◎ Schneider – Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Xenon 50mm/f2 ▽《沈胴》(L39)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

いつもご依頼頂く方から今回オーバーホール/修理を承ったモデルは大変珍しいSchneider-Kreuznach製『Xenon 50mm/f2《沈胴》(L39)』です。まず今までに目にしたことがないモデルで、このような希少なモデルのご依頼を承りこの場を借りてお礼申し上げます・・珍しいモデルを整備できるとなると本当に心踊る思いです。

ご依頼者様から教えて頂きましたが、イタリア北西部のジェノヴァ市ボルデノーネにてAntonio Gatto (アントニオ・ガットー) 氏によって1948年に発売されたライカ判レンジファインダーカメラのコピーモデル「SONNE V (ゾンネ)」にセットされていた標準レンズのようですが発売時のセットレンズは「Xenon 50mm/f3.5 《沈胴》(L39)」だったようです。

このモデルはXenon 50mm/f2ではとても珍しい「沈胴式」のライカスクリューマウントなのですがネジ山はマウント面から「8mm」も突出しておりライカ判コピーモデルとしては距離計連動の機構がだいぶ奥まった位置に実装されていたようです (マウントのネジ山から繰り出されるヘリコイドの突出量は「4mm」でライカ用スクリューマウントのオールドレンズに準拠している)。

光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型で初期のXenon 50mmに採用されていた光学系を踏襲しているようです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。L39マウントの沈胴式なので部品点数自体は少なめです。構成パーツのほとんどが真鍮製 (真鍮 (黄鋼) 製/ガンメタル) で造られておりズシリと重みを感じます。

絞りユニットと光学系前後群を組み付けるための鏡筒で真鍮製 (真鍮 (黄鋼) 製/ガンメタル) です。上の解説のとおり鏡筒の外側は当方による「磨き研磨」を施し表層面の平滑性を確保していますが内側部分はバラした時の状態のままにしてあります・・絞り羽根が入る場所ですからワザと黒色に近い焦茶色のままにして下手に内面反射を誘発しないようにしてあります。逆に言うとバラした直後は鏡筒の外側部分もこのように焦茶色だったワケでバラす前の当初の確認時点で絞り環の操作性は少々重みを感じるトルク感でした。

15枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。鏡筒の内部は「磨き研磨」を施していないので焦茶色のままですが外側部分は「磨き研磨」を施したので黄金色に光り輝いています・・キレイに輝かせるのが目的ではなく、あくまでも表層面の平滑性を確保して最低限の負荷だけで絞り環操作ができるように考えての処置です。

と言うのも、この鏡筒の外側部分が丸ごとネジ山になっており厚みのある絞り環がネジ込まれるので、このネジ山が経年劣化で腐植したままだとグリースで滑らかに動くようにしなければならず再び絞りユニット内部に揮発油成分が廻り、結果的に光学系のコーティング層に悪影響を来します。それゆえ「磨き研磨」で最低限の負荷になるよう処置しているワケです (キレイにするためではありません)。希にオーバーホール/修理のご依頼で「磨き研磨」を嫌う方がいらっしゃるので単にキレイにするだけと勘違い (思い込み) しているのかも知れません・・必要外の負荷が掛かってしまうのはできるだけ排除したいと考えるのは至極当然なワケで、それは同時に「グリースに頼った整備をしたくない」と言う方針の表れでもあります。

今回の個体は15枚の絞り羽根を実装していますが、バラした直後の状態では何と絞り羽根の表裏がバラバラに組み付けされていました(笑) 過去のメンテナンス時に絞り羽根の向きを一切考慮せずに15枚の絞り羽根を組み付けてしまったのだと推測します。絞り羽根は両端の一方が「角形」でもう一方は「丸形」のカタチをしていますが、通常どちらか一方のカタチに揃えて組み付けるのが普通です。今回の個体はそれがバラバラに入っていました・・この絞り羽根の向きをミスってしまうと絞り羽根が閉じていく際の「開閉幅 (開口部/入射光量)」の大きさが異なってしまい絞り環指標値と整合性がとれなくなってしまいます。従ってバラす前の確認時に最小絞り値「f16」にすると少々閉じすぎているように感じていたのですが、これが原因だったのかも知れません。現在は適正な開閉幅に戻っています。

やはり真鍮製 (真鍮 (黄鋼) 製/ガンメタル) のズッシリした絞り環をネジ込みますが最後までネジ込んでしまうと絞り環は機能しなくなります。かと言ってネジ込みが足りていないと今度は光学系前後群の格納位置がズレてしまい画が甘い描写に陥ってしまいます。特にロシアンレンズに多いのですが単にネジ込むだけだからと絞り環の位置調整を正しく行っていない過去のメンテナンスによく出くわします。古いオールドレンズの場合にはネジ込み式の絞り環を前玉側に配置しているモデルが多いので要注意です・・ネジ込む位置が決まっています。

後から組み付けることができないので、ここで光学系前後群を組み付けてしまいます。今回のご依頼内容「光学系内のクモリ除去」に関しては前後玉のみ清掃だけで透明度がアップしていますが問題の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 部分・・第2群と第3群に関してはちょうど絞りユニットを挟んだ両サイドの面に清掃では除去できないクモリが生じていました。つまり第2群の裏面と第3群の表面です。

