◎ Steinheil München (シュタインハイル・ミュンヘン) Cassarit 45mm/f2.8《Paxette版:後期型》(M39)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツは
Steinheil München製標準レンズ・・・・、
Cassarit 45mm/f2.8《Paxette版:後期型》(M39)』です。


久しぶりに『疑似マクロ化』に挑戦です。2020年末に今回扱うモデルの「前期型」タイプで『疑似マクロ化』しましたが、今回の「後期型」は初めての扱いになります。

この『疑似マクロ化』の魅力について解説します。少々マニアックな内容なので一般ウケしないのか、前回挑戦した時はあまり人気がありませんでした。しかし昨年から今年にかけて扱った7本の『疑似マクロ化』はもちろん全てご落札頂きましたが、その中で半数以上の方々から非常に高い関心や評価を頂きました (メッセージ欄やその後のメールにて)。

従ってやっている内容『疑似マクロ化』の魅力がやはりご落札前にちゃんと正しく伝え切れていない点が課題として残っていますが、なかなかブログだけで伝えるには限界があり、やはり実際に現物を手にし撮影しなければ直感的にその魅力が伝えられないように思いました。

《疑似マクロ化の魅力・・》
手持ちのレンズ資産全てで焦点距離を超えた使い方ができる
出品個体を含め仕様上の無限遠位置とそれを越えた切り替えができる
面倒な無限遠位置合わせの必要がなく直感的に使える

《留意事項》
オールドレンズやデジタルレンズ本来の描写性能から逸脱した写り方になる

・・ザッと簡潔に挙げると『疑似マクロ化』の魅力はこんな感じになります。一つずつ解説をしていきましょう。

手持ちのレンズ資産全てで焦点距離を超えた使い方ができる

これは『疑似マクロ化』を実現するための附属品としてエクステンション (AF機能付延長環/リング/輪っか) の10mmと16mmを使っている事から、SONY Eマウント規格なので手持ちの全てのオールドレンズ、或いはデジタルレンズを装着して『疑似マクロ化』を楽しめることを意味します。

要はSONY Eマウント規格のカメラボディの「マウント部だけが10mm/16mm延伸する」ので装着したレンズ資産全てに於いて仕様上の最短撮影距離を越えた「さらなる近接撮影が実現 できる」事を意味します。

その際のデメリットとして唯一存在するのが「その装着している時に限定して無限遠撮影だけができない」のです (但し出品個体だけはちゃんと無限遠合焦します)。

例を挙げましょう・・まずエクステンション (10mmでも16mmでもどちらでもok) をカメラボディに装着して、さらに手持ちのオールドレンズ「58mm/f2 (exaktaマウント)」をマウントアダプタをさらに装着してセットしたとします。

つまりカメラボディにはエクステンションとマウントアダプタの二つがダブルで装着されておりそこにオールドレンズ「58mm/f2」がセットされると仮定します。この時本来そのオールドレンズの最短撮影距離が「60cm」までしか寄れないとすると、これら『疑似マクロ化』で「32cm」まで近寄ってピント合焦できる撮影の話になります (32cmは任意の数値/光学系の設計により異なる)。

この時、反対に無限遠位置に距離環を回しても無限遠でのピントが合わないので (ボケたままの画になる)、無限遠撮影はできません。もしも無限遠位置で撮影したければ、そのまますぐに「エクステンションだけ取り外して装着し直せば良い」使い方になります。

要はエクステンションを装着すると装着したいオールドレンズの仕様上の最短撮影距離を超越して「さらに近寄ってピントが合う」撮影が可能になり、無限遠撮影したければ単にエクステンションを取り外して従来のマウントアダプタだけ装着した使い方に戻せば良いのです。

つまり普段使いなら従前のマウントアダプタだけを装着して使いつつ、ここぞと言う時にエクステンションをさらに間に挟んで装着することで「ピントが合う最短撮影距離を半分近くまで短縮化できる」ので、仮に焦点距離が100mmだとしても、仕様上の最短撮影距離が1.5mなのが80cmくらいまで寄れる話になるワケですね。或いはその100mmのオールドレンズで本来の撮影ではあまり拡大できない遠くの被写体を「近寄らずに」さらに拡大して撮りたいなど、近接撮影ができない場合 (前に川がある/柵があって近寄れない等) に有効な手段と言う話にもなります。

そしてこれらの使い勝手はオールドレンズに限定されず今ドキのデジタルなレンズ資産も全て同じ使い方に変化するのがこのエクステンションの有難味です。エクステンション内部には端子が備わるのでデジタルなレンズはそのまま全ての機能が有効になるワケです。

