◎ MINOLTA (ミノルタ) MD TELE ROKKOR 100mm/f2.5(MD)
ようやくこのモデルのオーバーホールに辿り着きました・・楽しみにしていたんです。個人的にミノルタのオールドレンズが、その画造りと言い内部構造と言い好きなのです。そしてこのモデルが気に入っているのは、何よりもその驚異的な鋭いピント面と質感表現能力、さらにリアル感です・・オーバーホールが終わった当レンズによる開放実写をこのページの最後に掲載していますので、是非ご覧になって下さい。
ミノルタのオールドレンズは「緑のロッコール」と俗に呼ばれていますが、その由縁たる「アクロマチックコーティング (AC)」が当レンズにも前玉の裏面に施されており「淡いグリーン」の光彩を放っています。
このアクロマチックコーティング (AC) は非常に薄く弱い蒸着レベルでコーティングされており、いまだに当方では触ることができずにいます・・もしもコーティング層の経年による劣化が進んでいた場合 (単に眺めただけではコーティング層の劣化の進度は判りません)、触ることによって最悪コーティング自体を剥がしてしまうからです。
そして、このアクロマチックコーティング (AC) はライカのレンズのコーティングにも相通ずるコーティング技術であり、ライカのオールドレンズには光学系内のいずれかの位置に、同じように非常に薄く弱い蒸着レベルのコーティングが施されています (ライカのオールドレンズは淡いグリーン色ではなくアンバー系です)。結果は、当然ながらその画造りにもシッカリと反映されており、誇張的な表現にならず自然であるにも拘わらず、鋭さや緻密感を保ち、質感表現能力や立体感、リアル感などすべてを備えた写真を残してくれます。
当レンズは1968年に発売された初期の「MC ROKKOR-PF 100mm/f2.5」の発展系として1977年に発売されました。その後生産は1981年まで続きMDタイプの第3世代まで進み終息しています。当初MCタイプで5群6枚だった変形ガウス型の光学系は、第2群の貼り合わせレンズの2枚を1枚にまとめた「大きなガラスの塊」に仕様変更しMDタイプとして発売しています。
植物の葉っぱの肉厚を感じ取れるほどの質感豊かな表現性、或いは動物の毛1本1本に至るまでの精緻でリアルな表現性。アウトフォーカス部の緩やかで階調豊かに芳醇なボケ味、空気感や距離感までも感じさせるその立体的な画造り。隅々まで収差の非常に少ない画造りは誇張的な要素を排除した卓越した安定感を感じさせます。
最短撮影距離1mとこのクラスで捉えると寄れる部類でしょうか・・近接撮影でもこれらの優れた性質が余すことなく発揮されます。素晴らしいモデルです。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。当初のMCタイプのモデルと比較すると、パーツ点数はだいぶ減っています。このMDタイプは、モデルによっては一部に樹脂製 (プラスティック製) のパーツを含んでいたりしますが、このモデルに関してはすべてが金属製のパーツで構成されていました。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。普通鏡筒は相応に深いのですが、このモデルでは上の写真のようにとても浅い位置に絞りユニットが配置されます。
こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。MCタイプの頃の、ヘリコイド (メス側) をネジ込む「ベース環」をワザワザ別に独立させて用意していた構造からは簡素化が進んでおり、他社光学メーカーと同じレベルにまで合理化されています。
ヘリコイド (メス側:上の写真左端/手前側) は、このような感じで基台にネジ込まれるのですが、上の写真で中央に位置している「距離環用の指標値環」をワザワザ独立させている変わった構造です。
このような感じで「距離環用の指標値環」を基台とヘリコイド (メス側) とで挟み込むような配置で組み上げます。驚いたのは、この距レ環用の指標値環には、自身を固定する「ネジ穴」も何も一切存在していない構造です。このままの状態では指標値環がスルスルとフリーで回ってしまいます。どのように固定するのかは、最後に出てきます・・意外な固定方法でした。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) に再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
ここでひっくり返して基台に絞り環をセットします。ミノルタのオールドレンズでお決まりの「1mmのマイクロ・鋼球ボール+1mmのマイクロ・スプリング」も入れ込んであります。ミノルタのオールドレンズの整備をしていると、時々この鋼球ボールが「無い」個体にあたったりします (つまり絞り環操作がクリック感の無い無段階絞りの状態なのです) が、間違いなくこの「1mmのマイクロ・鋼球ボール」を飛ばしてしまったのだと思います・・この鋼球ボールは日本国内では一般市場には流れておらず入手できません。同じようにライカのオールドレンズにも「1mmのマイクロ・鋼球ボール+1mmのマイクロ・スプリング」がそのまま使われています・・どうして鋼球ボール径からスプリングの巻き方 (最初と最後だけ二重巻きにしてある) まで全く同一なのでしょうか??? ミノルタがライカの真似をしたのか、或いはライカがミノルタの真似をしたのか・・当方の推測としてはそのどちらでもなく別の理由だと考えています。
こちらはマウント部の内部を撮影しました。既に連動系・連係系の各パーツを取り外しており、当方による「磨き研磨」が終わっています。
裏側にマウント部そのものをネジ止めします。このマウント部を固定するネジはマウント部内部で「隠しネジ」になっているので、ここで先にセットしないと後からマウント部をネジ止めすることができません。
マウント部内部に取り外して「磨き研磨」が終わった各連動系・連係系パーツをセットします。このモデルでは「2階建て構造」になっていました。何と2階部分のパーツは支柱で支えられているのですが、その支柱自体は1階部分のパーツに一切固定されていない構造です。1階部分のパーツ上をスルスルと2階部分のパーツと共に「支柱自体」が移動します・・これが「磨き研磨」の効果が最大限に出る箇所になりますね。バラした当初はこの部分にグリースが塗られていました・・現在は一切塗布していません。パーツ自体の平滑性を取り戻したのでグリースは必要ありません。
