◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASHINON 5.5cm/f1.8《富岡光学製:後期型》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、国産ヤシカ製
標準レンズ・・・・、
AUTO YASHINON 5.5cm/f1.8《富岡光学製:後期型》(M42)』です。


このモデルの累計扱い本数は11本目にあたりますが、最後に扱ったのが2015年なので何と 6年ぶりです。その中で今回扱う個体が最も光学系の透明度が高いレベルであり、残念ながら光学系の状態が良い個体になかなか出会えません。おそらく蒸着されているコーティング層も含めそろそろ限界値に到達しているのではないかとみています。

特に希少価値が高いモデルではなく(笑)、実際ネット上でもたいして扱われておらず、もちろん銘玉と褒め称えられることがないモデルですが、少なくとも『富岡光学製』である事は間違いないので (当方の判定/構造上の根拠)、その特徴も描写性に現れているものの開放f値「f1.8」と並なので、何か魅力があるのかと問われれば少々答えに窮するところがあったりします(笑)

するとその描写性について言えば、前身の半自動絞り方式を採っていたAUTO YASHINON 5cm/f2 (M42)からの系譜として捉えると分かり易いかも知れません。実はこのチャージ レバー方式を構造として持つ半自動絞り方式のモデルは、当時の旭光学工業製標準レンズAuto-Takumar 55mm/f1.8 (zebra) (M42)とも内部構造/設計に共通項が顕在するワケで、このブログでも以前検証しています (前述のモデル銘をクリック/タップするとそのページが別ページで現れます)。

まさにその描写性について言うなら、周辺部の収差まで含めちゃんと半自動絞り方式のモデルから受け継いでいるように、或いは悪く言うなら受け継いでしまったとも言い替えられる印象を持つと考えています(もちろん描写性の味付けは指向先の光学メーカー別に違うハズ)。その意味で半自動絞り方式から完全な自動絞り方式へと変遷した一つの通過点としてこのモデルを捉えられるのではないかと言う考えです。

なお、当方が「富岡光学製」と判定している基準の内部構造と構成パーツの要素が3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に判定しています。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。

今回扱うAUTO YASHINON 5.5cm/f1.8《富岡光学製:後期型》(M42)』は、これら判定基準全てが当てはまります。

また、それら判定の基準として充てたモデルが顕在し、レンズ銘板に「TOMIOKA」銘を刻んでいるいわゆるダブルネームのモデルであり幾つかの当時の光学メーカー向けOEM供給されていたとみており、その内部構造と使われている構成パーツ、さらにその仕組みの設計概念を『富岡光学製』の根拠としています。

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1949年に長野県諏訪市で創業した「八洲 (やしま) 精機株式会社」がスタート地点になり、1958年にヤシカに社名を変更しています。その後経営難だった富岡光学を1968年に併合して子会社化するものの、1975年には自らも経営破綻し京セラからの支援がスタートします。後に1983年にはついに京セラに吸収合併し消滅しますが、富岡光学だけは京セラオプテックとしてグループ化し生き残りました。しかしそれも残念ながら2018年にとうとう事業部別に切り売り状態で統合され消滅しています。

今回扱うモデルの前身が存在し1960年に自社初の一眼レフ (フィルム) カメラ「YASHICA PENTAMATIC」を発売した際、その標準レンズとして登場しています。

この一眼レフ (フィルム) カメラは独自マウント規格を採用していた バヨネットマウントでしたが、その僅か1年後にマウント規格を仕様変更してしまい「M42マウント化」と大きく舵を切り替えます。

そこで登場したのが従前の一眼レフ (フィルム) カメラの仕様をそのまま受け継いだ「YASHICA PENTA J」であり、1961年にセットレンズの「AUTO YASHINON 5cm/f2 (M42)」を携えて登場します。

この標準レンズは前述のとおり半自動絞り方式を採用したタイプで、チャージレバーとその機構部を備えていました。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型1960年発売
マウント規格:独自バヨネットマウント
焦点距離:5.5cm表記
最短撮影距離:50cm
絞り羽根枚数:6枚
筐体色:ブラツクのみ