出品個体に限り仕様上の無限遠位置とそれを越えた切り替えができる

今回の出品個体に限定して「エクステンション10mm」装着時に限りそのままの状態で無限遠位置撮影が実現できるようオールドレンズ内部の調整を施してあります。つまり無限遠位置「最短撮影距離1m」までの仕様上の撮影がそのまま可能です。

一方 (1mを越えて) さらに近寄って撮りたければ、附属のマクロヘリコイド付マウントアダプタの「ヘリコイド部分をスライドさせれば最大で43cmまで近接撮影が可能」になるワケです。つまり「10m辺り43cm」のように無限遠撮影ができなくなる代わりに「より近い距離での撮影が実現できる」のが『疑似マクロ化』の狙いです (10mは仮の話)。

もしもどうしても次の写真は無限遠で撮りたいと思ったら、すかさずその場所でヘリコイドを元の位置に戻せば仕様上の使い方に戻るので簡単に無限遠撮影が可能です。

従って仕様上の距離よりもさらに近接で撮りたい時だけマクロヘリコイド付マウントアダプタのヘリコイド部分をスライドさせて『疑似マクロ化』すれば良く、本来の仕様上の距離で使いたければ「単にマクロヘリコイドを元に戻すだけ」だから直感的な使い方と言う話です。

なお附属品マクロヘリコイド付マウントアダプタ、或いはL39→LM変換リングは、お手持ちの「L39/LMマウント規格」のオールドレンズを装着して使う事も可能です。マクロヘリコイドを回せば更なる近接撮影が実現し、元に戻せばオールドレンズの仕様上の撮影に戻ります。

面倒な無限遠位置合わせの必要がなく直感的に使える

これは純粋に一般市場に流通している様々な「ヘリコイド式マウントアダプタ」或いは「マクロ機能付マウントアダプタ」を装着した時の都度無限遠位置を合わせて撮る必要性がないと言う話です。前述のとおり「エクステンション10mmの装着を前提としている」ので単にマクロヘリコイド付マウントアダプタ側のヘリコイドをスライドさせるか否かだけで『疑似マクロ化と仕様上の撮影を切り替えている』設定にオールドレンズ内部の微調整を変更してあります。

こんな感じで要は「マクロヘリコイド付マウントアダプタとエクステンション10mm」を含んだ状態でオールドレンズ側のオーバーホールを仕上げた点が普通のマウントアダプタとの相違で、逆に言えば単なるマウントアダプタの代わりに『疑似マクロ化』機能を附加したマウントアダプタを用意したと受け取れば分かり易いと思います。

さらにそれらマクロヘリコイド付マウントアダプタやエクステンションは他のオールドレンズやデジタルなレンズにも合わせて使えるので、今までの一般的な「個別のオールドレンズに 限定したマウントアダプタの使い方」に絞られず、様々な使い回しが可能であってありがたいと思われるワケです。

④ オールドレンズやデジタルレンズ本来の描写性能から逸脱した写り方になる

これは前述のとおり、装着したオールドレンズやデジタルレンズの仕様上の撮影距離から逸脱した使い方なので、写真の写り方が変わります。

《附属品でどんな使い回しができるか・・?》
エクステンション (10mm/16mm)
手持ちのオールドレンズ (手持ちの他のマウントアダプタを合わせて装着) や
デジタルレンズで使える→最短撮影距離を越えてもっと近寄れる

マクロヘリコイド付マウントアダプタ
手持ちのLMマウントのオールドレンズの装着が可能。マクロヘリコイドを回せば、さらに近接撮影が可能。元に戻せばオールドレンズの仕様に戻る。

L39→LM変換リング+のマクロヘリコイド付マウントアダプタ
手持ちのL39マウントのオールドレンズをネジ込んで使える。マクロヘリコイドを回せば、さらに近接撮影が可能。元に戻せばオールドレンズの仕様に戻る。

  ●               

戦前ドイツで1915年にバイエルン州ニュルンベルグでKarl Braunによって 創設された会社で、戦後の1948年にはCarl Braun Camera Factoryとして レンジファインダーカメラ「Paxette (original)」を開発/発売しました。
(旧西ドイツ側に属する) 

このフィルムカメラはリーフシャッター方式のPRONTOR-Sを搭載した固定式レンズのレンジファインダーカメラでした。

右写真はアクセサリシューが一体型切削だった初期のモデルで後の モデルバリエーションではアクセサリーシューが後付けされるように変更になっています (シャッター速度はいずれもB〜1/300)。

