◎ CARL ZEISS JENA (カールツァイス・イエナ) PRAKTICAR 35mm/f2.4 MC(PB)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。
同じ旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4 (M42)」のマウント部を「プラクチカ・バヨネットマウント」にすげ替えただけと、ネット上で解説されていることが多いですが、実際には違います。結構、通な方の解説でも近い表現で解説されているので、困ったモノです・・以下、その相違点です。
【MC FLEKTOGON 35mm/f2.4 vs PRAKTICAR 35mm/f2.4 MC】
- 最短撮影距離:20cm vs 22cm
- 絞り羽根の回転方向:右回り vs 左回り
- 鏡筒サイズ:小さい vs 大きい
- 絞り羽根の形状:流線型 vs 直角的
- マウント部:一体型 vs 独立型
・・などですが、現実として内部の構造化から使用されている構成パーツに至るまで、全くの「別モノ」であり、同じ共通パーツはひとつも存在しませんでしたので、前述のような解説をされると少々違うと思います。設計思想が近似した部位は存在しましたが、それは同じ時期に生産されていたモデルだからと言う考え方もあります。
今回の個体は、オーバーホールのご依頼でしたが、当初バラす前段階の確認では以下の気になる点がありました。
- 距離環がスカスカでヘリコイド・グリースの経年劣化がだいぶ進んでいる。
- ヘリコイドのネジ山の摩耗も相応に進んでいるのか、トルクムラがある。
- だいぶオーバーインフ気味で、指標値「3m」位置で無限遠合焦している。
- 絞り環がガチャガチャしている。
・・こんな感じです。
これらの問題の原因と対処については、以下オーバーホールの工程にて解説していきます。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
その前に、同じCarl Zeiss Jena製「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4 (M42)」の絞り羽根の形状との相違を確認してみましょう。上の写真は今回の「PRAKTICAR」のほうですが、絞り羽根は写真中央左寄りに、6枚を並べて写しています。
こちらの写真は、過去にオーバーホールした「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4 (M42)」のパーツ全景写真です。やはり絞り羽根は写真中央の左寄りにまとめて6枚を並べてあります。絞り羽根の形状は「弧を描いた」カタチになっていますが「PRAKTICAR」のほうはコブのあるカタチで直角的な形状をしており「同一ではない」ことになりますし、そもそも絞り羽根の長さ自体も異なっています。
工程を進めます・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており、別に存在しています。
絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させました。前回オーバーホールした「PRAKTICAR 50mm/f1.4」では、絞りユニットのメクラ蓋が樹脂製 (プラスティック製) でしたが、今回のモデルではちゃんとした金属板が使われていました。しかもネジ止めされているので、下手な調整も必要なく楽です。
鏡筒に完成した絞りユニットをセットした状態の写真です。すべてがシッカリとネジ止め固定されるので、調整箇所が少なく助かります。
さて、絞り羽根の「回転方向」は「左回り」です。次の写真をご覧下さいませ。
こちらの写真も過去にオーバーホールした「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4 (M42)」の同じ部位の写真を掲載しています。絞り羽根自体の長さが短く、さらに回転方向は「右回り」であることが分かります。さらに鏡筒自体の大きさもこちらのほうがだいぶコンパクトです。ちなみに、パーツに施されている「メッキ加工塗色」が同じパープル色なので、生産工場自体は同一で、このメッキ加工塗色は「Carl Zeiss Jena 本体工場」であることを意味しています。
工程を進めます・・。
鏡筒にヘリコイド (オス側) をセットします。ヘリコイド (オス側) を固定している「固定環」が将来的に緩んだりすると、距離環を回してもピント合わせできなくなりますので、ここではキッチリと「固着剤」を塗布しておきます。
距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が備わっていないので、ここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) に、再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で15箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスるとどうにもなりません。
ここでひっくり返して、先に光学系後群を組み付けてしまいます。理由は、マウント部をセットしてからでは光学系後群を組み付けるのが厄介だからです。
ここからはマウント部の組み上げに移ります。上の写真はマウント部のベースです。
まずは鋼球ボール+マイクロ・スプリングを入れ込んでから絞り環をセットします。
こちらはマウント部内部の写真です。「絞り羽根開閉幅制御カム」は、絞り羽根の開いたり閉じたりする「角度」を決めているカムです。絞り環を回すことで、このカムの方向が変わって、絞りユニット内の絞り羽根の角度が変わっていく仕組みです。
今回も、絞り連動ピンの環自体は砂ジャリなどによる違和感がなかったので、バラさずにこのまま組み上げていきます。88個の鋼球ボールと戯れる気持ちはありません。
このモデルには露出値をフィルムカメラに伝えるための「電気接点端子」が装備されているので、その基板をここで組み付けてマウント部内部を完成させます。
完成した絞り環を基台にセットして、絞り羽根の開閉を確認します。
マウント部をネジ止めして、この後は光学系前群を組み付けてから無限遠位置・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成間近です。