後期型1961年発売
マウント規格:M42ネジ込み式マウント
焦点距離:5.5cm表記
最短撮影距離:50cm
絞り羽根枚数:6枚
筐体色:シルバーのみ





上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
左端から円形ボケのエッジが破綻して滲んで溶けていく様をピックアップしていますが、実は光学系が典型的な4群6枚のダブルガウス型構成なのでモロにその収差の影響や口径食が現れ真円の円形ボケを維持できていません。また円形ボケのエッジ部分は意外にもアッと言う間に破綻していくようでどうも円形ボケ表出は苦手な部類のようです。また外周部の乱れは収差の影響も相当に残っているので半自動絞り方式のモデルに近い印象です。

二段目
今度はピント面とその背景とのバランスをピックアップしましたが、相変わらず背景の特に外周部にいくにしたがい収差の影響や流れ具合が酷くなっていく傾向が見えますが、ピント面はとても鋭いながらもカリッカリと言うほどのレベルでもありません。おそらくアウトフォーカス部の滲み方が影響してしまい却って鋭さ感を損なっているようにも感じます。

三段目
まさにこの段がこのモデルの富岡光学製たる由縁をピックアップしましたが、コントラストが相応に高いレベルをキープしているのでピント面の鋭さを強調しても違和感に繋がらず、むしろ立体的な印象さえ感じます。そして何と言っても2枚目の写真で「赤色のれん」の色飽和寸前状態がまさに「富岡光学の紅色」を表しているように見えます。やはりコントラストが高く出るので下手すれば色飽和してしまい実体感が失せてしまいます。

そしてネット上ではたいしてピント面は鋭く写らないと酷評の嵐ですが(笑)、それでも実写をみるとこのようにちゃんとピント面の鋭さをキープできている写真があります。被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さが富岡光学製オールドレンズの得意とする要素の一つですが、それをちゃんと持っていると考えます。そしてアバウトな背景の滲み方が功を奏して意外にも空気感や距離感を見出す立体的な表現性も合わせて保つので、そんなに酷評するべきモデルではないようにも考えます(泣)

四段目
さらにこの段でこのモデルの真髄をピックアップしていきたいと思います。左側2枚の写真を見ると明らかですが、相当ダイナミックレンジが広く且つなだらかなグラデーション性もあるのでご覧のように淡泊な発色性のシ〜ンでもキッチリとグラデーションを表して写しているところが、むしろ酷評には価しないように感じます。

但し、ダイナミックレンジが広いと言ってもそれは「明部方向に極端に広がる」話であって、残念ながら暗部の耐性は非常にヨロシクありません(笑) ハッキリ言って粘っている感じにも見えないのでまるっきり暗部は苦手なのだと受け取れます。ところがそれが白黒写真になるとガラッと変わり暗部にも粘りが出てきてダイナミックレンジは明暗部両方向で確保できてくるので不思議です。その意味で白黒写真で活用できるモデルなのかも知れません。特に明部でのグラデーションの素晴らしさは何一つ酷評には価しないのではないかと、却って褒めちぎっても良いくらいに感じています。

五段目
左端の写真がその暗部の耐性をよ〜く表しています。突然ストンと黒潰れで堕ちてしまうのがどうにもこうにも (どんなシ〜ンでも) ダメダメです(笑) 然し光源を含む写真になると前述の明部の耐性がしっかり現れて非常に魅力的な写真を残せるので、同じ富岡光学製オールドレンズの中でも特に光源撮影には独特な雰囲気を伴うように考えます。

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成ですが「前期型」のモデルでは右図のようなカタチで設計していたようです (brochure
からのトレース
)。

まだ扱いがないので実際にデジタルノギスで計測できていません。

そして右図が今回扱った個体をバラして光学系を清掃する際に、当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図になります。

前期型」に比べると前後玉の肉厚を削ぎ落としてきているのが分かります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このように完全 解体してしまえば一目瞭然ですが、内部の構造から使っている構成パーツに至るまで明らかに『富岡光学製』そのモノです(笑) このように掲載するとまたSNSなどで批判されるので(笑)、ここからのオーバーホール工程の中でその根拠を一つずつ解説していこうと思っています。