1951年に発売された上記の改良型「Paxette ver.II (original)」で、アクセサリーシューが後付けになったタイプです (写真左)。

また右写真は上記のVARIOリーフシャッター式を搭載したタイプで「Kataplast 45mm/
f3.5
」の固定式レンズです (1953年発売)。

さらに1956年発売の「Paxette IB ver.2」で、右写真は巻き上げノブが附加されたほうのタイプです。

巻き上げノブが無いoriginalと同一の巻き上げ式のタイプも存在するようです。

この辺のモデルバリエーションはとても多く複雑です。固定式レンズですが「POINTAR/KATA/Cassar」などのモデルが存在するようです。

また1952年「Paxette II」が発売され、新たにオプション交換レンズ群が用意され「M39ネジ込み式マウント規格」を採用しました。マウント規格自体は「内径39mm x ピッチ1mm」なのでライカ判のネジ込み式マウント規格「L39」と同一ですが、フランジバックが 違うので転用できません。

右写真は少々珍しい1951年版「Paxette I ver.II」なのにレンズ交換式に変わっているタイプです (Prontor-S搭載)。

さらにリーフシャッターがProntor-SVSに変更になり巻き上げノブが附随する「Paxette II」で1953年の発売タイプのようです。

もちろんレンズ交換式で同様に「M39ネジ込み式マウント規格」の ままです。巻き上げノブは2回巻き上げが必要です。

1953年に発売された「Paxette IIL」でレンジファインダーユニットにより軍艦部の中央が一段分高くなっています。

他に「Paxette IIM/Paxette IIBL」なども存在し、やはり種類が多く複雑です。

右写真は「Paxette IIM」で巻き上げノブが無いほうのタイプになります。


右写真は「BRAUN Paxette」でBRAUN銘を刻印しているタイプに なりこちらも少々珍しいタイプなのでしょうか。

何しろバリエーション数が非常に多いので、世代としての前後はもちろん細かい仕様上の違いなどもよく理解できていません。

(もしも間違いがあれば是非ご指導下さいませ)

そしていよいよ「M39ネジ込み式マウント規格」では最後に登場する1956年発売の「Super Paxette I」からのバリエーションです。

やはりモデルバリエーションが幾つか存在し「Super Paxette IB/
Super Paxette IL」などがあるようです。

結局簡単に大きく分類すると「固定式レンズ方式のPaxette Iシリーズ」また同時期に「レンズ交換式M39ネジ込み式マウント規格のPaxette IIシリーズ」そしてさらに「距離計連動機構を装備したSuper Paxette Iシリーズ」までが「M39マウント」対応モデルと考えられます。

なお「距離計連動機構装備」のPaxetteにセットで発売されていた交換レンズは「-E-」刻印をレンズ銘板に伴うオールドレンズで、距離計を意味するドイツ語「Entfernungsmesser」の頭文字を採っています (必ず-E-が附随するとも限らない)。

但し距離計と言っても構造としてはちょうど「M42マウント」の絞り連動ピンのような仕組みなので、レンジファインダーカメラ側マウント部内部には「押し込み板」が備わり、その板状が押し込まれる量で距離計が連動するようです。

またこの事から同一モデル銘のオールドレンズでも「-E-」の有無によってマウント面の設計が異なっており、特に「マウントアダプタへの装着時に問題が起きる」点が要注意です (最後 までネジ込めないタイプが中には存在する)。

従ってライカ判「L39」と同じマウント規格だからと取っつき易く考えるのですが、イザッ オールドレンズを手に入れると下手すれば用意したマウントアダプタにネジ込めないハメに 陥ります (実際当方もそのような個体が数本あった)。この相性のような問題点があるために、なかなか手放しで調達できない難しさがあったりしますね。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して滲んで円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系が3群3枚のトリプレット型なので、基本的に円形ボケの表出が可能で、且つ ご覧のようにエッジが際立って輪郭を強調して現れます。特に左側2枚の写真はおそらくこのモデルのオリジナルな状態で撮影した仕様上の撮影ですが、逆に右側2枚は投稿者の解説を 読むとやはり「エクステンション」を介在させた近接撮影として撮っている中での円形ボケの表出なので、本来の光学系設計上の仕様を逸脱するとこんな感じで大きめな円形ボケが表出 します。

つまり背景ボケとしての効果で捉えるなら、近接撮影の環境を整えてあげるだけで「撮影する描写性に幅ができる」ワケで、別の言い方をするなら「手持ちレンズ資産も含めて疑似マクロ化による恩恵は無限大に広がる」とも捉えられます。

二段目
さらに左端から今度は破綻した円形ボケに光学系の設計から来る収差の影響が増して「乱れた背景ボケ」へと移っていく様をピックアップしています。またその際に前述同様にエクステンションをかませれば、さらにそれら収差の範疇までが「輪郭のエッジが強調されずに (溶けてしまうから) 背景ボケへと変化していく」チャンスを与えることにも繋がり、単なる近接撮影の為だけの道具として捉えるよりも、やはり「撮影の幅が広がる」と考えたほうがより趣が深まります。

