◎ LEITZ WETZLAR (ライカ) ELMARIT 90mm/f2.8(L39)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
LEICA/LEITZ製オールドレンズに関しては「お問い合わせフォーム」告知のとおり基本的に取り扱いを見合わせていますが「オーバーホール/修理承りの注意事項」をご納得頂ける場合のみお受けすることがあります・・今回は当方に対して一切を免責頂けるとの条件でオーバーホール/修理をお受けしました。その意味では隠れ整備をしている状況です(笑)
ライカ製オールドレンズはとても高価なモデルばかりなので手が届かず今までも自ら調達をしていないのでほとんど知識もありません。しかし、その描写性能はまさしく本物の写りであり憧れの存在です。今回のモデル『ELMARIT 90mm/f2.8』は1959年〜1975年まで生産されていたようなので相当なロングセラーだったようです。3群5枚のエルマー型光学系はシンプルですがいきなし第1群 (前玉) の裏側に絞りユニットが配置されているので絞るとちょっと違和感を感じます(笑) Flickriverにてこのモデルの実写を検索してみましたが、どうしてライカ製オールドレンズはこうまでもリアルで違和感を感じ得ない画になるのか不思議です・・「いいモノはいい」と言う、まさしく代名詞のようなオールドレンズです。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。すべて解体するつもりでしたが、残念ながら鏡胴「後部」はイモネジが外せずバラすことができませんでした。従って、距離環を回す際のトルク感もヘリコイド・グリースなどの交換ができていないので当初のそのままの状態です。申し訳御座いません・・。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するので、まずは鏡胴「前部」から組み立てます。
当初バラした時に内部には既に過去のメンテナンス痕がありましたが、特に絞りユニット周りはグリースが塗布されており、12枚の絞り羽根には過去に油染みが生じていた痕跡が残っていて (現状既に乾ききっています)、赤サビが相応に発生している状況でした。上の写真では既に変形を修復していますが当初バラした時点では絞りユニットの外周 (外壁部分) は真円になっていませんでした (当方は個人なので真円を検査する機械設備が無く現状も僅かに真円には戻っていません)。筐体外装には打痕の痕跡が無いように感じるのですが、どうして絞りユニットが変形しているのかは分かりません。
↑12枚の分厚いシッカリした絞り羽根をキレイに清掃して (もちろん赤サビも可能な限り除去して) 組み付けます。絞りユニットの固定環がフィルター枠 (光学系第1群/前玉格納筒を兼ねている) で代用しているので上の写真では既にフィルター枠を締め付け固定しています。実は、絞りユニットとフィルター枠との間には「円形ばね」が1枚挟まっており、適度なチカラで絞りユニットを押さえつける設計になっています。ところが絞りユニットの変形のために「円形ばね」のチカラが及ぶと絞り羽根の開閉がスムーズにできません・・試しに「円形ばね」を外した状態でフィルター枠をネジ込んで締め付け固定すると絞り羽根の開閉はスムーズになります。しかし、これでは筐体を逆さ向きにした途端に絞り羽根が浮いてしまい脱落の危険性が高くなるので好ましくありません・・設計上、存在しているワケですから「円形ばね」を組み込んだ状態で絞り羽根の開閉がスムーズになるよう何度も何度も少しずつ絞りユニットの変形を修復した次第です (絞りユニットは何とアルミ材削り出しのパーツなので非常に軟らかい)。
↑このモデルの絞り環操作にはクリック感が伴うので当然ながら「鋼球ボール+コイルばね」が絞り環の内側に1セット組み込まれているワケですが、当初バラす前のチェックでは、だいぶシッカリしたガチガチとした印象のクリック感でした・・何となく違和感に感じていたのですが、バラしてみれば一目瞭然。入っている「コイルばね」の径に対して使われている鋼球ボールの径が適合していません。
つまり「故意に径の大きい鋼球ボールに入れ替えている」ことが判明しました。本来ライカ製オールドレンズに使われているクリック感を伴う機構部の「鋼球ボール+コイルばね」では「1mm径」の鋼球ボールとコイルばねが組み込まれています。今回の個体には1.5mm径の鋼球ボールが入っていましたから、必然的にガチガチした印象のクリック感に陥っていたワケです。
