◎ ISCO – GÖTTINGEN (イスコ・ゲッチンゲン) WESTROCOLOR 50mm/f1.9 zebra(exakta)

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isco-100今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いためもありますが、このモデルのことをご存知ない方のことも考えて掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

実は当方は今回のモデル「ISCO-GÖTTINGEN WESTROCOLOR 50mm/f1.9 zebra」が大好きです。それもM42マウントのモデルではなく今回のexaktaマウントのほうが好きです・・単純にギミック感があってM42マウントのモデルよりも楽しいと言うだけですが描写性に関しては違和感を感じないとてもナチュラルでスッキリした画造りなのが好きな理由です。またピント面のエッジは決して細く繊細ではないにも拘わらず、それなりに主張してくる中庸的なエッジでありながらも、どう言うワケか画全体の印象が「繊細」に落ち着くところが好きなのかも知れません。

「ISCO-GÖTTINGEN (イスコ・ゲッチンゲン)」と言う光学メーカーは、第二次世界大戦前の1936年に旧西ドイツのニーダーザクセン州にて創業した会社で、同じく旧西ドイツの「Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ)」社による100%出資の完全子会社です。しかし、民生光学製品の設計や生産を目的として創設されたのではなく当時のドイツ軍部の要請から政府指示で分社化されました。会社創設の真の狙いはドイツ空軍の爆撃機に装備する高性能な爆撃照準器や航空撮影器に使用する高性能なレンズの生産が当初の目的だったようです。

ちなみに、このモデル「WESTROCOLOR」の発音はネット上の解説を読むと「ウェストロカラー」と案内されていますが、ドイツ語の場合は「ヴェストロカラー」になります (英語発音ならばウェストロカラー)・・ドイツ語では「w」は「ヴ」であり英語の「v」のような発音になります。従って広角レンズの「広角」をドイツ語で発音すると「Weitwinkel (ヴァイトヴィンクル)」となります。

今回のオーバーホール/修理は「距離環や絞り環がガタガタしているので改善してほしい」と言うご依頼でした。届いた現物を確認すると以下のような問題点が出てきました・・。

  1. 距離環と絞り環にガタつきがある。
  2. 距離環を回すトルクにムラが多い。
  3. 無限遠が出ない (合焦しない)。
  4. 絞り環に刻印されている絞り指標値と絞り羽根の駆動が一致していない。
  5. シャッターボタン機構部が正しく機能しない (自動/手動の切り替えができていない)。
  6. シャッターボタンと絞り羽根の駆動が連動していない。

・・当初バラす前の段階で確認した時点でも、これだけの問題点がありました。
が、しかしバラしてみるとさらに問題がありました。

  • フィルター枠に1箇所打痕があり変形 (レンズ銘板外れず解体不可)。
  • 光学系前群が締め付けられておらずユルユル (浮いた状態)。
  • 絞り羽根に咬んだ痕跡が残っている。
  • 絞りユニットの駆動が緩慢。
  • シャッターボタンの押し下げと戻りが緩慢 (戻らないことがある)。
  • シャッターボタン機構部に削った痕跡がある。
  • ヘリコイド・グリース以外に潤滑油を注入された痕跡が残っている。
  • 距離環や絞り環の締め付け固定ネジが全て最後まで締め付けられていない。

・・これだけ問題点が出てくると相当ハードなオーバーホールの作業になりそうです。

wc50191116%e6%a7%8b%e6%88%90光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型です。Xenon 50mm/f1.9と酷似した光学系ですが、もちろん設計は別モノです。はたして無事にオーバーホールが完了し、この素晴らしいオールドレンズの描写性を楽しむことができるのか疑心暗鬼なまま作業に取り掛かりました。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

wc5019111611ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。距離環や絞り環も含めて「環 (リング/輪っか)」がとても多く環の集合体なのが、このモデルです。ネット上の解説では一部に絞り羽根枚数が「12枚」と解説されていますが上の写真のとおり「6枚」です。絞り羽根自体に2箇所の折り目が入っているので各絞り羽根が重なり合うと12枚装備しているように見えるのかも知れません。

