◎ KONISHIROKU (小西六) HEXANON 52mm/f1.4《初期型》(KF)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
1960年にKONICAから発売されたフィルムカメラ「KONICA F」のセット用標準レンズとして用意された『KONISHIROKU』銘を附随する初代『HEXANON 52mm/f1.4 (KF)』が今回オーバーホール/修理を承ったモデルです。マウントが「KONICA Fマウント」なので市場によく出回っている「KONICA ARマウント」とは互換性がありませんが今回の個体には純正の「KONICA LENS ADAPTER (F-AR)」がセットされていたので、そのまま調整が可能です。
当方では「HEXANON AR」のシリーズは数多く整備してきましたが「Fマウント」のモデルは一度も整備したことが無く今回が初めてになります・・このような機会を与えて頂き大変ありがとう御座います。
光学系はネット上を検索しても全くヒットせず事前情報がありませんでしたが今回バラしてみると5群7枚の拡張ダブルガウス型でした。第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) がバラけてくれば6群7枚のウルトロン型になるワケですが接着されているので描写性能を見てももその特徴がシッカリと現れています・・収差をふんだんに含んだ写りはグルグルボケまであともう一息と言う、その手のファンの方々には少々消化不良的なボケ味がまた逆にこのモデルの魅力になっています。それは特に繊細感を漂わす描写性が特徴の後に登場する「HEXANON AR」シリーズとは趣を異にするシッカリしたエッジを伴うカリカリのピント面と共にアウトフォーカス部の (ある意味中途半端的な) 滲み方が一層にピント面のインパクトを強調しており、これがヘキサノンかと言うほどに端正な写りであり1本手元に置いておきたくなる不思議な魅力がある素晴らしいモデルです。
内部の構造は絞りユニットに関しては後の「HEXANON AR」シリーズにも継承していく機構が既に完成の域に達していたことが今回バラしてみて判りました。しかし、絞りユニットから絞り環への連係やヘリコイド (オスメス) の設計に関しては改善の余地が残されており「HEXANON AR」シリーズでキッチリと設計変更してきた流れが逆に検証できたワケで感慨深い経験になりました。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。上の写真の白紙の上に並べてある光学系の各硝子レンズで、左から2番目が第2群になりますが「曲率」が高いのがお分かり頂けるでしょうか・・。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが、この当時としては非常に明るい開放F値「f1.4」なので大口径の光学系前群を収納する大型な真鍮製の鏡筒です・・このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割する設計で作られています。上の写真では鏡筒が黄金色に光り輝いていますが、実はバラした直後は鏡筒全体が溝の部分の色合い・・黒っぽい焦茶色・・と同じになっていたのを当方による「磨き研磨」にて真鍮材の表層面の腐食を除去したために光り輝いています。これは「輝かせる」のが目的ではなく経年劣化に拠る表層面の腐食に拠り「必要外の摩擦」が生じているのを可能な限り滑らかな状態に復元するのが目的で処置している工程です。
↑こちらの写真は鏡筒内にセットされる「絞りユニット」のベース環を撮影しました (もちろん磨き研磨済です)。
↑絞りユニットのベース環をひっくり返して反対側 (裏側) を撮りました・・窪んでいる箇所は磨けないので黒っぽい焦茶色のままになっています。
↑絞り羽根が刺さる箇所の反対側 (裏側) には「カム」が打ち込まれており、ここに「絞り羽根開閉幅制御環」と言う絞り羽根が開いたり閉じたりする際の絞り羽根の角度をコントロールしている環 (リング/輪っか) がセットされます・・上の写真のグリーン色の矢印の位置に組み付けて、ちょうどカムの下側に入っている状態にします。