逆に言うなら、そのように批判される時はその根拠を示すのが礼儀なのではないかとも思いますね (例えばコシナ製と言うならその根拠となるモデルの解体写真や近似している構成パーツ、或いは設計概念などを同じように示すのが最低限の礼儀なのではありませんか?)(笑)

そう言う礼儀知らずの輩が広めている批判には特に反論しません!(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて最深部に絞りユニットをセットしました。

ご覧のように「絞り羽根は金属製のダークメタリックグレーの色合い」なので、光が当たって反射すると光り輝いたりします。よく光学系内の例えばガラスレンズのコバ端や締付環などを「真っ黒に塗って迷光を異常に気にする」人達が非常に多いワケですが(笑)、はたしてその人達は上の写真を見てどのように解説されるのでしょうか?

実際にオーバーホールの為にオールドレンズを完全解体してバラすと、ガラスレンズのコバ端や締付環を「反射防止塗料で着色している」過去メンテナンス時の整備者が非常に多いですし実際今回の個体もそこいら中で反射防止塗料が塗られまくっていました!(笑)

しかしご覧のように絞り羽根は金属製ながらもキッチリ反射しまくっているワケで、当方にはその行為「反射防止塗料で塗りまくる」との整合性が執れず、いつも疑問に思います。

もっと言うなら「完全開放していても光ってしまうメクラはどうして艶消しのマット仕上げではないのか?」点の解説をしてほしいくらいです(笑)

メクラ」と言うのは上の写真の絞り羽根の周りに被さっている円形のアルミ合金材パーツですが、光沢メッキ加工なので一部光っている箇所がちゃんと写っています。そしてこの鏡筒に入る光学系前後群は確かに格納筒はマットな梨地仕上げでメッキ加工されていますが、そこから射出してきた入射光はどうしてこのような「メクラ」や「絞り羽根」にあたるような設計なのでしょうか?

当方は、その説明をしてほしいです・・。
何故に「迷光」の一因になり得る環境を用意してしまっているのか?

それはこのモデルを設計した光学メーカーが悪いのだと言えばそれッきりですが(笑)、例えばNikonもCanonも同じように絞り羽根は「マットな漆黒のマットブラック」にメッキ加工されていません。また「メクラ」も反射防止でメッキ加工されていません。今回扱った光学メーカーだけが悪いようにも思えないのです。

そんな疑念がず〜ッとあったので、以前数年前に取材の為に訪れた工業用光学硝子レンズ精製会社でお話を聞いた時に、まさにこの「じゃ、どうして絞り羽根はマットな漆黒マットブラックでは ないのですか?」と逆質問を受けて、当方は答えることができませんでした(笑)

その担当者が説明するには、現実的に光学設計者は必ず「迷光」のシミュレーションもやっていて、どのように影響を来すのか100%把握しています・・との事。しかし例えば一般的な写真撮影で使うレンズで (もちろんオールドレンズの時代でも) それらを管理しているものの「たいして重要性の高い話ではない」範疇に留まる数値なので、そんな部分に敢えてコストを掛けないのだとお聞きしました。

そのお話である程度納得したものの、現実的に100%納得できたのはつい近年の話で、日本の塗料メーカーが「99.9%のマットな漆黒塗料を開発」と言うニュースを観て、そのニュース記事に書かれていた文章で目から鱗でした。そこには「人工衛星に搭載する光学機材の鏡筒内での迷光解消に光」とありました。

そうなのです!「迷光」を気にするレベルと言うのは一般的な写真撮影で使う光学製品のレベルではなく、全く以て次元が異なる話だったのです。確かにとんでもなく離れている星の非常に微細な光を感知して、その光成分から組成などを研究するレベルなら、確かに「迷光」は迷惑な話だけで終わらない重要な課題になってきます。先の会社の担当者の方がお話しされていらしたのは、まさにこういう事なのでしょう。

要はたかがオールドレンズで「迷光」を気にしても仕方ない・・。

とも言えますが、現実的に光の反射が影響して例えばコントラスト低下を招いていたり、解像度不足の一因だったりする場合とはまた話が違いますから、その意味で「光学系の格納筒内部の話なのか否か」が問われるべきとも考えられますね (鏡筒内部の話ではない/絞り羽根が居るから)。

