◎ ASAHI OPT. CO., (旭光学工業) SMC TAKUMAR 50mm/f1.4《最終型》(M42)

PENTAX(4)logo初代の「Super-Takumar 50mm/f1.4」が発売されたのは1964年で、その後幾度となく内部仕様や意匠を細かく変更しつつ「最終型」である「SMC TAKUMAR 50mm/f1.4」は1973年に発売されました。従来の世界規模で流行っていた通称「M42マウント (プラクチカ・スクリュー・マウント)」からついにバヨネット方式の「PENTAX Kマウント」にマウントは移行していきます。「最終型」である当レンズはその直前の1975年で生産を終了しました。

その写りに関してはもう既に様々な解説がネット上でも氾濫していますが、開放から鋭いピント面を構成しつつもトロトロに融解していくボケ味は、そもそも光学系が6群7枚の変形ダブルガウス型で、Dr. Erhard Glatzel (エアハルト・グラッツェル博士) の設計による銘玉中の銘玉「Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4」の光学系構成に近似していることからも納得できます。分類上は変形ダブルガウス型ですがウルトロン型構成の発展系とも受け取れます。

しかし、このモデルの光学系には苦心した痕跡が見受けられ、光学系後群の硝子材には「酸化トリウム」を含有しています。屈折率を20%ほど向上させることによりギリギリの処で諸収差の改善を狙っています。「酸化トリウム」を含有したレンズは俗に「アトムレンズ (放射能レンズ)」と呼ばれており、その半減期の長さからもいまだに放射線を放出したままになりますが、後玉直下での放射線レベルは実際には皆さんが受診される「レントゲン撮影」時の80%に満たないレベルであり、その使用時間から考察すれば、むしろ「空気中」に含まれる様々な物質の放射線レベルのほうが問題になるくらいの程度です。それは「被曝量」として勘案した際に最も健康被害が懸念されるのは「内部被曝」であり「酸化トリウム」を硝子材に含有したオールドレンズを「いじる」程度では、カラダで受ける「外部被曝」に値するので年間の「自然被曝量」からすれば何の懸念材料にもなりません。

硝子材に「酸化トリウム」を含有させたオールドレンズは、その経年使用に於いて化学反応を生じ硝子材が黄褐色に変色する「黄変化現象 (ブラウニング)」が起きることが分かり、1977年の時点では主だった光学メーカーでは採用を取りやめています。今ドキのデジカメ一眼ならば「AWB (オート・ホワイト・バランス)」の設定で自動的に色合いの調整が適正化されますが、しかし「入射光」のレベルで影響しているワケですから、写真への影響として考えれば「階調」への影響は否定できません。従って「黄変化」は改善しないよりは改善したほうが良いと言うことになりますね・・。


次の写真は前述の「酸化トリウム」を含有している光学系後群の構成レンズについて、進行していた「黄変化」の改善前後を撮影しています。

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SMCT5014(0921)12上の写真 (2枚) の1枚目が光学系後群をバラした直後で、進行している「黄変化」の状態です。2枚目が当方にて「UV光の照射」により黄変化改善を施した後の写真です。

ほぼ「無色」に近い状態まで改善できていますが、それでも僅かに「黄色っぽく」残っているのは「コーティングの劣化」による変色なので、これはコーティングを剥離して再蒸着させない限り改善はできません。

オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。

すべて解体したパーツの写真です。

SMCT5014(0921)13ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

まずは絞りユニットや光学系全群を収納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

SMCT5014(0921)14普通ならここで絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させるのですが、このモデルでは光学系後群の「第4群:貼り合わせレンズ」を絞りユニットよりも先に組み付けなければなりません (レンズの固定環を締め付ける必要があるため)。

SMCT5014(0921)17最後のほうでマウント部を組み付けますが、光学系後群はその後からセットすることがこのモデルではできません。そこで先に鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を基台にセットした状態まで完成させてしまいます。上の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

SMCT5014(0921)18真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた位置までネジ込みます。どのようなオールドレンズでもすべて同じですが、ついつい最後までキッチリとネジ込みたくなると思いますが、このヘリコイド (メス側) を最後までネジ込んでしまうと「正しい無限遠」は出ません (合焦しません)。従ってビミョーな隙間が必ず生じているのが常です。

SMCT5014(0921)19鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で12箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後の無限遠確認で無限遠が出ずに (合焦せずに) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

SMCT5014(0921)20この状態で立てかけて撮影しました。まだ絞りユニットも光学系後群も組み付けられていない状態です。ここから光学系の「第4群:貼り合わせレンズ」を組み付けていきます。

SMCT5014(0921)21第4群を組み付け「固定環」を締め付けて固定したら、第5群〜第6群を組み付けて光学系後群を完成させます。

SMCT5014(0921)15ようやく絞りユニットの組み上げに入れます。8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルでは「絞り羽根開閉幅の調整機能」が装備されているので、ここでは大凡のアタリで構いません。最後にすべての光学系を組み付けてから「絞り羽根開閉幅」の正しい調整を行います。