「磨き研磨」によりグリースに頼ることなく確実で負荷の掛からない連動・連係が再現されています (つまり生産時の状態に近づいたことになります)。
「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思いますが・・。
マウント部を基台にセットすることによって、絞り環も同時に固定されます。しかし、この段階でもまだ「距離環用の指標値環」は一切固定されておらず、フリーのままスルスルと回っています。
上の写真 (2枚) は光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。2枚共に極微細な点キズや薄く細くて微細なヘアラインキズなどを撮っています。2枚目の中央部分にも弧を描いた薄いヘアラインキズが数本まとまっているのですが、微細すぎてあまりハッキリとは写りませんでした。
こちらは光学系前群を格納する格納筒です・・何と総金属製のしかもアルミ材削り出しによるズッシリと重量感のある格納筒です。このパーツだけで相当な重さを占めています。一番奥には光学系前群の第3群が生産時に固定されています。
光学系前群を組み付けました。前玉裏面のアクロマチックコーティング (AC) が美しいグリーンの光彩を放っています。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:11点、目立つ点キズ:5点
後群内:10点、目立つ点キズ:6点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。前玉裏面外周附近にコーティング層の拭きキズが僅かにあります。後玉には複数のヘアラインキズが視認できます。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
上の写真 (3枚) は光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜2枚目が前玉裏面のアクロマチックコーティング (AC) 層、外周附近にある拭きキズの状態を撮りました。既に入手した時点からこの拭きキズが付いていましたが (当初はカビに見えました)、どうしてこのような拭きキズが付いたのかは分かりません。3枚目は第2群の極微細な点キズを撮っていますが、微細すぎてすべては写っていません。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
ようやく出てきました。「距離環用の指標値環」の固定方法です・・何と樹脂製テープでテーピングしてあるのです。ネジもイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) も一切使われずに、単にテープを貼るだけ。過去のメンテナンスなどで固定用ネジを紛失してしまい、仕方なくテーピングしているのではありません。そもそも「ネジ穴」が無いのです。さすがに伸縮性のない材質のテープを使っているのですが、ネジ止めされていないと言うのは何とも心許ない気がします。テープの裁断箇所を見ればテープホルダーに付いているテープのカット状態です・・さすがにこれほどの簡素化にはオドロキました。経年劣化でテープの一部が既に浮き始めていたので「耐水性」の極薄両面テープでシッカリと固定しています。
光学系の前後群をセットしてからでないと無限遠位置の確認ができませんから、どうしても最後の段階でしかテーピングできません。この上にラバー製ローレットを被せれば完成間近です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
淡いグリーンの光彩を放つ「アクロマチックコーティング (AC)」が施された「MD TELE ROKKOR 100mm/f2.5」です。
光学系内は大変クリアな状態を維持した個体です。そもそも貼り合わせレンズが存在しないので、バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) の心配も将来的にありません。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がほとんど感じられないとてもキレイな状態を維持した個体です。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を使用。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思います。ヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます。
それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・。
内部の構成パーツは、ヘリコイドも含めてすべて当方にて「磨き研磨」を施しているので、ほぼ生産時の環境に近づいた状態に戻っています。また、使用したヘリコイドグリースは、距離環を回す際は「僅かに重め」なのにピント合わせをする時は「とても軽いチカラ」でスッと微妙なピント合わせができる (ピント合わせしていることを意識したチカラの入れ具合) ことを最優先した粘性を選択しています。すでに1,000本を越える本数の整備をして参りましたが、ヘリコイドグリースに纏わるクレームは数件レベル (まだ1桁) です。
数件だとしても、この「言葉じり」を引用してクレームを付けてくる人が居ますが、感覚的な要素なのでそのようなクレームもご勘弁下さい。何かしら適確に説明したいので「コトバ」で表現しているに過ぎませんから・・。
個人的にも好きな描写性能を持っているモデルだけに、渾身のオーバーホールを施しました。お探しだった方、如何でしょうか?
光学系は後玉の状態 (極微細な薄いヘアラインキズ) が悔やまれますが、写真への影響はありません。後玉の周囲にネジで固定してある「反射防止環」は樹脂製 (硬質プラスティック製) でした。表面の加工が「マット仕上げ」なので、触ると少々ベタついた感じになります・・経年の汚れが酷かったのでキレイに清掃しています。
当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。如何ですか? この端正な写真・・被写体のミニカーは金属製ではなく「樹脂製」なのですが、隣のライターの金属部分との質感の違いがお分かり頂けるでしょうか? ミニカーのプラスティック部分に塗られている赤色の鈍い光沢感がシッカリと表現されておりさすがです。