◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) RoBoT Xenon 40mm/f1.9 ▽《前期型》(M26)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

 

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


毎月必ずオーバーホール/修理をご依頼頂いている、とてもありがたいご依頼者様です。しかも当方の資金力が無い問題から、興味関心があっても手を出せないような高価なオールドレンズでも、何ら躊躇無くご依頼頂ける本当にいつも感謝しているご依頼者様です。

何故ならオーバーホール/修理をご依頼頂く事で、それら未知の (高嶺の花の) 様々なオールドレンズ達をバラす事が叶うワケで、しかもちゃんとオーバーホール/修理のご請求もシッカリ させて頂いています (いつも高額でスミマセン!)(笑)

ありがとう御座います・・!

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今回扱うモデル、旧西ドイツはSchneider-Kreuznach製標準レンズ『RoBoT Xenon 40mm
/f1.9《前期型》
(M26)』も、当初ご依頼を承った際は今までに扱った事があるタイプだと ばかり思い込んでいました。ところが実際にバラしてみると「驚異的な光学系」を実装した「前期型」である事が判明しました。従って急きょブログ掲載となった次第です(笑)

ちなみに「後期型」にあたる「RoBoT Xenon 40mm/f1.9 (M26)」はこちらのページで掲載 しています。

そもそもこの「RoBoT用オールドレンズ」が装着される先の「RoBoTシリーズ」をちゃんと解説してくれている日本語サイトがまだありません。海外サイトには非常に詳しい解説が出ているのに、誰も翻訳してくれませんね (当方は英語がダメなので)(笑)

まるで目の玉がクルクルッとしているような、とてもかわいいロゴの「RoBoT (ロボット)」は戦前ドイツで造られた世界初の「自動巻上げ式連写機能を装備したフィルムカメラ」であり、ブランド銘こそロボットですが動くロボットの話ではありませんね(笑)

ネット上の解説では多くのサイトで開発/設計者が旧西ドイツのHeinz Kilfitt (ハインツ・キルフィット) であると案内されていますが、量産化される前の、自動巻上げ機構を実装する前の段階の小型フィルムカメラを開発/設計したのがKilfittであり、ゼンマイ仕掛けの自動巻上げ 機構 (いわゆる駆動モーター部分) を実際に開発し組み込んで仕上げたのは、発売元でもあり 創始者でもあるHans Heinrich Berning (ハンスハインリッヒ・ベルニング) 氏です (その時点でKilfittは既に退社しています)。Kilfittはこれら小型フィルムカメラよりも、むしろ様々な光学製品の開発/設計に注力したかったようです。

皮肉にもHeinz Kilfittが創設した会社は売却後消滅していく運命でしたが、この「RoBoTシリーズ」を発売した会社は現存しており「robot Visual Systems GmbH」として信号旗やスピード違反取締器などを開発/生産しています。

Heinz Kilfitt (ハインツ・キルフィット:1898-1973) は戦前ドイツのバイエルン州 Munchen (ミュンヘン) は Höntrop (ハントロープ) と言う町で、1898年に時計店を営む両親の子として生まれます。時計職人の父親に倣い自身も時計の修理や設計などを手掛けていましたが、同時に光学製品への興味と 関心からカメラの発案設計も手掛けていました。

Kilfitt は27歳の時に想起し、5年掛かりで発案したゼンマイによる自動巻き上げ式フィルムカメラ (箱形の筐体にCarl Zeiss Jena製Biotar 2.5cm/f1.4を装着) のプロトタイプに関する案件を、31歳の時にOtto Berning (オットー・ベルニング) 氏に売却しています。

当初Kilfittは発案した案件をAGFAやKodakに持っていきましたが相手にされず、大学で知り合っていたOtto Berningに売却しました。

その時のプロトタイプが左写真ですが、KilfittはHans Heinrich Berningと共に「Otto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会)」を創設し、幾つかの小型フィルムカメラを設計しました。

その後プロトタイプに関するパテントをOtto Berning氏に売却する事で資金を得て、自身は念願の光学製品を開発/製産する為に1941年に町工場を買い取っています。

右写真はプロトタイプに刻印されているパテント表記 (Kilfitt) です。

従ってゼンマイ仕掛けの自動巻上げ式機構の発想についてそのパテントを得た事で、さらに 小型フィルムカメラの設計まで入手した時点でOtto Berningは本格的な量産型自動巻上げ機構を自ら開発して量産化に漕ぎ着けていますから「RoBoTシリーズ」の開発設計者がKilfittだと言う案内は少々厳しいかも知れません。

