◎ LEITZ WETZLAR (ライツ・ヴェツラー) SUMMICRON 35mm/f2 (silver)《1st : 8枚玉》 (LM)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、旧西ドイツは、
LEITZ WETZLAR製広角レンズ・・・・、
『SUMMICRON 35mm/f2 (silver)《1st:8枚玉》(LM)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で、当時のLEITZ WETZLAR製広角レンズ「35mm/f2」の括りで
捉えても当然ながら「初めての扱い」です。
先ず一番最初に、このような大変希少なオールドレンズを、当方のような者にオーバーホール/修理ご依頼頂いたことに、素直に心から感謝を申し上げたいです・・ありがとう御座います!
毎月必ずお手持ちのオールドレンズを片っ端にオーバーホール/修理をご依頼頂く方が数人いらっしゃいますが、この方からご依頼頂くオールドレンズはなかなかダイナミックで(笑)、このような希少性の高いモデルが届くと思いきや、どっち方向に触手が向いているのかと思ってしまうような大衆モデルもあり、とても楽しみだったりします(笑)
・・ありがとう御座います!(涙)
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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。
◉ 一段目
このモデルの写りについて当方のような者があ~だこ~だ述べるのは、さすがに憚られるため(汗)、ご専門のマニアの方々やプロの写真家の皆様にお任せして、ネット上で気になった写真だけサラッとピックアップしました(笑)
そもそも実写自体が少なめですが、左端の円形ボケを見る限りは何か特徴を感じられるのかと問われても「???」だったりします (基本的にライカレンズの事を知らなさすぎるので)(笑) 2枚目はディストーションも然る事乍ら、実は外壁や石壁の質感表現能力の高さに見入ってピックアップしています。
3枚目は被写界深度よりも木質感の表現性に感心してチョイスしました。そして最後の4枚目が全く以て唸ってしまう1枚です(涙)・・この空気感と言うか、空間表現と言うべきか、右から差し込む日差しを通した部屋の匂いまで嗅ぎ取ってしまうほどに生々しい写真です!(驚)
・・これがライカレンズの実力なのですねぇ~(涙)
◉ 二段目
左端は単なる被写界深度の確認でテスが、思ったほど狭くないように見えます。2枚目は記載を読むとブラックフィルター装着とのことですが、このグラデーションをフィルムで残せてしまうところにオドロキです。3枚目はレンズ光学系の個体の問題なのかも知れませんが、光源の滲み方に惹かれてピックアップしています。最後の4枚目は8枚玉を使って撮影したシ~ンに「ハッチからの一言!」みたいな写真で、単に気に入っただけです(笑)
ネット上で数多く語られ尽くしているのて今更何を言うかと、きっと誹謗中傷メールがまた届いてしまうのでしょうが(怖)、ネットに掲載されている光学系構成図を単にトレースした図が右図です。
あまりにも有名な構成図なので、これについて何かを語るべきでは
ないとの思いから何も申し上げません(怖)
とにかくライカ関係の嗜好をお持ちの方々から届くメールの内容は、真に心にグサグサと刺さる話ばかりで本当に怖い思いしか残りません。
ところが右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての光学硝子レンズを計測したトレース図です。
やめておけは良いのに(笑)、またシレッとこう言う光学系構成図を平気で載せてしまうから、誹謗中傷メールの着信が後を絶ちません(怖)
↑毎回同じですが(笑)、当方が一般的にネット上で数多く掲載されている光学系構成図と異なる内容を載せると「嘘を公然と平気で拡散し続けている」と某有名処サイトでコメントされるようなので、面倒くさいですがいちいち「証拠写真」を撮らないとイケナイみたいです(笑)
上の写真は今回のオーバーホールで完全解体した際に取り出した光学系各群を並べています。左端から前玉になり第1群~第2群までがモールド一体成型になっています。2つ目が第3群で光学系前群側はその2つで終わります。次に光学系後群側に移って第4群に第5群と第6群の後玉です。
これらの中で、実際は一番左端に並んでいる第2群が貼り合わせレンズなので、光学系構成で言う処の「2枚目と3枚目」がこの中に入っています。また後群側も第5群が同様貼り合わせレンズなので、構成で言う処の6枚目と7枚目が接着されているので、全部足すと「8枚玉」と言う計算に至ります。
そして上の写真で解説したかったのは、第1群前玉の締付環を既に取り外してあるので「前玉のコバ端までが露わになっている状態」なのが分かると思います。また一方後群側に含まれる光学系構成の8枚目たる「後玉も取り出せるので光学硝子レンズそのモノが手にできる」次第です。
・・何を言いたいのか???