↑冒頭で解説した『富岡光学製根拠の』がここの部位で、絞り羽根の開閉幅 (閉じた時の開口部の大きさ/平面積) の広い/狭いの微調整機能がこのネジです。この真鍮 (黄銅) 製の円形板が「キー」ですが (グリーンの矢印)、よ〜く観察すると締付ネジが中心から外れた位置でネジ込まれています。

するとこのネジを緩めた時、真鍮 (黄銅) 製の円形板は楕円状に回転するので、この「キーが入る溝」に対して「鏡筒の位置が左方向にズレるのか右方向にズレるのか変化する」原理です。

その結果、絞り羽根を閉じていった時の閉じる量が変わるので「絞り羽根の開閉幅微調整機能」と言う話です。

↑完成した鏡筒を今度はひっくり返して裏側を撮影しました。鏡筒から飛び出るのは「開閉アーム」だけで、スプリングのチカラで常に完全開放するようチカラが及んでいます。

↑鏡筒が完成したのでここからはヘリコイド (オスメス) とマウント部の組み立て工程に入っていきます。上の写真は距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑この基台のネジ山に入るのが上の写真でヘリコイド (メス側) になり真鍮 (黄銅) 製です。するとネジ山は基台のネジ山にネジ込む為の「距離環用ネジ山」と、もう一段ヘリコイド (メス側) が切削されている二段のネジ山になります。

さらに途中には「制限壁」と言う壁部分が備わり、これがポイントになります (グリーンの矢印)。制限壁が存在するので駆動域が限定されるよう設計されているのが明白です。

↑真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

グリーンの矢印で均等配置で3箇所指し示していますが「距離環固定用ネジ穴」が用意されています。ここに梨地シルバーな微細な凹凸が施された美しい距離環ローレット (滑り止め) が固定されます。

↑今度はアルミ合金材を切削したヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

するとやはりグリーンの矢印で指し示して解説していますが「直進キー用のガイド (溝)」がヘリコイド (オス側) の内側両サイドに切削されています。

左写真のようなカタチのパーツが「直進キー」で、これを基台側に締め付け固定する事で、距離環を回す回転するチカラが変換されて鏡筒の繰り出し/収納が行われる原理です。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑実際に「直進キー」を基台側に固定した状態をひっくり返して撮影しました。すると真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (メス側) に距離環が固定されるので、距離環を回すとヘリコイド (メス側) が回転し、その回転するチカラが「直進キー」で直進動に変換されてヘリコイド (オス側) が繰り出されたり収納したりする動き方です。

↑さて、ここからこのモデル特有の特異な問題点を解説していきますが、今回の個体は当初バラした際に過去メンテナンスが数年内で実施されており「白色系グリース」が塗られていました。

しかし「白色系グリース」はすぐに揮発油成分が滲み出てくるので既に液化した揮発油成分が鏡筒内部やマウント部内部などにヒタヒタと廻っており、且つ一部の真鍮 (黄銅) 材は腐食が出てしまい「緑青」なども出ていました。距離環を回した時のトルク感は「ツルツルした感触」のトルク感であり、これを好む方がどれだけ居るのかという印象です (動画撮影には向いているかも)(笑)

ところが無限遠位置が全く合っておらず、且つ光学系の締め付けも「締付環に反射防止塗装」にこだわっていた為に光路長が適正ではなくなり「多少甘い印象のピント面」に堕ちていました。

よくネット上で酷評されている甘いピント面がまさにそれに当てはまるのでしょうか(笑)

そのように何でもかんでも「反射防止塗料」にこだわるのは、あくまでも「整備者の自己満足大会」なので(笑)、全く以て意味がありません (下手すれば光学性能を堕としている一因)。

そして今回の個体が数年内の過去メンテナンス時に間違った微調整を施されたが為に無限遠位置も狂っていました。このモデルは距離環の距離指標値が「印刷アルミ板シート」であり、ご覧のようにグリーンの矢印の位置でネジ止めします。

そしてそのネジ止め箇所をよ〜く観察すると印刷アルミ板シートの「締め付け固定する穴が楕円」なのに気が付きますが、過去メンテナンス時の整備者は全く気がついていませんでした(笑)

要は単にバラして清掃して再び組み上げただけのいわゆる「グリースに頼った整備」です。

↑一方こちらは距離環ですがローレット (滑り止め) 部分になります。するとここが最大のポイントになりますが「固定用のネジ穴は真円になっている」点です (赤色矢印)。もちろんこの距離環はローレット (滑り止め) なので、固定用の穴が楕円状になっていて固定位置を微調整できるようマチがある必要性がありません。逆に言えば前述のとおり指標値を印刷したアルミ板シートにその固定の際位置を微調整できる楕円状に穴が空いていて配慮されています。

何を言いたいのか???

