◎ CORFIELD (コーフィールド) LUMAX 50mm/f1.9 zebra《ENNA製》(L39)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


このモデルの累計扱い本数は今回が4本目にあたりますが、オーバーホール/修理のご依頼分で「プリセット絞り機構の組み立てが正常なのかどうかの見極め」と言う内容です。オーバー ホールで完全解体する前の現物をチェックすると、以下のような状況でした。

【当初バラす前のチェック内容】
 プリセット絞り環の駆動域がズレて組み上がっている。
距離環の駆動域が適正ではなく無限遠位置がズレている。
 絞り環操作のトルクが重い。
距離環のトルクが重すぎる。
光学系内に汚れがある。
鏡胴にガタつきがある。

【バラした後に確認できた内容】
過去に2度メンテナンスされている痕跡あり。
ヘリコイド (オスメス) ネジ込み位置ミス。
基準「」マーカー位置ズレ。
絞り環/プリセット絞り環機構部の組み上げミス。
これらのミスによる一部摩耗の発生。

・・とこんな感じですが、要はこのモデルをバラして組み直すレベルの技術スキルがある整備者の手で、過去に2度メンテナンスが施されていますが、いずれも正しく組み上げられておらず「何とかそれらしく動くようにした程度」と言う可哀想な個体でした。

それは「原理原則」に則った整備ができず、バラした時の内部各構成パーツ固定位置を記録しておいて、バラした時の順番で単に組み上げただけと言うその程度の整備レベルですが、そうは言ってもバラして組み上げられる技術スキルが必要なのでシロウトではありません。

今でもそのような整備をしている整備者は数多く居ますが、そもそもバラす前の時点で「適切な仕上がりになっているのか否か」の判定すらできないと言う(笑)、そういうレベルの人達ですね(笑) これは単純な原因でこういう人達が生まれてきます。バラした時の逆手順で単純にいつも組み上げてばかりいるから、いつまで経っても「原理原則」が見えません(笑) 逆に 言えば「過去に経験があるモデルしか扱えない人達」であり、新たな (未体験ゾーンの) 領域に足を踏み入れられない人達とも言い替えられます。

原理原則」を熟知していれば、今までに見たことも触ったことも無いような初めてのオールドレンズだとしても、完全解体して適切な微調整を施し「正しく製産時の工程を経て」組み 上げる事ができます。

よく「サービスマニュアルが無いのにどうして正しい工程手順だと断言できるのか?」と言う冷やかしが来ますが(笑)、それは「原理原則」が分からない人達の言い分であり(笑)、熟知している人にとってはそんなマニュアルが無くても適切な処置が分かり、微調整ができて正しい 手順を踏めます。本当はもちろん「サービスマニュアル」があれば大幅な時間短縮が可能ですが、無いので「観察と考察」が必ず必要であり、その時間を費やすかどうかの違いしかありませんね(笑)

何故なら、オールドレンズはマニュアルフォーカスのレンズですから、手で保持してチカラを加えてピント合わせを行い撮影する道具です。その「加えたチカラの伝達」に従い、撮影の為の各部位の機能が有効になるワケで、チカラを加えていないのに勝手に合焦する道具ではありませんね?(笑) それこそ今ドキのデジタルなレンズではありませんから(笑)、必ず「チカラの伝達経路」が存在します。

原理原則」とは、その「チカラの伝達経路」を把握する話であり、決して特殊な/特異な話をしているワケではありません。至って根本的で基本的な話ばかりです。それが分かっていないからいつまで経っても低レベルな整備しかできません(笑) ましてや「完全解体にはこだわらない」などと言う逃げ口上まで公然と言っている整備者まで出てくる始末で(笑)、本当に笑ってしまいますョ・・。

今回のオーバーホールがまさにそのような実例であり、過去のメンテナンスでデタラメに仕上げられてしまった個体を、再び完全解体してから「正しい工程手順を経て」「適切な微調整を施し」当時の旧西ドイツENNAの工場で組み立てられた時の手順で組み上がります。

  ●               ● 

CORFIELD (コーフィールド) 社は、イギリスのグレートブリテン島の中部に位置するバーミンガム近郊スタッフォードシャー (現ウェスト
・ミッドランズ州) Wolverhampton (ウォルバーハンプトン) と言う街で創業者のケネス・ジョージ・コーフィールド卿 (1980年ナイト称号拝受) により戦後間もない1948年創設の光学製品メーカーです。

periscope」と言う「潜望鏡方式」を採り入れた特異な発想に全く以て脱帽です。しかも実際にその機構と動きを見ると、何とも理に適った話でありなるほどなと納得してしまいます(笑)

