◎ FUJI PHOTO FILM CO., (富士フイルム) EBC FUJINON・T 100mm/f2.8《後期型》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、当時のフジカ製 中望遠レンズ『EBC FUJINON・T 100mm/f2.8《後期型》(M42)』です。


オーバーホールを始めて7年が経ちましたが、このモデルのヤフオク! 出品は3本目です。
オーバーホール/修理をお受けしている本数のほうが多くなってしまいました (合計で9本目)。

  

上の写真のモデルは全て今回と同じ「後期型」なのですが (右端は今回の個体)、ご覧のようにコーティング層が放つ光彩に相違があります。

市場に流通している個体は圧倒的に左端の「アンバーパープル」の2色だけ光彩を放つタイプが多く、少ないのは3色目に「ブル〜」或いは今回の「グリ〜ン」の光彩を放つタイプです。

当時のフジカ製オールドレンズは、その製造番号先頭2桁に暗号が符番されていたので純粋なシリアル値として読むことができません。今回のモデル「後期型」に関しては製造番号が「140xxx 〜 142xxx」ですがシリアル値が4桁しか無いのでどのタイミングでコーティング層の光彩に相違が出ているのか (製産していたのか)、全く分かりません。また、レンズ銘板は一部にプラスティック製の個体が存在しますが、既に「前期型」の当時からプラスティック製
/金属製が混在していたので、この点もよく分かりません。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

初期型:1970年発売 (ST701用)

コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:無
距離環ローレット:金属製
レンズ銘板:金属製

前期型:1972年発売 (ST801用)

コーティング:マルチコーティングEBC
開放測光用の爪:
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製・金属製

後期型:1974年発売 (ST901用)

コーティング:マルチコーティング「EBC
開放測光用の爪:有
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製・金属製

・・こんな感じです。各バリエーションの発売年度と発売時に対象としていたフィルムカメラのモデル銘を併記しました。特に「後期型」に関しては、フィルムカメラ「ST801」と同時に発売されたと解説しているサイトがありますが、正しくは「ST901」発売のタイミングで登場したのであり「ST801」発売当時に存在していたのは「前期型」のほうになります。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「玉ボケ・円形ボケ・背景ボケ①・背景ボケ②」で、下段左端に移って「延長筒・赤色・ピンク・発色性」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

焦点距離100mmの中望遠ですが、円形ボケはMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズで一躍有名になった「シャボン玉ボケ」まで全く到達しないようです (途中で破綻してしまう)。さらに口径食の影響もあり真円度は低めでしょうか。

背景 (ボケ味) がざわつくことがあるので要注意ですが、下段左端1枚目のように「延長筒/スリーブ/エクステンション」をかませれば、まるでマクロレンズのようなトロトロのボケ味で写すことができます。

マルチコーティングとして見ると、当時の旭光学工業製オールドレンズに多く採用されていた「Super-Multi-Coated (SMC)」が7層だったのに対し、フジカ製オールドレンズは11層にも及ぶ「EBC (Electron Beam Coating)」でしたから、さすがフィルムメーカーだけあって如何に蒸着技術に長けていたのかが分かりますね。

発色性は、元気良く鮮やかに出る傾向で下段の「赤色やピンク」などを見ても色飽和ギリギリのところでしょうか。いまだに人気が高いようですね。

光学系はネット上を検索しても構成図が出てきませんが、4群5枚の典型的なエルノスター型です。やっとのことでネット上で発見した構成図を見ると第4群 (後玉) の表面が「平坦」になっていましたが、今回バラして清掃したところ緩〜く湾曲した凸レンズでした (右図は清掃時にスケッチしたイメージ図です)。

左の写真は今回バラした際に撮った写真ですが、光学系第2群の硝子レンズです。写真が下手クソなので上手く撮れていませんが(笑)、現物はもっと濃いめに「茶色」になっています。

過去に扱ったすべての個体で同じですが、コーティング層の経年劣化ではなく、屈折率を10%代まで上げるために「ランタン材」を硝子材に含有させている設計です。一応毎回念のためにUV光の照射をしますが、硝子材に「酸化トリウム」を含有した俗に言うところの「放射能レンズ (アトムレンズ)」ではないので「黄変化」は一切改善しません (酸化トリウム含有レンズはUV光の照射で黄変化を改善できます)。

当ページの最後にオーバーホール後の現物による実写を掲載していますが、それをご覧頂くとピント面の鋭さも然ることながら「色ズレ」がほぼ皆無なのが分かります。相当な収差補正 レベルで設計されていると考えられますね。さすがです・・。

なお、ヤフオク! 等でUV光の照射で「黄変化」が改善できてもすぐに元に戻ると解説している出品者が居ますが、UV光の照射と言うことは「紫外線」ですから、対象となるオールドレンズを使っている限りは再び「黄変化」に至るまでは相当な年数が必要です。むしろ、使わず何年間もしまっておくと再び化学反応で「黄変化」が進行しますから、全く「赤外線」と勘違いしていますョね?(笑) 赤外線は波長が長いので照射しても何ともなりません(笑) 少しはちゃんと調べて欲しいものです・・。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。焦点距離100mmなので図体がデカイですが、内部の構成パーツ点数はそれほど多くもありません。

パーツ点数が多くなくても、市場に流通している個体の中には「絞り羽根の開閉異常」或いは「絞り羽根に油染み」が生じている個体が多かったりしますから、入手時は確認が必要です。どうしてなのかは、後ほど出てきます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させました。

