◎ Olympus (オリンパス光学工業) E.Zuiko Auto-Macro 38mm/f3.5(PEN-F/FT)

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(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


1963年に世界初、そして世界で唯一無二のハーフサイズ・システム一眼レフ (フィルム) カメラとして登場したのが第1世代の「OLYMPUS-PEN-F」です。

フィルムをハーフサイズで使うので倍の枚数を撮ることができるワケですが、その為には基本概念を変更せざるを得ず、独特な (特異な) 発想に基づき設計され、細部にまでわたり非常に良く考え尽くされているフィルムカメラです。

ハーフサイズとは、フィルム (135mmフィルム) のいわゆるライカ判フォーマット36mm x 24mmの半分のサイズで使ってしまう発想で、OLYMPUSでは「18mm x 24mm」としました (Canon/Konica同様、RICOHは17mm)。
ちなみに、現在ライカ判フォーマットであるフィルムサイズは「フルサイズ」とも呼称していますね。

従って、フィルムカメラ側の発想としてフランジバックを短縮化するためにミラーを縦長位置で開閉する機構を開発し、同時にペンタプリズムからポロプリズムへと変更することで装着する交換レンズを中央から右側にオフセットした、当時としては斬新なフォルムのフィルムカメラが誕生したようです (右写真はPEN-FT)。

なおデジカメ一眼/ミラーレス一眼などで撮像素子が「APS-C」サイズのカメラボディにこのモデルを装着した場合、35mm判換算で「1.4倍」になるので「焦点距離:53mm」程度になりますが (時々勘違いをしている方が居ますが)、あくまでも画角は本来の焦点距離38mmのままで、その内側の (中心部から) 焦点距離53mm分の領域が撮影時に記録されるので、歪曲やパースペクティブなどはそのままで切り取られます (つまり53mmの画角に変化するワケではない/このモデルは1.5倍ではなく1.4倍です)。

1966年には巻き上げを1回に仕様変更し (PEN-Fは2回巻)、同時にTTL露出機構を実装してきた「PEN-FT」を発売します (右写真)。

実はこの「PEN-F/FT」などのシリーズ用に同時発売された交換レンズ群は、当初は焦点距離を「cm」表記でレンズ銘板を刻んでいました。後の1966年時点では「mm」表記へと変更していますから、それで大凡の製産時期を推測することができます。
(それぞれ取扱説明書を確認して交換レンズ群をチェック)

さらに1966年には「PEN-FT」からTTL露出機構部を取り外した廉価版モデル「PEN-FV」も用意しています (右写真)。

初代の「PEN-F」はセルフタイマーの有無相違で判断できますが「PEN-FT/FV」は正面から見ただけでは判別しにくいと思います。

実際はトップ部分にモデル銘を刻んでいるのでそれをチェックしないと間違って入手しかねませんね。
(厳密にはシャッタースピードのダイアルで判別できる)

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今回扱う『E.Zuiko Auto-Macro 38mm/f3.5 (PEN-F/FT)』の発売年度が不明ですが、調べてみると1963年発売の「PEN-F」取扱説明書にはオプション交換レンズ群の中に記載がありませんでした。しかし1966年発売の「PEN-FT」取扱説明書にはオプション交換レンズ群の
中に記載があります。

その後1973年になるとフルサイズの一眼レフ (フィルム) カメラ「OM-1」シリーズが発売されますが、実は今回のモデルを単なる
マクロレンズとしてだけ捉えてしまうと、このモデルの本当の正体を知らないまま使うことになってしまいます。

少々話が反れますが、その正体を明かしていこうと思います。OLYMPUSは1972年に高倍率で撮影できる接写専用交換レンズ群を
一式発売しています。

その中に今回扱うモデルの発展系も含まれていました。これらの接写用レンズ群は「オートベローズ・ユニット」或いはエクステンションチューブに装着する事で高倍率の接写を実現している完成されたシステムです。

従って、単なるマクロレンズとして設計されていたのではなく、もともとが接写システムの一員として開発されていた点に注目しなければこのモデルのポテンシャルを正しく把握していないことになります

つまり2倍〜6倍までをカバーした高倍率マクロレンズ (接写専用レンズ) として開発された光学系を実装している点がポイントになります。

そしてそれを実現するがために実装してきた光学系は、この当時の市場に数多く登場し始めていたマクロレンズに3群4枚のテッサー型構成を採用する中、贅沢にも4群5枚のビオメター (クセノター) 型構成を実装してきたのです。