つまり前玉と後玉の「外形サイズをデジタルノギスを使ってきっちり計測できる」ことを話しています。実際に計測してみると「前玉:21.24㎜」に対し「後玉:22.58㎜」と極僅かですが外径サイズが前玉より大きい事が判明します。
さらに確かに光学系第1群~第2群までは格納筒に一体モールド成形としても、実は前玉を覗き込むと「前玉コバ端のヘリが何処までなのかが一目瞭然」なのです(驚)・・つまり前玉の
厚みが計測できるのです。
すると構造上どう考えてもネジ山が外側に備わる位置までしか入っていないのが間違いありません (格納筒に一体モールド成形の為この前玉を取り出せないから推測の域を出ない)・・何故なら、内部はその外壁に備わるネジ切り直下からすぼまっていて光学系第2群の貼り合わせ
レンズのモールド成形へと連続して連なっているからです。
従って前玉の厚みすらちゃんと計測できたので、一つ前に掲載した光学系構成図のトレースに至った次第です。
一方後玉は上の写真のようにちゃんと個別に取り出せているので、外形サイズも厚みも表裏面での曲り率まで全て計測が適います。
いつもは3回計測した平均値を取っていますが、今回は誹謗中傷メールの糧になってしまうのが明白なので(怖)、6回計測して、且つ後玉を前玉の直上に重ねるように保持してみました。
するとサイズ的に「明らかに前玉の格納筒の枠部分にほぼツライチ状態」だったので、デジタルノギスを使って計測するまでもなく「前玉より外径がデカイ」のが間違いありません(汗)
こう言う事実を知ってしまうと、それを黙っていれば良いのに逐一載せるから、後から酷い目を見ます(怖)・・ネット上に掲載されているこのモデル「8枚玉」の光学系構成図とは、前玉と後玉の大きさと厚みが違います(汗)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回扱ったこの「8枚玉」は、そもそも当初カナダライツで設計され生産がスタートした広角レンズで、後にドイツでも生産が始まったモデルです・・発売は1958年なので「SUMMICRON 50mm/
f2」が登場した1954年から4年も経っています。
バラしてみると内部構造は大変シンプルで、且つ要所要所に「さすがライツ」と感心せざるを得ない要素が散見しています。まず一番最初に目を引いたのは「切削レベルの高さとその面取加工技術の素晴らしさ」であり「完成の域に到達」なのは至極当然なレベルです(笑)
しかし各構成パーツをよ~く観察していくと「???」に感じてしまう要素が現れました(泣)・・例えば当時のライツ製モデルでドイツ製造の個体をバラすと「そもそも絞り羽根の厚みとキーのプレッシングレベルが別世界」との感想しか抱かないレベルなのですが、このモデルの絞り羽根は薄いです。
また表裏面にプレッシングされている「キー (金属棒の突起)」も、1950年前後に登場した個体をバラした時のプレッシングとは明らかに違います・・何と言いますか洗練されていて、或る意味普通なのです。
また黄銅材もアルミ合金材も共にその切削レベルと面取加工は、どう考えても1950年代前後に登場したモデルの個体をバラした時の「オドロキ感」がありません(泣)・・確かに1958年製造としても、カナダライツで生産スタートするとこういう設計と言うか造りに変わるのでしょうか???
