解説:M42マウントアダプタについて ②

オーバーホール済でヤフオク! に出品しご落札頂いたオールドレンズをお届けしたところ、
マウントアダプタに装着して撮影すると開放時に絞り羽根が顔出ししているとのご指摘を
受けました。

開放時に絞り羽根 (2枚) が顔出ししている。
最小絞り値まで絞り羽根が閉じきらない。
基準「|」マーカーが僅かにズレている。

お手持ちのマウントアダプタと一緒にご返送頂きさっそく確認してみました。
この3点のうち、ご落札者様からのご指摘はのみで、他のは当方にて届いたオールドレンズをマウントアダプタに装着した状態で確認した時の状況です。

ご落札者様がお買い求めのマウントアダプタは、当方がオーバーホール作業時に「基準マウントアダプタ」として毎回必ず使っている『K&F CONCEPT製 (中国製)』です。

相違点は、当方のカメラボディがSONY製α7IIなので「M42 → SONY E マウントアダプタ」が「基準マウントアダプタ」なのですが、ご落札者様のマウントアダプタは「M42 → m4/3 マウントアダプタ」でした。当然ながら同じブランド (メーカー) ならば間違いが無いだろうと言う考えがあります (当方も同じ考えのもとご落札者様が安価に入手できるようヤフオク! ご落札時のオプションを用意しています)。

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今回ご指摘を頂いたオールドレンズをオーバーホールした際 (或いはヤフオク! 出品時) は、これら問題点は生じていませんでした (それ故そのままヤフオク! に出品しご落札頂いたワケです)。

ところが同じ『K&F CONCEPT製』にも拘わらず不具合が発生したとなると問題です。

↑上の写真は当方所有マウントアダプタに問題のオールドレンズを装着した時の写真です。オールドレンズは既にフィルター枠や光学系前群などを取り外して絞りユニットがダイレクトに視認できる状態にバラしています。

当方所有マウントアダプタにネジ込むと (M42マウントのオールドレンズなのでネジ込み式) ちゃんと基準「|」マーカーが真ん中 (真上) に来ます。

↑この時、前玉方向から絞りユニット内部を撮影し、絞り環の設定絞り値を「開放状態」にセットした写真です。絞り羽根が顔出ししておらず完全開放しています。

↑この状態のまま絞り環を回して最小絞り値「f16」まで絞り羽根を閉じた写真です。ちゃんと開放から順に絞り羽根が閉じていき、最後は最小絞り値「f16」まで閉じきっています。

↑こちらはご落札者様より同梱のうえ返送頂いた、同じ『K&F CONCEPT製』のマウントアダプタでm4/3 (マイクロフォーサーズ) 用のタイプです。ネジ込むと僅かに基準「|」マーカー位置がズレています。

↑同じようにこの状態のまま前玉側方向から「開放状態」を撮影しました。写真が下手クソなので少々見にくいですが、確かに「2枚の絞り羽根が顔出ししている」のが視認できます (赤色矢印)。

↑同じように絞り環を回して最小絞り値「f16」にセットした時の写真です。絞り羽根は「f5.6」まで閉じた時点で停止してしまい、それ以降最小絞り値「f16」まで閉じきりません (つまり上の写真はf5.6の開口部の大きさのまま)。

↑こちらは当方所有の基準マウントアダプタ「M42 → SONY E マウントアダプタ」です。赤色矢印の箇所をご覧頂くと突出 (出っ張り) が一切ありません。

↑このマウントアダプタはM42マウント用ですが「ピン押し底面」を有するタイプなので、M42マウント規格のオールドレンズでマウント面に「絞り連動ピン」が出ている自動絞り方式のオールドレンズをネジ込んでいった時「強制的に絞り連動ピンを最後まで押し込みきる」為にマウントアダプタのネジ部内側に「棚ように飛び出ているピン押し底面が用意されている」マウントアダプタです (赤色矢印)。

このマウントアダプタの「ピン押し底面の深さ5.36mm」でした (デジタルノギスで5回計測時の平均値/グリーンの矢印)。

↑一方上の写真は、同じ「K&F CONCEPT製」ですがご落札者様から送付頂いたマウントアダプタです。よ〜く見ると赤色矢印の箇所が極僅かに突出しています (出っ張っている)。

