。背景がそれほど煩くないシ〜ンでも滲み方によって汚くザワザワと目立つ印象でボケる事もありますし、素直に溶けていく場合もあります。
◉ 三段目
左端からピント面が誇張的に強調されている写真をピックアップしています。富岡光学製なので基本的にピント面の境界 (エッジ/輪郭) は細く繊細に出るのですが、非常に立体的な浮き出すイメージで合焦する事があります。一方逆に3枚目の写真のように画全体的にマイルド感タップリな写り方もするので、相当幅の広い写真を愉しめそうです。
もちろん被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さは『富岡光学製』となれば折紙付きです。
◉ 四段目
ダイナミックレンジが相当広く暗部の黒潰れもギリギリまで頑張っています (左写真)。開放f値「f1.4」なので人物撮影もリアルに収まりますね。
光学系は5群7枚のビオター/クセノン型構成ですが、右図はモノコーティングの各OEMモデルの構成図です (代表的な構成図として載せているので一部モデルではビミョ〜に曲率や厚みなど異なる)。
第1群 (前玉) が⌀39.97mmと大口径で、且つ第5群 (後玉) さえも⌀29.62mmもあります。
一方右図は、今回のモデルの光学系構成図でマルチコーティング化されたタイプとも言えます。
マルチコーティング化に伴い解像度の向上や諸収差の改善が図られている為、再設計された光学系です。例えば第1群 (前玉) は⌀39.99mmで第5群 (後玉) も⌀27.42mmと前述のモノコーティングとは異なるサイズです (もちろん他の群の曲率や厚みもビミョ〜に異なる)。
バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
さらに右図は2020年4月22日に加筆する光学系構成図ですが、オーバーホール/修理ご依頼分として別件でこのモデルをご依頼頂きました。
ところかバラしたところ光学系がまたも再設計されていました!(驚)
何と全ての群に渡りビミョ〜に実測サイズや曲率、或いは特に第3群に 至ってはカタチまで変わっていました。第1群 (前玉) 〜第5群 (後玉) までのデジタルノギスによる実測値を見ると、総じて製産工程数を減らす目的で光学系の設計を 変更してきた事が覗えます。
従来型までは第3群の貼り合わせレンズは格納筒とのカシメ固定による一体成形で製産していましたが、今回調べた個体では格納筒の中に第4群と第6群に至るまでの3つの群を格納させる方式に製産工程を変更してきました。
これはカシメ固定による一体成形からの「コストダウン」を狙った処置と推測しています。
またこのような話を掲載すると、当方がウソを載せているとSNSで批判されるので(笑)、第3群の表裏を撮影した証拠写真を載せました (左写真)。
ごらんのとおり、カタチを変更している事が分かります (従来は格納筒との一体成形だった)。
左は当初バラしている最中に撮影した写真です。光学系前群を抜きだして鏡筒内部を撮影していますが「直進キー」と言うパーツのガイド部分にビッチリと「白色系グリース」が塗られています。
まだグリースが新しいままなので、おそらく過去メンテナンスし1年〜数年レベルとみています。
こちらもバラしている最中の撮影ですが、ヘリコイド部 (基台) とマウント部とに分割したところです。すると赤色矢印には「緑色の固着剤」が塗布され、グリーンの矢印は「赤色の固着剤」です。
共に市販されている固着剤ですが (簡単に手に入る) 同じ性質 (目的) の固着剤をわざわざ2色用意する必要性がありません。従ってこれらから過去メンテナンスは最低2回実施されている事が分かります。
なお、ブルーの矢印箇所は絞り連動ピンの機構部ですが「見る人が見れば分かる」致命的なミスを過去メンテナンス時に犯しており、これが原因で絞り連動ピンの復帰が極僅かに緩慢だったりします(笑)
さらにヘリコイド部 (基台) をバラしたところです。「白色系グリース」だけが塗られており (赤色矢印)、まだ新しいのでそれほど時間が経っていません。もちろんグリーンの矢印のグリースが溜まっている箇所を見れば「白色」なのが歴然ですが、ヘリコイドのネジ山部分は「うっすらとグレー色」です。
これはアルミ合金材のネジ山が摩耗した摩耗粉が混ざっているから当初の白色から変質しています。つまり僅か1年〜数年レベルでこのようにアルミ合金材の摩耗が進行しますから、なにゆえに製産当時使われていたであろう「黄褐色系グリース」を使わずに「白色系グリース」を塗るのかと言う疑念が湧いてきます。
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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
左写真は、バラしたパーツを洗浄した後、当方による「磨き研磨」を施し再び洗浄後に並べて撮影したヘリコイド部 (基台) です。
ご覧のようにピッカピカに磨き上げていますが、これは「ピッカピカにする」のが目的ではなく経年劣化で生じてしまったパーツ表層面の酸化/腐食/錆びを除去する事で「平滑性を確保する」のが目的です。