では、どうして鋼球ボール径を故意に替えてしまったのか??? 正しい鋼球ボール径は1mmですから過去のメンテナンス時バラしている際に紛失した可能性も捨てきれません。しかし、今回の個体は違う理由で鋼球ボールの径を大きいサイズに替えていました・・つまり絞りユニットの変形を改善させるために (と言うよりも厳しい言い方をすればごまかすために) ワザと径が大きい鋼球ボールを使って絞り羽根の開閉時に抵抗を打ち消してしまう所為を施されていました。
実際の操作ではどう言うことなのか?・・絞り環を回す際にクリック感を伴うワケですが、ガチガチとしたシッカリしたクリック感なので絞り値と絞り値との間での「抵抗/負荷」が相当生じていたのが感じられなくなってしまう (分からなくなってしまう) ワケです。
今回正しい1mm径の鋼球ボールを調達しましたが (1mm径の鋼球ボールは通常日本国内の一般市場では入手できません)、各絞り値での「抵抗/負荷」が如実に感じられるようになった次第です・・絞り環操作時に「重い」ワケです。現状、クリック感はカチカチととても小気味良い正しい (本来の) 印象に戻っていますが絞りユニットの変形が影響して (完璧な真円に戻っていないので) 開放F値「f2.8」〜「f4」の間だけ少々チカラを入れないと動きません。絞りユニットのいったい何処で抵抗が発生しているのかが目視したり指で触っただけでは分からないので、申し訳御座いませんが、これ以上改善ができませんでした。この件、もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額分を減額下さいませ。スミマセン。
↑先に光学系第1群 (つまり前玉) を組み付けて後群もセットします。上の写真では光学系第3群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を右横に置いて撮影していますが、ネット上で修理専門会社様のサイトを見てみると、この第3群が写っている解体写真が見当たりません (と言うか、第3群が入ったままで清掃している?)。実は、今回光学系をバラした際に、この第3群がなかなか外れなかったのですが光学系構成を考えれば自ずと答えも出てきます。少々コツが必要ですが、ちゃんと第3群を取り外して清掃した証拠として上の写真を撮った次第です(笑) 逆に言うと修理専門会社様の解説では光学系内の経年の汚れは「このモデルの特性」だと言うことですが、特性として「汚れが生じる」ことの意味が当方には理解できません・・「原理原則」から考えると光学系の特性として汚れが生じる原理が当方には全く見当が付きません(笑) 冒頭の光学系構成図をご覧頂ければ分かりますが、第2群と第3群が貼り合わせレンズになっているので共に外せるハズなのです。
今回の整備では第2群に関しては専用工具が必要なので (当方には無いので) 取り外すことができませんでしたが、清掃自体は前玉側方向から表面を清掃できますし、第3群が外れていれば裏側も清掃できます・・実際に光学系はすべて完璧に清掃ができましたから当初汚れていた第2群と第3群の内側部分はキレイになっています (特性ではありません)(笑)
光学系前後群を組み付ければ鏡胴「前部」が完成しますが、今回は鏡胴「後部」は解体できなかったので、このまま完成した鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑距離環を回すトルク感が改善できませんでしたが、絞り環の操作性だけはだいぶ本来の状態に近づいたのではないかと思います。
↑光学系内の透明度はピカイチレベルです。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら「皆無」です。いったい何が光学系の特性なのでしょうか・・?(笑)
↑奥まった位置に光学系後群が位置しているので写りませんが、極微細なヘアラインキズが数本あるだけで透明度は高いままですから写真にも影響は一切ありません。
↑12枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。「f2.8〜f4」までが僅かに重めに感じますが撮影時に支障を来すレベルではないと思います。それよりもクリック感の感触がだいぶ良くなりました・・。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられますが、今回バラすことができなかったにしても可能な限り筐体外装の「磨きいれ」を行ったので一応落ち着いた美しい仕上がりになっています・・筐体外装は「梨地仕上げ」が施されているので考慮した「磨きいれ」を実施しています。
↑無限遠位置もヘリコイドをイジっていないので当初のままです。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。
↑絞り環を回して設定絞り値「f4」にセットして撮影しています。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。