wc5019111612絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。この鏡筒はワリと小さめなのですが真鍮製 (真鍮 (黄銅) 製/ガンメタル) の重量感があるシッカリした造りです。

wc5019111613まずはこの鏡筒に絞り環を制御する (絞り羽根の角度をコントロールする) 「絞り羽根制御環」を組み付けますが (上の写真で黒色の環)、何と環を回しているのは「鋼球ボール (5個)」です。その鋼球ボールが入る穴が5箇所用意されています。さらに「絞り羽根制御環」を開放の状態に常に引っ張る役目のバネとして「棒バネ」と言う真っ直ぐに長い金属製の棒 (1本) が組み付けられます。この棒バネは長さが8cmほどもある長い棒で鏡筒の周りをグルッと回って固定されます。

当初この絞りユニットは鋼球ボールの固定位置調整が適正ではなかったので完全解体して鋼球ボールの位置調整を行いました。その関係で棒バネにムリなチカラが長年に渡ってかかっていたのかも知れません・・。

wc5019111614上の写真が棒バネです。写真向かって左側が鏡筒に固定され、右側は「絞り羽根制御環」に固定されるので絞り羽根が閉じようとすると棒バネが「元の真っ直ぐな状態に戻ろうとして引き戻すチカラが及ぶ」仕組みです・・つまり開放側に開こうとするチカラですね。

従って自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の切り替えを「自動」にセットしている時はシャッターボタンが押された時だけ絞り羽根が閉じて、その後すぐに開放まで開くワケです (その時に働いているチカラが、この棒バネの役目です)。

wc50191116156枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させ、同時に光学系前群のための延長筒もセットしておきます。これで鏡筒が完成したことになります。

wc5019111616再び鏡筒を横方向から撮影しました。こんな感じで棒バネが鏡筒の外周部に用意されている「溝」にハマッてグルッと鏡筒の周りを巡っているワケです。この鏡筒だけの状態では問題なく絞り羽根が開閉していたのですが、鏡筒をセットしてシャッターボタンとの連係を噛み合わせると問題が発生しました・・その後丸一日ハマッてしまうことになろうとは、この時点では全く予測していませんでした。

wc5019111617距離環やマウント部を組み付けるための基台ですが、やはり真鍮製 (真鍮 (黄銅) 製/ガンメタル) なので相当な重みを持っています。当初バラした直後は「焦げ茶色」に経年の腐食で変色していましたが当方による「磨き研磨」で美しい輝きが戻りました。キレイに輝かせる目的で「磨き研磨」しているワケではありません・・最終的な距離環のトルク感を滑らかに戻すためには「経年の腐食=不必要な摩擦」は排除したいからであり、同時にグリースに頼った整備をしたくはないからゴシゴシと2時間掛かりで「磨き研磨」を全てのパーツに至るまで施している次第です。

ちなみに上の写真で基台の内側中腹に「波状」に模様が残っているのは「潤滑油」を塗布されてしまった「証拠」です・・化学反応が起きたのか判りませんが「磨き研磨」しても本来の色合いには戻りません。

wc5019111618ヘリコイド (メス側) をセットします。このモデルではヘリコイド (メス側) はスルスルと何処までも回り続ける「空転ヘリコイド」を採用しています。距離環を回す際の「滑らかさ」を決めるのは、この空転ヘリコイド部分の状態で左右されるワケです。過去のメンテナンスでは、この部分に「潤滑油」をシュッと一吹きやってしまったのでしょう・・相当量を吹き付けたようです。

wc5019111619ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。ヘリコイド (オス側) はアルミ材削り出しによるパーツなのですが潤滑油の影響で変色してしまっています。

wc5019111620こちらはマウント部の内部を撮影していますが既に当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。シャッターボタンの内部底面に削った痕跡が残っていました。何を削ってしまったのでしょうか???