↑分かりにくいので斜めから撮影してみました。ちょうど赤色矢印の箇所が出っ張り状況が分かりやすいでしょうか。この突出量は全周で均一ではなく赤色矢印の箇所が最も飛び出ているようにも見えます (計測していません)。もしもそうだとするとキッチリ水平になっていないことになります。

↑同じように「ピン押し底面」タイプなのでマウントのネジ山内側に棚のように出っ張りが用意されており、M42マウントのオールドレンズ「絞り連動ピン」を強制的に押し込むように設計されています。「深さ6.11mm」なので (同様5回計測の平均値)、当方所有マウントアダプタとは深さが違います。

↑ここまでの話が当方のウソだと言う方がいらっしゃるので(笑)、念の為に当時のフィルムカメラで旭光学工業製SPOTMATIC (M42マウント) にオールドレンズを装着してみました。ちゃんと最後までネジ込むと基準「|」マーカー位置が真上に来ています。

↑同じように前玉側方向から撮影した写真ですが、フィルムカメラのシャッタースピードをバルブ撮影にセットしてレリーズケーブルでシャッターボタンを押し込んだ状態で撮影しました。絞り環は設定絞り値「f16」にセットしてあるので、ちゃんと絞り羽根が最小絞り値まで閉じきっています。

一応、これらの検証から当方が行ったオーバーホールは適切な調整を施していたと考えるのですが、もちろん判断するのは皆様ですね。ごまかして画像編集ソフトなどで加工すれば容易にウソをつくことも可能ですから(笑) 当方のチェック時には問題が無かったと言ってしまえばクレームが来ても逃げられます。

↑こちらの写真は、ご落札者様ご送付マウントアダプタに手を加えた後に、マウント部ネジ山の位置を調整して基準「|」マーカーが真上に来るようセットした写真です。

↑全ての再調整が完了したので外していた光学系前群もフィルター枠もちゃんと組み込んだ状態で「開放時」の状況を撮影しました。当初顔出ししていた2枚の絞り羽根が出ておらず「完全開放」しています。もちろんご落札者様ご送付のマウントアダプタに装着した状態です。

↑この状態で絞り環を回して設定絞り値「f16」にセットした時の絞り羽根の閉じ具合を撮影しました。開放から順に正しく閉じていき最小絞り値「f16」まで閉じきっています (開口部が大きく見えているのは光学系前群が入っている為)。

結局、今回の再整備ではオールドレンズ側は絞り羽根の開閉幅を再度微調整しただけですが、それはそもそも装着するマウントアダプタの「ピン押し底面の深さ」から起因している問題でした。従って必然的にマウントアダプタ側の調整も実施した次第です。

ここにきて一つの命題が湧き出てきてしまいました。「K&F CONCEPT製マウントアダプタは本当に大丈夫なのか?」と言う疑念です。しかし、同じことは他社製マウントアダプタにもそっくりそのまま当てはまる話ですから、そうなると市場に出回っている各カメラ別のマウントアダプタを全てチェックしない限り結論を見出せない話になってしまいます。

さすがに個人レベルで (当方は法人格ではなく個人です) はそのような資金も時間も無いので、結局は今までのオーバーホール作業に於ける経験値から最も中庸的なスペックを有するマウントアダプタを「基準マウントアダプタ」に据えるしか手がないと言うのが、今のところの結論です。もちろん日本製マウントアダプタが最も信用/信頼性が高いのではないかと言うご指摘がある点は承知していますが、はたして多くの方々にササッと購入できる価格なのかと考えるとなかなか肯定できないのが現実ではないでしょうか。ましてや、最近ではお気にのオールドレンズ個体別に専用のマウントアダプタを装着したままお使いの方も多くなってきました (マウントアダプタの価格が安くなってきているから)。

従って、日本製である点を基準とはせず「あくまでも数多くのオールドレンズ (2,000本以上) を扱ってきた中から良くもなく悪くもない中庸的な仕様のマウントアダプタが好ましい」と考えている次第です (デザインや価格/生産国ではなく仕様/スペックが重要)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

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長々と解説してきましたが、今回の現象はハッキリ言って「マウントアダプタとの相性問題」であり、当方のオーバーホール (整備) の問題ではありません。ところが現実は厳しく、ほぼ2〜3カ月に1件の頻度でこのようなお問い合わせやクレームなどが来ているワケで、時には「技術スキルが低いクセに言い訳を言っている」との悪評がSNS等で拡散している始末です(笑)

