◎ FEINMESS DRESDEN (ファインメス・ドレスデン) Bonotar 105mm/f4.5 V《前期型》(exakta)
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今回完璧なオーバーホール済で出品するモデルは1872年に旧東ドイツのDresden (ドレスデン) 市で創業した老舗の光学精密機械メーカーFEINMESS DRESDEN (ファインメス・ドレスデン) により1954年に発売された中望遠レンズ『Bonotar 105mm/f4.5 V (exakta)』です。
同社は戦時中に弾着測距器や望遠鏡、航空写真用機器などの補助的な軍需光学機器を生産していましたが民生用の一眼レフ式フィルムカメラ用のオールドレンズはまだ生産していませんでした。戦後は光学精密機械VEB (VEBの連合体組織) に編入され中判フィルムカメラ用の「Bonar 105mm/f6.3」と共に今回のモデルの前身でもある「Bonotar 105mm/f4.5」の2種類のモデルだけを生産していたようです。1954年に登場した『Bonotar 105mm/f4.5 V』は1956年にプリセット絞り機構を装備した「後期型」を発売し1959年まで生産が続けられ、M42マウントのタイプが約14,000本にexaktaマウントのタイプが約4,000本生産されているようです・・1970年にCarl Zeiss Jenaに吸収されますが東西ドイツ再統一後の1992年には現在のSteinmeyer (スタインマイヤー) グループに買収され様々な光学部品/精密機械の製造メーカーとしてグループの一翼を担い現存しています。
【モデルバリエーション】
プリセット絞り機構:無し
絞り機構:無段階式実絞り (手動絞り)
プリセット絞り機構:無し
絞り機構:無段階式実絞り (手動絞り)
光学系は典型的な3群3枚のトリプレット型ですがトリプレット型の良さを上手く引き出し中心部の解像度ばかりではなく周辺部の収差まで可能な限りの補正を狙った設計のようですが必要以上のコストを掛けずに無難な開放F値「f4.5」を採用しました・・それは当時の旧東ドイツに於ける各光学メーカーの覇権争いの中でCarl Zeiss Jenaと並び高級品志向を模索していたMeyer-Optik Görlitz製「Trioplan 100mm/f2.8」とは敢えて競合させない戦略的な方針に則りFEINMESS DRESDENは自ら廉価版的な格下の位置付けとして普及価格帯フィルムカメラへのセットをむしろ優先して市場に流通させていたようです。
ちなみにFEINMESS DRESDENはドイツ語でも英語でも発音すると「ファインメス・ドレスデン」と聞こえるので「フェインメス」と言うのは日本語的な発音なのでしょうか・・ここはよく分からないので取り敢えず現地の発音に則って「ファインメス・ドレスデン」としています。
Flickriverにてこのモデルの実写を検索しましたので興味がある方はご覧下さいませ・・実は『隠れた銘玉』のひとつとして通の方々には一目置かれている素晴らしい描写性を持っています。それは単にひと言に「癒やしレンズ」と片付けてしまうには意外にも端正な画造りであり特に現在のデジカメ一眼やミラーレス一眼に於ける画の表現性に於いては、このモデルの素性の良さが今になって具現化してきているのではないかと考えます。
なお「こちらのサイト」に良い実例が掲載されており、この実写を見るとMeyer-Optik Görlitz製「Orestor 100mm/f2.8 zebra」との比較ができます。もちろん開放F値が異なっていますから開放時のボケ具合も必然的に異なるのが分かりますね・・しかし、意外にもマイナーなモデルであるにも拘わらずMeyer-Optik Görlitzと同程度の端正な描写をしています。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。光学系が3群3枚のトリプレット型であることも一因ですが焦点距離が105mmなので内部の構造はとてもシンプルです。
ネット上の解説では一部にMeyer-Optik GörlitzによるOEM製品とかコーティングは同じくMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの「V」コートであるなどの案内がありますが今回バラしてみると、それらを確認できる「証」は何ひとつ確認できませんでした。このモデルがMeyer-Optik Görlitz製OEMモデルではない決定的な「逆証」は「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツで確かめることができます。Meyer-Optik Görlitzのオールドレンズではすべてのモデルに於いて直進キーに「円錐筒+スプリング」を採用していましたが今回のモデルは「単なるネジキー (ネジに円柱のシリンダーが用意されている特殊ネジ)」だからです。また光学系の硝子レンズ自体にもMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズとは異なる切削が施されておりレンズ銘板の刻印に「V」があるだけではMeyer-Optik Görlitzのコーティングだとは言い切れないと思います。逆に言えばMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズとの共通点がひとつも発見できないのもOEMモデルだとしたら何か納得がいきません。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。
↑10枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この絞りユニットの絞り羽根の固定方法もMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズには一切採用されていない全く異なる方式で固定しています。
↑この状態で鏡胴を立てて撮影してみました。鏡筒にはネジ山がビッシリと全体に渡って切られており絞り環用のベース環を組み付ける位置調整が必要な設計 (どの位置でベース環を固定するのか) になっています・・Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズでは、このような全体にネジ山を切る方式を採っているモデルがひとつも存在しません。逆に言えば、Meyer-Optik Görlitzでは可能な限り「部位」を分けて設計しており余計な調整を嫌った (排除した) 利益追求の考え方が伺えます。
↑絞り環用のベース環をネジ込んでアタリを付けた正しいポジションで固定します・・この位置調整をミスると絞り環の操作性が悪くなるばかりか絞り羽根自体の寿命にも影響を来します。ちなみにベース環には絞り環をセットする際に使う固定用のイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) が入るための「下穴」が用意されているのですが今回の個体はこの位置がピタリとマーカー位置と適合していません。
