◎ YASHICA (ヤシカ) YUS AUTOMATIC 28mm/f2.8《中期型》(C/Y)

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YUS2828(0625)レンズ銘板

yashica-logo②今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像加工ソフトで編集し消しています。

今週に入ってからず〜ッと修理依頼のオールドレンズを毎日作業しています。今回のモデルはヤシカがアメリカ向け輸出専用モデルとして生産していた日本国内未発売製品です。以前に一度だけこのモデルの標準レンズのオーバーホールをしていますが、広角レンズ「28mm」は今回が初めてでした。

届いたオールドレンズはオリジナルの化粧箱に入っていました・・写真では見たことがありましたが実物の化粧箱を手にしたのも初めてです。

ご依頼内容は「絞り羽根の戻りが緩慢」なのを改善する作業になりますが今回の個体はデッドストック品らしいとのことです。届いた現物を確認したところ、確かに絞り羽根の戻りが緩慢でワンテンポ遅い動作なのを確認しました。最初の予測では絞りユニットに附随するマイクロ・スプリングが経年劣化で弱まっていると推測したのですが、バラしてみると全く別の原因でした。

YUS2828(0625)構成モデルバリエーションが3種類存在しますが光学系は当初から6群7枚のレトロフォーカス型で設計変更は成されていません。今回の個体はバリエーションでは「中期型」にあたりフィルター枠径Ø55mmのモデルになり、製造番号の先頭2桁は「28〜39」まで確認しています。

YUS2828(0625)v1-1YUS2828(0625)v1-2「前期型」

フィルター枠径:Ø58mm
銀枠飾り環:有、製造番号先頭2桁:40〜45まで確認済


YUS2828(0625)v3-1 YUS2828(0625)v3-2「後期型」

フィルター枠径:Ø52mm
銀枠飾り環:無、製造番号先頭:Aが附随した製造番号


ちなみにバリエーションの「前期型〜後期型」まですべてが富岡光学製であることを過去のオーバーホールにて確認しています (中期型は今回確認しました)。

YUS2828(0625)仕様

YUS2828(0625)レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

YUS2828(0625)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回はデットストック品かも知れない大変キレイな状態をキープした個体です。従って光学系の透明度は秀逸で特にバラす必要が無いのでそのまま組み付けます。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

YUS2828(0625)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。

YUS2828(0625)13ご依頼の内容が「絞り羽根の戻りが緩慢」と言う現状なので、当初はこの絞りユニットまでバラして対処するだけで改善が見込めると推測していました・・つまりすべてバラしてオーバーホールする必要は無いと考えていたのです。

ところがこの絞りユニットの部位をチェックしてその考えが変わってしまいました・・オーバーホールしなければイケナイ問題が発生したのです。

上の写真は既に鏡筒内に絞りユニットを組み付けた状態で撮影しています。当初バラした際に絞りユニットの位置決めを確認するために二重線のマーキングを当方にて施しています。鏡筒と絞りユニット (メクラ蓋) との2箇所に位置決めのマーキングをしました。当初バラした直後はこのマーキングが共に同じ位置になっていたのです。しかし上の写真ではマーキング位置がズレています。

当初の予測では「絞り羽根の戻りが緩慢」な原因はマイクロ・スプリングの経年劣化に拠る弱りだと考えていましたが、マイクロ・スプリングを確認してみるとちゃんとした収縮力を維持しており全く問題がありませんでした。では、どうして絞り羽根の戻りが緩慢になっているのか???

原因は絞りユニットのメクラ蓋を締め付け過ぎた状態で接着していたのが問題だったのです。必要以上にメクラ蓋を締め付けてしまった為に絞り羽根に圧力がかかってしまい (絞り羽根を押しつけてしまい) マイクロ・スプリングのチカラで絞り羽根が動くのを妨害していたのです。生産時から一度もメンテナンスされていない (デッドストック品) ならば締め付け過ぎているハズがありません。

こうなると残念ながら「デッドストック品」と言う話は成り立たなくなってしまいます。実際、今回バラしてみると既にマーキングが施されており、且つヘリコイドには「白色系グリース」が塗布されており既に経年劣化に拠る液化が進行し始めていました・・期間としては数年内のレベルであり過去のメンテナンスからそれほど時間が経過していませんが「粘性:軽め」の白色系グリースを塗布したために数年レベルでも液化が進んでいます。そして、レンズの内部に相当な量の「揮発油成分」がヒタヒタと廻っていました。