三段目
左端はこのモデルの特徴の一つですが開放で撮るとご覧のように白飛び部分にフレアが現れるので (この写真は意識的にそのように撮った写真ではないと思いますが)、それを逆手に取って「軟らかさの表現性」として使うのも一つの手法だと考えられます (単にフレアだからと貶さない!)。

また2枚目はまさにこの3枚玉トリプレット型の特徴が良く現れている写真で、基本的にピント面の鋭さが強調される光学系なので被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力には 優れています (但し限界があり外周に向かうに従い乱れてしまう/収差がまだ多い)。

そして何と言っても当方が感心して唸ってしまうのが右側2枚の写真で、このモデルのダイナミックレンジの広さを物語っていると受け取って評価しています。その意味でたかが3枚玉と係ると良い意味で期待を裏切られます(笑) これだけの階調幅でキッチリと美しいグラデーションを写真に留められる能力が、こんな簡素なオールドレンズで吐き出せると言う意外性が また歓びになったりします(笑)

四段目
ダイナミックレンジの広さは一番左端の夕焼けの写真を見ても伝わります。ちゃんと黒潰れ せずにギリギリのところで陰影の相違を残してくれています。また次のバイオリンの写真ではオリジナルの状態でそれほど被写界深度が狭くない事を示していますが『疑似マクロ化』に よりどんどん被写界深度が狭まってくるので、それを活かした撮り方もまた大きな魅力に至ります (このブログ最後に実写を載せているので確認できます)。

そして何よりもこんな簡素なモデルで月を撮影してしまっているのがその次の写真です。これだけのインパクトを残せるなら、はたしてこの写真がこんなオールドレンズで撮られていると誰が想像できるでしょうか? 会場の並んでいる椅子の単調なト〜ンのグラデーションと共にその先にある背景となるレンガ造りの階段/舞台とのグラデーションの比較がまたその質感表現の違いを伴いつつとても素晴らしい写真です。

五段目
まさにこのモデルのダイナミックレンジの広さと素性の良さが現れた写真として左端の白黒写真を用意しました。また人物撮影にも威力を発揮して非常に自然な違和感を感じない人肌表現に、やはり唸ってしまいます(笑)

光学系は3群3枚の典型的なトリプレット型構成ですが、右構成図はネット上で解説されている構成図をそのままトレースしています。

すると第1群 (前玉) の外径サイズに対して第2群以降〜第3群までの外径サイズが近似している構成図なので、おそらく「Paxette版」ではない別のオールドレンズの構成図が案内されていると推測できます。

何故なら、この構成図だと光学硝子の屈折率が低くてバックフォーカスが長い/必要なモデルの設計のように見えるからですが、明確なことは (当方が掲示しているワケではないので) 分かりません。

今回の個体をバラして光学系を清掃した際に逐一デジタルノギスを 使って計測した時のトレース図が右構成図になります。

屈折率を高めて第2群〜第3群で強制的に結像させているような構成なのが見てとれます。特に前述の構成図だと第2群の屈折率が低そうに見えるので相応にバックフォーカスが必要になる一般的な一眼レフ (フィルム) カメラのモデルの構成図のように受け取れます (但し当方の光学知識がそもそも疎いので正確な事は不明なままです)。

右構成図を見る限り、確かに今回の個体をバラして光学系を清掃する際に、逐一当方の手で デジタルノギスを使って計測した結果からトレースした図の為、まさにPaxette版である事から「後玉の外径サイズが小さい」のが理に適っています (もちろん現物を実測したので理に適う以前の話ですが)(笑)

またフランジバック「44mm」の関係から、そもそも第1群からして屈折率を高めた曲率で採ってきているのが何となく見ていて納得できてしまいます(笑) 何しろ当方は光学知識が 疎いのでこんなレベルの話しかできません (お許し下さいませ)(泣)

ちなみに第3群の後玉が前述のネット上で紹介されている構成図のトレース図では「曲率が 近似した両凸レンズ」でしたが、現物を計測すると次の構成図のように「裏面側はほぼ平坦に近いレベルの曲率で設計してきた両凸レンズ」なのが判明しました。バックフォーカスが短いので、それを考慮した光学設計として開発されたと言う辻褄が合う印象です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ご覧のようにイザッバラしてみるとパーツ点数も少なめでまるで初心者向けのような印象ですが、単にバラして組み戻すだけならそうかも知れませんが、今回は目的があって組み上げる必要があり、そう 簡単な話ではありません(笑)

↑まずは絞りユニットを組み込む為の鏡筒ですが、ご覧のように絞り羽根が刺さるべき/格納 するハズの「」がありません(笑)