それによって「不必要なグリースを排除できる」ことになり、逆に言えば今後の使用で将来的にオールドレンズ内部に廻ってしまう「揮発油成分」の光学系内への侵入量を、可能な限り低く抑える事が最大の目的です。
それは経年の揮発油成分が原因で「光学系内のカビ発生」或いは「コーティング層の経年劣化進行」を極力避けるためでもあり、今後さらに数十年〜半世紀に渡り使う「延命処置」と当方では受け留めています。
このような処置を当方では「DOH」と命名し処置しています。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
もちろん上の写真では既にヘリコイドグリースを塗布しており「黄褐色系グリース」を塗っていますが、如何に塗布量が少ないのかがお分かり頂けるのではないでしょうか (冒頭のバラしている途中の写真と比較するとよくグリース量が分かる)。
このように「磨き研磨」によってヘリコイドのネジ山も「表層面の平滑性が担保される」ので「グリースに頼った整備」の必要性すらなく、最低限のグリース塗布量で適正なトルクを実現できます。
逆に言えば「黄褐色系グリース」のメリットはアルミ合金材の摩耗レベルが低いのですが欠点としてネジ山の状態に神経質です。一方「白色系グリース」はネジ山の状態に左右されずに一定の軽いトルク感を実現できますが、デメリットとしてアルミ合金材のネジ山摩耗はどんどん進行していきますから、将来的なトルクムラは防ぎきれません。
またヘリコイドのネジ山に対して選択した「白色系グリースの粘性 (性質)」が適合していないと、距離環を回した時に「スリップ現象」が発生してしまい、ピント合わせ時の微動時にククッと動いてしまう使い辛さに至ったりします (今回の個体もスリップ現象が発生していた)。
つまり短時間で軽いトルク感で仕上げようとすれば「白色系グリース」は非常に有難いヘリコイドグリースなのですが、如何せん製品寿命をどんどん短くしている事にも繋がります。
↑完成したヘリコイド部 (基台) に鏡筒をストンと落とし込み「締付環」で前玉側方向から締め付け固定すれば鏡筒のセットが終わります (グリーンの矢印)。
なお上の写真ブルーの矢印のとおり、当方の「DOH」では「直進キーや直進キーガイド (溝) にグリースを塗らない」事がほとんどです。距離環を回すことでこの「直進キーガイド (溝)」部分を「直進キー」がスライドして行ったり来たりしますが (それによって鏡筒が繰り出されたり収納したりしている仕組み)「原理原則」に則って考察すれば自ずとその理由が明白です。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
つまり、距離環を回した時のチカラが「直進キー」に伝達され、その伝達されたチカラで鏡筒が繰り出したり収納したり前後動していますが、その伝達されたチカラを「直進キーの部位に留めてしまう」とそれは「距離環を回す時の抵抗/負荷/摩擦になる」ことが分かります。
それはそのまま「距離環を回すトルクが重い」と言う印象を伴うので、軽い操作性を実現しようと考えれば「直進キーの部位にはチカラを留めてはイケナイ」ことになります。
それゆえ、たいていの過去メンテナンス時はこの「直進キー」にビッチリグリースを塗ってしまうのですが、経年で酸化/腐食/錆びが生じて「直進キーの抵抗/負荷/摩擦が増大する」因果関係を用意しているようなものです (ほぼ間違いなくたいていの真鍮材は酸化/腐食/錆びが生じてしまう)。
しかしよ〜く考えると「直進キー」によってチカラの方向性が変化するので、距離環を回した時のチカラは「直進キーに留まらずそのままヘリコイド (オス側) が直進動するチカラへとすぐに伝わってしまう」事になります (つまり鏡筒が前後動する)。
と言うことは、単に平滑性を確保してあげればグリースを塗る必要性すらないと言えますね (実際当方はグリースを一切塗らない)(笑)
左写真は実際に「締付環」で鏡筒を締め付け固定したところです。
このように1工程を使ってワザワザ「締付環」による締め付け固定にせずとも、鏡筒をダイレクトにネジ止めしてしまえば楽なように考えますが(笑)、どうしてこのような設計にしたのかよく分かりません。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。当初バラした直後はこのマウント部内部にも過去メンテナンス時の「白色系グリース」が塗られており、一部パーツは揮発油成分で酸化/腐食/錆びが生じていました。
↑取り外していた構成パーツも個別に「磨き研磨」を施しセットします。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)、その押し込まれた量の分だけ「開閉アーム」が移動します (②)。
重要なのは「絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけしか開閉アームは動かない」点です。これを非常に多くの方々が勘違いしています (理解していません)。
絞り羽根の開閉に不具合があると、たいていの人は絞り環をガチャガチャ操作しますが、その時に変化しているのは「開閉アーム移動範囲の設定」だけであり、そもそも設定絞り値まで絞り羽根の角度を変化させる量のチカラの伝達が成されていなければ、どんなに絞り環を回しても絞り羽根は期待通りに閉じません。
何を言いたいのか?