↑「絞り羽根開閉幅制御環」を組み付けた状態の写真です。カムには「捻りバネ」が1本セットされ絞り羽根が「常に閉じている状態」になるようバネのチカラが及びます。後の時代に登場する「HEXANON AR」シリーズでも同じ機構なのですが、もう少し捻りバネの強さを強めに設計していれば経年劣化に拠るヘタリもまだ少なかったのではないでしょうか・・しかし、単に絞り羽根を閉じさせるチカラとしては、この部位の研磨がシッカリ完了していれば特に問題ありません。当初バラした時点では、これら構成パーツの経年劣化に拠る表層面の腐食が影響して必要外の摩擦が生じており、この捻りバネのチカラだけでは絞り羽根が完全に閉じるまでには至っていませんでした。
↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。カムにセットされた捻りバネのチカラだけでも上の写真のように正しく最小絞り値「f16」まで絞り羽根が閉じています・・まさしく「磨き研磨」の効果ですね。
↑この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました・・鏡筒の裏側は、こんな状態になっています。なかなかギミックな印象ですが実際の各部の動き方も、かなりアナログ的な要素が多く含まれています。
↑上の写真左上の角にはワザと分かり易いように本来はマウント面にセットされるべき「絞り込み用の爪」を差し込んで撮影しています。鏡筒の裏側には「絞り羽根開閉幅制御アーム」と言う弧を描いた金属製のアームが用意されており、その溝にカムが刺さるようになっています。
上の写真の「絞り込み用の爪」が動かされることにより (①)、その時同時に「絞り羽根開閉幅制御アーム」も動いて外側に向かって移動します (②)。すると絞り羽根が閉じていく仕組みになっており、つまりは絞り羽根の開閉 (開口部/入射光量) を調整している機構部と言うことになりますね。
↑こちらの写真はワザと「絞り込み用の爪」を逆方向に動かして (①)、今度は絞り羽根が開ききって「開放位置」になっている状態を再現しました・・この時「絞り羽根開閉幅制御アーム」は最も鏡筒の内側方向に向かって入り込んでいる状態になっています (②)。
つまり本来はマウント面にセットされている「絞り込み用の爪」の動きと共に「絞り羽根開閉幅制御アーム」が外側に飛び出したり、或いは内側に入り込んだりして「溝」に刺さっているカムの向きを変えている=絞り羽根の角度を制御している仕組みと言うことになります。
この部位の動きについて詳しく解説したのには理由があり、絞りユニットのカムにセットされていた「捻りバネ」は経年劣化に拠って弱っていたものの、まだ適正なチカラを及ぼす余力が残っていたのですが (ちゃんと最小絞り値まで絞り羽根を閉じさせることができているから)、残念ながら、こちらの「絞り羽根開閉幅制御アーム」にセットされている「捻りバネ」のほうはスッカリ弱くなっています。多少カタチをイジって調整したのですが、これ以上どうにもできません。
つまりご依頼内容のひとつである「絞り羽根が最小絞り値f16まで閉じきらない」原因は前述の絞りユニット内部のカムにセットされている「捻りバネ」ではなく、こちらのアームのほうの捻りバネが完璧に劣化してるために生じている現象でした。この部分の捻りバネが劣化しているために「絞り羽根開閉幅制御アーム」を正しい位置まで動かすことができなくなっており、結果絞り環を回す際に「ぎこちなさ」や「トルクムラ」或いは「引っ掛かり」が生じる原因となっています・・アームが適正な位置まで瞬時に移動しないのでカムが途中で引っ掛かるため、そのような症状が発生しているワケです。
従って、ご依頼内容のひとつ「絞り羽根が最小絞り値f16まで閉じきらない」は改善できていません・・申し訳御座いません。
↑光学系前後群を組み付けてからフィルター枠を先にセットします (後からセットができません)。
↑絞り環をネジ込んでセットします。上の写真では設定絞り値を「開放f1.4」の位置にセットしているので鏡筒裏面の「絞り羽根開閉幅制御アーム」は鏡筒の内側に向かって入り込んでいる状態になっています・・。絞り環を回して最小絞り値「f16」にすると「絞り羽根開閉幅制御アーム」は飛び出してきますが、その際にカムと引っ掛かりが発生します (常時ではないので問題が無い場合もあります)。