実は「位置決め環」が別に用意されており、それを最初にセットしてから絞り羽根を組み込んでいく手法を採っています。

この当時のSteinheil München製オールドレンズで、特にレンジファインダーカメラ向けの モデルで非常に多く採用されている概念ですが、どうしてそのまま上の写真の鏡筒の底面に穴を切削して絞り羽根が刺さるよう設計しなかったのか「???」ですね(笑)

おそらく別のフィルムカメラ、或いはレンジファインダーカメラ向けにも共通的に供給したいが為にこのような「位置決め環を別途用意する方式」を採って、その組み込むべき位置決め環の違いを以てして対応していたのかも知れません。

正確なところは「???」なままですが、何かしら理由があってワザワザこのような設計を 採ってきたのだと推察しています (普通一般的なオールドレンズはこの当時でさえダイレクトに底面部分に穴を切削して絞り羽根が刺さるよう位置決め用の穴を用意していたから)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑前出の絞り羽根表裏の写真をご覧頂くと分かりますが、表面の「開閉キー」の突出量に対し「裏面の位置決めキーの突出が半分以下で少ない」のが分かります。

従って絞り羽根は全部で12枚もあるので、だいたい8枚組み込むと9枚目〜12枚目までを組み込む際に「先にセットしていた絞り羽根が外れて一緒にズレてしまう」現象が起きて、何度も組み込み直しをするハメに陥ります。

前述の位置決めキー用の穴の問題と共に意味不明な仕様 (位置決めキーの突出量が極端に少ない) の設計で、毎度ながらここの工程だけで1時間以上はかかります(泣)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。鏡筒の中腹には開口部が備わり、ブルーの矢印のように「開閉キー」と言う板状の部分がスライドする切削が用意されています。

従ってここに絞り環が被さる事で絞り環操作によりダイレクトに絞り羽根開閉を行う駆動方式です。

↑面倒なので先に光学系前後群を組み込んでしまいます (既に光学系を3回清掃済)。

↑絞り環をセットしたところです。絞り環の側面には「」が刻まれており「絞り値キー」に見合う位置で切削されています。ここに鋼球ボールがカチカチとハマる事でクリック感を実現する仕組みですね(笑)

また上の写真下のほうを見ると分かりますが、鏡筒から飛び出ていた「開閉キー」と言う板状部分が絞り環にハマッていて、絞り環を回すと絞り羽根がダイレクトに開閉する仕組みなのが分かります。

↑前の工程で鏡筒周りの組み立てが済んだので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります。

そうですね、このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式で設計されているので、個別に 組み上げていく事になります。ところが実は前の工程で「開閉キー (鏡筒から飛び出ている 板状パーツ)」が絞り環にハマる箇所が「2箇所」用意されているので、そのどちらにセット されるのが正しいのか「判定」が必要になります。

逆に言うならこの判定がミスッた場合、全て組み上げても正しく絞り値を変更できません。

なお、上の写真は鏡胴「後部」の組み立て工程に既に移っていますが、ヘリコイド (メス側) がマウント部であって簡素な設計です。

↑ここに真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で8箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

しかし実は上の写真は「当初組み込まれていた場所でのネジ込み」でヘリコイド (オス側) を セットしています。ところが今回の個体は『疑似マクロ化』が命題ですから、それでは意味を成しません(笑)

従って上の写真とは異なる位置でヘリコイド (オス側) をネジ込む必要があるワケです (企業 秘密なのでご案内できません)(笑)

↑今回の個体のオーバーホールについて、課題を完遂する適切なネジ込み位置でヘリコイド (オス側) をネジ込んで距離環をセットしたところです。この後は完成している鏡胴「前部」を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。このモデルは距離環を回してピント合わせを行うと「絞り環まで一緒に回ってしまう」設計と構造なので、残念ながらピント合わせした後にボケ味をイジろうと絞り環操作するとアッと言う間にピント位置がズレてしまい、面倒で仕方ありません。

従って本来なら絞り環操作を軽めに仕上げて一般的なオールドレンズ同様に「ピント合わせしてからボケ味を調整したい」のですが、クリック感を伴う絞り環操作の為、それが叶いません(泣)

つまり今回出品個体/モデルは「先にボケ味を決めてから再びピント合わせする必要がある」使い方になるのでご留意下さいませ。ピント合わせした後にボケ味をイジると (つまり絞り環操作すると) ピント面がズレてしまいます。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持し個体ですが、残念ながら第1群 (前玉) の中央付近に経年の擦りキズ/汚れが残っています。また光学系内には全ての群で「気泡」が残っています。

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

第1群 (前玉) の表面側にコーティング層経年劣化に伴う微細な点状のコーティング剥がれが極薄く残っています。

↑光学系後群側も (とは言っても後玉だけですが) 透明度が高い状態を維持しており、LED光照射でも極薄いクモリが皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

