◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Planar 35mm/f3.5(旧CONTAX C)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理を承ったモデルはCONTAXレンジファインダー用に旧西ドイツCarl Zeissから1954年に発売された広角レンズ『Planar 35mm/f3.5 (旧CONTAX C)』です。今回ご依頼頂いた方も、いつもオーバーホール/修理を承っているリピーター様です・・この場を借りてお礼申し上げます。

このモデルを取り扱うのは今回が初めてなのですが、実は当方は旧CONTAX Cマウントのオールドレンズは、いままでコシナ製のモデルしか整備したことがありませんでした。その意味ではオリジナルのモデルをオーバーホールするのも初めてと言うことになり、このような貴重な機会を与えて頂いたご依頼者様に感謝しています。

そして、今回バラしてオーバーホールしてみたところ現コシナ製のモデル (Carl Zeissブランドの製品) が如何にコシナ独自の設計で作られていたのかを明確に知ることができました。元祖「Made in Germany」刻印があるCarl Zeiss製モデルは、非常に理に適った内部構造をしており、当初バラす前の構造検討では少々時間を要しましたが、バラしてみれば各部位の設計や構造は至極納得できる構成パーツで組み上げられた集合体でした。逆に言えば、現コシナ製Carl Zeissプランドの製品は、どうしてああまで特異な構造にしてしまったのか全く見当が付きません。もっと言えば、光学系さえも新設計で造られているのがコシナ製品ですから、その意味ではブランドとモデル銘だけを冠した全くの別モノとしか言いようがありません・・それでいて商標権の使用料やら光学系設計時の技術提携料なども含めて何某かのリターンをCarl Zeissに支払っているでしょうから、販売価格が高額になるのも致し方ありません。現在の最新技術を使うにしても当時の光学系設計を踏襲したモデルを用意するならともかく、別モノ品と言うのは何だか納得できない気持ちでいっぱいです。

光学系は4群5枚なのですが、この光学系がいったい何型になるのかはよく分かりません。同じCarl Zeiss製「Biogpn 35mm/f2.8」の廉価版として設計されているとのことですが、廉価版とは言えなかなか端正な素晴らしい描写性能です。バラしていて面白かったのは光学系が鏡筒内にバラバラと落とし込みで組み付けていく方式でした (各群は全く固定されていません)・・絞りユニットさえも間に挟み込んで光学系の前後群でサンドイッチ状態です(笑) ロシアンレンズならばイザ知らず、本家Carl Zeissでこの方式をやってしまうところが、さすがに日本人には真似できない部分でしょうか(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。コシナ製のモデルと比べると明らかに部品点数が少なくシンプルです。シンプルではありますが構造としては簡易なタイプとも言えないでしょうか・・バラしてしまえばどうって言うことはありませんが (バラす前が一番難しいですね)。

ちなみに、当初バラして清掃した直後は、上の写真で黄金色に光り輝いている「真鍮製」パーツは・・すべて「焦茶色」でした。既に当方による「磨き研磨」の工程が終わっているので、上の写真では綺麗な黄金色に輝いているのです (一部のパーツはそのまま焦茶色です)。「磨き研磨」はキレイに光り輝かせるために執り行っている工程ではありません。真鍮製パーツの経年劣化に拠る「表層面の腐食 (酸化)」を可能な限り排除して「必要外の抵抗 (負荷)」を限りなく排除するのが最大の目的であり、当方の「DOH」たる所以です。

もちろん、バラしながら、外したパーツがどうしてそのカタチなのか、或いはどうしてこの位置に取り付けていたのか・・逐一「観察と考察」をしながら納得ずくでバラさなければ今度は組み立てができません。単に逆手順で組み上げれば良いではないかと仰る方が居ますが、組み立て工程では必ず「調整」が関わってきますからネジ1本の締め付けが違うだけでも仕上がりが変わってきます。それゆえ初めて取り扱うモデルの場合には「構造検討料金」をご請求しているのですが、それに対して違和感を感じられる方もいらっしゃるようです。そう言う方は是非とも一度ご自分でバラして組み立てをしてみれば良いと思います・・はたして違和感がそのまま残っているでしょうか(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。上の写真は前玉側方向より撮影しています。光学系前群→絞りユニット→光学系後群の順番で、この鏡筒の中に落とし込んでいく方法で鏡筒が完成します。光学系前群 (つまり前玉〜第2群まで) を固定しているのは、上の写真のように一体で用意されている「前玉枠 (手前の黒色枠)」だけです・・前玉がこの枠に引っ掛かるので固定されるワケです。