【RoBoTシリーズのモデルバリエーション】

RoBoT I型:1934年発売

24 x 24mmのスクウェアフォーマットによる最大48枚 (1回の巻き 上げで最大24枚) 連写が可能なゼンマイ式自動巻上げ機構装備。

事実上1960年代まで連続撮影が可能なフィルムカメラとしてその市場を独占していた。

RoBoT II型:1938年発売

24 x 24mmスクウェアフォーマット。1回の巻き上げで最大8枚の連写が可能になる大型の巻き上げノブをオプションで用意。
M級シンクロ接点を装備。

 

ドイツ空軍向け仕様:1939年

正式にドイツ空軍用備品として登録されたので「Luftwaffe-Eigentum (空軍備品)」刻印が許されている。
ちなみに供給フィルムカメラは陸軍はLeicaで海軍がIhagge DresdenのEXAKTA。

RoBoT IIa型:1951年発売

M/Xシンクロ接点とアクセサリーシューを装備。

RoBoT STAR I型:1952年発売

135フィルムが使えるようになる。オプションでやはり最大48枚まで1回の巻き上げで連写が可能な大型ノブが用意される (オリジナルは 1回の巻き上げで最大24枚連写可能)。
このモデルまでが「M26マウント」規格でネジ込み式限定の最終型。

RoBoT Royal24:1953年発売

24 x 24mmスクウェアフォーマットのまま距離計連動方式を採用。マウント規格がバヨネットタイプに変わり「M30ネジ」も同時に
装備。

RoBoT Royal36:1955年発売

36 x 24mmのライカ判フォーマットを初めて採用。

1回の巻き上げで最大16枚の連写が可能。
距離計連動機構を装備したバヨネットマウント規格。

RoBoT Royal36S:発売年?

36 x 24mmのライカ判フォーマットの他、1回の巻き上げで最大16枚の連写が可能。
距離計連動機構を装備したバヨネットマウント規格。

新たに5コマ/秒の連続撮影が可能になった。

この他にRoBoT Jr.やRoBoT Vollautomat STARIIなども発売されています (細かくチェックするともっとたくさんバリエーションがあります)。

ちなみに「24 x 24mmスクウェアフォーマット」と言うのは決してポピュラーなサイズではありませんが、そもそもライカ判フルサイズ「36 x 24mm」自体が世界標準になって初めて定着した話なので、この当時はそれほど違和感を感じずに使えていたのではないかと考えています。

左図はその例として載せましたが、一般的に「フルサイズ」と呼ばれているのはライカ判フォーマットの事で「36 x 24mm」です (ブルーのライン)。それに対して例えば「APS-Cサイズ」だと「26.3 x 16mm」などになるので赤色ラインです。一方今回の「24 x 24mmスクウェアフォーマット」は黄色のラインなので、これはこれで正方形として違和感を感じない人にとっては有効なフォーマットではないかと思います (それぞれの画角でシ〜ンが切り取られるイメージ)。

光学系は4群6枚のダブルガウス型構成なのですが、驚いた事に「絞り ユニット」の配置が特異な設計です。

通常一般的なダブルガウス型は第2群と第3群の間に「絞りユニット」が配置されますが、このモデルは第3群までが「前群」としてセットされてしまいます。

左写真は今回の個体から取り出した光学系の前後群です。赤色矢印の第1群〜第3群までが「光学系前群」として鏡筒にセットされるので「絞りユニット」直前に来るのは第3群になります。
またグリーンの矢印の第4群だけが「光学系後群」として鏡筒にネジ込まれます (全て硝子レンズ下面が前玉側方向になるよう置いています)。絞りユニットがちょうど赤色ライン/グリーンのラインの位置に来ているワケです。

ハッキリ言ってこんな設計のダブルガウス型構成は初めて見ました(笑) しかも、驚いた事に 第2群と第3群の貼り合わせレンズは第3群のカタチ (両凹レンズ仕様) が初めて見た設計です。これでダブルガウス型の基本的な仕様を上手く収めてしまったのですからオドロキです(笑)

このモデルの実写を見ていて「どうして画の周辺域に流れが酷く出るのか」疑問だったのですが、このようなムリな設計を執っている事が一因なのかも知れません (収差としての周辺部 四隅の流れが酷い)。

