◎ 謎のオールドレンズ Leica-Sonnar 5.8cm/f1.5(L39)

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巷では製産メーカーや製造年代はおろか、そもそも生産国すら不明のまま「謎のオールドレンズ」と語り継がれている、その筋には堪らない価値観に価する標準レンズ『Leica-Sonnar 5.8cm/f1.5 (L39)』です。

一説によると製産台数は僅か15台ほどらしいですが、例えば当時のロシアンレンズでさえ量産化の前のプロトタイプ製産本数は100本を優に超えていたので、はたして僅か15台ほどの製産だけで量産化の目星がつけられるのかどうか疑問です。逆に言えば、設計上の問題が発覚した為に量産化どころの話ではないと結論したという仮説も考えられます。

しかしプロトタイプだとしても、実際に製産を始める段階で設計上の問題点が発覚するなど、当時の光学メーカーの規模として考えると全く以て道理が通りません (設計段階ひいて言えば組み立て工程の検討時点で発覚するハズ)。

さらにもっと言えば、モデル銘が「Leica-Sonnar」なので当時の商標権で許諾が必要だったハズですから、LeicaとCarl Zeiss Jenaの2つの光学メーカーから商標権の許諾を「一つのモデル銘として」認められるという考えも、相当に非現実的です。

これらの事柄を考え合わせていくと、既に調査する以前でこのモデルは「光学メーカーの製産品ではない」事が明らかなのではないでしょうか? それはモデル銘のみならず「生産国」すら表記が無いとなれば輸出すらできません (既に当時の国際輸出法で生産国の表示が義務づけられていたから)。つまり外貨稼ぎにもならない存在とも言えます。

はたして国内流通品だけの意味合いで僅か15台の本数をどうして作ったのでしょうか。

どうしてもその製産台数が引っ掛かるワケですが、その理由は何を置いても光学系の光学硝子レンズを精製してしまう点で辻褄が合いません。モデル銘のとおり光学系には本格的な3群7枚のゾナー型構成を採っていますから、はたしてそれら光学硝子レンズは「実際に作ってみたけれどダメでした」が通用しないハズです(笑)

さらにバラさずとも明白なのですが、バルサム剤をチェックすると製産時期としてワリと古い時代、おそらく戦後〜1960年代までの「」に見えますし、1970年代以降の仕上げ方と比べればバルサム剤の品質が相当雑に見えます。日本国内の光学メーカー品でも似たような品質で接着していた時期となると、やはり戦後〜せいぜい1960年代辺りまでの話なので (当方が今までに扱ってきた1,200本以上の印象から)、製産時期としてそれほど後の時代ではない事が推測できます。

そして最も致命的だったのは、バラして明確になる事ですが、そもそもこのモデルは当時のオールドレンズとしての体裁を持っていません。決定的な要素は「光学系の格納方法」です。
第2群〜第3群の光学硝子レンズは「締付環だけで締め付け固定する」方式を採り、且つ第1群 (前玉) は何とネジ込み式と言う、当時で見てもあり得ない格納方法です (戦前/1920年代以前にはあったかも知れない方式)(笑)

当時の光学メーカーは、何処の国でも必ず「格納筒」が用意されていて、そこに光学硝子レンズを格納させた後にネジ込み式の「締付環」で締め付け固定しますが、このモデルは「格納筒」自体がその役目を充たしていない設計です。つまり光学硝子レンズを落とし込んだ時に必ずしも水平を維持できない格納筒の設計なので (適切な位置で固定させる目的に締付環を使ってしまっている) 光路長ズレが生じ易い設計ですから、その時点で設計が認可されるハズがありません (とても量産化を前提にした設計になっていないと言う意味)(笑)

これでは組み立て工程の際に、光路長ズレでパスしない個体が量産されてしまいます (逆の意味の量産化)(笑)

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以上の考察から、このモデルは「光学メーカーの製産品ではない」と結論づけています。おそらく街中の光学硝子を扱う会社と金属加工会社が結託して自作した「創作レンズ」ではないかと踏んでいます。もちろんLeicaもCarl Zeiss Jenaにも商標権の許諾は申請すらしていないでしょうから(笑)、国外に出る事を前提にしていない製品だと考えられます。そしてもっと言えばそもそも「製品として流通させていない」とみています。おそらく富裕層の知人友人を相手に極狭い地域で流通する限定的なオールドレンズとして作ったのではないでしょうか。