過去メンテナンス時の整備者が全く気づかなかったのは「このモデルには無限遠位置の微調整機能が備わっていない」事を一切把握していなかったのです。

従ってヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置だけで制御するしか方法がありませんが、それが適正な時の合わせ方を全く考えていなかったのです。

要は過去メンテナンス時の整備者のスキルが低すぎると言う話です(笑)

このモデルはヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置だけで無限遠位置を合わせて、その後に無限遠位置の表示「∞」を単純にズラして合わせるだけなのに気が付かなかったのです。

要は「印刷アルミ板シートの位置合わせをしていない」ワケで、当然ながらヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置も1つズレていました。

↑マウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方の手で「磨き研磨」が終わっています。やはり過去メンテナンス時にこの内部にまで「白色系グリース」が塗られてしまったので、特に真鍮 (黄銅) 製パーツの腐食が酷くなっています。

↑取り外していた各構成ハーツも個別に「磨き研磨」して、特に真鍮 (黄銅) 製パーツの腐食などを除去してグリースなど塗らないままセットしたところです。

マウント面から飛び出る「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) そのチカラが伝達されて「カムを押し上げ (ブルーの矢印②)」て、最終的に「操作爪」が移動します (ブルーの矢印③)。

この「操作爪」がガシッと掴んでいるのが冒頭のほうの工程で出てきた「鏡筒裏側から飛び出ている開閉アーム」なので、スプリングのチカラで「常時完全開放」なのが「絞り連動ピンの押し込みで勢い良く設定絞り値まで絞り羽根が閉じる」ワケです。従ってマウント面から飛び出ている「絞り連動ピンの押し込みが解除されると完全開放に戻る」原理が納得です(笑)

すると例えば絞り羽根の開閉異常が起きていた時に、いったいどの辺りが問題なのか何となく分かるような気がすると思います(笑)

↑基準「」マーカーが刻印されている指標値環をセットします。

↑絞り環をセットしました。

↑この状態でひっくり返して絞り環の裏側を撮影しました。絞り環には「絞り値キー」と言う溝が切削されていて (グリーンの矢印) そこにマウント部の飾り環に備わる鋼球ボールがカチカチとハマるのでクリック感を実現する仕組みです。

このように別の部位に鋼球ボールを用意してワザワザ絞り環との関係性でクリック感を実現させている方式の設計を好んで採っていたのが富岡光学であり、まさに冒頭の「富岡光学製の根拠」に当てはまります。

この当時のオールドレンズで一番多い設計は鋼球ボールをマウント部側に円形の穴を用意してセットしてしまい絞り環でクリック感を実現する方式なので、富岡光学ではどうしてこんな面倒な方式を好んでいたのか「???」です(笑)

↑実際にマウント部の飾り環をセットしてイモネジで3箇所締め付け固定したところです (グリーンの矢印)。冒頭解説の「富岡光学製の根拠」がここで言うところの「イモネジによる締め付け固定」を指しますが、この飾り環の固定位置をミスると「クリックしている絞り値と実際の絞り羽根の閉じ具合が一致しない」と言う不具合が発生します。

例えば最小絞り値になっても絞り羽根がさらに閉じないなど、絞り羽根の実際の閉じ具合とクリック感を感じている絞り値との整合性が執れていない場合などですね(笑)

要は「イモネジを使っているので微調整箇所」だと言えるワケで、ワザワザそんな面倒な設計にしているのが「富岡光学の意味不明の設計」と当方では捉えています(笑)

従って他社光学メーカーではこんな面倒な (しかも必ずここで一工程を必要とする) ムダなコスト/人件費/時間をかけずにもっと合理的に設計している場合が多いですね(笑)