CORFIELD社が1954年に発売したレンジファインダー方式のフィルムカメラ「Periflex 1」はライカ互換のL39マウントを採用しましたが、距離計連動の機構を装備していないペリスコープ方式 (潜望鏡方式) を実装した独創的な発想のフィルムカメラです。
(左写真は第3世代のperiflex 3a)

その結果、L39マウントながらも最短撮影距離を短縮化させたオールドレンズ群を用意してきています。左写真はマウント部内部に自動的に降りてくる「潜望鏡」機構部を撮影しています (もちろんシャッターボタン押し下げ時は先に瞬時にこの潜望鏡が収納されます)。

創業期には露出計「Lumimeter/Telemeter」やビューファインダー、アクセサリなどを開発して生産していましたが、1950年に英国のE Elliott Ltd and The British Optical Company (エリオット&英国光学会社) による資金提供を受けて、1954年には念願のレンジファインダーカメラ「Perifelx 1」や光学レンズの発売に漕ぎ着けています。

光学レンズ設計はロンドンにあるWray Optical Works (レイ光学製造) 社のパテントに拠りますが、その後生産を旧西ドイツの光学メーカーENNA OPTISCH WERK (エナ・オプティッシュ・ヴァーク:エナ光学工業) 社に委託しWrayパテントに基づき生産し、最後には光学設計を完全にENNA社に切り替えたようです (ENNAはローマ字的な読み方のエンナではなく、ドイツ語なのでエナです)。

【CORFILED社製オールドレンズ】

  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAR 28mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAX 35mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAX 35mm/f2.8 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f2.8 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f1.9 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAR 50mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAR 50mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製 (Wray PAT.):LUMAX 50mm/f1.9 (zebra)
  • ENNA製:RETRO-LUMAX 28mm/f3.5 (zebra)
  • ENNA製:RETRO-LUMAX 35mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製:LUMAX 50mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製:LUMAX 50mm/f2.4 (zebra)

・・他にも中望遠〜望遠レンズまで発売していましたが、オールドレンズに関する詳しいことはネットを検索してもあまり出てきません。今回出品モデルは、1959年に発売された旧西ドイツのENNA WERK製委託製品 (新規開発による製品) と推測しています。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から円形ボケが破綻して滲んで溶けていく様をピックアップしていますが、収差の影響を大きく受け、且つ画の周辺域に行くに従いながれも増大して真円のキレイな円形ボケが表出しません。それでも4群6枚のダブルガウス型構成と比較した時にまだ大人しめの印象です。

二段目
発色性が偏っている実写ばかりなので何とも評価できませんが、旧西ドイツのENNA製ともなれば「多少なりともシアンに寄った発色性」になり、自ずと元気で鮮やかな写り方に至るのは納得できます。これは何もENNAに限らず、どう言うワケか当時の旧西ドイツの名だたる光学メーカー、Schneider-KreuznachやSteinheil München、或いはA.Schacht Ulmなどなどいずれも「シアンに振れる」発色性が特徴です。一番右端のこの空気感/距離感のリアルさがこのモデルの光学系の素質をよく表しているように感じます。

三段目
被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力に優れているのでペンキの劣化や錆び具合などの表現が上手いです。

実は実装している光学系のヒントがちゃんと製品自体に残されていて、光学系後群の格納筒に「PAT. 575076 LIC’D BY WRAY」刻印があるので、それをチェックすれば一目瞭然です。

1952年に英国のBOLCO (British Optical Lens Company) からの資金提供によりロンドンのWRAYのパテントを採用しています。その時の特許出願申請書『GB575076A』がクリック
すると別ページで開きます。

このパテントをトレースした構成図が右図になり4群5枚のビオメター/クセノター型構成です。

よく光学系の構成がカタログなどに案内されている構成図と、実際に 量産されていた製品に実装されている光学系のカタチとで異なる場合がありますが、これは理論的に組み立てられたパテントのカタチと、実際に光学硝子材を精製していって「量産化」に漕ぎ着けた光学系とでは 必ずしも一致しない (まず以て一致するハズがない) と言う話です。