接写専用レンズ群の同型モデルとは光学系の構成は同一でも、光学硝子レンズ各群の曲率やサイズなどはビミョ〜に違いがあります。右図は今回バラして清掃時に
デジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図の
ほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して単なる背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。口径食の影響を受けるので真円の円形ボケを維持できませんがそれなりに円形ボケとして表出できています。

開放f値が「f3.5」と暗く感じるかも知れませんが、実写ではこのように滑らかでトロトロなボケ味をちゃんと出せていますから、重要なのは開放f値の明るさよりもやはり光学系の設計なのではないでしょうか。

二段目
さすが接写用マクロレンズだけあってピント面の鋭さは相当なモノです。しかしそれだけで終わらずに、ちゃんとフツ〜なシ〜ンにも対応できており、図らずも高めのコントラストですが発色性自体は大人しく決してコッテリ系の色乗りではありません。特に右端写真のとおり相当な被写界深度の狭さなので、これだけでも開放f値の問題だけではない事が分かります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。そもそも「PEN-F/FT」シリーズ用のマクロレンズなので、筐体サイズが極端に小さく構成パーツ点数も少なめです。

左写真は、当初バラした直後に撮影したヘリコイド (オスメス) と基台ですが、溶剤で洗浄する前の状態を撮っています。ご覧のように過去メンテナンス時には「白色系グリース」を使っており、摩耗してしまったアルミ合金材の摩耗粉が混じっている量がまだ少ないのが分かります (薄いグレー状のままだから)。特に一部にはまだ真っ白なグリースが残ったままですから、過去メンテナンスの時期は1年〜数年内と推測できます

左写真は鏡筒を撮影していますが、やはりバラした直後の洗浄する前の状態を撮っています。

当初バラす前のチェック時点で既に絞り羽根に油じみが発生しており且つ絞り羽根の動きが緩慢でした (特に戻りが鈍い)。その原因が
グリーンの矢印で指し示した「白色系グリース」です。

この鏡筒の最深部には赤色矢印で解説しているとおり「絞りユニット」がセットされます。もちろん鏡筒である以上、この上にはさらに「光学系前群」がセットされ、同時に絞りユニットの背後には「光学系後群」が組み込まれます。

つまり「絞りユニットは光学系前後群の間にサンドイッチされる」のがオールドレンズ設計上の基本です。

にも拘わらず、この個体を整備した過去メンテナンス者は絞りユニットの直上にあたる「鏡筒内壁の全周に渡って白色系グリースを塗ってしまった」ワケです(笑)

まず最初に申し上げておきたいのですが、このモデルはマクロレンズなので、シロウト整備でバラして簡単に組み上げられるレベルではありませんから、自ずと過去メンテナンスしたとなればそれは「プロの仕業」と考えられます。それなのに「なにゆえに鏡筒の内壁にグリースを塗るのか?

しかも塗ったのが「白色系グリース」なので、ヘリコイド (オスメス) のグリースが劣化しないうちに先に「絞り羽根の油染みが発生」している始末です(笑) はたしてこんな整備がメンテナンスと言えるのでしょうか???

当方にはどう考えても「???」しか残りません。

左写真は既に洗浄した後に撮影した真鍮製 (黄鋼製) パーツの一部です。経年劣化の進行により酸化/腐食/錆びがだいぶ進んでいるのがお分かり頂けると思います。
この酸化/腐食/錆びが抵抗/負荷/摩擦となり不適切なチカラの伝達に至ります (一番分かり易い例はトルクが重くなる)。それを防ぐ為に「白色系グリースを塗ったくったグリースに頼った整備」を平気でしているワケですね(笑)

今回の個体で言えば結局これら真鍮製 (黄鋼製) パーツの経年劣化がそのままに (放置プレイ)「白色系グリース」に頼った過去メンテナンスが成されていた次第です。

【当初バラす前の確認事項】
絞り羽根に油じみ発生
絞り羽根開閉が緩慢
ピント面の鋭さがマクロレンズとしては足りない印象
距離環を回した時のトルクが軽すぎる
ピント合わせ時にスリップ現象が発生