以下のオーバーホール工程では、それら「光学メーカー品ではない点」を逐一解説していきたいと思います。

↑このモデルには幾つかのモデルバリエーションが存在しますが、製造番号が「140xxxx」に集中しているのが胡散臭いですし(笑)、もっと言えば外観上は、当時のCarl Zeiss Jena製のゾナー型光学系を実装していたモデルに似て見えますが、似て見えるだけの話であり操作方法が全く別モノです(笑)

なお、上の写真のモデルと今回のモデルとではまた内部構造が違っており、駆動方法まで変わっています (今までに扱ったことが無い/バラした事が無いですが当方には一目瞭然です)。


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から円形ボケが滲んで溶けていく様をピックアップしていますが、そもそも収差が酷く残っている影響を受けるので円形ボケが真円を維持できません。また背景が滲んでいく際に収差の影響を大きく受けるので、例えば画の周辺域の流れが酷くピント面だけが端正に写る印象です。

二段目
発色性が非常にナチュラル派な素直な印象で誇張感がそれ程強く出てこないのでコントラストが低めに見えてしまいます。また輝度コントロールが上手く制御できていないようでハロの出現率が相当高く感じます。

光学系は典型的な3群7枚のゾナー型構成ですが、焦点距離が58mmで、且つ開放f値も「f1.5」なので比較するオールドレンズ自体が存在しません(笑)

また実際にバラして各群をデジタルノギスで計測していったところ、特に曲率について相当なレベルなのが分かりますから、その分収差の改善が必要なのも納得できます (実際は収差の改善度が低い状態のまま作られている)。

また光学系のコーティング層は、被膜の経年劣化に伴うクラックや
ハガレが極僅かに確認できるので、ノンコーティングではなくシングルコーティングではないかと推察しています (非常に薄いブル〜)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ご覧のように内部の構成パーツ点数が極端に少ないですが、構造面では少々ハイレベルで「高難易度」製品とも言えます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割式なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」側に配置されます。

↑後から光学系の第3群を組み込む事ができないので、先にここの工程でセットしてしまいます。

ところが問題なのがこの「第3群用の格納筒」であり、何と後玉側方向から格納筒自体がネジ込まれています。その「第3群用格納筒」自体にカニ目溝がありますが、全部で6箇所の「」が備わっているので、これは手締めではなく「機械締め」でセットしたのだと推測できます (とても人力では締付環を回せない)。

するとこの「第3群用格納筒」の固定位置をミスっただけで光路長ズレが発生しますから、どうにも改善できません。さらに問題なのが、光学系第3群がストンと格納筒の中に落とし込んでも「水平を維持していない」点です。極僅かなマチが残されている設計なので、第3群の硝子レンズが前後左右に微かにグラつきます。それを締め付け固定する目的で「締付環」が用意されているので、そもそもこの時点で当時の光学メーカーの設計要件を充たしていません。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

青紫色」の絞り羽根と言うのも初めてですが(笑)、絞り羽根の切削自体が「人の手による切削」なので、厳密に横幅や端処理が均一にできていません(笑)

ご覧のように端のカットがバラバラなので(笑)、必然的に「キー」までの距離が1枚1枚で変わってしまいます。

すると位置的に「開閉キー」なので、開閉環が回る時 (つまり絞り環操作した時) のチカラの伝達が、長めに切られてしまった絞り羽根にだけ集中的に伝達されてしまい「開閉キーに掛かる負荷が増大する」懸念が発生します。

何を言いたいのか?

今回のオーバーホール/修理ご依頼内容は「絞り羽根のキーが脱落している」と言う内容だったワケですが、それは経年劣化で脱落したのではなく「そもそも脱落する懸念が高い切削の絞り羽根」なのが拙いのです。従って今回は1枚の絞り羽根だけで「開閉キー」が脱落してしまい、絞り環操作すると「絞り羽根が斜めに飛び出てくる状況」でしたが、同じような不具合が将来的に発生せざるを得ない話です。

まずはここの工程だけでも、当時の光学メーカーは切削箇所を「1箇所」に限定した、まるで「枝豆の房」状態までプレッシングして、最後に1箇所の接続箇所だけを切断していました (当然ながら切削面の面取り処理も行う)。ところがこのモデルの絞り羽根は全てが人力による切削です (板金に弧を描いて手で切削しているから幅が違う箇所や曲がりが異なる箇所があったりする) なので、この時点でもう既に光学メーカーの製品ではない事が明白です(笑)