計算上は右図のカタチになるのでしょうが、実際に様々な光学硝子の成分を変更しつつカタチとして「量産化」にまで至るのは、意外と別モノのカタチだったりするのかも知れません。
但しパテントを採用している以上、大きく逸脱してしまう構成には落ち着きませんね。

右図は今回完全解体して光学系を清掃時に当方の手でデジタルノギスで逐一計測してトレースした計測図です。

ちゃんとパテントの採用が見てとれますが、最後の第4群後玉のカタチは同一曲率の両凸レンズではなく、内側の曲率が平坦な (露出側の曲率が高い) 両凸レンズです。

実は様々なオールドレンズのモデルでたいていの場合、カタログや取扱説明書に掲載されている構成図とは曲率が違う「後玉」である事が多いように見えます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造はともかく各構成パーツの点数自体が非常に少ないので、パッと見で初心者向けの如く見えてしまいますが(笑)、実は「高難度」だったりします。

その最大の理由は、今回の個体も同じですが (過去メンテナンス時にミスっていますが)「懸垂式鏡筒駆動」と言う設計概念に慣れていないからです。「懸垂式鏡筒駆動」とはまさにその コトバどおりで「鏡筒が上部でブラ下がっているまま直進動する構造」です。

実は旧西ドイツの主だった光学メーカーは、どう言うワケかこの「懸垂式」が好みだったようで(笑)、非常に多くのモデルで採用されている設計概念です。例えばこの概念がENNAだけに限定されるなら納得できるのですが、Schneider-KreuznachもSteinheil MünchenもA.Schacht Ulmまでそのようなモデルが顕在するとなると、これはいったいどう言う理由なのかと勘ぐりたくなりますね(笑)

いまだにその理由が分からないままですが、本当に多いです・・。

↑上の写真 (2枚) は、当初バラす前のチェック時点で撮影しておいた「届いた時のままの個体の状況」です。すると赤色矢印で指し示しているとおり「絞り環の刻印絞り値がズレている」まま組み上げられています。ご依頼者様にすればこれには我慢がならなかったようですが、どう考えても我慢できる話ではありません(笑)

絞り環を回すと最小絞り値「f22」どころか「f16」でさえ到達しません。こんな組み上がり方が正しいとは決して言えませんね(笑)

さらに無限遠位置がズレていたりするので要はこの個体は「デタラメに組み上げられている」と言えます(泣)

↑なお、一応また当方がブログにウソを平気で載せているとSNSで批判されるので(笑)、いつもの如く証拠写真を撮っておきました。光学系第2群と第3群のカタチが違うことを言っています。特に第3群などは相当な厚みを持たせているのが分かるので、おそらくパテントの設計では期待通りの光学性能に至らなかったのではないかと推測しています。

一応、ウソではありませんョ・・と言う証拠です(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。鏡筒の外壁がヘリコイド (オス側) のネジ山になっていますね。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑7枚と言う変則的な枚数の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを鏡筒最深部にセットします。後で組み上がった絞り羽根の写真撮影で解説しますが、フッ素加工が施された先進的な設計です (つまり経年劣化で酸化/腐食/錆びしにくい)。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しました。ご覧のように鏡筒外壁にヘリコイド (オス側) のネジ山が切られていますが、ここでのポイントは「ネジ山数が短い」と言う点です。同時に両サイドに用意されている「直進キーガイド」と言う「」の長さが反対に相当長いこともポイントになります。

まずはこの2つのポイントに過去メンテナンス時の整備者が気が付いたかどうかですが、おそらくダメだったでしょう(笑) もしもこのブログを整備作業を生業としている人が見ているなら、ここの工程写真だけを見て是非解説して頂きたいです。ちゃんと答えが言えるのかどうかですね(笑)

↑一つ前の写真同様光学系後群側も既にセットしています。その理由は「光学系後群が絞りユニットの蓋の役目を兼ねているから」であり、光学系後群側がセットされないと絞り羽根はバラバラになってしまいます (すぐに外れる)。

光学硝子レンズ格納筒の縁に「lens made in W.Germany」刻印があり、このモデルが輸出向け個体だったことを示しています (当時の国際輸出法上原産国表示が義務づけられていたから)。これが仮に旧西ドイツ国内だけで流通する目的の製品なら「単なるGermany」だけでもOKですね(笑) 何故なら、国際法上旧東西ドイツは「国の格付ではなかったから」であり、純粋に戦前ドイツを連合国によって分割占領統治していただけに過ぎないからです (よく国だと思っている人が多いですが)。

