◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Planar 50mm/f2(ARRI STD)

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様や一般の方々へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付の解説のほうが分かり易いため今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


今回のオーバーホール/修理ご依頼は、1年前に当方にてオーバーホール/修理を承った個体の「再修理/整備」になる『Carl Zeiss Planar 50mm/f2 (arri STD)』です。
1年前のオーバーホール/修理については「こちらのページ」で解説しています。

今回のご依頼は「絞り羽根が閉じたまま動かなくなってしまった」と言う内容です。

↑上の写真は、1年前のオーバーホール/修理の際に撮影した写真で、「絞り環連係アーム」と「f値/t値連係アーム」が見える位置で撮っています。

  • 絞り環連係アーム:上の写真「上側」のアルミ板
    絞り環の回転に伴い連動して絞り羽根の開閉をしている連係アーム
  • f値/t値連係アーム:上の写真「下側」のアルミ板
    f値/t値切替環の操作に連動して動いている連係アーム

f値とt値の切替環の設定により、絞り環の駆動範囲が設定されるので「f値/t値切替環」の操作時は上の写真の2つの連係アームが一緒に連動して回っています。

f値/t値切替環が「カチッ」と言う音がしてロックされると、上の写真下側の連係アームが固定され動かなくなり、絞り環操作で動くのは上側のアームのみと言う仕組みです。つまり、フツ〜の一般的なオールドレンズでは、f値のみの設計ですから絞り羽根が刺さる「位置決め環」は固定です。ところがこのモデルは位置決め環自体も回るので、絞りユニット内部の2つの環 (リング/輪っか) は互いに回る構造を採っています。

↑こちらの写真は、今回再びバラして取り出した鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割する構造を採っています。

上の写真グリーンの矢印で指し示した位置の上側連係アームが既に破断して消失しています。この上下の連係アームはアルミ合金材で作られており、特に上側の連係アームは1年前の状態で既に摩耗し擦り減っている状態でした。おそらく頻繁に絞り環操作するので摩耗してしまったのだと考えられますが、ご依頼者様の使用方法が悪いのではなく、そもそも「アルミ合金材」でこのパーツを設計して生産していたのが拙いのです。最低でも真鍮製、できればスチール製などで用意していれば、もっと耐用年数は長くなっていたと思います (あくまでも素人的な想像ですが)。

↑こちらの写真は鏡筒を鏡胴「前部」を鏡胴「後部」にセットした状態で、マウント側方向を撮影した写真です。

上の写真のとおり「ヘリコイド筒」と「鏡胴「後部」そして鏡胴「前部」の3つを固定しているイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) が1本存在します。このイモネジは上の写真グリーンの矢印の位置にネジ込まれます。

過去メンテナンス時に既にイモネジの頭が破断しており、マイナスの切り込みの半分しか残っていない状態のまま1年前のオーバーホール/修理では組み上げました。

今回のトラブルで、そもそもf値/t値切替時に「t値設定時カチッとロックしない」と言う現象が、絞り羽根が開閉できなくなる症状の前に発生していたことをお知らせ頂きました。

このように、具体的な経緯や発生していた現象/違和感などを、ちゃんとご案内頂けるのは当方にとっては本当にありがたいことです。短文で「開閉しない」とか「上手く動かない」などと簡単に済ませたお問い合わせを頂戴しても当方には何ら見当が付きませんから、仕方なく基本的な見積価格しかご案内できないことになります。

ところが、実際に届いた現物をチェックすると既に容易ならざる症状に陥っていたり、バラしてみると厄介な状態だったりと言うことが本当に多いです。整備する者の身になって、可能な限り経緯や現状を詳しくご案内頂けるご依頼者様は、当方にとっては宝です。ありがとう御座います!

今回のご依頼内容「絞り羽根が止まったまま動かない」現象の状況が見えてきました。

  1. イモネジの破断からキツく締め付けができない
  2. イモネジは「ヘリコイド筒〜鏡胴後部」を貫通して最後に鏡胴「前部」に突き刺さる
    (つまり2階層を貫通)
  3. 締め付けがキツくできないので鏡胴「前部」が微動してズレてしまった
  4. ズレたためにt値ロックの箇所まで切替環が到達しなくなった
    (t値側でカチッとロックしない)
  5. 結果、絞り環との連係アーム (上側) が突き当たるチカラが増大してしまった
  6. そのチカラに耐えきれず絞り環連係アーム (上側) が破断してしまった

・・こんな流れが見えてきました。実際、今回バラして内部を見ると絞り環の裏側に破断した連係アームの一部がへばり付いていました。

↑まずは、アルミ板を使って自作の連係アームを作りました。

僅か5mm足らず (4.5mmくらい?) の幅の板ですが、連係アームの一部がかろうじて2mmほど残っていました。これは不幸中の幸いでラッキ〜でした。まるッきし破断してしまうと自作板を瞬間接着剤で接着するにしても弱くなりますから助かります。