そもそもexaktaマウントのモデルでシャッターボタンやプレビューボタンの機構部を完全解体してまでメンテナンスしている人は少ないのではないかと思います・・理由は厄介だからです。それこそ「潤滑油」をシュッと一吹きしてしまえば「取り敢えずは滑らかに動く」ワケで海外オークションのebayでもよく使われている常套手段です。しかし今回の個体ではワザワザ削っているので何か不具合が発生していたのかも知れません。

wc5019111621外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施して組み付けます。マウント部に近い位置には「絞り値制御環」が組み付けられており絞り環に刻印されている各絞り値に見合った場所に「穴」が開けられていて、そこに鋼球ボールがカチカチと填ってクリック感を実現している仕組みです。

またシャッターボタンの機構部にはカムとアームが備えられており「絞り値制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」部分をカムが沿っていくことで絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量) を決めています。上の写真で左側に爪が出ている長いアームはシャッターボタンが兼務している自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の切り替え操作で鏡筒にある「絞り羽根開閉アーム」を動かして絞り羽根を勢いよく開いたり閉じたりしているパーツです。

このアーム (爪) が上方向に動くと絞り羽根が閉じ、戻ると絞り羽根は開く (棒バネのチカラで戻って開く) 仕組みです。

wc5019111622大柄なツマミを附随するシャッターボタン (自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) を兼務) をセットします。当初バラす前の時点で、このシャッターボタンの自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) 切り替えが緩慢だったので、シャッターボタン自体も完全解体して改善させています。原因は内部に使われている特大な螺旋バネ (6cm長) が経年劣化で弱くなっていたからです。多少は強くしましたが残念ながらシャッターボタンとしての機能を果たさなくなっています・・申し訳御座いません。ボタンを押しても、もう戻るチカラが残っていません。たま〜に勢いよく戻ってくれることもありますが殆どの場合で押し込まれたままになってしまいます。内部の軸などを「磨き研磨」しましたが、このツマミの大きさ (重さ) や軸が真鍮製 (真鍮 (黄銅) 製/ガンメタル) であることなどから、それらの重みを戻すチカラが残っていないようです。代用で調達できる螺旋バネが当方には無いので可能な限り改善させましたがシャッターボタンの機能には戻っていません。もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ。誠に申し訳御座いません。

wc5019111623完成したヘリコイドを基台ごとマウント部に組み付けます。この基台を固定する固定ネジ (3本) とイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 1本があるのですが、すべて「隠しネジ」になっており表には一切出てきません。

ちなみに当初バラすまえの時点で距離環や絞り環にガタつきが発生していたのは過去のメンテナンス時に「ワザと故意に締め付けなかった」のが理由です。どうして締め付けしなかったのか??? 締め付けることでトルクが重くなってしまったのと絞り羽根の駆動を制御している機構部との連係が上手く機能しなかったために、ワザとそのようにしたのです。結局締め付け固定されていないので無限遠は出なく(合焦しなく) なってしまい、且つ絞り環も刻印されている絞り指標値と合致しなくなったまま平気で組み上げてしまったのですね・・。

wc5019111624距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

・・と、そのハズだったのですが確認作業をしていて絞り羽根が正しく動いていないことを発見してしまいました。オーバーホールが失敗です・・(泣) 結局、この後に丸一日がかりで作業していくドツボにハマりました。

そうこうしているうちに何処をしくじったのか、距離環のトルクまで重くなってきました・・完璧に地獄状態です。次から次へと問題が発生し正直イヤになり始めてました・・(笑)

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

wc5019111625再び完全解体して (一通り組み上げた後に一番最初の写真の状態まで再びバラすのは悲しい作業です)、初めから組み立て工程を進めました。すると、やはりどうしても最初の絞りユニット部分 (鏡筒) の「棒バネ」に行き着きます。全ての原因がこの「棒バネ」であることを突きとめるだけで6時間が経過していました・・イヤになります。