↑今回の個体のオーバーホール/修理内容としては特に問題なしとのお話でしたが、バラす前の時点で当方が気になったのは「鏡胴のガタつき」です(泣)・・前玉~後玉方向の、いわゆる前後方向に極僅かなガタつきがあります。
試しにマウント部直前の指標値環 (基準▲マーカーが刻印されている環/リング/輪っか) を締め付け固定しているブライトクロームメッキが施されている化粧締付ネジをイジってみると「おぉ~緩いではないか?!」と、それがガタつきの原因と考え締め付けましたが、締め付けても変化がありません (相変わらずガタつきがある)。
それでおそらく内部の問題と推測して工程を進めました・・。
上の写真は鏡胴「後部」のヘリコイド群をバラして「距離計連動ヘリコイドと空転ヘリコイドの接触箇所付近を綿棒で拭った時」の過去メンテナンス時に塗布されていたグリースの状況を撮影しています。
赤色矢印で指し示している部分は「白色系グリース」で既に濃いグレー状に変質しているのが分かります。一方グリーン色の矢印で指し示している部分には「黄褐色系グリース」が塗られていて、色合いの変化を認められません。
つまりこのモデルの内部は「黄褐色系グリースの上から白色系グリースをさらに塗り足しているグリースの補充」とプロ業界で呼称されている処置が施されていたのが判明します(泣)
モノは言いようですが(笑)、確かに潤滑剤の分類にまとめられるものの、当方からすると「白色系グリースと黄褐色系グリースは別モノ」との気持ちがどうしても強いのですが・・どうなんでしょうか???(涙)
特に1958年~1960年代の期間に区切ったとしても「まだ白色系グリースは主流として使われていなかった時代」ではないかとの思惑も強いです(泣)な実際、以前取材した金属加工会社の社長さんのお話でも、そのくらいの年代ならまだメインで使われていたのは「黄褐色系グリース」のほうで「白色系グリース」は極限られた用途でしか用意されていなかったと聞きました。
つまり「白色系グリース」が混ぜられていたと言う事実は「近年のメンテナンス時に塗布されたのが白色系グリース」との憶測に至りますが、はたして「どうして古い黄褐色系グリースを残したままなのか???」については、当方はプロではないのでよく分かりません(汗)
・・そして、上の写真で問題だったのがブルー色の矢印で指し示している次の写真です!
↑分かりにくいので別途無色透明な真新しい溶剤の瓶に漬けて「ブルー色の矢印で指し示しているモノを明確化した」のが上の写真です・・何と「クロームメッキが剥がれた薄膜が約3㎜ほどの長さでグリースに付着していた」次第です!(怖)
もしかして・・と考え、急いでバラした各構成パーツをくまなくチェックしましたが、このようなクロームメッキの薄膜が剥がれている箇所が一つもありません。もっと言うなら、このようなクロームメッキ加工が施されているのは「マウント部の真鍮製/ブラス製パーツ」だけなので、他の黄銅材パーツは当然ながら、アルミ合金材のパーツにもこのようなクロームメッキは被せられていません(泣)
・・すると、この薄膜のハガレはいったい何処から来たのでしょうか???(汗)
考えられる背景は「過去メンテナンス時に塗布された白色系グリースを塗った時に一緒に付いてきた???」としか考えられません。しかし当然ながらマウント部の距離計連動ヘリコイドから伝って内部に侵入してくる可能性は排除できませんが、一番の問題は「こんな薄い薄膜でもヘリコイドのネジ山に詰まればトルクムラなり重いトルクなり、その影響が明確に現れる」ので、この薄膜の帯状で原型を留めていません!(汗)