↑鏡筒を横から撮影してみました。こんな感じで前玉枠が鏡筒の内側に迫り出しているので前玉が引っ掛かって止まる (固定される) ワケです。当初バラしている最中は、そんなことは当然ながら知りませんから一生懸命黒色の枠部分を外そうと専用工具を使ったりしながら回していました (もちろん何度試しても外れません)・・まさか一体で削り出しされていたとはオドロキです(笑) つまり光学系前群〜絞りユニット〜光学系後群まで一式をすべて後玉側からポロポロと落とすような感じで取り出す方式だったのです。

冒頭の写真 (完全解体の全景写真) をご覧頂くと分かるのですが、光学系の各群 (の硝子レンズは) はすべてが同一径の格納筒に取り付けられています。従って第1群〜第4群までが積み重ね式と言う・・ロシアンレンズでおなじみの方式なワケです。

↑9枚のフッ素加工が施された絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させたところです。ご覧のように絞りユニットも光学系の各群と同一径で作られており、この絞りユニットの前後に光学系前群と後群がそれぞれ (一切固定されずに) 重なっていくワケです。

↑実際に光学系前後群を鏡筒に格納し終わった状態です・・もちろん間には絞りユニットがサンドイッチされています。

↑鏡筒を立てて、この上から絞り環 (レンズ銘板) をアタリを付けた場所までネジ込んでいきます。最後までネジ込んでしまうと絞り環が正しく機能しなくなります。

今回のご依頼では「絞り環が異常に重たい」「距離環のトルクを現状より重くしてほしい」と言う内容です・・それもそのハズで、このモデルは絞り環が距離環から独立していない、絞り環と距離環が内部で合体した構造です。従って、距離環を回すトルクよりも絞り環のトルクが重くなると、距離環でピント合わせした後に絞り環を操作して絞り値を変えた途端に一緒に距離環が動いてしまいピントがズレてしまいます。これでは確かに撮影に集中できません (当初バラす前のチェックで絞り環のトルクが異常に重いのを確認しました)。

しかしながら、当方で用意している一番「重い」粘性のヘリコイド・グリースを塗布しても当初バラす前のトルク感よりは重くできません。そこで仕方ないので負荷 (抵抗) がなくなる状態まで絞り環と絞りユニットの構成パーツを可能な限り丁寧に「磨き研磨」を施しました。

このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するタイプですので鏡胴「前部」がこれで完成したことになります。次は鏡胴「後部」の組み立てに入ります。

↑こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台 (ヘリコイド:メス側) です。

↑真鍮製のヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で3箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

当初の概算見積をご掲示した際に、塗布するヘリコイド・グリースを「粘性:重め」にしてもご希望どおりに「当初より重いトルク感」に仕上げられるか否か分からない旨、ご案内しました・・その理由がこのヘリコイド (オスメス) です。ヘリコイドはオス側もメス側も同じ材質「真鍮製」になっているので、当方で用意しているヘリコイド・グリースの成分では、それほど重くならないと推測したからです (ヘリコイドのネジ山の材質から判断しています)。それは、おそらくこの当時のモデルですからヘリコイドはオスもメスも同じ真鍮製ではないかと予測したからです・・的中しましたね。

従って、ヘリコイドのトルク感は当初バラす前のトルク感よりも下手すると僅かに軽い印象に仕上がってしまうと思われます・・だとすると、絞り環の操作性をさらに軽いトルク感に仕上げなければ、例え「異常に重たい」のが改善されたとしても絞り環の操作時に都度ピントがズレてしまい使い辛さには変わりありません。その辺のことをシッカリ考慮してヘリコイド・グリースを選択し粘性も「重め」にしました (当然ながら絞り環周りの工程の際も、このことを考慮して「磨き研磨」などをしているワケです)。これが当方で言っている「構造検討」の結果であり、納得ずくでバラしているからこそ各部位の調整がキッチリと処置できるワケです・・「構造検討料金」を請求されることに違和感を感じられる方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様宛に整備をご依頼下さいませ。決して当方にはご依頼頂かぬよう切にお願い申し上げます。