↑この状態で完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しましたが、鏡筒裏側よりご覧のとおり長い2本のアームが飛び出てきます。

この2本のアームをマウント部内部の「爪 (2個)」が掴んで操作することで、絞りユニット内の絞り羽根が開いたり閉じたりしています。2本のアームは露出部分は2/3なので、鏡筒内に残りの1/3の長さ分があり、相当な長さです。これは鏡筒の繰り出し量の多さからアームが長くなっているので、逆に言うと距離環を回して操作している時の抵抗/負荷/摩擦が常にこの2本のアームに掛かっています。

つまり、入手しようとしている個体の現状に「絞り羽根の開閉異常」が起きているなら、既にマウント部内部の「捻りバネ」が経年劣化で弱っていると言えるワケで、要注意なのです。

↑こちらは距離環やマウント部が組み付けられる基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

このモデルは標準レンズの50mm/f1.4と同じで、距離環を「カシメ固定」している方式なので、ここで先に「カシメ環」を入れ込んでおきます。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態でひっくり返して内部を撮影しました。ご覧のように両サイドに「直進キー」が 組み付けられています。

直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に 変換する役目のパーツですが、当方はこの直進キーにグリースを塗りません。ほぼ間違いなく過去メンテナンス時には直進キーにグリースが塗られていますが、そのほとんどが全く使われないままグリースだけが経年劣化しています。

実は今回の個体はワンオーナー品だったようで (とても珍しいですが)、過去に一度もメンテナンスされていない個体でした。バラした時にチェックするとヘリコイド・グリースは当時の フジカ製純正グリース (薄い青緑色のグリース) が経年劣化で液化が進行しているものの塗られたままでした (つまり生産時のまま)。これは当方には大変貴重なことで、当時の純正グリースが「黄褐色系グリース」だったことを確認できると同時に、その粘性も指でグリグリすることで (経年劣化しているとは言え) 確認できます。もちろん黄褐色系グリースですからヘリコイドのネジ山も全く摩耗しておらず、白色系グリースのように「濃いグレー状」に至っていることもありません (ちゃんと元の色合いを保持したままなので純正グリースと明言できる)

さらに、直進キーにはグリースが一切塗られていませんでした。つまり、当方の持論である「直進キーにはグリースを一切塗らない」が正しかったことになります。

ちなみに、以前フジカ製オールドレンズ (複数の別モデル) のオーバーホール/修理を承った際ご依頼者様から購入後一度もメンテナンスしていないとご案内頂いたことから、当方は既に当時のフジカ製オールドレンズに使われていた純正グリースの色合いと粘性を知っています。

↑こちらはマウント部内部を撮影しましたが、既に各連動系・連係系パーツを取り外し当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑外していた各連動系・連係系パーツも一部に腐食やサビが出ていたので「磨き研磨」を施し組み付けます。

  • 制御アーム:
    絞り環と接続し連動して動き、絞り羽根の開閉角度を絞りユニットに伝達する役目。
  • 開閉アーム:
    マウント面の絞り連動ピン押し込み動作に連動して絞り羽根を勢いよく開閉する役目。
  • 絞り連動ピン連係アーム:
    マウント面の絞り連動ピン押し込み動作に伴い動いているアーム

上の写真でマウント面の「絞り連動ピン (ブルーの矢印①)」が押し込まれると、それに伴い「絞り連動ピン連係アーム」が動いて「開閉アームの爪」が動いて絞りユニットの絞り羽根を勢いよく開閉します (ブルーの矢印②)。

ここで問題になるのが「絞り連動ピン連係アーム」に附随する「捻りバネ (2本)」です。経年劣化で弱っていると「絞り羽根の開閉異常」を生じているので、単なる絞り羽根の油染みだと予測すると見当違いだったりします。

↑鋼球ボールを組み込んでから絞り環をセットします。

↑鏡筒から飛び出ている2本のアームをそれぞれ掴ませてからマウント部をセットします。

↑距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回出品個体は、少々珍しい見る角度によってグリーン色の光彩を放つコーティング層が蒸着されているタイプです。専用の純正金属製フードに純正の前後キャップが附属します。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射では光学系内に極微細で非常に薄いヘアラインキズが数本見えますが写真には一切影響しません。もちろん、LED光照射ではコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら皆無なので透明度は凄いです。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も大変クリアな状態をキープしています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:12点、目立つ点キズ:7点
後群内:19点、目立つ点キズ:15点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
・光学系内は極微細な塵/埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できなかった極微細な点キズです。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回すと一部にヘリコイドネジ山の擦れを感じる箇所があります。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑今回は状態が良さそうな個体だったので久しぶりに扱ってみましたが、ヤフオク! の出品ではほとんど取り扱う予定が無いモデルですので、もしもお探しの方は是非ご検討下さいませ。

↑特にマウント面に「開放測光用の爪」が残っている個体は、意外とそれほど多くないので フィルムカメラでお使いの方にはお勧めです。

もしもマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) 経由デジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着される場合は、マウント面の「開放測光用の爪」を当方にて切削しキレイに着色処理しますので、必ずご落札後の一番最初の取引ナビメッセージにてその旨ご案内下さいませ

作業料として別途「2,000円」を申し受けます (発送が数日遅延します)

↑当レンズによる最短撮影距離1.2m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。

↑絞り値はf値「f8」になっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」になります。