◎ Tōkyō Kōki (東京光器製作所) TELE-TOKINA 135mm/f3.5 zebra《前期型》(M42)
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このモデルをネット上で調べても今回オーバーホール済で出品する「TELE-TOKINA 135mm/f3.5 zebra (M42)」は1件もヒットしませんでした・・中期型〜後期型だけがアップされており海外オークション「ebay」でも出回っていました。しかし「前期型」のゼブラ柄だけは全く検索でヒットしません。
製造番号から恐らく1960年代前半にTokina (東京光器製作所) から発売された中望遠レンズだと思われます。OEMモデルとして他にVivitarやSoligorなどにも供給されていたようで近似したモデルが出回っています。日本製レンズでこの当時にゼブラ柄が施されていたのは珍しいと感じて思わず調達してしまいました。光学系は、いわゆる3群5枚のゾナー型なので相応の描写性でありピント面も鋭いのですが、どことなくトキナーの匂いを感じる画造りなのが魅力です。
マウントは出品商品としては「M42」なのですがTokinaの基本マウントは「T/T2」マウントですから今回の個体も同じです。従ってM42への変換マウントが製品の仕様としてセットされているワケで、今回の整備で指標値が真上に来るよう調整しました。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。この当時の他社光学メーカーとは違い鏡胴は「前部」「後部」の二分割なのですが鏡胴「前部」がネジ込み式で分離できる構造にはなっていません。また全ての外装パーツ (距離環や絞り環など) の内側にはベース環が存在しており、上の写真のとおり「環 (リング/輪っか)」の集合体であり、まるでロシアンレンズです。全ての環がイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使って固定されるので当然ながら「下穴」が存在しており微調整が効きません。組み立ての各工程でキッチリ仕上げていかなければ最後に何度もバラすハメに陥ります。
絞りユニットや光学系前群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しておれ別に存在します。
10枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根が、まだカーボン仕上げになっているので時代としては、やはり1960年代前半に生産された個体だと推測しています。
この状態で鏡筒を立てて撮影しました。この鏡筒の材質なのですが上の写真を見るとプツプツと白点が無数にあります。この鏡筒はもちろん金属製なのですが、これは経年のサビでも何でもなく窪んでいる箇所 (点状) になります・・つまりアルミ材削り出しなのですが材としての金属密度が低いとでも言うのでしょうか、この当時でさえ他社光学メーカーでは均質で凹凸の無いアルミ材削り出しの鏡筒が主流でしたから今回のモデルは少々雑な大雑把な生成のアルミ材を使っている印象です。
そして問題なのは、この鏡筒の内外、或いは絞りユニットの各環 (リング/輪っか) がすべてビミョ〜に凹凸のある表層面なのです。まるで梨地仕上げでも施してあるかのようなザラザラの表層面なので当然ながら互いに擦れ合うと摩擦の影響を受けて動きません。つまりはグリースを塗布する前提で設計されているようで珍しいですね。
実は他社光学メーカーにも同じ材質の鏡筒やヘリコイドを使っていたモデルが記憶にあるのですがレンズ銘を忘れてしまいました。少なくとも金属の生成時点から同じ材質を準備してそっくり模倣する必要性は全くありませんから (コスト的なデメリットしか存在しないから) 果たして、この鏡筒〜ヘリコイド部分についてはトキナー製なのかどうか自体が、そもそも疑わしいです。
とにかく仕方ないので (当方では基本的に鏡筒内部にはグリースを塗布しないのですが) 今回はグリースを塗りました・・ようやく固まらずに絞り羽根が動くようになった次第です。
3群5枚のゾナー型ですが第3群の後玉の位置 (光路長) が長いので上の写真のように鏡筒に、さらに延長筒を付け足します。
ここからはひたすらに環をセットし続けて組み上げていく工程になります。まずはゼブラ柄のプリセット絞り環です。
鋼球ボールやプリセット絞り値キーの「溝」が刻んである絞り環などをセットしてから最後に鏡筒カバーを組み付けて鏡胴「前部」が関せします。
ここからは鏡胴「後部」を先に組み付けていきます。上の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。また、さらに「制限キー」と言う真鍮製の金属棒 (円柱のカタチをしたシリンダーネジ) を同時にネジ込んでヘリコイド (メス側) の駆動域も確定させます。この作業もイモネジ (3本) による固定だけなので、ここをミスれば当然ながら距離環の指標値と実距離が適合せず下手すれば無限遠が出ません (合焦しません)。
こんな面倒な作業工程にせず、基台を削り出す際に制限域も削りだしてしまえば済むものを、ワザワザ制限環 (リング/輪っか) を用意してイモネジで固定させているのは、恐らく他社OEMモデル (マウントの相違) に対応させることを考慮して設計しているからだと推測します。