多くのオールドレンズで絞り羽根は「常時開こうとするチカラ」と「閉じようとするチカラ」の2つのチカラバランスの中で適正な開閉動作をする概念です。すると、上の写真で言えば絞り連動ピン機構部に附随する「捻りバネ」と、一方「開閉アームに附随するスプリング」の
2つのチカラバランスで絞り羽根の開閉が行われている事になります。
この種別の異なる「捻りバネ/スプリング」の一方、或いは両方が弱ってしまうと途端にチカラバランスが崩れて「絞り羽根の開閉異常」に繋がります。
従って、このマウント部内部の各構成パーツの動きを滑らかにしようとグリース塗布するのは「禁じ手」であり、経年による各パーツの酸化/腐食/錆びは特に「捻りバネ/スプリング」のサビと経年劣化による弱りを防ぐ意味からもゼッタイにしてはイケマセン (と言ってもまず過去メンテナンス時に塗られていない事がありませんが)。
その意味で、いわゆるその場限りの「グリースに頼った整備」が罷り通っているのが現状です (組み上げてしまえば外から分からない)。
↑完成したマウント部を組み付けますが、後からセットできないので「指標値環」を入れておきます。
↑鋼球ボールを埋め込んでから絞り環をセットします。このモデルは絞り環の駆動域微調整機能が無いので、単にセットするだけです。
やはり鋼球ボールをセットしてから「スイッチ環」を組み付けます。
A/Mツマミを動かすと小気味良く確実に「自動 (A)/手動 (M)」が切り替わり、同時にマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」も格納されたり飛び出てきたりします。
↑ようやく出てきました。冒頭の解説で『富岡光学製』の証と判定した①の解説です。マウント部のスイッチ環用「メクラ (カバー)」を横方向からイモネジ (3本) を使って締め付け固定する方式を採っていたのが富岡光学だけだからです (グリーンの矢印)。
例えばこのように「メクラ (カバー)」が存在するオールドレンズは他にもたくさんありますが、それらはイモネジで締め付け固定せずにダイレクトに「メクラ (カバー)」がネジ込み式でセットされます (つまりネジ山が備わっている)。或いはマウント面側に締め付け用のネジが3本入るモデルも数多く存在しますし、締付環 (リング/輪っか) で締め付けて固定する方法を採っている場合もあります。
↑ここでやっと「指標値環」をイモネジ (3本) で締め付け固定できます。この時、固定位置をミスると絞り環を回した時のクリック感と設定絞り値とがチグハグになったりします(笑)
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑この当時のマルチコーティング化された『富岡光学製OEMモデル』の55mm/f1.4を探そうとすると、極一部のモデルだけしか造られていなかった為に流通量が少なくなります。すると以下の問題点が出てくるのでハッキリ言って相当希少です。海外オークションebayでの流通価格も、だいたい1万円台後半〜2万円台後半で推移しています。
① そもそもマルチコーティングモデルは流通量が少ない
② もともと富岡光学製OEMモデルは光学系の劣化が早い
③ 55mm/f1.4の場合、特に後玉の状態が問題になる
特に近年このマルチコーティングモデルの価格帯が高騰を始めており (モノコーティングはまだ安いまま)、且つ市場出現頻度も相当に低くなっているのでさらに高騰傾向にあります。
①は例えば海外オークションebayで探していても年間に10本台の出現レベルですから、それほど多いモデルとは言えません。また②についてはこのモデルに限らず富岡光学製オールドレンズは、光学系コーティング層の経年劣化進行が早い、或いはカビの発生率が高いように考えます。
そして最後の③が左写真です。無限遠位置「∞」の時これだけ後玉が突出してくるために、経年使用で当てキズや擦りキズが付き易いと言えます (つまりキレイな状態を維持した個体が大変少ない)。似たような話は、例えば東京光学製の「TOPCORシリーズ」の焦点距離50mm/
55mmなど標準レンズにも当てはまります (やはり後玉の突出が多いから)。
従って、このモデルで後玉にキズも無く光学系内のカビ発生状況が軽い (或いはコーティング層経年劣化が少ない) 個体を探すのは至難の業です。すると前述の海外オークションebayでも年間数本レベルまで出現数は下がります。実際、今回の個体は3年間も探し続けてようやく入手した次第です (下位格の開放f値f1.7モデルは今までに数本手に入れている)。
またどう言うワケか今回の「中期型」よりも「後期型」の「濃いグリーン色のコーティング層光彩」を放つモデルのほうが多いので、今回扱うモデルはとても稀少品だと言えるワケです。