↑後からでは組み付けられないので、ここで先に光学系前後群をセットします。光学系後群はネジ込み式の固定なのですが光学系前群はレンズ銘板を兼ねたフィルター枠を締め付けることでようやく固定される方式を採っておりフィルター枠が光学系前群の固定環も担っています。従って、前述のベース環の固定位置が狂っているとフィルター枠の固定位置まで影響を受けてしまい結果的に光学系前群が緩んでいる個体が過去にもあったりしました。3群3枚のトリプレット型構成の中で光学系前群は第1群 (前玉)〜第2群の2枚になりますから、その固定位置がズレていれば当然ながら「甘い画」になってしまうワケであり、それを以てして「癒やしレンズ」などと言うレッテルを貼ってしまうのは、あまりにも酷すぎます。
↑後からではダイレクトに光学系後群を見ることができないので、ここで撮影しておきます。
↑焦点距離に見合う延長筒をセットしますが、この延長筒 (つまり鏡胴なのですが) には「▲」マーカーが刻印されています・・つまりこの位置が狂っていればすべて (絞り環や指標値環、或いは距離環) が狂うワケなのですが、やはりクルクルとひたすらに (鏡筒の回りに用意されたネジ山に) ネジ込んでいきイモネジ3本で締め付け固定する方法なのでアタリ付けが大変重要になってきます。
↑ヘリコイド (オス側) を組み付けます。中央に縦方向のスリットが空いていますが、ここに直進キーのネジが刺さって上下動するので鏡筒が繰り出されたり収納したりする仕組みです・・Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズとは全く異なる方式の設計です。
↑絞り環をベース環にイモネジ3本で締め付け固定します。前述のとおりイモネジ用の「下穴」が用意されているので締め付け位置調整はできません。
↑これで鏡胴「前部」が完成したので今度は鏡胴「後部」の組み立てに入ります。上の写真はマウント部 (指標値環) です。
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑距離環をヘリコイド (メス側) の、やはり用意されているイモネジ用の「下穴」に締め付け固定します。これで鏡胴「後部」も完成したので、この後は鏡胴「前部」を差し込んでから直進キーを使って固定の後に無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。
当然ながら鏡胴「前部」を差し込んだ際にマーカー位置が互いに合致していなければイケマセン・・逆に言うと「▲」マーカー位置が上下共 (鏡胴の前部と後部) に一直線上に並んでいなければ何処かのネジ込み位置がズレていることになり再調整が必要になります。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑大変美しいブルシアンブルーに光り輝くモノコーティング「V」が施された隠れた銘玉『Bonotar 105mm/f4.5 V (exakta)』です。
↑上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。極微細な点キズや塵や汚れのように見えますが実際には微細な「気泡」です。
↑上の写真 (2枚) は、その「気泡」を分かり易く撮影しました。極微細な点キズや塵や埃でもありませんのでクレーム対象としません。当時、光学メーカーは光学硝子レンズが一定の高温を維持し続けた「証」として「気泡」を捉えており正常品として認識し、そのまま出荷していたようです。
↑マウントはexaktaマウントです。焦点距離が105mmなので後玉は奥まった位置にあります。
↑上の写真 (4枚) は、光学系後群 (後玉) のキズの状態を拡大撮影しました。極微細な点キズや微細なコーティングスポットが僅かにあります。微細な黒点のように写っている部分は「微細な気泡」ですが分かりにくいですね。上の写真で「白っぽい影/筋」が何本か写っている写真がありますが汚れやキズ (ヘアラインキズ) ではなく撮影時に写り込んでしまった当方の手の影になりますから現物の後玉には、このような「弧を描いた影」は一切ありません。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:7点、目立つ点キズ:4点
後群内:14点、目立つ点キズ:10点
コーティング層の経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ無し)
光学系内LED光照射時の汚れ/クモリ:皆無
光学系内LED光照射時の極微細なキズ:あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際は極微細な「気泡」であり極微細な点キズや塵/埃の類ではありません。特に前玉に大きな「気泡」が1点ありますがいずれも写真には影響しません (従って気泡に関してはクレーム対象としません)。
・光学系内の透明度は非常に高い個体です。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がほとんど感じられないほどにとてもキレイな状態を維持した個体ですが当方による「光沢研磨」を施したので筐体のクロームメッキ部分は当時の状態に近い艶めかしい輝きを放っています。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・内部パーツの一部に経年の摩耗があるため距離環と鏡胴に極僅かなガタつきが発生していますが改善できません (擦り減ってしまった金属を元に戻すことはできません)。
・絞り環指標値と基準マーカー位置が僅かにズレていますが絞り環の固定位置の調整ができないので改善できません。絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) は整合性がとれており開放時「f4.5」位置を基点としています。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑このモデルは市場に頻繁に出てくるワケではないので探している方もいらっしゃいます・・1年に数本レベルでしょうか。光学系の状態が良い個体にはなかなか巡り逢えないのですが良さそうな個体を見つけるとつい手を出してしまいます。ギラギラした鋭いピント面だけで終わらない画全体に漂う優しい雰囲気の画造りが気に入っています・・完璧なオーバーホールが完了しましたので隠れた銘玉『Bonotar 105mm/f4.5 V (exakta)』この機会に是非ともご検討下さいませ。
↑当レンズによる最短撮影距離1.7mでの開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。開放F値「f4.5」なのですが微細なハロが生じています。
↑絞り環を回して設定絞り値を「f5.6」にセットして撮影しています。