↑12枚の絞り羽根を組み込んで絞りユニットを完成させたところですが、赤色矢印のとおり「開閉キー」の位置がバラバラになってしまいますから、絞り環を回した時のチカラは「最も長い絞り羽根に集中してしまう」原理です。

つまり「チカラの伝達」に配慮した設計になっていません(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側が前玉方向で下が後玉側です。当時のロシアンレンズと同じように「鏡筒固定用のネジ山が存在する」のと同時に「絞り環用のネジ山」もあります。

ところがこのモデルのマウント種別は「ライカ判スクリューネジマウント (L39)」ですから「距離計連動機構」が必要になります。通常この当時の光学メーカーのL39マウントモデルは、必ず「距離計連動用のヘリコイド」を用意する事で「直進式ヘリコイド駆動」を実現させていましたが、このモデルは何と「回転式ヘリコイド駆動」の設計を採ってしまいました(笑)

つまり距離環を回すと絞り環まで一緒に回っていきます。マウント側の指標値がちゃんと真上に来ているのに、絞り環はグルグルとアッチの方向に回ってしまい全く見えません。

何故なら「絞り値を距離環に刻印してしまった」からです。このような設計も、当時の光学 メーカー製オールドレンズには1本も存在しません。

↑やはり後からセットできないので、3枚の光学硝子が貼り合わせられている「光学第2群」を組み込みます。ここも同様に格納筒に落とし込んでから「締付環」による締め付け固定ですが光学硝子レンズがグラグラとグラついている状態で「締付環」をネジ込む事で位置が固定される設計です。

確かに「締付環」で締め付け固定するので位置は確定しますが、はたして「±0.02mm」の誤差の範囲内に収まるのかどうかと言うと、甚だ疑問なところです (当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズやロシアンレンズなどの設計諸元書を確認すると誤差範囲を±0.02mmとしている場合が多いから)。

↑ここも後からセットできないので先に組み込みますが第1群 (前玉) をネジ込んだところです。このように前玉自体がネジ込み式で用意されているオールドレンズと言うのは、むしろクラシックレンズのほうでは見かけますが、今までの1,200本以上バラしたオールドレンズの中にはまだ1本もありません。

いずれにしても光学硝子レンズの精製技術は相当なレベルに見えるので (大手光学メーカー並みのレベル)、街中の光学硝子製品を扱う小規模の会社と言うよりも、相応に精製技術と設備を有する本格的な (規模の大きい) 硝子精製会社の扱いではないかと推測しています。

ところが光学硝子レンズの格納方法と、入射光の制御方法、或いは絞り羽根そのモノの品質問題 (例えば反射の多さで迷光のレベルがだいぶ悪化している絞り羽根になっている) など、凡そオールドレンズの光学系を設計した経験のある設計者の扱いではないと考えています。それは実際の実写を見ても「収差の制御ができていないレベル」とも言えるので、光学メーカーの製品ではないとの判断に至ります。

↑鏡筒下部から「絞り環」ネジ込まれる設計を採っているオールドレンズは当時数多く存在します。しかしレンズ銘板部分が「絞り環」に附随しているモデルと言うと思い浮かびません。さらに言えば、光学系第1群 (前玉) と「絞り環」の間に隙間が存在するのも初めてです。

左写真は絞りユニット内の「開閉環」と「絞り環」とを連結している「シリンダーネジ (真鍮/黄鋼製)」です。

材質的に柔らかい素材なので、ご覧のようにもう既に今までの何回かのメンテナンスによって、赤色矢印の箇所 (軸部分) で変形/曲がっています。

実はこの「シリンダーネジ」が存在する事は、当初バラす前の時点で容易に推測できるワケですが (何故なら絞り羽根の制御方法が円形絞り方式だから) このモデルは何と「鏡筒の固定/距離環との連結」の2つの基準をこの「シリンダーネジ」に任せてしまいました。

何を言いたいのか?

当初バラす際に鏡筒を思いっきり回して外すのですが、その掛けたチカラの全てがこの「シリンダーネジの軸部分」だけに集中します。従って軸部分で破断する危険が非常に高い (と予測ができるので) 今回バラす際は別の方法で完全解体しています。

ところがおそらく過去メンテナンス時にはその点が気がつかずに思いっきり回していた事が、この変形した軸部分を見ただけで分かりますね(笑)

また同様に、今度は組み上げる際もこの「シリンダーネジ」が基準になるので、鏡筒の固定も距離環との連結もその掛けたチカラの全てが集中します。

非常に折れる危険が高く、例えば当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズにも似たような構造のモデルがあったりすので恐怖感を伴います。