SMCT5014(0921)22絞りユニットを鏡筒 (ヘリコイド:オス側) にようやくセットできました。上の写真では絞り羽根を開放にして第4群のレンズの輝きを撮影しています。

SMCT5014(0921)23マウント部の組み上げに移ります。上の写真ではすべての連動系パーツ類を外した状態で撮影しています。すでに当方にてマウント部内部の「磨き研磨」も終わっています。

SMCT5014(0921)24「絞り環連係カム」と「自動/手動スイッチ機構」を組み付けて各部の連係動作を確認しておきます。もちろんすべてのパーツ類も同様に当方の「磨き研磨」が完了しており、本来の輝きと平滑性を取り戻し滑らかに最低限の負荷だけで駆動するように仕上がっています。

SMCT5014(0921)25基台にマウント部を組み付けました。鏡筒から突出している「絞り連動アーム」との連係も確実にしておきます。

SMCT5014(0921)26絞り環を組み付けて各絞り値での絞り羽根の開閉状態をチェックしておきます。「絞り羽根の開閉幅の異常 (絞り羽根が正しく開閉しない)」などの症状は、たいていはこの段階で実際に症状が出ますから、ここのチェック時点でキッチリと改善させておきます。改善方法は基本的に各部に使っている「締め付けネジ (3本)」の締め付け具合、或いは「マチ (余裕)」があるならばその調整 (凡そ0.5mm以内ほど) で最終的な絞り羽根の開閉幅の状態はガラッと変わります。非常にビミョーなテンションで駆動している仕組みですね・・。

SMCT5014(0921)27距離環を仮止めして光学系全群を組み付けて無限遠位置確認、光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認を執り行えば完成間近です。

SMCT5014(0921)28光学系全群の状態です。極僅かなカビ除去痕としての極微細な点キズがあります。またカビ除去痕自体はコーティング層に浸食していたモノは「コーティングのムラ状」になっています。

SMCT5014(0921)29

SMCT5014(0921)30上の写真 (2枚) は前玉側から前群の状態を撮影しています。1枚目はカビ除去痕としての極微細な点キズの状態を撮っています。2枚目は「コーティングのムラ状」に見えているコーティング層に浸食してしまったカビ除去痕の領域を撮影しています。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)

カビ除去痕としての極微細な点キズ:前群内6点目立つ点キズ2点、後群内:15点、目立つ点キズ4点。コーティング経年劣化:前後群あり、カビ除去痕:あり、カビ:なし。ヘアラインキズ:前後群共に極微細な薄いヘアラインキズが数本あります。その他:後玉の外周附近に極僅かな汚れが残っています。前後群共に各群にはカビのコーティング層への浸食により光に反射させると浮かび上がるコーティングムラ状のカビ除去痕があります。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。

次は光学系後群です。

SMCT5014(0921)31後群も前群同様一見するとキレイなのですが実際にはカビ除去痕としての極微細な点キズなどがやはりあります。

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SMCT5014(0921)34上の写真 (3枚) は、1枚目〜2枚目が後玉周辺部のカビ除去痕としての汚れ状に見えている部分、また2枚目〜3枚目にはカビ除去痕としての極微細な点キズも写しています。3枚目の写真に写っている「文様状」の部分は撮影時に当方の手が写り込んでしまったので汚れなどではありません。

光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズはなかなか容易には発見できないレベルです。

 

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ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

SMCT5014(0921)1市場にはゴロゴロと幾らでも出回っていますが、意外にも整備済で出品されている個体はほとんどありません・・ネット上では解説が結構されているのですが・・。

SMCT5014(0921)2光学系内は非常に良い状態を維持した個体です。特に「貼り合わせレンズ」のバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が進行していないので大変クリアです。

SMCT5014(0921)3絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感を感じる箇所は「絞り環」でローレットのジャギー部分の縁が相応に剥がれています。当方にて着色していますがご使用になっているうちにとれてしまうと思います。

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SMCT5014(0921)7距離環の駆動は大変滑らかなのですが「最短撮影距離」附近で僅かに重く感じます。そう言われれば重いかなと思う程度のレベルですのでピント合わせの際などに支障を来すことはありません。

【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)

距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一ですが最短撮影距離附近で極僅かに重めになります。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

SMCT5014(0921)8実際、今回の個体もそうでしたが、最近は光学系内にカビが発生している個体が非常に多く、どの程度カビを除去できるかは実際にバラして試してみないと何とも判りません・・今回の個体は完全に除去できたのでラッキーでした。タクマーシリーズはそれほどカビの発生が多いのが現状です。

SMCT5014(0921)9光学系後群もバルサム切れが進んでおらずラッキーでした。とてもクリアになっています。

SMCT5014(0921)10当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。被写界深度が非常に狭いのでピントが合っていないように見えますが、実際にはヘッドライトの部分にしか合わせることができません。有名ですが、驚異的にトロトロに溶けていくボケ味ですね・・。