貼り合わせレンズ
2枚〜3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群

後期型」になると光学系は再設計されて5群6枚のウルトロン型構成に落ち着きます。

つまりこのモデル「RoBoT Xenon 40mm/f1.9」に「前期型/後期型」の区分けがある事に気が付きました (見落としてました)。

 左側が今回の「前期型」で右側が「後期型」です。

見分け方は距離環の距離指標値刻印が上下どちら側に刻んであるのか見れば判り易いですね (前期型が下側で後期型は上側に刻印)。

逆に言えば、そもそもSchneider-Kreuznach自身が発売後にこの画の周辺域の流れを気にしていたとも覗えます。そうでなければワザワザ資金を注ぎ込んで「後期型」のほうで光学系の 再設計をしませんから。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して滲んで溶けていく様をピックアップしていますが、変形ダブルガウス型構成なので余計に真円にはほぼならないシャボン玉ボケしか表出できません。また溶けていく様もキレイなグラデーションではなく、やはり周辺域の酷い流れの影響などをモロに受けながら滲んでいくので、少々辛い印象の滲み方になったりします。

二段目
背景ボケも収差の影響を大きく受けた状態のまま滲んでいきますが、まだ円形ボケほど明確な乱れ方にならないので、これはこれで背景の効果的な使い方ができそうです。場の雰囲気と言うか空気感や距離感まで留めたような立体的な表現性を持ち、被写体の材質感や素材感まで写し込む質感表現能力にも長けています。

三段目
赤色の発色性が非常に艶やかに出ますがイヤミが無く、おそらく色飽和ギリギリの状況ではないかと思います (シ〜ンによっては色飽和してしまいそう)。やはり光源を含む場合の優しい印象の写り方がこのモデルの独特な特徴で、適度にソフトフォーカスがかかったようなビミョ〜な感じが個人的にはとても好みですね(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は今回の個体が「前期型」である以上、前に扱った「後期型」に近似した設計ですが、そもそもこのモデルはシロウト整備ができるようなレベルではなく「原理原則」を熟知していてちゃんと「観察と考察」ができる整備者でない限りキッチリ適切な仕上げ方で組み上げられません。

どうしてそんな事を言うのかと言えば、当初バラす前のチェック時点で以下のような問題点が既にあったからです。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環が無限遠位置「∞」まで回らない (手前で停止してしまう)。
無限遠が全く合焦していない (相当なアンダーインフ状態)。
 距離環を回すトルクが重い/トルクムラがある。
 距離環や鏡胴にガタつきが発生している。
絞り環操作が重い/トルクムラがある。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時に「黄褐色系グリース」塗布。
ヘリコイド (オスメス) ネジ込み位置ミス。
マウント部組み上げ時の微調整ミス。
鏡胴/基準「▲」マーカーなどの位置微調整を怠っている。

・・とこんな感じです。ちゃんと「黄褐色系グリース」を塗布している処などたいしたものですが、残念ながら日本の整備者ではなく (日本人だとすぐに白色系グリースを使いたがるから) 海外の整備者で、グリースに極微かな香料が入っています。

しかしちゃんとプロレベルの組み上げが成されており、仕上げ方自体はさすがと頷かされる組み上げ方をしています。そもそも「黄褐色系グリース」を使っている事自体が大変少ないですが(笑)

このモデルは全てのパーツが真鍮 (黄鋼) 製なので、ズッシリと重みを感じます。上の写真では既に当方による「磨き研磨」が終わった状態での撮影なのでピッカピカに光り輝いていますが、ピッカピカにするのが目的ではなく(笑)、あくまでも「必要以上にグリースを塗らない」為であり、経年の酸化/腐食/錆びなどを極力除去する事で「各パーツ表層面の平滑性を確保」するのが最大の目的です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。もちろん真鍮 (黄鋼) 製です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑10枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根には油染みが既に生じていましたが、それよりも問題なのは「赤サビ」です。相当酷い状態で錆びついているので、残念ながら一部の「キー」は錆びたままです。何故なら「キー」は下手にチカラを加えると「脱落」の危険性があるのでイジれません。一度脱落した「キー」は二度と打ち込めませんから、イキナシ「製品寿命」を迎える話になります(怖)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側が前玉側であり下側が後玉側です。

↑絞り環用のベース環をセットして絞りユニットと連結します。この状態でスムーズに滑らかに回転する必要がありますが、かと言って「スカスカ状態」でもまたそれはそれで違和感に繋がりますから(笑)、あくまでも「トルクを与えて故意に/ワザと重めのトルクに仕上げる」ことで知らないウチに満足感を得るような操作性に仕上げています(笑)