【バラした直後の確認事項】
不織布のテーピングがグチャグチャ

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑上の写真は「絞りユニット」のベース部分です。この裏側に絞り羽根がセットされ、写真に写っている表側には様々な制御系パーツが組み込まれます。

つまりこの当時のOLYMPUS製オールドレンズは、その多くのモデルで絞りユニット自体に制御系パーツをセットしている設計概念を採っています。もっと言えば、光学系前後群で挟まれる非常に狭い (少ない) 空間に絞りユニットのみならず制御系まで配置してしまった「徹底的に小さく作る」基本方針を持つ世界中で捉えても類い希な光学メーカーの一つです。

そしてその成果は、現在に於いて医療関係の市場で70%以上を占有していると言う、界屈指の医療機器メーカーのポジショニングを確立しています。

↑こちらは前述の「絞りユニット」ベース環裏側を撮影しました。既に5枚の絞り羽根を組み付けてメクラで被せています。

赤色矢印で指し示した箇所に「位置決めキー」のネジが飛び出ていますが、このネジに絞り羽根の「位置決めキー ()」が填るので、大きな丸穴になっていたワケですね。すると必然的にこの「ネジ」の表面の滑らかさがそのまま絞り羽根が動く際の滑らかさにも繋がります (こういう部分がポイントです)。

↑こちらは前出の「絞りユニット」ベース環ですが、取り外していた各制御系パーツも当方にて「磨き研磨」を施し組み込みました。当初バラした直後はこの一部の制御パーツに酸化/腐食/錆びが生じており抵抗/負荷/摩擦の原因になっていました。

逆に言えば、過去メンテナンス時にそのまま「放置プレイ」だった事になります(笑)

↑完成した「絞りユニット」を鏡筒 (ヘリコイド:オス側) 最深部にセットしたところです (赤色矢印)。さらにグリーンの矢印で指し示した鏡筒内壁部分には「磨き研磨」を施しています。

↑その理由が上の写真です。右側に並べて撮影したのは絞り環と連係する「連係環」ですが、真鍮 (黄鋼) 製です。当初バラした直後に経年劣化で酸化/腐食/錆びしまくっていたワケですが、実はこのパーツはご覧のように「鏡面仕上げ」になっている点を、過去メンテナンス者は蔑ろにしています (無視している)

従って、鏡筒内壁部分も同じレベルで「鏡面仕上げ」されていなければ必然的にこれら2つのパーツが接触して稼動した時「抵抗/負荷/摩擦が発生する」のは自明の理です (グリーンの矢印)。それゆえ過去メンテナンス者は「白色系グリース」をこの鏡筒内壁に平気で塗っていたワケですね(笑)

↑「連係環」はこんな感じで鏡筒内にセットされます。今回のオーバーホールでは、この鏡筒内壁と「連係環」には一切グリースの類を塗布していません (つまり何も塗らずにそのままハメ込んだだけ)。

互いが「鏡面仕上げ」の本来あるべき状態に戻ったので、ご覧のとおり何も塗布せずにそのまま完璧なトルクで (無抵抗で) 回転します。

これがポイントなのであり、絞り環操作時のトルクが軽いとか重いとかは全て結果でしかありません。その結果を導き出している原因が何処にあるのかを理解していれば、つまりは「原理原則」を熟知していれば自ずとどのような処置をするべきなのかが明白です。それをごまかして (最も手が掛からないよう)「白色系グリースに頼った整備」をしているから、今回の個体のようなトラブルに見舞われます。

整備して1年〜数年で絞り羽根に油じみが発生するようなメンテナンスが、はたして「整備と言えるのかどうか?」ではないでしょうか。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しました。ヘリコイド (オス側) のネジ部には途中に1箇所ご覧のような「」が用意されています (赤色矢印)。この「」部分を「直進キーガイド」と呼び、板状パーツがスライドする事で鏡筒が繰り出されたり/収納したりする仕組みです。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑真鍮 (黄鋼) 製のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

冒頭でご案内した当初のバラして溶剤で洗浄した後の写真と比べると、ちゃんと「磨き研磨」したので経年劣化に伴う酸化/腐食/錆びが除去されています。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑すると前述の「直進キーガイド」部分に「直進キー」が既に刺さっており (板状パーツ)、スライドする事で鏡筒が繰り出されたり/収納したりします。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