実は前出の光学系前群側の写真を見ても、或いはこちらの後群側を見ても「共に光の反射でパープルアンバー非常に薄いブル〜の3色の光彩」が見てとれます。

つまりこのモデルの「前期型」ではレンズ銘板に (モデル銘に)「VL」刻印がありましたが、今回の「後期型」には附随しません。

しかしご覧のように「3色の光彩を放つ」事からも明白ですが、既にモノコーティングが当たり前の時代に入った為に、旧東ドイツ側Carl Zeiss Jena製オールドレンズと同じように「モノコーティング蒸着を明示しなくなった」時代の製産品と受け取れます。

これは単に「売りたいが為の謳い文句」だけで明記しているのではなく「実際に光に反射させてコーティング層蒸着の光彩を見るとちゃんと3色視認できる」からこそのご案内です(笑)

従ってオールドレンズはその製造番号から捉えた製造時期を知る事も、一つの根拠を示す案内になったりしますね(笑)

従ってレンズ銘板にはモデル銘として「VL」刻印がありませんが「前期型同様にモノコーティングが蒸着されている」事を、ご落札者様ご本人が自分で調べる事が可能です。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:16点、目立つ点キズ:11点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:14点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い4mm長ヘアラインキズ数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
(6mm長の薄い擦りキズ前玉中央付近にあり)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
(上記薄い擦りキズは順光目視可能)
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり3回清掃しても除去できない為、拡大撮影で「気泡」との判定しています。
一部は一見すると極微細な「塵/埃」に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷をしていた為クレーム対象としません)。また「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは僅かしかありません
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑12枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」しながら閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽めと超軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・距離環と一緒に絞り環も回転するため先に絞り値を決めてからピント合わせする必要があります。
(設計上の問題なので改善不可能)
附属の「フランジ環」は外さないようにしてください一度でも外すとフランジバックが狂い無限遠位置が合焦しなくなります。またこの個体は内部でヘリコイドネジ込み位置を変更して調整しているので無限遠合焦します。他のPaxette版モデルをそのまま附属のマウントアダプタなどに装着しても無限遠合焦しない可能性があります。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

↑前述の解説で「フランジ環」と説明しているのが上の写真です (赤色矢印)。本来のこのモデルのマウント部 (ネジ部) は別ですが、その上にさらに「フランジ環」を組み込んで無限遠位置を微調整していますから外さないようお願い申し上げます。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
marumi製UVフィルター (新品)
本体『Cassarit 45mm/f2.8《Paxette版:後期型》(M39)』
フランジ環 (M39マウント) (新品)
汎用樹脂製ネジ込み式M39後キャップ (新品)
汎用樹脂製被せ式前キャップ (自作代用品)
汎用樹脂製ネジ込み式M39前キャップ (新品)
L39→LM変換リング (5075:新品)
マクロヘリコイド付マウントアダプタ (新品)
SONY E用エクステンション (10mm:新品)
汎用樹脂製SONY Eマウント後キャップ (新品)
SONY E用エクステンション (16mm:新品)
布製巾着袋 (エクステンションの附属品/新品) 

普段使いはもとより『疑似マクロ化』に必要な全てが附属品として揃っています (他に買い足すモノがありません)。ちなみにマウント規格は「カメラボディ側マウントはSONY Eマウント規格」になります。

↑まずこのモデルの留意事項として上の写真で解説しています。このモデルは距離環を回してピント合わせする際に「一緒に絞り環まで回っていってしまう」設計です (ブルーの矢印)。従って「回転式ヘリコイド駆動方式」なので、上の写真グリーンのラインのとおり一直線上に基準「」マーカーと絞り環側基準「」マーカーが並びません (オレンジ色矢印)。

↑ここからは附属品の使い方を解説していきます。届いた商品は、当初オールドレンズ側「フィルター〜フランジ環までの一式」が単独で梱包されているので、上の写真のように「フランジ環」を同梱のマウントアダプタ類にネジ込みます。

上の写真では マクロヘリコイド付マウントアダプタ (新品) と共に SONY E用エクステンション (10mm:新品) を既にセット済の写真です。

すると マクロヘリコイド付マウントアダプタ (新品) には「解除ボタン」が備わっていますが、ここでは使いません。

装着済の今回の出品個体『Cassarit 45mm/f2.8《Paxette版:後期型》(M39)』は、距離環が無限遠位置「∞」にセットされているのが分かります (オレンジ色矢印)。