こういう部分がそもそも当時の富岡光学が経営難に喘いでいた理由の一つなのではないかと考えています。つまり各部位別に連係性が薄いのでムダな設計を幾つか指摘できるワケで、そういう部分のコスト管理が全くできていなかったとみています (おそらくは部位別に設計チームがバラバラだった)。

↑距離環用ローレット (滑り止め) を組み込みました。するとご覧のように「∞」位置がほんの僅かにズレていますが、これ以上適合できません (無限遠位置微調整機能を装備していないから)。

↑前述した鏡筒の固定位置で絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を微調整する「キーが入る場所がヘリオス側に溝として用意されている」ワケで、ストンと鏡筒を落とし込んで (グリーンの矢印) から最後に「締付環」で締め付け固定する方式です。

他社光学メーカーのように鏡筒をネジ止めしないので、もしも絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) の整合性が執れなかったら、その都度また鏡筒を取り出してキーの微調整を行う「非効率的な方式」を執っていたのがよ〜く分かります(笑)

この後は光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑6年ぶりに扱いましたが、やはり初期の頃の富岡光学製オールドレンズはどのモデルでも微調整が相当神経質で厄介です。それでもまだ「AUTO YASHINON-DX」などのシリーズに比べればまだマシなレベルです。

↑ハッキリ言って今まで扱った個体の中で一番透明度が高い状態を維持した個体です。もちろんLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も透明度が高くLED光照射で極薄いクモリが皆無です。多少点キズや「気泡」も残っているので、さすがにレンズ銘板の焦点距離がセンチメートル表記なのも納得です(笑)

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:9点
後群内:18点、目立つ点キズ:14点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い4mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
(但しバルサムの経年劣化は相応に進行中)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり、一部は一見すると極微細な塵/埃に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷されていた為クレーム対象としません)。「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは僅かしかありません
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「僅かに歪なカタチ」で閉じていきます。またA/M切替スイッチとの連係動作も確実です。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります
・距離環を回した時、最初のうちは極僅かに抵抗感を感じる場合がありますが(必ず決まった場所で感じる再現性が乏しい)、ヘリコイドグリースが馴染んでくると消失してしまいます。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
marumi製MC-Nレンズガード (新品)
本体『AUTO YASHINON 5.5cm/f1.8《富岡光学製:後期型》(M42)』
汎用樹脂製ネジ込み式M42後キャップ (新品)
汎用樹脂製スナップ式前キャップ (新品)

↑A/Mスイッチの刻印と実際のスイッチのツマミの位置が多少ズレているのですが、実はこれは仕様で位置合わせすることができません。

↑また距離環のローレット (滑り止め) と指標値環との間には「隙間」があってご覧のように印刷アルミ板シートが見えます。これも仕様なので隙間が空かないように調整することがそもそもできません。多少キズも残っています。

↑当方所有のK&F CONCEPT製マウントアダプタニ装着した時の状態を撮りました。マウントアダプタのオールドレンズ側マウント面に1㍉弱の突出があるのでご覧のように隙間が空きます。またグリーンの矢印で指し示したように指標値環の基準「」マーカー位置が真ん中に来ません。

この時の絞り環操作で最小絞り値まで閉じていくとちゃんと正しく「f16」まで閉じていきます。

ちなみにK&F CONCEPT製マウントアダプタはピン押し底面の「底面の深さを変更可能」ですが凹み面を上に向けて今回のモデルではセットする必要がありますからご留意下さいませ。

↑今度は日本製のRayqual製マウントアダプタに装着した時の状態です。やはりオールドレンズ側マウント面に1㍉強の突出があるのでオールドレンズを装着すると隙間が空きます。また同様に基準「」マーカーが真上の位置に来ません。

この時の絞り環操作で最小絞り値まで閉じていくとちゃんと正しく「f16」まで閉じていきます。

Rayqualなどいつパンケーキレンズ的なマウントアダプタはピン押し底面だとしてもその深さを微調整する昨日が附加されていないので要注意です。Rayqualはピン押し底面の深さが6㍉なので目安にして下さいませ。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」に設定して撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に上がっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」に変わっています。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。