この辺の話はPENTACON製オールドレンズのブログページにもっと詳しく解説していますし、そもそも専門に研究している先生の論文を1年掛かりで読み漁ったので(笑)、多少なりとも自信があります (そうしないとCarl Zeiss Jenaの背景が見えてこなかったから)。

オモシロイ事に旧西ドイツのほうが楽観的で、むしろ旧東ドイツのほうがちょっと怖い考え方をしていたような印象を覚えますね(笑) さすが旧ソ連が関わるとそういう状況だったのでしょう。

もう一つのオモシロイエピソードとして、以前ギリシャのディーラから聞いた話ですが、旧東ドイツの旧東ベルリンにある非常に大きな操車場で貨物列車が向きを変えると、いつの間にか貨車の中には「闇市」で旧西ドイツに流れていく荷物が満載だったと言う話です(笑)

これは旧西ドイツ側が旧東ドイツ側に対して「国際輸出法の特例を設けていた」話なのですが旧西ドイツの当時の政権は「旧東ドイツも元は同じドイツ」である事から厳格な輸出法の適用を避けていたと言う内容です。

従って機関車の操車場で (旧東ベルリンが終点なので) 向きが変わると、貨車の中味がガラッと変わっていたというエピソードです(笑) その意味では例えばCarl Zeiss Jena製オールドレンズも「DDR (Deutsche Demokratische Republik)」表記の個体が数多く旧東ベルリン駅を経由して旧西ドイツ側に流れ、そこから世界中に廻っていったと考えられます。

そうですね「DDR」表記はドイツ語なので、本来は旧東ドイツ国内でしか流通しない製品の刻印です。仮にもしも西側諸国に流れるのだとしたら「GDR (German Democratic Republic)」のラテン語/英語表記になっていなければ輸出されませんね(笑)

これは例えば現在の市場流通しているオールドレンズを見ていても検証できます。圧倒的に「DDR」表記が多いワケですから、ではいったい西側にドンだけ流れたのかと言う話ですョね?(笑) そんなカラクリ (旧東ドイツのベルリン駅で向きが変わる) と言うのを知るだけでも、何だか楽しくなってしまいます(笑) 逆に言えば、それほど当時の旧東ドイツの経済格差は深刻だったと言う話に繋がりますね。その結果があの1989年の「ベルリンの壁崩壊事件」勃発ですから。

↑こちらは距離環やマウント部が組み付けられる基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

さて、ここがまず一番最初の難関です。ヘリコイド (メス側) のほうが前述の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) のネジ山長よりも遙かに長めであり深いワケですが、さらに基台側のグリーンの矢印部分もさらに長い点に気が付いたかどうかです。

このグリーンの矢印部分が鏡筒の移動範囲を示し、それはイコール「鏡筒の繰り出し/収納量」に一致しますね。これが「原理原則」から捉えた話です。

↑実際に仮組みして距離環をセットしてから鏡筒 (ヘリコイド:オス側) まで組み上げた状態を撮りました。「直進キー」が既に刺さっているのでこのまま無限遠位置を実写確認すれば適切なのかどうかが分かります。

↑実は一つ前の工程で確認の為に実写確認したら全くダメだったワケです(笑) 一つ前の工程では当初バラした時の各構成パーツ固定位置と同じ位置で組み上げたワケです。

それでは適切ではなかったことがそれで判明しました・・。

鏡筒 (ヘリコイド:オス側) が、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込まれていますが、このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

すると上の解説は何を説明しているのかと言うと、ヘリコイド (メス側) のネジ山長であるブルーの矢印の領域に対して、実際にネジ込まれて周りながら駆動している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の駆動域というのはグリーンの矢印の長さが使える話を説明しています。

要はネジ山の最後の1週まで使えるワケですから、単純にネジ山長は2倍になりますね (もちろんギリギリまで使うことはあまり無いですが原理上はそれが許されているハズです)(笑)

この点に気が付かなければこの「懸垂式鏡筒駆動方式」の原理を掴めません。もしも仮にマウント側に基点を持っていってしまう一般的なオールドレンズならば、繰り出し/収納量イコール実際に鏡筒が突き出てくる長さであり「製品全高が倍の長さになる」ワケですが、このモデルはほぼインナーフォーカスのような設計です (全長は最大でも2mm以下しか変化しない)。

それ故「懸垂式鏡筒駆動方式」で設計するメリットが大きいワケです。

如何ですか? これに気が付きましたか???(笑)

↑前述の「仮組み」で全く以て過去メンテナンス時の固定位置がデタラメであることが判明したので、ここからが最大の難関です。

当方にてゼロからもう一度この製品としての「本来の正しい個体位置」を探る工程を撮っています。要はそもそも「プリセット絞り環/絞り環の刻印絞り値がズレていた」ワケですから、まずはそれを正す必要があります。

しかしそれを正す為にはそもそも基準「」マーカーの位置があってるの???