この時点で⑧ マクロヘリコイド付マウントアダプタのマクロヘリコイド部分はまだスライドさせません。

つまりこの写真の状態は「オリジナルな∞〜最短撮影距離1mの距離環駆動範囲」である事を意味します。

この時もしも仮にのマウントアダプタでマクロヘリコイドを回してしまうと「近接撮影の疑似マクロ化の状態になる」事をブルーの矢印で示しています (ブルーの矢印①)。

↑まずは最初にオールドレンズ側の距離環を回して「最短撮影距離1m」にセットします (オレンジ色矢印)。この段階で無限遠位置「」から最短撮影距離「1m」までは他に何も操作せずともそのままの状態で対応可能です (つまりオリジナルの状態)。

しかしのマクロヘリコイドを回して/スライドさせてブルーの矢印①方向に回すと、それに連動して鏡胴全体が繰り出され、最大で「5㍉分」プラスで繰り出します (ブルーの矢印②)。

この時、このオールドレンズは本来の仕様上の1mを超越して「最大で43cmてまで近接撮影が可能」になります。

↑こんな感じでのマクロヘリコイド付マウントアダプタのヘリコイド部分が「最大で5㍉分」繰り出されます。この時の距離環は前述の操作のとおり「最短撮影距離1m (オレンジ色矢印)」とオリジナルの使用状態のままですが、実は鏡胴全体が「5㍉分」繰り出されているので、既に「43cmまで近接撮影可能」な状況にセットされています。

逆に言えば、この時マクロヘリコイドを元の位置まで回してスライドさせると (ブルーの矢印③)、オールドレンズ全体の突出「5㍉分」が収納されるので (ブルーの矢印④)、本来のオリジナルな「最短撮影距離1m」に戻ります。

↑さらにここで今度はエクステンション「10㍉」を取り外してエクステンション「16㍉」に付け替えた状態です。

↑さらに最終段階になりますが、エクステンションを「10㍉16㍉」の2本を装着して最大に近接撮影状態にした時の写真です。

↑上の写真は実際に各附属品を装着する時の目安をご案内しています。まずマクロヘリコイド付マウントアダプタに用意されている「」リリスーマーカー (グリーンの矢印) に合わせて「L39→LM変換リング」の、同じくリリースマーカー「赤色部分」を合わせて/目安として重ね合わせて装着します。

またマクロヘリコイド付マウントアダプタに備わる「解除ボタン」は、この「L39→LM変換リング」わ取り外す時に使うボタンなのが分かります。

↑今度はマクロヘリコイド付マウントアダプタとエクステンション「10㍉」を装着する時の目安を解説しています。グリーンの矢印で指し示したリリースマーカー「」位置を合わせて/目安として互いに組み合わせて時計と反対方向にセットするとカチンという音が聞こえてロックされます。

エクステンション「10㍉/16㍉」共に目安となるリリースマーカー「●」が白色なので不明瞭なので「当方で赤色に着色して目安になるよう施しています

↑同様グリーンの矢印のように「マウント側にもリリースマーカー赤色で着色済」なので、互いにグリーンの矢印部分のリリースマーカーを重ねて装着すればセット完了です。

これらの着色は今回の出品に際し当方が着色しているので「一般流通市販品には赤色でマーキングしていない」ワケです。すると当方でさえも時々間違えて/ミスッて装着してしまい外れなくなると言う非常にヤバい状況に陥るので(怖)「ワザと故意に赤色でマーキング」しており、ミスが起きないよう配慮しています(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑上の写真 (4枚) はオーバーホール後の出品個体を使い撮影した写真で、マクロヘリコイドやエクステンションの環境を変化させつつ撮った開放実写です。

《近接撮影の状況》※マクロヘリコイドの5mm分繰り出しで疑似マクロ化開始
エクステンション (10mm) +マクロヘリコイド回さず → 仕様1mのまま
エクステンション (10mm) +マクロヘリコイド (5mm) →43cmまで近接
エクステンション (16mm) +マクロヘリコイド (5mm) →29cmまで近接

エクステンション (10/16mm) +マクロヘリコイド (5mm) →21cm近接

使い方として上記のようになり、マクロヘリコイドを繰り出さなければ附属品エクステンション (10mm) も含めたマウントアダプタ類は「単なるマウントアダプタの役目」しか発揮していないのが分かると思います (つまりオリジナルの仕様上の諸元値のまま)。

ここが当方が拘る『疑似マクロ化』の最大のポイントで、通常一般的にマクロヘリコイド付マウントアダプタや延長筒で工夫したとしても「オリジナルの仕様をイジさせる事は不可能」なのであって、内部構造をイジらない限り無限遠合焦しなくなります。それを当方のオーバーホール工程の中で既にやってしまっているので、このような直感的な使い方が実現できているのです。

ところがマクロヘリコイドを操作して最大で「5㍉分」繰り出すと、そこから『疑似マクロ化』の世界に入っていきます(笑) この時マクロヘリコイドを最後まで解除ボタン側まで回さずに途中で止めたら、その時の最短撮影距離は「43cmまで縮まらない」距離になります。
(44cm1mの何処か) その概念はエクステンションを16mmに入れ替えても同じです。