つまり距離環を回してヘリコイド (メス側) が回転すると、その「回転するチカラ」が「直進キー」の存在によって「直進動するチカラ」に変換されるので、ヘリコイド (オス側) =鏡筒が繰り出されたり/収納したりする仕組みですね。このまま鏡筒を繰り出していけば最後は「直進キー」がガイド部分から外れてしまい「鏡筒 (ヘリコイド:オス側)」がスッポ抜けます (脱落する)。

↑従って距離環が回る駆動範囲 (つまり無限遠位置〜最短撮影距離位置) を確定してあげる必要があるので「制限環」と言う真鍮 (黄鋼) 製パーツをセットします。当然ながらこの時点で無限遠位置/最短撮影距離位置の場所をミスッて設定してしまうと、最後に組み上がった時点で適切な無限遠合焦にも成り得ませんね(笑)

何故なら、このモデルは「制限環」の位置決めは「イモネジ」と言うネジ種で自由自在に微調整できるよう配慮されて設計しているからです。逆に言うなら、仮に最後まで組み上げて無限遠位置が不適切だった場合、ここまで戻って再調整する必要があるワケです。

イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種

↑基台にヘリコイド (オスメス) と「制限環」が組み込まれたので「伸縮カバー」をセットできます。このカバーは環 (リング/輪っか) ですが外径が大小2つで重なっており、二段階で伸縮するよう設計されています。

当初バラした際にこの「伸縮カバー (環/リング/輪っか)」の外側環にある、内側の「不織布テーピング」がグチャグチャになっていてほとんど機能していませんでした。従ってご依頼者様がご指摘のとおり「フリーでクルクル回ってしまう」状況でしたが、そもそも伸縮カバーなので固定されずに「フリー」なのが正常です

例えて言えば、中望遠レンズ〜望遠レンズなどに使われている「内蔵式 (組込式) フード」のようにスライドさせると無段階でスルスルと飛び出てくる設計になっていますが、それらフード同様内側には「不織布テーピング」が施されていて「適度なトルク/抵抗/負荷/摩擦」を与えています。

今回のオーバーホールではそのグチャグチャだった「不織布テーピング」を除去して当方で再度用意し貼り付けています。

↑マウント部内部ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

赤色矢印で指し示した「鏡胴カバー」は、単にマウント部に填っているだけなので、不用意にチカラを加えたりすると外れてしまいするする回るようになってしまうのでご留意下さいませ。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。特に投資よバラす前のチェック時点で「絞り羽根の戻りが緩慢」だったのは、このマウント部内部構成パーツの酸化/腐食/錆びが原因でしたが、実はその酸化/腐食/錆びを生じさせてしまった一因は過去メンテナンス時の「白色系グリース」でした(笑)

一部の構成パーツに白っぽく浸透があったので「白色系グリースが原因」だと判明した次第です。おそらく可動部分だからと言うことで「白色系グリース」を塗ったくったのではないでしょうか(笑)

↑完成したマウント部を基台にセットします。もちろんこの状態で「絞り込みボタン」操作してもちゃんと小気味良く絞り羽根が開閉してくれます (緩慢だったのは完璧に解消されました)。

この後は光学系前後群を組み付けて距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。筐体サイズが最大径:53mm x 全高:44mmしか無いので、とてもコンパクトですが一丁前どころか本格的なマクロレンズであり、それはそもそも光学系が接写専用の設計である事からも明白です。

たかが「PEN-F/FT用マクロレンズ」などと侮ると吐き出された写真を見て驚くハメに陥りますョ(笑) その意味でそこいらのありきたりな3群4枚テッサー型構成のマクロレンズとは別次元の写真です (バカにできません)

↑光学系内の透明度が非常な高い状態を維持した個体なのですが、残念ながら第3群と第4群 (つまり後群側) には極微細な点キズや拭きキズ状が多めです (写真には影響しないレベル)。拭きキズ状に見えるのはもしかしたらカビ除去痕かも知れませんがちょっとよく見えません。

↑このモデルの扱いが今回初めてでしたが、当初バラす前の実写チェックでマクロレンズにしてはあまり褒められるほど鋭いピント面に至らないと、ちょっとガッカリでした。

しかし、バラしてみたところ光学系第2群と第3群の締め付けが緩かったので、それが原因していたようです。現状とても鋭いピント面に戻っています。

↑5枚の絞り羽根もキレイになり絞り環/TTL環ともども確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」しながら閉じていきます。

