〓 KMZ (クラスノゴルスク機械工廠) ЮПИТЕР−9 (JUPITER−9) 8.5cm/f2 Π (silver)《前期型》(L39)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧ソビエト連邦時代
KMZで製産された中望遠レンズ・・・・、
ЮПИТЕР-9 (JUPITER-9) 8.5cm/f2 Π silver《前期型》(L39)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品する個体は当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で、当時のロシアンレンズ「JUPITER-9 8.5cm/f2」の括りで捉えると46本目の扱いですが、その中でモデルバリエーション上のKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) 製だけでカウントすると21本目にあたり、さらに1955年までにKMZからの出荷個体だけに限定してカウントすると少なくなり・・僅か7本目と言う状況です。

つい先日、このモデルのプロトタイプたる「まんまコピーモデル」のすぐ直後に量産型モデルへと変遷する中で製産された「初期型」を扱い当ブログにアップしました (こちらのページ)。今回扱った個体の外見上は、比較しても極僅かな相違しかないのでパッと見で同一品に見えますが、実は内部構造は全く別モノです。

その際たる部位が鏡胴「後部」側の設計の相違になり「完全なダブルヘリコイド方式」に設計変更しています (初期型の設計はダブルヘリコイドに近いものの厳密にはダブルヘリコイド方式になっていない)。今回扱った個体はその製造番号から「1953年製」になり、希少な敗戦時のドイツはCarl Zeiss Jena工場から接収した、光学硝子資料 (ここで言う資料とは光学硝子材の原料を指します) を使い精製した光学系が実装されているモデルでもあります (光学硝子材に微かな薄いグリーン色を帯びる点と共に、完全解体後に光学系各群を実際に計測した時の実測値からの判定)。

その意味では前回の「初期型」も同じでしたが、撮影した写真の画にはCarl Zeiss Jena製Sonnarに相通ずるような「繊細感」を感じ取れるので、後の時代に登場する同じ「JUPITER-9シリーズ」の描写性たる「太目のエッジで誇張的に写る画造り」との、まさにロシアンレンズの描写性とは対極的な印象を受けます (当方の個人的な主観/感想です)。

その一方で今回もう1本後の時代「1973年製」の個体を合わせて出品しますが、1958年にKMZからLZOS (リトカリノ光学硝子工場) に製産移管された後に製産された個体の写り具合と比較すると、それがよく分かるのではないでしょうか。

モデルバリエーション上ではその後に「中期型モデル」へと変遷し、さらに「後期型」でマルチコーティング化がようやく適いますが、同じモノコーティング時代の写り具合としても、このように僅かながら相違が表れるのがまた何とも楽しい限りです(笑)

・・オールドレンズの画と捉えるなら残ったままの収差はむしろ大きな魅力でもあります(笑)

ちなみに別にもう1本出品する個体 (1973年製) との写り具合を比較すると「敢えて指摘するなら収差の改善度合いがまだ低く光源に対する耐性も弱いほう」との印象を抱くので、たかがオークションながらもこちらの1953年製をチョイスするか、後の時代1973年製を選択するのか、またそれはそれで悩ましく楽しめると思います(笑)・・どちらの個体も当方が仕上げる他の一般的なオールドレンズと比較すると「重めのトルク感」ですが、逆にこのモデル「JUPITER-9シリーズ」だけで捉えるなら全てのモデルバリエーション (初期型後期型まで) 通しても「むしろ軽いトルク感と操作性を実現している」と納得できています(笑)

正直な話「JUPITER-9シリーズ」だけに限りませんが、ロシアンレンズのトルク調整はそれはそれは相当神経質なので、滅多に扱いたいとは先ず思いませんね(笑) 何しろ設計が設計なので仮に2000年前後に製産された最後期のロシアンレンズとしても「まるで1950年代の設計のまま」と言う、年代を超えて少しでも改善し優れた製品に仕上げたいと言うニッポン人的な感覚でみてしまうと、まるで信じられないような話ですが、それはそれ、相手がロシア人ですから別に不思議な話でもありません(笑)

・・その意味で先日の「初期型」に続き集中的に扱ったものの、そろそろお腹一杯です(笑

↑今回出品の個体を完全解体した時のパーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はЮПИТЕР-9 (JUPITER-9) 8.5cm/f2 Π《前期型》(L39)』のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。冒頭解説の通り、マジッで神経質な設計で本当にイヤになりますね(涙)・・どんだけ追求して納得できるまで微調整してバッチシ仕上げるのかとの想いは、もう勘弁してほしい、マジッでもぉ〜イヤ!・・と言う気持ちとの狭間で、まさにその葛藤しか在りません(泣)

・・正直、その葛藤に打ち勝って仕上げても、もぉ〜当分このモデル観たくありません!(涙)

当方にとり、それがロシアンレンズそのモノです(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。「気泡」もこのモデルにしては少なめの印象でしょうか。

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側もスカッとクリアです。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:17点、目立つ点キズ:11点
後群内:19点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い最大18mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
(前後玉に極微細な経年の拭きキズ数箇所あり)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射で確認しても極薄いクモリが皆無)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり、一部は一見すると極微細な塵/埃に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷されていた為クレーム対象としません)。「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは僅かしかありません
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑15枚の絞り刃もキレイになり絞り環共々確実に動作しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持したまま」閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感で距離環を回す時のトルクの印象は「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離計連動ヘリコイドは当初位置のまま設定しています(当方には確認ができる環境ありません)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
narumi製MC-Nフィルター (新品)
本体『ЮПИТЕР-9 (JUPITER-9) 8.5cm/f2 Π《前期型》(L39)』
汎用樹脂製ネジ込み式M39後キャップ (新品)
汎用樹脂製スナップ式前キャップ (新品)

当初バラす前のチェック時点では絞り環がアッチの方向を向いており、上の写真のように鏡胴側基準「」マーカーと一直線上に並んでいませんでした。その関係で当然ながらピント面も僅かに甘い印象だったので簡易検査具を使いつつキッチリ鋭いピント面に仕上げてあります。

もちろん距離環や絞り環などジャギーなローレット (滑り止め) 部分も経年の手垢を全て除去したのでとてもキレイです(笑) 距離環を回すトルク感はピントの山のピークで指の腹に僅かなチカラを伝える事で合焦の前後動が適う操作性に仕上がっています。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1.15m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」にセットして撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」での撮影です。

↑f値「f16」です。もう既にほとんど絞り羽根が閉じきっている状態なので「回折現象」の影響が現れ、ピント面の解像度低下と共にコントラスト低下が起きています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。