↑話が反れてしまいました。マウント部 (爪とロックツマミ) を組み付け化粧環 (被写界深度値) を組み付けます。

↑距離環の指標値環をセットして、同様に化粧環 (絞り値環) を組み付けます。これで鏡胴「後部」が完成したので、この後は完成している鏡胴「前部」をネジ込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。

このモデルが一般的な鏡胴が二分割するモデルと大きく異なるのは、この「鏡胴前部をネジ込む」と言う組み付け方法です。一般的に多い方式は鏡胴「前部」をストンと鏡胴「後部」に落とし込んで (差し込んで)、後玉のほうから鏡胴「前部」の固定環で締め付け固定する方式です。このモデルも同じように鏡胴「前部」を後玉側から固定環で締め付け固定することで仕上がるのですが・・ちょっとしたトラップが仕掛けられており、そのまま鏡胴「前部」をネジ込んで固定環で固定しても無限遠が出ない (合焦しない) 設計になっています。似たような設計になっているのがアメリカ製のフィルムカメラEKTRA用の「EKTRA EKTAR」シリーズのオールドレンズです。当方は「EKTRA EKTAR」シリーズのオーバーホールなども今まで執り行っているので、今回このモデルをバラしていて、すぐにピンと来ました。その意味では、完全解体してしまうと組み上げで無限遠が出ない (合焦しない) とパニクってしまう方がいらっしゃるかも知れませんね(笑)

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DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しました。ご依頼内容の「絞り環のトルクが重い」については、とても楽に絞り環操作できるトルク感に仕上がっていますが、決してスルスルと軽すぎるトルク感に仕上げてしまったワケではありません。それでは使っていて、また気になってしまうと思いますから、ちゃんとシットリしたトルク感で絞り環の操作が行えるよう調整しました。また、同時に距離環のトルク感もそれを (絞り環を) 考慮して仕上げていますから、ピント合わせ後に絞り環を回してもピントがズレないように配慮しています・・しかし、それでいてシットリした (当初よりも僅かに軽めな) トルク感で距離環を操作できるようにしています。このモデルはピントの山が掴みにくいですから、むしろあまり重いトルク感にしてしまうとピント合わせが面倒になるかも知れませんね・・。

↑光学系内の透明度はピカイチ状態です。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら「皆無」です。非常に微細な点状カビが後群内にありましたがカビ除去しています (点状のカビ除去痕が残っています)。

↑当初バラした時点では、光学系後群を締め付け固定している固定環がユルユルになっていましたのでシッカリ締め付け固定しています。

↑9枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。極僅かな油染みが生じていましたのでキレイになりました。

ここからは鏡胴の写真になりますが、元々大変キレイな状態をキープした個体でしたので当方による「磨き」を筐体外装にいれましたがあまり変化はありません・・手で持つと指紋が残るのが気になるくらいにピッカピカです。

↑距離環を回すトルク感はご指示があった「現状より重め」にはできませんでした・・申し訳御座いません。

↑レンズ銘板の刻印文字が清掃で褪色してしまったので当方にて着色しています。また、絞り環の固定位置は当初バラす前の時点では僅かにズレていましたが (開放f3.5の先まで回っておりf22はピッタリの位置)、開放側に合わせています・・従って最小絞り値側の「f22」より先まで回るようになっています (絞り羽根の閉じ具合と絞り値との整合性のため)。また、無限遠位置は当初バラす前の位置にて固定しましたので変化はありません。

↑当レンズによる最短撮影距離90cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値を「f4」にセットして撮影しています。もちろんピントはズレません(笑)

↑さらに絞り環を回してF値「f5.6」で撮影しました。

↑絞り値はF値「f8」になっています。

↑F値「f11」で撮りました。

↑F値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。