そこから導き出される結論は「外部からの侵入でなくグリースを塗った際に一緒に付着していた」以外、原型を留められている説明が成り立ちません(汗)
何と恐ろしいことか・・!(怖) よくもまぁ~ヘリコイドのネジ山まで入らずに済んでくれたと「ホッとした思い」で即刻除去しました・・この薄膜は一応ビニル袋に入れて同梱します(笑)
おそらく0.1㎜にも満たないような薄膜ですが、ヘリコイドのネジ山に詰まるのとはワケが違いますから、こんな恐ろしい話はありません (それほどヘリコイドのネジ山はオスメス共にとても神経質な部位だから)!(怖)
↑こちらは光学系第4群で後群側に含まれている光学系構成5枚目の光学硝子レンズです。やはりアルミ合金材の格納筒に一体モールド成形で「後群格納筒の内部に落とし込みで格納される設計」を採っていますが、赤色矢印で指し示している箇所には「執拗に反射防止黒色塗料が塗られている」状況です(泣)
一方グリーン色の矢印で指し示している箇所は、ちゃんと生産時点にメッキ加工が施されている黒色部分です。この「反射防止黒色塗料」のインク成分が極僅かですが飛んでいて裏面側に付着していました (当初バラす前のチェック時点で光に翳して視認できていた非常に薄いクモリ)(汗)
↑オーバーホール工程を進めている途中で撮影をすっかり忘れていたのに気づき、慌てて撮りました(笑)・・「空転ヘリコイド」を封入する役目の「封入環 (赤色文字)」と左側に「直進キー (グリーン色の文字)」です。
黄銅材で造られていますが、既に経年劣化進行に伴い表層面に酸化/腐食/錆びが生じているのが分かります。
↑オーバーホール工程を進めて、当方の手による「磨き研磨」を終わらせた状態を撮影しました。今度は忘れずに一番重要な「空転ヘリコイド」も一緒に並べました(笑)
ブルー色の矢印で指し示している箇所が全て「接触面」で「平滑性が担保されるべき箇所」を意味しています。つまり前述のように経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びが進んでいる場合には「グリースのチカラに頼った整備」でトルクを軽くするしか方法がありません(泣)
当方のオーバーホール工程では「各構成パーツの経年劣化に伴う酸化/腐食/錆びを可能な限り除去して生産時点に戻す」のを使命として捉えているので、このようにヒッカピカに磨き上げますが、何もキレイに仕上げるのが目的ではありませんね(笑)
この処置によって「必要外のグリース塗布を排除できる」のが最大の目的であり、合わせて「トルク管理面での融通性を広げられる」点も決して蔑ろにできません(汗)
実際、今回のオーバーホール工程では「空転ヘリコイドで可能な限りトルクを与えて距離計連動ヘリコイド側で軽く仕上げた」次第です・・つまり部位別に、用途別にトルク管理を行える「工程の裾を広げてくれる」部分に大きな有難味が隠れています(笑)
・・何を偉そうにとお叱りを頂きますが現実に今までそれで数多くの個体が助かっています。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒で、アルミ合金材の削り出しで用意されています。同じライツ製モデルでも、1950年代中頃までは黄銅製の鏡筒が多かったと思うので、逆にこの「8枚玉」でこれだけアルミ合金材の構成パーツを多用していて、且つその切削技術と面取加工のレベルが相当高いのに改めて驚かされました。
この鏡筒内部をご覧頂くと一目瞭然ですが、光学系前群の格納筒が落とし込みでストンと入るのが分かります・・何故ならシルバーに光り輝いている箇所には一切締め付け用のネジ切りが用意されていないからです。