・・と言う疑問が湧いてきます(笑) そうですね、実は基準「」マーカー自体が全くズレた位置でセットされていたのです。

と言うことは、絞り環ではなく痕本的な基準「」マーカーの位置をまず最初に決めなければ「何一つ工程が進まない」話になりますョね?

上の写真はその結果で、赤色矢印が当初バラす前の固定位置で、グリーンの矢印が探った後の「正しい位置」です。これだけ位置がズレてしまえば無限遠位置どころの話ではありません(笑)

ここでゼロから調べたのはあくまでも基準「」マーカーの位置だけです。その他の無限遠位置などはまだ調べられません (とにかく中心/センターが確定しない事には何も始まらない)。

↑基準「」マーカーが刻印されている「指標値環」をセットするとこんな感じです。グリーンの矢印の位置が正しい基準「」マーカーの位置であり、そこで「イモネジ締め付け固定」です (赤色矢印)。

↑実は、前述のゼロからの探索モードでもう一つ調べていました。それはまさに「鏡筒の適切な駆動域の長さ」であり、ブルーの矢印で指し示した長さです。もちろん仮組み状態で調べていますが、この探索だけでも優に2時間かかっています。

上のブルーの矢印の範囲内で赤色矢印の距離環を回すことでグリーンの矢印の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) が行ったり来たりするワケです。

↑そこから導き出された本当に正しい (製産時点の) 適切な指標値環の固定位置と基準「」マーカー、それに当然ながら正しい無限遠位置の確定が終わったところです (赤色矢印)。

ここまで来るのに都合4時間はかかってしまいました (工程写真で見たらたったの数枚ですが)(泣)

↑やっとの事で「絞り環」をセットできます。「絞り環」には内側に「 (切り欠き)」が用意されていて「プリセット絞り値キー」です (要は絞り値の数の分だけ溝がある)。

↑「プリセット絞り環」を組み込みます。この時グリーンの矢印で指し示した「中心キー」がピタリと「プリセット絞り環の駆動域を限定している」から、必然的に絞り環の刻印絞り値と合致しますね(笑)

これが「原理原則」です。距離環を回す時のチカラはそのまま鏡筒の繰り出し/収納の為だけに伝達され、絞り環を操作した時のチカラは必要な (限られた) 駆動域の中だけで伝達されます。だからこそ距離環のトルクに影響を来さないよう配慮されているのであり、そうしなければ距離環を回す時に絞り環まで引っ掛かって動き重くて仕方ありません

だから「正しいのなら中心キーは自然に内部に入っているハズ」ですね(笑)

何も難しい話ではなく理に適った考察を進めれば、自ずと導き出されるだけの話です。

↑このような感じで最後にもう一度無限遠位置やその他の各部位駆動をチェックして完成です。この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑なかなか手に入らない、海外オークションebayでもこの開放f値「f1.9」モデルは年間で僅か数本しか出現しません。

 

↑上の写真 (2枚) は、左側が無限遠位置の時のレンズ銘板位置で、右側が最短撮影距離まで 繰り出した時の位置です。

するとご覧のとおりフィルター枠にまで到達しないので「インナーフォーカスシステム」の 設計であることが分かりますね。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。当初バラす前の汚れなども全て完全除去できています。もちろんLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

過去メンテナンスは一度目が「黄褐色系グリース」で塗られて仕上げられ、2回目がつい最近ですが「白色系グリース」で上から塗り足しています (2回目はヘリコイドだけの整備?)。 その時にどうもデタラメになってしまったようです(笑)

おそらくその整備者はどうやって解体すれば良いのかさえも分からなかったのでしょう(笑) マウント部側からバラしていったので、必然的に「プリセット絞り機構部」まで外し、同時に指標値環を外さなければ距離環が外れないので全てがズレていったと言う結末です(笑)