結局、絞り羽根が正しく開閉しない・・自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の切り替え動作に連係して絞り羽根が動いてくれない・・これらの問題の根本原因は「棒バネ」でした。棒バネも経年劣化で弱まっていたようです。本来の適正な強さが当然ながら判りませんから (当方には同じ棒バネが無い) 考え方を変えて「棒バネ」を排除することにしました。代用に用意したのが上の写真のマイクロ・スプリングです。この代用マイクロ・スプリングを見つけるまでも相当な時間がかかりました・・使えそうなマイクロ・スプリングを組み付けては動かしてみて、ダメならば再び探して同じ作業をします。

上の写真は、まさしく完全に組み上げが終わった状態から再びバラした時の写真ですから・・本当に悲しくなりります。ゲームで出た目の数分進んで戻っているモノポリーをやっているような感覚ですよ(笑)

wc501911161シャッターボタンが正しく機能していないのが残念ですが、一応完璧なオーバーホール作業は完了しました。シャッターボタンとしての機能が働いていないだけで自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) としての機能は、このスイッチ部に関しては最優先事項として改善させましたので完璧な状態に戻っています。ツマミに刻印されているグリーン色の「」にセットすると「自動」になりレッドの「」にセットすると「手動」に正しく切り替わりますし、当初ユルユルの感触だった切り替え操作もシッカリとクリック感を伴う操作性に戻しています。

なお、フィルター枠は専用工具で変形箇所・・「WESTROCOLOR」の”STR”の辺り・・を修復しレンズ銘板が容易に外れるよう、同時にフィルターの着脱も問題なくできるよう改善させています。

wc501911162光学系内の汚れもキレイになり非常に透明度が高いレベルです。これは良い個体を入手されましたね!

wc501911169後群もコーティングスポットや極微細な点キズ、或いは極薄いヘアラインキズなどが見られますが写真には一切影響しないものばかりです。

ちなみに、上の写真でexaktaマウントのロックピン (赤色●の附近のネジ) が浮いて出ているのを初めて気がついて正しい位置までシッカリとネジ込みました。危うく折れてしまうところでした・・(汗)

wc5019111636枚の絞り羽根も油染みが相応にありましたがキレイになって確実に駆動しています。もちろん当初発生していた様々な問題点は全て解消しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がある個体ですが当方による「磨き」をいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。当然ながらゼブラ柄部分も「光沢研磨」を施していますが既に相応に経年のキズが付いているのであまり変わりません。

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wc501911167塗布したヘリコイド・グリースはいろいろと試したのですが (8回組み直してます) 最終的に「粘性:軽め」を使いました。理由はこのモデルのピントの山が掴みにくいので軽いほうが操作し易いと判断したからです。結果、とても滑らかに駆動するようになりましたが、ほんの僅かにトルクムラがあります。言われなければ殆ど気にならないレベルですがヘリコイドのネジ山が摩耗している分なのか判りませんが距離環のトルク感は「ほぼ均一」の状態です。また絞り環のほうは構造的に (固定方法から) 僅かなガタつきは残っています。刻印の絞り値との整合性もキッチリとっています。

wc501911168個人的にも今回のオーバーホールを楽しみにしていたのですが、これほど大変な作業になるとは全く予測していませんでした・・当分見なくてもイイかな?!(笑)

シャッターボタンだけが悔やまれます・・それ以外は完璧だと思いますので是非ご活用下さいませ。

wc5019111610-1-9当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトに合わせていますが本当に球の部分にしか合焦していません。背景にはダブルガウス型光学系の特徴であるグルグルボケが出ていますね・・。

wc5019111610-2-8絞り値を「f2.8」にセットして撮っています。ピント面が鋭いですね・・素晴らしいモデルです。

wc5019111610-4F値「f4」になります。

wc5019111610-5-6「f5.6」で撮影しました。

wc5019111610-8F値は「f8」になっています。

wc5019111610-11F値「f11」で撮りました。

wc5019111610-16「f16」です。

wc5019111610-22最小絞り値「f22」による撮影です。当初の状態、それから組み上げが完了した時の状態・・から考えれば天と地の差の如く絞り羽根が完璧に駆動してくれています。嬉しくなってしまいますね・・(笑) 一日の作業の結実です。オーバーホール/修理のご依頼、誠にありがとう御座いました。