ちなみに当初バラした直後はこのシルバーな部分は経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びが進みくすんでいましたが、ご覧のように「磨き研磨」を施したので平滑性を取り戻しています・・これは単にピッカピカにするのが目的ではなく(笑)、光学系前群格納筒をちゃんと抵抗/負荷/摩擦なしのまま落とし込んで「適切な本来必要とされるべき光路長を確保する」のが狙いです(笑)
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
◉ 絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている
↑10枚の絞り羽根を組み込んで絞りユニットを鏡筒最深部にセットしたところです。何の苦もなく容易く工程を進められたように見えますが(笑)、実は上の写真を撮影するのに「既に4時間を要している」次第で(汗)、この絞り羽根の組み込み作業だけで、それだけの時間かかりました(涙)
延々と10枚の絞り羽根を組み込んでいるのが4時間も続くと、さすがに嫌気を通り越して恍惚化してきます(笑)・・それだけ時間がかかってしまった理由は、特にこの絞り羽根の「位置決めキー側が短い」為に、10枚のうち7枚目まではすんなりセットできるものの、8枚目~10枚目の残り3枚を組み込む際に「最初に入れていた絞り羽根が次から次へと浮き上がって外れてしまう」が為に、それだけの時間を要しました(笑)
・・こればかりは最短距離で作業を進める方法がありません(泣)
↑さらに、実は上の写真の状態の鏡筒のままではひっくり返すと再び絞り羽根がバラけてしまいます(怖)・・クッション環を入れ込んでから「光学系第3群」を落とし込んで初めて固定されますが、問題なのは「この光学系第3群も単に落とし込むだけなので、最終的に光学系前群が固定されない限りこの絞りユニットはいつでも外れてしまう」設計なのです(怖)
絞りユニットには「開閉環」と言う絞り羽根を開閉する環/リング/輪っかが被さりますが、その位置にクッション環で適切な抑え込みをしながら、合わせて光学系第3群の裏面側「平滑面」で絞りユニットの浮き上がりを食い止める設計です (グリーン色の矢印の順にセットされる)。
どうして絞りユニットの特に「開閉環側が浮き上がるのか???」と言えば、それは絞り羽根が最小絞り値方向に重なり合った時に「最も膨れ上がるので浮き上がろうとするから」と言えます。
従って、このように「ちゃんとクッション環まで用意して浮き上がりを抑える丁寧な設計」こそが、実はこの当時の日本国内も海外も含め一切何処の国の光学メーカーにも存在し得なかった「徹底した各部位の構成パーツに対する配慮/姿勢/謙虚さ」なのが「まさにライカたる所以」ともハッキリ申し上げられるほどに、オールドレンズ内部の設計概念に明確な違いが見て取れます。
・・さすがにこの点については当時のNikonもCanonさえも適いません(泣)
だからこそのライカなのだと、このようにオーバーホールする立場で眺めてみても感銘を受けるのが凄いところです(驚)・・例えばこのクッション環に似たような事をやっていたのは、確かに旧西ドイツ側oberkochenのCarl Zeissがありますが、それでも明確なクッション部分は用意せずに「単に円形環/リング/輪っかに微細な凹凸をプレッシングしてクッション化させていただけ」ですから、これだけ本格的なクッション (弧を描いて膨れている部分) をちゃんと用意している設計思想そのモノが素晴らしいと感銘を受けるのです。
・・ネット上の整備者は誰一人この点に言及しませんが(笑)、当方は真に恐れ入りましたね!