どんなオールドレンズでも必ずそのような操作性に仕上げられるワケではありませんが (成せゼブラ柄なら個体別に経年の状況は千差万別だから)、そうは言ってもある程度ご依頼者様が実際に使われる時の「気持ち」を想定してトルクを微調整している次第です。

このように使う人の身になっていろいろあ〜だこ〜だやれるのも「完全解体に拘るからこそ」のオーバーホールの醍醐味だったりしますね(笑) 逆に言えば単にバラして組み上げているだけの整備者は、このような細かい部分での微調整を蔑ろにしていますから、はたしてどちらがユーザーサイドに立っているのかと言うお話です(笑)

↑ヘリコイド (オス側) をセットします。するともう既にこの段階で「絞り環の操作性」については今後微調整が利かない事になるワケで、組み上げた後で「もう少し軽く/重く」などができません。組み上げてからもしも気に入らなければ、再びここの工程まで分解して戻るワケですから(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みますが、このモデルはヘリコイドのネジ山の切削が一般的なオールドレンズとは逆なので「原理原則」を理解しているか否かがここの工程で試されます。

一般的に無限遠位置と言うのは「最も鏡筒が収納している時」の状態を指し、逆に最短撮影距離位置は「最も鏡筒を繰り出した時」ですね。ところがそれが逆になり「最も繰り出すと無限遠位置」なので、ではいったい何処が「最短撮影距離の位置なのか」のアタリ付けができる人でない限り、元の通り組み戻すしかできない話になります。

何を言いたいのか?

そもそも今回の個体は当初バラす前の時点で無限遠が合焦していませんから、ここの工程でのネジ込みミスをしているワケで、元の位置で組み上げても意味が無いことになります。つまり「ゼロから無限遠位置のアタリ付けを行いつつネジ込み位置を確定」させる必要がありますが無限遠位置を確定するには光学系前後群を組み込んで実際に無限遠撮影してみなければ不明ですョね?(笑)

そんな事をしていたら何時間経っても組み上げられませんから(笑)、ちゃんと「原理原則」に則り (それを信じて) アタリ付けをして組み上げていく事でキッチリ適切な無限遠位置で仕上げます。当方は技術スキルが低いので(笑)、一日に1本しか組み上げることができませんが、世間一般の整備者の方々は一日に何本も仕上げられる技術スキルをお持ちですから、さすがプロは違いますね・・。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

するとご覧のとおり「直進キーガイド」なる切り欠き/スリット (溝) にシリンダーネジの「直進キー」が刺さって、上下動するので距離環を回した時に鏡筒が直進動する概念です。逆に言えば上の写真の「直進キーガイド」の長さ分が鏡筒の繰り出し量と一致しなければダメですね (左写真はそのシリンダーネジ)(笑)

ここがポイントで、残念ながら過去メンテナンス者は「原理原則」が理解できていなかったようで、元の位置でヘリコイド (オスメス) をネジ込んだだけでした。

↑基準「▲」マーカーが刻印されている環 (リング/輪っか) をセットしますが、実はこの基準「▲」マーカーの位置が狂うと全てが狂いますから、自ずと既にネジ込んでいるヘリコイド (オスメス) の駆動域、もっと言えば「距離環が回転する範囲」が既にこの時点で適切になっていなければ基準「▲」マーカーの意味がありませんョね?(笑)

オーバーホールしていく事は、そのように一つ一つの工程で完結する必要があるのですが、現実的には各工程で「チカラの伝達」が影響するので、そこまでキッチリ考えながら仕上げていかなければ適切な状態で組み上げられません。「チカラの伝達」とはつまりは距離環や絞り環のトルクの話ですね。

↑光学系前後群を組み込みます。

↑マウント部をセットしてから距離環と絞り環をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

さんざん偉そうな事をたくさん言いましたが、実は上の写真を撮影するまでに4時間経過しており、その間あ〜だこ〜だとバラしては組み直しを繰り返し「無限遠位置の微調整」と「距離環を回すトルクの微調整」に「ピント面の鋭さ改善」にトライしていた次第です(笑)

4時間もかかってしまうとは、まだまだ当方も未熟者ですから他人のことは言えません(笑)
しかし先ずは自分が納得できなければ、ご依頼者様にご納得頂くワケにもいきませんから、「やってみたけれどダメでした」ではなく「どうしてダメなのかがちゃんと説明できる状況」なのかどうかが重要で、且つそれが理に適っている/道理であると考えられる (受け留められる) 話でなければ、クレームになりますョね?(笑)

