◎ PETRI (ペトリ) Kuribayashi K.C. Petri Orikkor 35mm/f3.5 zebra(M42)

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OR3535zレンズ銘板

Petriペトリ-logo今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像加工ソフトで編集し消しています。

栗林製作所 (後に栗林写真機械製作所→ペトリカメラと商号変更) は1907年 (明治40年) の創業なので相当古いのですが1977年に倒産しています。今回オーバーホール/修理をご依頼頂いたモデルは1959年にライカ判フィルムカメラ「ペトリペンタ」を発売した当時に用意されたレンズです。製造メーカーは三協光機から独立した協栄光学の製造によるものと推測されます。

過去に「Petri C.C. Orrikor 35mm/f3.5」をオーバーホールした経験があるので内部の構造化は大凡の見当がつきましたが、その調整に大変難儀してしまいました。以下ご案内していきます。

Orikkor-353.5構成光学系は5群5枚のレトロフォーカス型で独自に設計しているようです。当初の試写で確認すると開放ではピント面がとても甘く無限遠位置も相当なオーバーインフ状態です。オーバーホールの工程でそれらを改善しようと試みたのですが結局丸一日がかりで臨んでも改善できず当初の状態に組み上げることになりました。

OR3535z仕様

OR3535zレンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

OR3535z(0823)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。上の写真で「手裏剣」のようなモノが白紙の上にありますが、これは絞りユニットです。

OR3535z(0823)12普通ならオーバーホールのために解体した際はすべて完全にバラすのですが今回はこの絞り羽根を外しません。理由は次の写真をご覧下さいませ。

OR3535z(0823)13このモデルの絞り羽根には「キー」と言う金属製の円柱状突起を打ち込まずに、絞り羽根をプレスする際に十字の切り込みを入れて4分割した「めくれ/羽根」を用意してキーの代用としています。この「めくれ/羽根」部分が非常に薄く (絞り羽根自体が薄いため) 且つ折れ易いので下手に曲げて広げたりすると容易に破断してしまいます。4分割ですからそのうちの1つでも破断すると絞り羽根の開閉に支障を来してしまいます。

このような方法で絞り羽根のキーを用意するのがこの当時は流行っていたのかも知れません・・他社光学メーカーでも旭光学工業「Takumar 58mm/f2.4 silver (M37)」や藤田光学工業「FUJITA H.C 35mm/f2.5 zebra」などは過去に整備しており他に小西六のモデルなどでも見かけた記憶があります。

写真の絞り羽根の表側「めくれ/羽根」のほう (絞り羽根の表裏に1箇所ずつこの代用方式のキーが用意されている) は絞り羽根開閉幅制御環が来るので単純にガイド部分をスライドするだけなので外すことができますが「絞り羽根位置決め環 (上の写真に写っている環/輪っか)」のほうは穴にこの「めくれ/羽根」部分がシッカリと折り曲げられて固定されているので外すと破断する危険があります。従って絞り羽根に何かしらの問題が無い限りはバラさないことにしています・・今回は経年の油染みがあるだけなのでこのままの状態で油染みの清掃を1枚ずつ丁寧に施しました (もちろん表裏共に清掃しています)。

OR3535z(0823)14絞りユニットや光学系前後群を組み付けるための鏡筒です。5群5枚と枚数が少ないとは言えレトロフォーカス型ですから鏡筒の深さがあります。このメーカーの鋳造技術はシロウトから見てどうなのでしょうか?・・所々に穴が開いておりキッチリ鋳造されているように見えません。これは今回の個体に限らず他のモデルでも同一なのでこのメーカーの技術レベルなのか、或いは下請けの問題なのか分かりません。

OR3535z(0823)158枚の絞り羽根をキレイに清掃し絞りユニットを完成させます。

OR3535z(0823)16この状態で鏡筒を立てて撮影しました。ここからはプリセット絞り機構や絞り環の組み付けに入ります。

OR3535z(0823)17まずは絞り環を先にセットします。絞り環を鏡筒の下側からグルグルとネジ込んでいきますが位置が決まっているワケではないのでアタリ付けが必要です。

OR3535z(0823)18プリセット絞り機構部を組み付けます。一番上の真鍮製の環 (絞り値キー) をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で固定することによってその次のプリセット絞り環 (ベース環:黒色) が確定し機能するようになります。ところが真鍮製の環 (絞り値キー) 自体の位置は決まっておらず (イモネジ用の下穴が無い) やはりアタリ付けが必要です。この位置がズレてしまうとこの後で「」マーカー位置とのズレが生じてしまいヤリ直しになります。