これは絞りユニットの回りに過去のメンテナンス時にグリースをタップリ塗っていたのが経年に於いて揮発油成分が光学系コーティング層と化学反応を起こしてコーティング層の経年劣化を促してしまったのだと推測します。残念ながら清掃では一切除去できなかったので当方による「硝子研磨」を施しました。手による作業なのでコーティング層の本当に表層面だけにしか「硝子研磨」しても改善効果が期待できません。処置したところ当初の1/3程度の改善しかできていません・・つまりクモリは残ったままですが僅かに減ってはいるでしょうか。これ以上クモリを除去するには山崎光学写真レンズ研究所様のように硝子研磨してコーティング層の再蒸着をしなければキレイな透明状態にはならないと思います。もしもご納得頂けない場合はご請求額より必要額を減額下さいませ

このモデルは「沈胴式」なので鏡胴「前部」と「後部」の二分割になっています。スライド筒を据え付けて鏡胴「前部」を完成させます。スライド筒はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定されるのですが、イモネジを入れる箇所は均等配置されておらず自ずとネジ穴位置が決まってしまいます。さらにこのスライド筒はやはりネジ込んでいく方式なので、どの位置でイモネジを入れるかによって無限遠位置のズレが生じてしまう設計でした。当初バラす段階でそのことに気がついたのでネジ込んでいく回数を確認済でしたから良かったです(笑) オールドレンズは何処にトラップが仕掛けられているのか全く分かりませんからバラす際は「観察と考察」が必須になりますね・・どうしてこの位置なのか、このパーツを使うのか、などいちいち考えながらバラさないと組み上げの時にハマってしまいます。逆によく知っているモデルでもバラしてみると正しい位置ではない固定だったりすることがあります。それが分かった時点でご依頼の不具合とどのように関係してくるのか「考察」しなければ改善の方策すら見つかりません。

鏡胴「前部」が完成したので今度は鏡胴「後部」を組み上げていきます。上の写真は距離環を組み付けるための基台ですがマウント部を兼ねています。

今回のもう一つのご依頼で「ツマミのロック棒除去」がありましたので、この時点で取り外しておきます。このモデルはツマミのロック棒がマウント面からさらに突き出た状態で距離環が回っていくのでマウントアダプタ経由デジカメ一眼やミラーレス一眼に装着する際に距離環が回りにくくなってしまいます。

沈胴式のライカスクリューマウントのモデルではツマミは一体型で造られていることが多いのですが、このモデルは上の写真のような構造になっていました。わざわざツマミ部専用の「環 (リング/輪っか)」を用意しているのですね。

距離環を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。絞り環も含めて清掃時に全ての刻印が褪色してしまったので当方にて視認性アップのために着色しています。

この後は完成している鏡胴「前部」のスライド筒を入れ込んでからヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込み、最後にスライド筒のロック爪環をネジ込んで固定し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

とても珍しい沈胴式の「Xenon 50mm/f2 (L39)」です。

光学系内は透明度がアップはしましたが貼り合わせレンズである第2群「裏面」と第3群「表面」のコーティング層劣化に拠る非常に薄いクモリは完全除去できていません。LED光照射で視認できるレベルなので普段の撮影ではあまり支障を来さないレベルだと考えますが僅かにコントラストの低下を招いているように感じます・・但し、当初バラす前の状態と比べると明らかに透明度は上がりコントラストも僅かですがアップしています (当初は開放時にはハロがキツく出ていましたから)。

光学系の「前玉」と「後玉」は最初見た時に経年の汚れが酷いのかと考えていたのですが、汚れではなく非常に微細な「カビ」でした。清掃でも薄いクモリが除去できなかったのでコーティング層の経年劣化なのかと考えましたが念のためにカビ除去の処置を施したところキレイになってしまいました(笑) 思い込みはダメですね・・「観察と考察」です。

チグハグに組み付けられていた15枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。開閉幅 (開口部/入射光量) も絞り値の整合性確認が終わっているので適正値に戻っています。最小絞り値「f16」にすると当初バラす前の段階でやはり閉じすぎていたのが分かります (上の写真はオーバーホール後の最小絞り値状態です)。

ここからは鏡胴の写真になります。一応当方による「磨き」を筐体外装にいれてあります。

塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を使いました。程良いトルク感で距離環の操作性もアップし「普通〜軽め」のトルク感に仕上げてあります。また絞り環の操作性を少しは軽くしたのでピント合わせ後に絞り環を動かしても距離環が動いてしまうほどではなくなりましたから操作性は向上したのではないでしょうか・・。

無限遠位置は当初の位置のままになるよう組み上げています。

当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。光学系内の薄いクモリの影響が出ているのかコントラストが極僅かに低下しているように見えます。

絞り環を回して絞り値を「f2.8」にして撮影しています。

F値「f4」で撮りました。

F値「f5.6」になります。

「f8」です。

F値「f11」になります。

最小絞り値「f16」です。

こちらの写真は開放での写真を使って画像編集ソフトでコントラストを「10%」だけ持ち上げた写真です。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。