光学系の設計が5群7枚のビオター/クセノン型構成ですから、本家旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製標準レンズ「Biotar 58mm/f2 T」とどのように写り方が異なるのかを楽しむのも良いですね(笑) 実際、その描写性は明らかに日本製オールドレンズの匂いが強く出ており、海外製オールドレンズのようなコッテリ系のコントラストやシアンに振れる発色性の偏りは少なめにアレンジされています。
開放f値が「f1.4」と明るい分、今となってはむしろ今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着して開放設定での様々な諸収差の味わいを楽しむのがオールドレンズの味として捉えた時の醍醐味とも言え、まさに今ドキのインスタ映えの如く愉しめるオールドレンズの一つです。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。特にこのモデルの開放f値「f1.4」の場合、光学系前群側にカビが発生している率が高いのですが、今回の個体は第1群 (前玉) 外周に数箇所カビ除去痕が残った程度なので非常にラッキ〜です。
上の写真で外周にギザギザな部分が写っているのはそのカビ除去痕ではなく「後玉のコバ端」です (後玉にピントを合わせて撮影している為明確に写っている)。
このモデルのピントの山は合焦の際に微動させる範囲が非常に狭く「急にピタッと合焦する」印象なので、却ってそれが心地良く感じて操作していてオモシロイです(笑) もちろんその分、距離環を回す時のトルク感が重要な使い勝手の良さにダイレクトに繋がりますから、オーバーホールが終わっている個体のありがたさをご落札者様1名様だけが堪能できると思います。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
第1群 (前玉) 外周に残っている数箇所のカビ除去痕は撮影使用と試みましたが微細すぎて写っていません。
↑光学系後群側も驚異的な透明度を維持していますし、ご覧のように後玉表面に経年使用に於ける当てキズや擦りキズが一切ありません (上の写真で波を打っている影は撮影で使っているミニスタジオの写り込みなので現物にはありません)。
もちろんLED光照射でも極薄いクモリすら皆無です (つまり全く以てスカッとクリアです)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:19点、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・第1群(前玉)の外周にカビ除去痕が数箇所残っています。また後群内にカビ除去痕1点と8mm長の極薄い微細なヘアラインキズ1本ありますが、写真には全く影響がないレベルです。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根か閉じる際は「完璧に正六角形を維持」します。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で小気味良いクリック感を伴い確実に操作できます。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑外観の状態や不具合が無いかどうかよりも、ほとんどの場合で光学系の状態で今まで調達を断念していた事が多いので、とうとう3年経ってしまいましたがようやく入手できました。『富岡光学製OEMモデル』として、且つグリーン色の光彩を放つマルチコーティングのモデルたる「中期型」は本当に希少です。お探しの方は是非ご検討下さいませ。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
距離環のローレット (滑り止め) は繋ぎ目に極僅かに隙間があります (赤色矢印) が、今回のオーバーホールでは特に剥がさずそのままにしてあります。また数十年後に収縮してきたらその時は剥がして再貼り付けしてください。
また無限遠位置は日本製「Rayqual製マウントアダプタ」と中国製「K&F CONCEPT製マウントアダプタ (新型)」で適合させています。
なお、鏡胴やフィルター枠、或いは距離環ローレット (滑り止め) などに打痕箇所や擦れキズ/ハガレが複数ありますが着色しています。
↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が非常に少ないのがこの光学設計の良さを物語っていると思います。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。