↑もちろん光学系後群も素晴らしい状態です。LED光照射でも極薄いクモリが皆無です。

↑7枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。

ご覧のとおり7枚の絞り羽根は表裏に「フッ素加工」が施されているので経年劣化に伴う酸化/腐食/錆びに耐えられる設計です。しかしその分逆に言えばご覧のように「光り輝く絞り羽根」ですから(笑)、これを以て「迷光」を気にする人が非常に多いワケです(笑)

何度も解説していますがいまだに文句言ってくるので(笑)、そろそろ勘弁してほしいですね。「迷光迷光」と気にするなら、ではどうしてこの絞り羽根はキラキラ光っているのですかねぇ〜?!(笑) どうして「真っ黒の絞り羽根は存在しないのですか?」そう逆質問したいですね。キッチリと納得できる説明をしてください! 何でこんなメタリックな絞り羽根をワザワザ使って設計しているんですか???

確かに整備したのは当方ですが、だからと言って「迷光の処置がされていない」などとクレームすること自体当方にとっては「???」ですョ(笑) 当方が設計したオールドレンズではありません! どうしてメタリックな絞り羽根を使っているのか知りません! なのにどうして「迷光の対策」をしなければイケナイのですか???

そう言うのを「不条理」と言うんですョ・・!(怒)

と言っても、今回のご依頼者様は関係ないのですが(笑)、そういうクレームを付けてくる人が実際に居るんです。そしてその人の言い分ではどうもネット上のサイトで「迷光」について情報を得ているようで、どうして当方にその矛先が向くのか全く以て理解できません!(怒)

そもそもネット上のそのサイトでこの絞り羽根の話を解説してくれないので、いつまで経っても当方にそう言うクレームが憑き纏います。どうしてメタリックな絞り羽根で設計しているのでしょうか? 誰か教えて下さいませ・・ (助けて)(涙)

確かにそのサイトは信頼/信用が高く全ての基準になっているのでしょうが、当方のような たかが『転売屋/転売ヤー』相手に、どうして虐めるのか理解できません。

ちなみにこの絞り羽根を黒色に塗ってしまう事は不可能です(笑)、塗ったところですぐに擦れて光学系内が大変なことになってしまいますね(笑)

↑当初塗られていた過去メンテナンス時のグリースは「白色系グリース」でしたが、そもそもその前のさらに古い「黄褐色系グリース」を除去せずに、新たに「白色系グリース」を塗り足しているので、化学反応を起こしてしまったのか?「黄褐色系グリース側が粘性を帯びて納豆状に糸引き状態」でした!(怖)

ちょっと糸引きを撮影しようかと思ったくらい長かったです・・(笑)

この当時の旧西ドイツ製オールドレンズの多くは、各光学メーカー品の殆どの主要モデルで「ヘリコイドのネジ山にメッキ加工が施されている」ので、本来グリースのせいでトルクが重くなる要素があまりありません。

例えば日本の光学メーカーのように素のアルミ合金材のままだったりすれば、それはグリースの性質によってはトラブルが起きます。良い例が「白色系グリース」を塗布されてしまった為にアルミ合金材に「白色成分が浸透」している事がありますね(笑) もちろん腐食している場合も多いです。

今回のオーバーホールではもちろん「黄褐色系グリース」を塗布したので、それはそれは当初のバラす前の距離環を回すトルク感からすれば天と地のさほど滑らかで軽くてスムーズな駆動です(笑)

ピント合わせも非常に軽い操作性で微動できるので、このモデル本来の鋭いピント面をキッチリ探せますね(笑) そう言う時の操作感の感触も、実は「所有欲」を充たす重要な要素に繋がったりしますから、こういうオーバーホールのメリットも大きくなりますョね?(笑)

↑完璧なオーバーホールが終わりました。いつ見てもどうしてもこのモデルの意匠は「ロンドン警察」の制帽を思い浮かべてしまいます(笑) イギリス人というのはこういう「シルバーとブラックのツート〜ン」に気品や品格を感じるのでしょうか?(笑)

一応ちゃんとクロームメッキ部分も「光沢研磨」して仕上げています。もちろん「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置から適切な位置を調査済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