従って、撮影していてこのシ〜ンはもっと近づいて撮りたいと思ったら、その時点で (直感的に) マクロヘリコイドを操作して繰り出せば良いのです。もちろんエクステンションを16mmに付け替えても良いですしダブルで装着してもOKです。

その状況により上の一覧のように最短撮影距離がどんどん縮まり「最大で21cmまで近接 撮影できる」ワケです。

そしてそれらの環境の変化により、上の4枚の写真のとおり「仕様上の最短撮影距離1mから順に光学系の設計を逸脱した写り方に変化していく」のが魅力なのです。

1枚目がオリジナルの最短撮影距離:1mで (拡大撮影)、2枚目がマクロヘリコイドを操作して5㍉分繰り出した『疑似マクロ化』状態で、近接距離は半分以下の43cmになっています (実測値)。さらに3枚目がエクステンションを16mmに付け替えた時の写真で29cmまで近寄って撮っています。最後の4枚目がダブルでエクステンションを装着した21cmでの撮影ですね(笑)

するといずれも開放実写で「f2.8」ですが、1枚目の開放実写では拡大撮影しており、一方2枚目の撮影時は拡大撮影せずギリギリの画角で撮っていますから、既に光学設計を逸脱している為に「ピント面周りの収差の影響が現れ始めている」のが見てとれます。しかし逆にピント面の解像度や光量が近接している分増えており、背景の乱れたボケ方とはまた異なる結果に至っているのがオモシロイです。

結局、どんどん近寄って撮っているので入射光量が増大し解像度も上がりますが、収差の影響を含んでも (増大しても) 背景のボケ具合がより大きく増えるので徐々にトロトロボケになっていくのが分かります (つまり被写界深度も狭くなっていく)。

この原理はどんなオールドレンズやデジタルレンズを使っても同じなので、近づく事で光量が増して被写体/ピント面の解像度が上がる一方、それに釣られて収差の影響も大きくなりながら然しトロトロにボケていってしまうと言う「新境地の使い方」が楽しいと当方では評価している次第です。

なお、マクロヘリコイドを繰り出さなければ仕様上の最短撮影距離:1mのままですが、もちろん無限遠も極僅かなオーバーインフ状態ながらもちゃんと合焦しますから、単純に考えてマクロヘリコイドを繰り出さなければそっくりそのままこのモデルの仕様上のままと認識していればOKです。

またこのモデルは冒頭解説のとおり「回転式ヘリコイド駆動方式」なので、距離環を回すと絞り環まで一緒に回っていってしまいます。少々扱いにくくとも先に絞り値を決めてからピント合わせするか、或いは二度手間ながらも一度ピント合わせ後に絞り値を決めて、再びピント面をチェックする撮影方法になると思います。

最後に附属品のエクステンションは様々なモデルがありますが、オールドレンズを装着してもガタつきがなく、カメラボディ側接点端子を傷める心配も少ないタイプをチョイスしました (おそらく途中で仕様が変わったと思います/前回買い入れ時はもう少し問題があったように記憶しています)。

↑今度は絞り環を回して設定絞り値を「f4」にセットして撮っており、1枚目がオリジナルの最短撮影距離:1mでの撮影で、2枚目がマクロヘリコイド繰り出し状態の最短撮影距離:43cm、3枚目がエクステンションを16mmに付け替えた29cmでの写真で、最後4枚目がダブルエクステンションによる最短撮影距離:21cmでの撮影です。

最後の4枚目を見ると、ピント面である手前側ヘッドライトの解像度が最初の開放実写と比較して増えているのが何となく分かります。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。1枚目がオリジナルで2枚目が43cm、3枚目が29cmで最後4枚目が21cmの近接撮影です。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」での撮影です。1枚目のオリジナルの最短撮影距離1mでは絞り羽根が閉じてきているのでピント面の解像度とコントラストの低下が始まる「回折現象」の影響が現れていますが、当然ながら2枚目以降も同じ影響が出ているにもかかわらず光量が増えて解像度が上がっている分、その影響度合いが緩和されているのが分かります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。もしもこれらの写真を単独で見せられたら、はたしてどれだけの人がマクロヘリコイド付マウントアダプタで撮った「本来の光学性能を逸脱した写り」と指摘できるでしょうか?(笑)

少なくとも当方は自分でテキト〜にピックアップしましたが、1枚もピタリと当てられませんでした (多少近いf値や環境はちゃんと当てられる)(笑)

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

如何でしょうか・・手持ちレンズ資産をそのまま有効活用できる「一粒が二度美味しい」的な発想たる『疑似マクロ化』・・是非味わってみて下さいませ!(笑)