・・そのハズでしたが、問題が発生しました。
まずは、当初気になっていた「距離環のトルクムラ」です。使用したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を最初は使いましたが、それで組み上げると距離環を回した際につっかかる感じがありました。こう言う場合に影響してくる内部の構成パーツは「ヘリコイドのオスメス」はもちろん、その他に「直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ)」そして、その直進キーを固定している「固定ネジ (4本)」になります。
これらの構成パーツの調整次第 (直進キーを固定するネジ止めの位置の調整) で、ヘリコイドのトルク感がガラッと変わったりします・・それを試みました (バラし1回目)。しかし、それでもトルクムラが解消しませんでした。
次は、塗布しているヘリコイド・グリースを変更してみます。再びバラして塗布していた「粘性:中程度」のグリースをキレイに落としてからヘリコイドを清掃し、再び「粘性:重め」を塗布して組み立ててみます (バラし2回目)。結果、つっかかる感じはだいぶ改善されましたが、今度は距離環を回すトルクが重すぎて、これでは撮影時のピント合わせが「非現実的なトルク」です。さらに、距離環を回していると、つっかかりは解消されましたが、今度は「異常に重くなる箇所」が生じてしまいました。
これは・・おかしいです。ヘリコイド・グリースを「粘性:重め」にしましたから、距離環の駆動域全体で重くなるなら納得できますが、極一部の領域だけが極端に重くなるのは「異常」です。
そこで、確認してみることにしました。距離環を手の平でぐるっと掴んだ状態で、ゆっくりと回していきます・・ありました、ありました! 「ゴリゴリ」と感触を感じる部分が・・その領域が異常に重くなっている箇所と一致していました。
これで判明しました。ご依頼者様に質問ですが・・過去にこのレンズを「落下させてしまった、或いはぶつけてしまった」ことは御座いませんか? つまり、距離環が本当に極僅かなのですが「変形」しているのです・・真円になっていないのです。
残念ながら、この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズの場合、距離環の裏側がそのまま「ヘリコイド:メス側」になっており、距離環の変形はイコールそのままトルクムラとして致命的な不具合の原因になっていきます。
これで原因のひとつが判明したので、次はこの「距離環の変形」に拠って「起こったであろう不具合」を調べます。それは、距離環を回すのが重くなったためにムリに回していたことが想定されます。
確認したのは「直進キーの形状」です。距離環の裏側に切削されている「ネジ山」を厳密に真円かどうか調べる設備が当方にはありませんし、同時に変形した距離環を真円に戻す設備も当然ながらありません。当方でできる対処は「直進キーの変形を戻す」ことくらいです・・誠に申し訳御座いません。
実際に直進キーを調べてみると、こちらも本当に極僅かですが「捻り」が入っていました。この極僅かな捻りのせいで距離環の回転に負荷が掛かっていたと推測できます。捻りのある「当たっていたであろう箇所」をほんの少しだけ削りました (0.2mm程度)。
そして、使用するヘリコイド・グリースは、最終的に「粘性:重め」と「粘性:中程度」とを部位を分けて塗布するコトにしました。
これで結果的に、ほぼトルクムラは解消し、なめらかな駆動が実現できました (バラし3回〜5回)。結局、この問題の解消のために組み直しを5回実施したワケで、相応な時間が過ぎていきました・・。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
素晴らしい描写性を持つ「PRAKTICAR 35mm/f2.4 MC」で「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4」同様の銘玉です。光学系は同じ6群6枚のレトロフォーカス型ですが、最短撮影距離が違うので当然ながら光学系の設計仕様も僅かですが異なっています。特に第3群と第4群 (中玉) の曲率が違うように感じました。
今回の個体も光学系内部の透明度は非常に高い状態を維持しています。前群には極微細な点キズがあり、後群には極微細な薄いヘアラインキズや点キズも見受けられますが、すべて写真に影響する類のモノではありません。
過去に一度メンテナンスされた痕跡があるので、その際にカビ除去も行ったようです。
光学系後群もキレイになりました。「Made in German Democratic Republic」の刻印があるので、この個体が「欧米諸国向け輸出品」だったことが判ります。
このマウント部が複数の部位によって構成されているので、一体型で作られている「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4」とは異なりますね。
なお、当初気になっていた絞り環のガタつきは解消しましたが (ちゃんと固定されていなかった)、逆に少々絞り環を回すのが硬くなりました。クリック感自体は軽快なのですが、絞り環を回すのに少々チカラがいります (絞り環全体がキッチリ填っているため)。
さらに、当初の確認時点で「開放」位置でもほんの僅かに絞り羽根が顔を出していました (0.8mmほど)。つまりは絞り羽根の開閉幅が適正ではありませんでしたので、これも適正値に戻しています (結果、最小絞り値の絞り羽根の閉じ/開口部の大きさが僅かに広がっています)。つまり、当初の絞り羽根が「閉じすぎ」だったことになります。絞り羽根の開閉幅の確認で確認して調整しています。
ここからは鏡胴の写真になります。
今回の個体も鏡胴外装面は、その表層面に「磨き」をいれているので、とてもシッカリした落ち着いたキレイさになっています。また同様に距離環のラバー製ローレットも業務用中性洗剤で清掃していますので、経年の手垢などもすべて除去できてキレイになっています。
無事にオーバーホールが完了し、すべての調整作業が滞りなく終了しました。距離環のトルクムラは、ほぼ解消できていますがトルク感はほぼ均一の状態です。
今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。