まさしく技術スキルが低いのは間違いない事実なので反論もできないワケですが、少なくとも言い訳ではないつもりです。

今回の件で非常に問題だと感じたのは、当方の基準マウントアダプタと同じ「K&F CONCEPT製」にも拘わらず「ピン押し底面の深さが異なる点」です。確かに当方が使っているマウントアダプタを入手したのは6〜7年前なので、現在市場に流通している同型品の仕様が変更されている懸念は捨てきれません。

しかしそうなると皆さんは、ではいったいM42マウントの何の規格を以てして設計したのかと言う疑問が湧いてくると思います。ところが、残念なことにM42マウントのオールドレンズで自動絞りを採用したマウント面に「絞り連動ピン」が突出しているモデルは、その飛び出ている絞り連動ピンの長ささえも個体別にマチマチです。それはモデル別の相違である場合 (設計が違う場合) もあれば、過去メンテナンス時に調整されてしまった場合もあります。絞り連動ピンの突出量を微調整できるモデルもあれば長さが固定の場合もあるワケです。

そしてもっと言えば、絞り連動ピンが押し込まれた際、マウント部内部の機構部には「必要以上に押し込まれた時のチカラを逃がす設計の有無」がオールドレンズのモデル別、或いはメーカーの相違によっても違いが顕在し、必要以上に押し込まれてしまったチカラの対応方法がバラバラです。

一方、当時のM42マウント規格のオールドレンズは、その装着先をフィルムカメラとしか想定していなかった為に絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけ絞り羽根を開閉させる設計を採っていることが普通です。つまり「ピン押し底面」を有するマウントアダプタに装着した場合、そのピン押し底面の深さによっては絞り羽根が正しく制御できない現象 (絞り羽根の開閉異常) が発生するのが現実です。

今回の現象で言えば、ご落札者様所有マウントアダプタは「ピン押し底面の深さが深すぎた」が故に絞り連動ピンが最後まで押し込まれずに、絞り羽根が最小絞り値まで閉じきらなかったと言えます。なお開放時に2枚の絞り羽根が顔出ししていた原因は、このマウントアダプタのM42マウントネジ部が水平を維持していなかった (凡そ0.5mmほど水平方向で斜め状) のが影響していたようです。

と言うのも、M42マウントアダプタの場合、マウントのネジ部周囲 (側面) に均等配置で3箇所トルクスネジが用意されている場合があります (今回のマウントアダプタも用意されている)。そのトルクスネジを緩めることでネジ山の位置を微調整できるので、オールドレンズをネジ込んだ際にちゃんと基準「|」マーカーが真上に位置するようセットできます。

しかし、そのトルクスネジのネジ込みをミスると、今回のようにネジ部が浮いてしまい極僅かに水平を維持しないことに至り、結果絞り羽根の開閉に不具合が出ます (下手すれば光学系の偏心ズレに至る)。

例えば、オールドレンズに使われている「イモネジ」も同じですが、締め付ける際のコツがあり、それをミスれば様々な不具合が発生します。
※イモネジ:イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種)

オールドレンズに使われているネジ種を見た時、どうしてそのネジ種が使われているのか、何故その箇所なのか「観察と考察」で納得しない限り正しい組み上げには至りません。その意味で、単にバラしてヘリコイドグリースを塗って組み上げただけだとしても、細かい調整は蔑ろにされたままなのがオールドレンズであり、いちいち検査してチェックしない限りなかなか適切な仕上がりには至りません。

とは言っても、当方で検査に使っているのは0.1mm単位や10倍の精度を持つ厳密な検査機械ではなく「単なる簡易検査具」ですから、自ずと限界があります。従ってヤフオク! で高い信用/信頼がある出品者様が言うように「勘に頼った手による整備」を平気で行っているのが当方であり、且つその技術スキルたるや相当低いレベルのままですから、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様宛にオーバーホール/修理をご依頼されることを強くお勧め致します。もちろん当方がオーバーホール済でヤフオク! 出品しているオールドレンズも過信は禁物ですね (当方のヤフオク! 評価をご覧下さい)(笑)

なお、当ページで記載している事柄はご落札者様に対しての話ではなく、このブログをご覧頂いている多くの方に「マウントアダプタの信頼性とは」と言う疑念を持って頂きたいからであり、究極的にはオールドレンズに於ける「マウント規格とは」と言う疑問も結論を見出せずにいるのが当方の未熟さでもある点を是非ともご承知置き頂きたいと思うからです