逆に指摘するなら、これだけ本格的なクッション部分を用意するとなれば「その分の抵抗/負荷/摩擦が絞りユニットの開閉環自体に及ぼすのを知っていながら設計していた事実」すら伺えるので、だからこそ「凄い!」と感じているのです。
↑とにかく光学系前群を落とし込んで最後に締付環で締め付け固定します。これでようやく絞りユニットが固定されて、どんなに絞り羽根を開閉動作せても何一つ問題が起きません。
従って、もしも仮に絞り羽根の開口部の面積/カタチ/入射光量に問題を抱えている個体があれば、それはこのクッション環周りの問題か、或いは絞りユニット側の問題か、何かしら因果関係を追求できる話になりますね(笑)・・「観察と考察」をキッチリ行っていれば様々なトラブルにも対処できると言うものです(笑)
↑完成した鏡筒を建てて撮影しました。鏡筒上部には側面に溝が用意されていて「絞り値キー」になっており、ここに鋼球ボールがカチカチとハマるので絞り環操作時にクリック感が実現できます。
また鏡筒側面には両サイドに切り欠き部分が用意されていて、そこから「開閉キー」と言う金属棒が突出します。このキーが絞り環と連結する事で「絞り環を回すと絞り羽根が閉じる動作をする」原理ですが、ライカ製オールドレンズの多くのモデルで「これら開閉キーは鏡筒の両サイドに突出し、均等にチカラを及ぼすよう設計の配慮が伺える」のも、前述同様ライカだけの設計面での大きな特徴です。
逆に言うなら、多くの国の多くの光学メーカーのオールドレンズ達が皆「開閉キーは1本しか外に出さない=絞り環と1本でしか連結しない」設計を主体にしていて、オールドレンズ内部に於ける「チカラの伝達」に対する思想が全く別モノなのが、たったこんな事柄だけでも「ライカの凄さ!」として伝わってきます(涙)
これが素晴らしい設計概念だと言えるのは「1本よりも2本連結させたほうがチカラの伝達は確実になるが、その反面抵抗/負荷/摩擦の制御が難しくなる」次第です・・つまり絞り環操作した時の指から伝わったチカラがそのままダイレクトに伝達されるものの、設計する立場、或いは製造する側からすれば「1本よりも2本の連結のほうがより抵抗/負荷/摩擦に対処する必要性が高まり厳しい環境下での生産を強いられる」点に於いて、一切の妥協を許さない「ライカの姿勢」が伝わってくるのだと申し上げているのです。
・・この素晴らしさをどうかご理解いただきたいですね・・これがライカなのです!(涙)
当方はプロにもマニアにもなれなかった整備者崩れの「整備者モドキ/整備者崩れ」と巷で罵られている身の上で、合わせて光学知識が皆無な上に、この当時のフィルムカメラについても「カメラ音痴」であり、プラスして自ら撮る写真撮影すら「写真センスがない」と三拍子揃っているワケで何一つ褒められるモノがありませんが(笑)、それでもこのように「内部構造面から捉えたライカの素晴らしさくらいは、ちゃんと感じ入ることができる」と受け取っています(笑)
↑光学系後群側もちゃんと清掃して、合わせて冒頭の解説のとおり「必要外の反射防止黒色塗料は全て除去」しコーティング層への今後の負荷を強いらないよう配慮します。鏡胴「前部」はこれで完成したので、この次の工程から鏡胴「後部」の組立工程に移ります。
ちなみに上の写真でいろいろ数字がマーキングされているのは、当方が刻んだのではありません(汗)
↑鏡胴「後部」は簡単に説明すれば「ヘリコイド群の集合体」ですね(笑)
❶ 空転ヘリコイド (黄銅製)
❷ マウント部 (真鍮製/ブラス製)
❸ ヘリコイドオス側 (アルミ合金材)
❹ 距離計連動ヘリコイド (黄銅製)
❺ 直進キー (黄銅製)
↑真鍮製/ブラス製のマウント部に「空転ヘリコイド」の部位をセットするには「封入環」を使います。封入なので「空転ヘリコイドに塗布するグリースが外に滲み出てくるのを防ぐ」役目も兼ねている点について、多くの整備者が思い違いしています。
従ってブルー色の矢印の指し示している箇所は「平滑性が担保されるべき場所」であり、この箇所にグリースに頼った整備をしても「経年劣化進行に伴う摩耗を促進してしまうだけ」と言う問題点をないがしろにしている事に至ります(泣)
↑さらにこのモデルで厄介だったのがグリーン色の矢印で指し示している「ダブルで用意されてしまった直進キーの仕組み」です(泣)・・ここで距離環を回すトルクが重く変わっていきます (何故なら直進キーが2本直進動するから)。
多くのオールドレンズで距離計連動ヘリコイドを装備している場合「直進キーは1本だけにしてもう一方は空転ヘリコイドを活用する」方式なのに、このライカ製品は真正面から挑んだ設計で「2本の直進キーを使っている」次第で、これが相当グリースの性質を選びます(涙)