もちろん、当初バラす前に発生していた「絞り羽根の緩慢な戻り」は100%解消され、前述のとおり「絞り込みボタン」での操作とも相まり、いずれでも確実に小気味良い動作をして絞り羽根が反応しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性中程度軽め」を使い分けて塗布しています。距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。

後で解説しますが、このモデルは途中にある「伸縮カバー環」が鏡筒の繰り出し/収納に伴い伸縮する為、その分の抵抗/負荷/摩擦を距離環を回した時に指に感じます。当初バラす前の状態では、前述のとおり「不織布テーピング」がグチャグチャで機能していなかった分スカスカ状態でしたが、今回のオーバーホールで「不織布テーピング」を用意して貼り付けたので、その分の抵抗/負荷/摩擦が影響します。

↑TTL側とf値側との「絞り環」切り替え動作は、少々クッション性が硬めですがどのような位置で (角度で) 絞り環を回しても「最後はちゃんと適切な位置でカチッとハマる」よう仕上がっていますから、多少乱雑な操作をしても全く問題ありません。TTL側は不明ですが、一応f値側の絞り値は刻印絞り値との整合性もチェック済です。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

ちなみに「TTLガイドナンバー」の順番とf値の刻印絞り値とは一致しない (設計) なので、それぞれで絞り羽根の閉じ具合は同じになりません (例えばf値4と1とは同じではない)。

↑絞り環は「TTLガイドナンバー/f値」切替式なので、上の解説のように絞り環を指で掴んで前玉側方向に引っ張り上げて (ブルーの矢印①)、そのまま回すと反対側の「f値/TTLガイドナンバー」まで回ります ()。

↑半周回るとご覧のように反対側の刻印が手前に来るので (ブルーの矢印③)、その位置でカチッと言う音がして填ったら指を離します ()。

絞り環」の「TTLガイドナンバー/f値」切り替え動作は、右回転/左回転どちらに回しても問題ありませんし、指の掴み方が弱かったりして「絞り環」が斜めッてしまっても全く気にしなくて大丈夫です。とにかくカチッと言う音がするまで回して確実に填ったかどうかは「絞り環」を回してみればすぐに分かります (つまりガチャガチャやっても全く壊れません)。

こういう解説までちゃんと案内してくれているサイトが意外にも無いのが不案内ですョね?(笑) 持っている人の自慢話ばかりになっていますが、実は手に入れたいと狙っている人も居るワケで、できるだけ細かく案内してあげるのが所有者の親切心ではないでしょうかねぇ〜。

↑ここからは距離環と絞り環との間に配置されている「伸縮カバー環」の解説をします。距離環が無限遠位置「∞」の時 (赤色矢印)「伸縮カバー環」の内外2つの環 (リング/輪っか) はそれぞれ重なり合ったまま格納されている状態です (グリーンの矢印/ブルーの矢印)。

↑距離環を回していくと鏡筒が繰り出され始めますが、刻印されている距離指標値の「0.18 (m)」まで (赤色矢印) は一定の決まったトルク感で繰り出し続けます。この時その繰り出しに合わせてグリーンの矢印で指し示した「伸縮カバー環 (内側)」が先に露出してきます (グリーンの矢印)。

この「0.18 (m)」から先の最短撮影距離位置までが今度は「伸縮カバー環 (外側)」の繰り出しに入るので距離環を回すトルクに「グン」と抵抗を感じます (上の写真ではまだ格納されたまま/ブルーの矢印)。

↑前述の「0.18 (m)」から先最短撮影距離位置の「0.156 (m)」までは (赤色矢印)、今度はブルーの矢印で指し示した「伸縮カバー環 (外側)」まで一緒に引っ張り上げながら距離環を回すことになるので「その分の抵抗が指に伝わる」ワケです。

当初は内側に貼られている「不織布テーピング」が機能していなかったのでスカスカ状態でしたから抵抗を感じませんでしたが、今回のオーバーホールでは「不織布テーピング」を当方で用意して貼り付けたので、逆に距離環を回す際にはその分が抵抗として指に伝わります。

この件、もしもご納得頂けないならば大変お手数ですが「減額申請」にてご請求額よりご納得頂ける必要額分減額下さいませ。申し訳御座いません・・。

↑当レンズによる最短撮影距離15.6cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定f値「f4」で撮影しています (TTLガイドナンバー側ではありません)。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。