上の写真グリーンの矢印のとおり、自作板を瞬間接着剤で接着しました。絞りユニット内部の構成パーツの一つである「円形の開閉環」から飛び出ているのがこの絞り環連係アームですから、本来は開閉環をごっそり交換する必要があります。おそらくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでは同型モデルを調達し外した開閉環を入れ替えて修復しているのだと推察しますが、その調達代金まで請求されるでしょうから相当な金額ではないかと・・(怖)

今回の再修理では、アルミ板を使った自作アーム (と言っても補強しただけ) ですから、完璧ではありません。またいつか外れる可能性が高いです。申し訳御座いません。もしも、ご納得頂けないようであればご請求額より必要額分減額下さいませ。スミマセン。

↑今回のトラブルの事の始まりは、実はイモネジの締め付けがキツくできないのが原因です。鏡胴「前部」の位置が1mm弱ほどズレていたのが「t値がロックしない」原因なので、まずは確実に鏡胴「前部」を締め付け固定できるイモネジが必要です。

当方の手持ちパーツの中から該当しそうなイモネジを探しましたが、長さと径 (ミリネジ) が一致するイモネジなど全くありません (2階層の貫通なので相当長い)。

仕方なく、長さだけを優先して見つけた代用ネジをネジ込んでみましたが、ネジ部の長さが長くなるとネジ頭もデカくなりハミ出てしまいます。取っ替え引っ替えしてようやくネジ頭が小さめな代用ネジを見つけたのが上の写真です (グリーンの矢印)。しかし、ネジ込んでみると極僅かですがまだハミ出ています。これでは最短撮影距離位置で、この代用ネジのネジ頭が突き当たってしまいヘリコイドが止まってしまいます。

↑さらに小さめな代用ネジを探しましたが、ありません。仕方ないのでジャンクなフィルムカメラを1台バラしてネジの調達です。

1台目をバラしましたが長さが足りません。2台目をバラしてようやく長さが適合しそうな代用ネジを発見しネジ込みました (グリーンの矢印)。鏡胴「後部」にセットしてみると、まだ最短撮影距離の僅か手前で突き当たってしまいヘリコイドが動かなくなります。

仕方ないので「代用ネジのネジ頭を削るか?」と考えましたが、f値/t値切替環の操作をすると、t値側で再びカチッとロックしなくなります。どうも長さが足りてません。

↑再びジャンクなフィルムカメラをバラす作業の開始です(笑)

3台目をバラしてダメ。4台目もダメ・・とうとう5台目になって諦め、ネジ頭の厚みがあるプラスネジを探し始めました。つまり、ネジ部の長さがまだ足りないので (2階層貫通した後鏡筒まで到達しても締め付けまで至らない)、充分な長さが必要だとするとネジ頭がデカくなるか厚みが増すかのいずれかです。

そこで長さ優先で、今度は厚みをとって見つけたのが上のグリーンの矢印ブラスネジです。厚みがあるので必然的に突き当たってしまい最短撮影距離位置まで全く距離環が回りません。もちろん、それは想定内なので上の写真のように「ガシガシ」削ったワケですョ(笑)

これでシッカリとした強さで鏡胴「前部」を締め付け固定できました。正しくは、2階層を貫通しているのですが、何とその2階層のネジ穴にまでネジ山が切られているので (単なる穴ではない) キッチリ締め付けたいと強く回すと、今度はネジ山が削れてしまいます。仕方ないのでテキト〜な強さで恐る恐る締め付け固定した次第です。

↑オリジナルの状態はイモネジですから、後玉の外周部にこんなネジの出っ張りはありません。見てくれも悪く本当に申し訳御座いません。気になるようでしたら、やはり必要額分減額下さいませ。スミマセン。

そんなワケで、絞り環の開閉が戻り、且つf値/t値切替環も両側でカチッとロックするようになりました。絞り環のクリック感を今回少し強めに調整しハッキリしたクリック感になるように仕上げています。

これで正常に使える・・いえ、正常品の状態まで戻せていないので「何とか実用できる状態」になったと思います。

当方の技術スキルの限界を感じた次第です。このブログをご覧頂いている皆様も、どうか是非とも当方の技術スキルが高いとお考えにならぬようお願い申し上げます。当然ながらプロのカメラ店様や修理専門会社様には全く及びませんし、厳密な検査をする機械設備も一切ありませんし (勘に頼った手による曖昧な整備の範疇止まり)、経験値も皆無でまだ7年の修行途上です (プロではありません/独学の当方はプロの域に全く到達し得ません)。

  • プロの定義:
    プロに師事して下積みから修行を積み重ねた正しい知識と技を習得した専門技術職「

様々な思い入れがあるオールドレンズを期待を込めてご依頼頂きながら、そのご期待に添う仕上がりに至っていないのが当方の現状です。

これが例えばマニアの方やアマチュアレベルですと様々なことに精通していらっしゃるワケで残念ながら当方は様々なことを全く知らないレベルに留まっている次第で (カメラ音痴/写真センス無し)、どうかそれを含んでお考え頂きたいと思います。

実は、t値のことも今回のご依頼者様からご教授頂いたワケで・・恥ずかしいですねぇ〜(笑)

今回の再整備ご依頼、誠にありがとう御座いました。3カ月間に渡りお待たせしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。