距離環を組み付けてしまいます。このモデルでは仮止めができません。従って今までの工程がキッチリ仕上がっていなければ最後に組み上げてからの確認で無限遠位置がズレていたりしてしまいます。各構成パーツの固定位置を「原理原則」を基に納得ずくで仕上げていかなければ何度もバラすことになります。
ようやく鏡胴「前部」を固定できます。間違えて先に距離環を止めてしまったので(笑) 一旦外してから鏡胴「前部」をイモネジ (3本) で締め付け固定し再び距離環を組み付けました。
この後はマウント部をセットして光学系前後群を組み付けた後に無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。ちなみに上の写真の状態ではまだ「T/T2マウント」のネジ山のままになっています。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
たかがトキナーの中望遠レンズ135mmかも知れませんが、当方はこのゼブラ柄が配されているタイプを見たことがありません。レンズ銘板は硬質プラスティック製なのですが製造番号辺りで割れていたので接着しています。
光学系内はとても透明度が高い部類です。第2群が3枚の光学硝子レンズによる貼り合わせレンズ (3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) なのですがラッキーなことにバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が一切生じていません。しかし、バラす前の段階では第2群の1枚目 (表側) のコーティング層が経年劣化でクモリが生じていました。
当方による「硝子研磨」を施したのでキレイになっていますが光に反射させると非常に薄く極僅かなクモリが残っている (硝子レンズの約半分の面積) のが視認できます・・但し、そう言われれば本当に薄いクモリなのかな? 程度のレベルなので逆光撮影時でも影響には至らないと判断しています。恐らくこの一文を読んでなければ気がつかずに見過ごしているでしょう、せいぜいその程度です。
上の写真は光学系前群のキズの状態を拡大撮影していますが極微細な点キズがあるだけで大変キレイな状態を維持しています。
光学系後群もコーティング層の経年劣化が進んでいますが清掃などでキレイになりました。
上の写真 (2枚) は、光学系後群 (後玉の1枚だけ) のキズの状態を拡大撮影しています。2枚共に極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全て写っていません。コーティング層の経年劣化が進んでいるので光に反射させると、いわゆる「コーティングムラ」のように見える部分があります。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:11点、目立つ点キズ:8点
後群内:19点、目立つ点キズ:13点
コーティング層の経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:あり
LED光照射時の極微細なキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。第2群の貼り合わせレンズ表面に非常に薄いクモリがありますが写真に影響を来すレベルではありません。
・光学系内の透明度は非常に高い個体です。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れ、クモリなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が大変少ないとてもキレイな状態をキープした個体です。当方による「磨き」をいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。絞り環やマウント部など梨地仕上げ部分も「光沢研磨」を施してあるので艶めかしい輝きが戻っています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜重め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「ほぼ均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・レンズ銘板はプラスティック製ですが1箇所割れがあり接着しています。将来に渡って支障になることはありません (もちろんご自分で回したりすれば再び割れる可能性はあります)。
ゼブラ柄のプリセット絞り環がアクセントになった珍しい「前期型」モデルです。プリセット絞り環の操作はクリック式のダイレクト操作なので、そのまま希望する絞り値に回せばOKです。設定した絞り値と開放絞り値「f3.5」の間で梨地仕上げのシルバーな絞り環を回すことで絞り羽根が開閉します。ヘリコイド (オスメス) の距離が長いので距離環を回すトルクはちょっと重いかな・・という印象ですが、ピント合わせ時には違和感なく操作できました。
当レンズによる最短撮影距離1.8m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトに合わせています。
最小絞り値「f22」に設定しての撮影です。回折現象で画の劣化が見られます。