OR3535z(0823)19フィルター枠は光学系前群の格納筒も兼ねているのでここでセットしますが「」マーカーの位置がピタリと合わなければイケマセン。しかし実際にはこのフィルター枠部分はネジ込んでいくだけなので最後までネジ込むと位置は全くズレてしまいます。普通はそのために (位置合わせのために) イモネジを使って締め付け固定するのですがこのモデルにはイモネジによる固定が用意されていません。従って位置合わせの場所でネジ込みを止めましたが実際のご使用にあたってフィルターを強くネジ込んでしまうと一緒に回ってしまうと思いますのでご留意下さいませ。

光学系前後群を組み付けて鏡胴「前部」が完成したことになります (このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式です)。

OR3535z(0823)20距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

OR3535z(0823)21真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。普通はネジ込み位置は1箇所なのですがこのモデルには2箇所のネジ込み位置がありました。且つ最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

OR3535z(0823)22過去に整備のご依頼をお受けしたのはこの部分の構造が分からずに組み立てができなかったようです (ご自分でバラして組み上がらなくなってしまったようです)。

通常ヘリコイドのオスメスはネジ込むと収納されヘリコイド長は短くなる (つまり収縮して無限遠位置になる) モノが多いのですが、このモデルは全く逆の構造です。真鍮製のヘリコイド (メス側) をネジ込んで収納させるとヘリコイド (オス側) は逆に繰り出される方向のネジ山が切られてるワケです。従って無限遠位置のアタリ付けはヘリコイドのオスメス共にそれを考慮したアタリ付けをしなければいつまで経っても組み上がりません。当方も過去の一番最初に整備した時はこの部分の工程で相当な時間を費やしました・・懐かしいですね(笑)

OR3535z(0823)23指標値環をイモネジで固定します・・イモネジ用の下穴が用意されています。

OR3535z(0823)24距離環をやはりイモネジを使って固定しますが上の写真のように1箇所だけネジ穴が用意されています。この部分には距離環の「制限キー」と言う距離環が無限遠位置と最短撮影距離の位置を駆動する「駆動域」を制限する役目のネジが締め付け固定されます。

距離環もイモネジで固定されるので真鍮製のヘリコイド (メス側) にはイモネジ用の下穴がやはり用意されています。当初の試写で相当なオーバーインフだったのをここで改善しようと試みましたが、イモネジの締め付け箇所を変更するだけならば当方で電気ドリルを使ってイモネジ用の下穴を新たに用意してしまえば適正な位置に距離環を固定できるのですが、残念ながら「制限キー」が関わってくると勝手に好きな場所に距離環を固定できません。

そこで仕方なくヘリコイドのネジ込み位置を変える (メス側:2箇所/オス側:4箇所) を試み、且つ直進キーという距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツをガイドする (溝が用意された) 環の固定位置を変更するなど・・相当な時間を掛けて試してみました。結果、残念ながら当初のオーバーインフ位置でない限りは合焦しないことが判りその状態に組み上げた次第です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

OR3535z(0823)1レンズ銘板の刻印「K.C.」が何の略なのかがいまだに分かりません。藤田光学工業のモデルでもレンズ銘板には「H.C」や「P.C」「A.C」など様々な刻印が施されていたりしますが何の略なのかはいまだに不明です。正直、このモデルの整備は大変なので好んで手を出したいとは思わないモデルです。

OR3535z(0823)2光学系内はとても透明度の高い状態をキープしています。第1群 (前玉) のコバ塗膜がだいぶ薄くなっていたので着色しています。

OR3535z(0823)9光学系後群もキレイな状態です。

OR3535z(0823)3絞り羽根も油染みが無くなり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。

OR3535z(0823)4

OR3535z(0823)5

OR3535z(0823)6

OR3535z(0823)7塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」を塗っています。最初「軽め」のほうを塗布して組み上げたのですが距離環の駆動時にスリップ現象が起きてしまいピント合わせ時の操作がし辛いので粘性を変更しています。筐体は「磨き」をいれたので美しい光沢感が戻っていますしゼブラ柄部分のクロームメッキ部分も「光沢研磨」を施し経年の錆を可能な限り落としています (実際は汚れに見えていたと思いますが)。

OR3535z(0823)8無事に滞りなくオーバーホールが完了しましたが、開放でのピント面の甘さはそのままですし相当なオーバーインフも改善できませんでした。誠に申し訳御座いません。また当初より鏡胴にガタつきがありましたが原因は直進キーガイドの経年に拠る擦り減りなので、これも改善はできません (削れてしまった部分を元には戻せません)。もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ

OR3535z(0823)10当レンズによる最短撮影距離90cm附近での開放実写です。最終的に8回の組み直しを行いピント面の調整を何度も試みましたがこれ以上改善できませんでした・・申し訳御座いません。