光学系は今回バラしていませんが絞りユニットを挟んだ光学系前群の裏側と光学系後群の表側の硝子レンズには揮発油成分が既にうっすらと附着していました (今回清掃しています)。

YUS2828(0625)14この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。当初の予測で経年劣化していると考えていたマイクロ・スプリングは上の写真の部分です (全く問題ありませんでした)。試しにマイクロ・スプリングを外した状態で「絞り羽根開閉アーム」を指で動かして絞り羽根の「開く/閉じる」動作をやってみました・・結果、抵抗を感じたワケであり、それでおかしいと気がつきました (本来スルスルと無抵抗で動きます)。

また鏡筒の外壁部分には緩やかな螺旋状の「線キズ」が半周ほどついていました・・このようにキズを付けてしまうパーツは存在せず鏡筒には何も接触していません。従って、このキズが付いた理由は不明です (過去メンテナンス時のマーキングでもありません)。

YUS2828(0625)15工程を進めます。こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

YUS2828(0625)16ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

YUS2828(0625)17ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

YUS2828(0625)18マウント部内部の連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。マウント部なので真鍮製 (ガンメタル) のズッシリと重みを感じます。

YUS2828(0625)19各連動系・連係系パーツも個別に磨き研磨を施し組み付けます。

YUS2828(0625)20マウント部を基台にセットしますがこの時に指標値環を先に入れておかなければ後からセットすることができません。

YUS2828(0625)21絞り環を入れ込みます・・絞り環はクリック感を伴う操作性なのですがこの時点ではまだ「鋼球ボール+マイクロ・スプリング」をセットしません。つまり単に絞り環を差し込んだだけです。

YUS2828(0625)22この方式が「富岡光学製」である最大の特徴です。上の写真の梨地仕上げ「絞り環固定環」の中に「キー (溝)」が刻まれており、その溝を鋼球ボールがカチカチと填ることでクリック感が実現しています。且つ、この「絞り環固定環」を固定する方法は3本のイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) による締め付け固定です。

「絞り環固定環」の位置が正しくないと (つまりズレていると) 絞り環を回した時に絞り指標値とクリック感とが一致しない現象が発生してしまいます。

YUS2828(0625)23こちらも「富岡光学製」オールドレンズの大きな特徴のひとつ・・鏡筒をヘリコイド (オス側) の中にストンと落とし込んでから前玉方向より「固定環」で締め付け固定する方式です。この鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (絞り羽根が閉じる開口部の大きさ/入射光量) を調整しているのです。他社光学メーカーで多く採用されている方式はネジ止め固定です。

YUS2828(0625)24ヘリコイド (オス側) の内側に1箇所鏡筒の位置調整のための「溝 (ガイド)」が用意されています。

YUS2828(0625)25ところが今回の個体には鏡筒に位置決め用の「ネジ」が付けられていません・・ネジ穴だけが3箇所開けられたままになっており、且つ全く使われていないのです。位置決め用のネジが本来付けられている場所は上の写真の2つのネジ穴のひとつです。どうして位置決め用のネジが無いのか、その理由も不明です。

YUS2828(0625)26鏡筒をヘリコイド (オス側) の中にセットしてから光学系前後群を組み付け、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

YUS2828(0625)1当初絞りユニットに附随するマイクロ・スプリングの調整だけで整備は完了すると考えていましたが、結果としてオーバーホールの作業になってしまいました。申し訳御座いません。

YUS2828(0625)2光学系内の透明度が恐ろしく高い個体です。

YUS2828(0625)9光学系後群にもキズや汚れなどが全くありません。

YUS2828(0625)3絞り羽根には微かに油染みがありましたが清掃によりキレイになり確実に駆動するようになりました。

ここからは鏡胴の写真です。筐体は大変キレイな状態でしたがよ〜く観察すると細かいキズが付いている箇所もあり当方にて「磨き」をいれました・・落ち着いた美しい仕上がりになっています。特に光沢ブラックの輝きがとても美しくなっています。

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YUS2828(0625)7塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を塗りましたので軽い操作感に仕上がっており、トルクムラも無く完璧に均一です。

YUS2828(0625)8滞りなくすべての作業が完了しました。無限遠位置も当初の位置に合わせてあります。

YUS2828(0625)10当レンズによる最短撮影距離35cm附近での開放実写です。

YUS2828(0625)27オリジナルの化粧箱に入っていました。注意書きを読むとアメリカでのヤシカ支社はニュージャージー州が代表で他にはイリノイ州やカリフォルニア、ジョージア、テキサスなどに拠点を構えていたようです。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。