↑こんな感じに空転ヘリコイドをセットして封入環で締め付け固定します。
↑2つ用意されている「直進キーガイド」に2本のそびえ立つ「直進キー」を差し込みつつ、適切な位置で距離計連動ヘリコイドもネジ込みます・・当然ながら、それに連携させて「ヘリコイドオス側も同時にネジ込む」必要があり、それで初めて適切な無限遠位置が確定する設計です。
ちなみに当初バラス前のチェック時点で「鏡胴に極僅かなガタつきが生じていた」のは、上の写真赤色矢印で指し示している箇所の化粧ネジで、マウント部直前に3箇所締め付け固定に使われているネジです。
この締付ネジが当初バラす前のチェック時点で硬締めしておらず「ユルユル」だったのです・・試しに硬締めしても鏡胴の極僅かなガタつきは解消せず、合わせて「トルクが重く変化する」ので緩めたままに仕上げていたのではないかとみていますが、不明です。
ちなみに今回のオーバーホール工程ではちゃんと硬締めして仕上げています。
この後は距離環をセットしてから完成している鏡胴「前部」を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
なお、この鏡胴「後部」のヘリコイド群組み込み作業も「トータルで4時間がかり」になってしまい、ホトホト技術スキルの低さを思い知らされた状況です(涙)
ここからはオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホール/修理が終わりました。もちろん当初バラすまえに生じていた鏡胴の極僅かなガタつきも解消済です。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。薄っすらと光を透過させて視認できていた非常に薄いクモリも除去できています (必要外の反射防止黒色塗料を除去しました)。
↑何とも恨めしい写真ですが(笑)、4時間もかかった絞り羽根の組み込み作業も確実に仕上がっていて、絞り環操作ともども完璧です。絞り羽根か閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
・・指標値刻印がだいぶ褪色していたので着色しています。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」ですが、トルクは当方の基準からすると「重めの方向」の印象ですが、赤色矢印で指し示している化粧ネジを硬締めすると途端に重く変わっていた当初のトルクに比較すれば「だいぶ軽めの印象」です。
これはちゃんと理由が分かっていて、この化粧ネジを硬締めすると「マウント部が真鍮製/ブラス製なので硬締めした応力が働き空転ヘリコイドに影響を着たしていた」からですが、その根本原因は「黄銅材の平滑性を取り戻さずにグリースに頼った整備で仕上げていたから」であり、今回のオーバーホール/修理ではちゃんと「平滑性ー担保した」からこそ、硬締めしても重いトルクに堕ちていない次第です(笑)
なお、グリーン色の矢印で指し示した箇所の隙間も当初化粧ネジがユルユルだった時は空いていませんでしたが、硬締めするとご覧のように隙間が現れています。
↑距離計連動ヘリコイドの無限遠位置は当初位置のまま、お借りしたライカカメラで確認しつつ微調整して仕上げています・・そもそも焦点距離が35㎜なので、被写界深度を計算すると「前方被写界深度の16mから以降の後方被写界深度は∞なので、ライブビュー画面のピーキングが真っ赤っ赤」です(笑)
オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。
↑当レンズによる最短撮影距離70cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
・・この生々しい空気感が堪りません! 素晴らしい写りです!(涙)
↑f値「f11」です。もうだいぶ絞り羽根が閉じてきていますが、いまだに「回折現象」の影響も視認できず衰えが見えません・・凄い写りです!(涙)
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
◉ 焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。この度のオーバーホール/修理ご依頼、真にありがとう御座いました。引き続き2本目の作業に移ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。