一応当方所有K&F CONCEPT製マウントアダプタで無限遠位置はほぼピタリに合わせています。

なお当初からあった鏡胴のガタつきは「プリセット絞り機構」のマチなので、仕様上改善させることは不可能です (当初冒頭問題点の)。

↑前述のように「インナーフォーカス」なので、ご覧のように⌀52mm径のフィルターを装着して最短撮影距離の位置まで繰り出しても、レンズ銘板が突き当たることがありませんね(笑) まだ1mmちょっとの隙間が空いています。

仕様上は「最短撮影距離60cm」ですが、ほとんど350度くらいまで距離環が回りきってしまうので、現実的な被写体からの最短撮影距離は「実測値40cm」くらいです (撮像素子面との距離)。製品全高が「52mm」あるので、実際は「35cm」くらいで被写体に突き当たってしまいますね(笑)

そうやって考えるとこのモデルはインナーフォーカスを採っている分、被写体まで近接して撮影してもぶつかることがないのでいいですね(笑) どうせなら「L39マクロヘリコイド」のマウントアダプタなどを用意して、さらに近接撮影を楽しむとまた別世界を味わえるかも知れません。

↑ここからはこのモデルの「プリセット絞り機構の操作方法」をご存知ない方の為に解説していきます。赤色矢印の基準「」マーカーに対して開放f値「f1.9」が来ています (グリーンの矢印)。

ロシアンレンズなどもそうなのですが、よく「プリセット絞り環/絞り環」の区別を間違えて覚えている人が居ます(笑) これを間違えると操作の説明自体ができないハズなので「???」なのですが(笑)

絞り値」が刻印されているほうが「絞り環」であり、その直下のゼブラ柄の環 (リング/輪っか) が「プリセット絞り環」です。そして「プリセット絞り環」は「絞り環プリセット絞り値 (の溝)」にカチッと填ってしまうので、絞り環操作自体は「共通駆動」ですね。つまりローレット (滑り止め) はゼブラ柄のほうになります。

この解説では仮にf値「f8」にセットするとします。直下の「プリセット絞り環」を指で保持しながらマウント側方向に引き戻し (ブルーの矢印①) そのまま保持したまま「f8」まで回して (ブルーの矢印②) 指を離すとカチッと言う音がして刺さります ()。

↑「f8」にプリセット絞り値が設定された状態を撮っていますが「プリセット絞り環」側の基準「」マーカーがちゃんと「f8」位置に重なっていますね (グリーンの矢印)(笑)

しかし基準「」マーカー側の位置は変わらず「f1.9」のままですから (赤色矢印)、要は「絞り羽根は完全開放したままを維持」しています。従ってこの段階で距離環を回してピント合わせを行い、最後シャッターボタン押し下げの直前に「ローレット (滑り止め) を回して設定絞り値まで絞り羽根を閉じる」ワケです (ブルーの矢印④)。

つまりこのモデルでは「ブルーの矢印④方向に回すと絞り羽根が閉じる」設計です。

↑こんな感じで「f8」が基準「」マーカー位置に重なったので (赤色矢印)、絞り羽根は設定絞り値「f8」まで閉じているワケです。希望する写真を撮影したら、今度はプリセット絞り値を解除します。

その時点では絞り羽根が閉じたままなので、今度は逆方向ブルーの矢印⑤に回します。すると「プリセット絞り環」側の基準「」マーカーが移動します (グリーンの矢印)。

↑これで絞り羽根が完全開放状態に戻ったので (赤色矢印) 開放f値「f1.9」が合致しました。しかしプリセット絞り値はまだ「f8」に設定したままなので (グリーンの矢印) 最初の逆手順で設定を戻します。

プリセット絞り環」側を指で保持したままマウント側方向に引き戻し (ブルーの矢印⑥) そのまま保持したまま回して (ブルーの矢印⑦) 開放f値「f1.9」に重なったら指を離すとカチッと言う音がして填ります ()。

↑最初の状態に戻りました。基準「」マーカー (赤色矢印) 位置には開放f値「f1.9」が重なり、且つ設定されているプリセット絞り値を示す基準「」マーカーも合致しているので「今はプリセット絞り値が開放にセットされた」事が見ただけで (いちいち絞り羽根を覗かなくても) 分かりますね (グリーンの矢印)(笑)

だからこそ「プリセット絞り環/絞り環」の区別を違えると何も説明が付かないワケです。至極撮影する時の動きに合致した操作性で設計されているのが「プリセット絞り機構」のハズです(笑)

↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。フードが必需品かも知れません。