「絞り羽根が最小絞り値f16まで閉じきらない」或いは「絞り環操作が固くなる」「絞り環絞り値f5.6〜f16までが重い」などの症状を改善するために再度「磨き研磨」を施したり、絞り環のネジ山に塗布するグリースの粘性を替えてみたりいろいろと試しましたが改善できません。申し訳御座いません。
↑鏡胴「前部」が前の工程で完成したので今度は鏡胴「後部」の組み立てに入ります。上の写真はマウント部になります。
↑ヘリコイド (オスメス) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込んでセットしてから距離環を組み付けます。この後は完成している鏡胴「前部」をセットして固定環で締め付け固定すれば完成なのですが、ここで問題が発生しました。
鏡胴「前部」を差し込んで固定環で締め付け固定すると絞り環が距離環に当たってしまい無限遠位置まで回ってくれません (∞附近で異常に重くなる)。この現象は当初バラす前のチェック時には生じていなかった問題ですので観察してみると原因は絞り環のネジ込み位置が浅すぎたからでした。
仕方なく再び鏡胴「前部」をバラして絞り環のネジ込み位置を深くしました・・すると今度は絞り環を回した時に絞り値指標値の「f5.6〜f16」辺りが異常に重くなります。念のため、そのままの状態で鏡胴「前部」を「後部」に差し込んで締め付け固定したところ、今度は問題なく滑らかに距離環が無限遠位置まで回ってくれました。
これらの事柄から今回の個体に関して明確になったのは・・以下のようになります。
- 絞り環の操作性
距離環を無限遠位置近くにしている時絞り環の指標値「f5.6〜f16」が非常に重くなる - 距離環の操作性
絞り環の操作性を上記の通り犠牲にしていれば距離環側のトルクは全域で均一な操作性になる。 - 絞り環操作性の改善
仮に絞り環が滑らかに操作できるように調整しても「絞り羽根開閉幅制御アーム」の捻りバネの問題があるので結局、絞り環の操作性は完全に改善ができない。
・・以上のような理由から、最終的に絞り環の操作性を犠牲にしつつ距離環のトルクを全域に渡り均一にするほうを選択しました。申し訳御座いません。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑距離環のトルク感が当初バラす前はグリース切れしておりスカスカ状態でしたが程良いトルク感に仕上がっていると思います。
↑中玉 (第3群) 中心付近に1箇所カビ除去痕が残っています。後玉のカビもキレイに除去できています (カビ除去痕もありません)。
↑前述のとおり、絞り環の操作性を犠牲にした仕上げになっています。また、「絞り羽根開閉幅制御アーム」に附随する「捻りバネ」の問題が影響しているのでマウント面の「絞り込みレバー」をその都度操作して頂かなければ最小絞り値「f16」まで閉じません。撮影時には面倒でも都度、必ず「絞り込みレバー」を操作して設定絞り値まで絞り羽根を閉じて下さいませ。
ここからは鏡胴の写真になります。当方による「磨き」を筐体外装にいれたので落ち着いた仕上がりになっています。
↑距離環の固定用ネジが3本ありますが、そのうちの1本が過去のメンテナンス時に削られています。従って2本だけで固定していますが将来的に問題になる懸念は一切ありません。なお、過去のメンテナンスは最低でも1回実施されているのが確認できていますが (ヘリコイド・グリースに白色系グリースが塗布されていました)、絞り環の操作性と距離環のトルク、及び絞り羽根開閉の改善を試みた痕跡が残っていたので今回と同じ症状だったのではないかと推測しています。
↑当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。
↑絞り環を回して設定絞り値「f2」にセットして撮影しています。
↑F値「f8」になりました。この辺りから絞り環の操作が異常に重くなってきます。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。