整備者のスタンスとはそう言うレベルなのだと、常日頃自ら言い聴かせて少しでもこの「低い技術スキルの向上」に努めている次第です(笑) 今回の「前期型」モデルで言えば、組み上げ時のポイントは以下になります。

【このモデルの組み上げ時のポイント】
ヘリコイド (メス側) のネジ込み位置が適正か。
ヘリコイド (オス側) のネジ込み位置が適正か。
基準「▲」マーカーのセット位置が適正か。
直進キーの微調整が適正か
光学系前後群の光路長が適正か

しかし実際は、これらのすべてが互いに密接に関係し合っていることに気が付いたかどうかで、組み上げ後の状態が決まってしまいますから、一つ一つの工程を納得ずくで仕上げているからこそ、次の工程で拙いと分かる (判断できる) ワケであり、その積み重ねになります。

はたしてこれらポイントをキッチリこなせるのかどうかが問題ですね(笑)

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しました。ハッキリ言って「手に取ってイジったら、おぉ〜!と唸る操作性」に仕上がっています(笑) 逆に言えばこのモデルをここまでキッチリ適切な状態で仕上げられる人と言うのは、それ程多くないと言う意味です(笑) と言ったところでその確認ができるのはご依頼者様だけですが (なので何とでも言えますョね?)(笑)

大変貴重な「前期型」モデルをオーバーホール/修理ご依頼頂き、本当にありがとう御座いました。特に光学系を知ることができたのが当方にとっては最大の利得です。

実は写真では消していますが、製造番号で今までに扱った同型モデルを把握できていますから大凡どの辺りから「前期型/後期型」に切り替わっているのかが分かっています。

↑当初バラす前の実写チェック時にそもそも無限遠合焦していませんでしたが(笑)、例えば近距離を撮影してもこのモデルにしては「甘い印象のピント面」でした。

パラしたところその因果関係は「過去に塗られまくった反射防止塗料の固着」が原因だったので、今回のオーバーホールではご覧のとおりむしろ反射防止塗料を除去しています。

逆に言えば反射防止塗料を塗っても良い場所と良くない場所があるので、たいていの整備では「整備者の自己満足」として(笑)、ところ構わず光学系内は反射防止塗料を塗りまくっていることが多いワケですが、そのせいで光路長が適切ではなくなっていたら何の意味があるのでしょうか?(笑)

今回のオーバーホールでは光路長を適切に戻したので一番最後の実写のとおり大変鋭いピント面に戻っています。光学系内には「気泡」が相応に入っています。パッと見で「微細に塵/」に見えてしまうのは、実は「微細な気泡」なので、3回清掃しましたがもちろん除去などできません。

気泡
この当時の光学メーカーは、光学硝子材精製時に一定の時間規定の高温を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。

また光学系内でコバ端に反射防止塗料を塗ってしまうと光路長に影響してしまう箇所があるのですが、過去メンテナンス者はビッチリと塗ってくれていたので(笑)、従って当初バラす前の実写チェックで甘いピント面の印象だったワケです (但しヘリコイドのネジ込み位置ミスも 合わせて起きていたが)。

オーバーホール後はご覧のとおり塗ってはイケナイ箇所のコバ端を除去しています。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体ですが、後玉にはちょっとキモイ菌糸状のカビ除去痕が盛大に残っています (その部分のコーティング層が菌糸状に剥がれている)。ところがそれでもLED光照射でコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無の状態ですから、本当にオドロキです。つまりカビ除去痕に極薄いクモリが附随していないのがラッキ〜でした。

↑分厚い絞り羽根10枚もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。「赤サビ」がまだ残っているので、次回油染みを放置プレイするとヤバいかも知れません。

絞り環の操作性は前述のとおり故意に/ワザとトルクを与えているのでスカスカではありません。シッカリした操作性とでも言えば伝わるでしょうか。その意味で当方では何でもかんでも軽く仕上げれば良いとの考えはありませんね(笑)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑等したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性中程度軽め」を使い分けて塗布しています。距離環を回すトルクは「全域に渡り完璧に均一」で、そのトルク感は「普通」人により「軽めに感じてシットリ感漂う操作性に仕上げています。もちろんピント合わせ時の微動も軽く操作できます。

黄褐色系グリース」を使っているのでヘリコイドのネジ山の感触が指に伝わりますが、それは「白色系グリース」のシャリシャリ感ともまた別の感触で、トルクの良さがある分違和感に至らない擦れ感です。

ちゃんと無限遠位置まで距離環が回りますし無限遠位置と最短撮影距離位置の両端でカツンカツンと停止します (当たり前ですが)(笑) このモデルは距離環 (ヘリコイド) と絞り環が独立しているので、距離環でピント合わせした後にどんだけボケ具合をイジってもピント面がズレる事はありません。

↑実はちょうど先月辺りにそろそろこの「RoBoTシリーズ」を扱いたいと海外オークションebayを物色していたりしました(笑) なのでタイミングがピッタリでしたね。ありがとう御座います!

刻印指標値が洗浄時に全て褪色してしまったので当方で「着色」しています。よく見ると「前期型/後期型」で「RoBoT」の向きが違うのですね(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置から適正化済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑ここからはこのモデルの距離環や絞り環などに刻印されている「被写界深度インジケーター」について解説していきます。この「被写界深度インジケーター」を頼って目測で撮影してもちゃんとキレイな写真を残せる大変ありがたい仕様です。

上の写真では設定絞り値「f1.9」の開放状態にセットした時 (赤色矢印) を解説しています。すると「赤色文字」で刻印されているので「距離環側も赤色文字の距離指標値にセット」すると被写界深度が判明します。

上の写真では基準「▲」マーカー位置に「f1.9」が来て、且つ距離環が「20m」であり、その時の被写界深度は「」で囲まれている範囲「∞〜10m」までが有効なのが分かります (赤色ラインで囲っている範囲)。つまり「無限遠位置から10m辺りまでにピントが合う」写真が残ると言うワケですね(笑)

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

この時、ピントが合っているように見えている領域 (距離) が手前側から奥のほうまで長い場合を指して「被写界深度が深い」と言い、逆にピント面の前後でしか合焦していないように見えている状態を「被写界深度が狭い (浅い)」と表現します。「深い/浅い/広い/狭い」は互いにその深度を表した表現で使っています。

↑今度は試しに設定絞り値を「f4」にセットしました (黄色の矢印)。すると黄色のラインで囲まれている範囲が被写界深度なので距離指標値を「10m」にセットした時、ピントが合う範囲は「∞〜5m」までと言うのが分かりますね。その範囲内になるよう被写体を入れればキレイにピントが合った写真が撮れるワケです。

↑同様設定絞り値「f8」の時は (グリーンの矢印)、距離指標値「5m」に対してピント面は「∞の僅か手前辺り〜2.5m辺り」と言う被写界深度 (グリーンのライン)です。

このように「カラーリングで被写界深度を示した」被写界深度インジケーターの要素を持たせているのでとても使い易いですね(笑)

なお、上の写真ではマウントアダプタにKIPON製品を使っていますが、当方がお勧めしているのは別のマウントアダプタです (現在手元に無い)。

M26ネジ込み式マウントにネジ込むと左写真のように一体感でセットできるのがとても嬉しいマウントアダプタです (グリーンのラインの部分)。

さらに「L39ネジ部」にはご覧のとおり「イモネジ」が3箇所用意されているので、緩めて微調整する事でネジ込んだ時に「真上に指標値が来る」よう位置調整機能を装備している心配りです。

MADE IN CHINAですが造りがとても良いのでお勧めです。海外オークションebayの「こちらのページ」で今も販売しています (この会社と当方とは何ら関係/繋がりはありません)。もち ろんL39→LMマウントアダプタを介してLMマウント化してしまい使うのもアリだと思います。

但し「M26ネジマウント用」なので、後期に登場していた「M30」やRoyalマウント (バヨ ネットマウント) には対応していません (距離計連動機能も無し)。

↑上の写真は後期に登場していたバヨネットマウントのモデルですが、マウント面の先に「M30ネジ切り」が一応用意されているので、頭デッカチで見栄えが悪いですが(笑)、バヨ ネットマウントの先から前方向が全て剥き出しのままで良ければ「M30カメラボディ側
マウント
」などのマウントアダプタも海外オークションebayで見かけますね。

↑当レンズによる最短撮影距離70cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

極僅かにハロを伴うピント面ですがコントラスト自体が薄めです (決して光学系内が曇って いるワケではなく光学系の設計として開放時の状態がこうなる)。

↑絞り環を回した設定絞り値「f2.8」で撮っています。ご覧のとおり一段絞っただけで急にコントラストが向上しています (そういう光学系の設計と言う意味)。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。極僅かに「回折現象」の影響が現れています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。