↑こちらはマウント部ですが指標値環を兼ねているので基準「|」マーカーがあります。一般的なオールドレンズではここに距離環用のネジ山が来るのですが、このモデルではいきなり「ヘリコイド (メス側) のネジ山」が切削されています。このせいで最終的にこのモデルの駆動方法が「回転式ヘリコイド駆動」に至っています (距離計連動用ヘリコイドが別に存在しないから)。

↑ヘリコイド (オス側) になりますが「距離環用のネジ山」が一緒に用意されていて、且つヘリコイド (オス側) のネジ山も兼ねるので、結果「回転式」になってしまいます。するとヘリコイド (オス側) の途中には「制限壁」と言う壁が飛び出ており、その壁が突き当たる事で無限遠位置と最短撮影距離位置を決めている仕組みです。

つまりダイレクトにヘリコイド (オス側) を回して鏡筒を繰り出す方式「回転式ヘリコイド駆動」と言う話です。

↑ヘリコイド (オス側) を鏡筒に締め付け固定する為の「カニ目穴」が両サイドに用意されており、ガッチリ締め付けられるようになっていますが、その時に鏡筒側が回らないように保持しているのは前述の「シリンダーネジ」だと言えます。

従っていい調子になってカニ目レンチでチカラを入れて締め付け固定すると「パンッ!」と言う音が聞こえてきて「シリンダーネジ」が折れてしまいます(怖)

こんな感じで鏡筒の下部にヘリコイド (オス側) がガッチリ固定されます。

↑距離環をマウント部にネジ込んでから鏡筒も含めたヘリコイド (オス側) をセットし無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑この当時の何処の国のオールドレンズを見ても、上の写真のように光学系第1群 (つまり前玉) の周りに「隙間」が空いているオールドレンズは1本も存在しません(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。「気泡」が大小数点存在します。

気泡
光学硝子材精製時に一定の時間適切な高温度帯を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。

↑光学系後群側も透明度が高く極薄いクモリが皆無ですが「バルサム剤」がだいぶ劣化していて特に外周附近で剥離が始まっています (黄色っぽく浮き始めている)。

この後群側から覗き込むと6箇所に溝が用意されている「締付環」が入っているように見えますが、実はこの環 (リング/輪っか) が後群用の「格納筒」なので、普通のカニ目レンチなど人力では全く回せないほどの硬さでネジ込まれていますから「機械締め」だと考えます (だから溝が6箇所必要だった)。

↑当初バラす前の時点で1枚の絞り羽根が斜め状に顔を出していて入射光を遮っている状況でした。バラしてみると、絞りユニット内に「開閉キー」が1個転がっており、1枚の絞り羽根から脱落していました。

従って、一度プレッシングされて空いている穴が既に広がってしまった為に「キーが脱落」したワケですから、もう二度とプレッシングはできません。仕方ないのでエポキシ系接着剤でキーを接着して再びセットしています。

つまり今後将来的にまた同じ「開閉キー」が脱落する懸念は残ったままですし、もっと言えば他の絞り羽根の「キー」も外れていく懸念があります。絞り羽根の長さがバラバラなのでどうしようもありません。

絞り環を回す時に開放「f1.5〜f2.8」の間で引っ掛かりがありますが、どの絞り羽根が引っ掛かっているのか不明です。そのまま回して使うしかないでしょう。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑オーバーホール/修理のご依頼では「外れたキーの修復」だけでしたが、このモデルは構造上ヘリコイド (オスメス) を外して、且つ絞り環まで取り外さないと鏡筒だけの状態に至りません。

従って申し訳御座いませんが「ヘリコイドを外したオーバーホールの扱い」として作業しています。
申し訳御座いません・・。

等したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性中程度」を塗布し、距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じますが「全域に渡り完璧に均一なトルク感」に仕上がっています。ピント合わせ時は極軽いチカラだけで微動できるので、操作性は良くなっています。

筐体外装の洗浄時に全ての刻印指標値が褪色したので着色しています。

↑今回の扱いがこのモデルでは2本目にあたりますが、仮にもしも本当に15本しか作られていないのだとすると、相当な率で扱っている事になってしまいますね(笑)

指標値の「Ι」マーカーに対して、距離環に刻印されているメートルの距離指標値は必ず真上に来ているので目安になりますが、絞り環側の絞り値のほうはグルグル回っていってしまうので役に立ちません(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。そろそろ微かですが「回折現象」の影響が出始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f11」での撮影です。

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【 事 後 談 】

一度オーバーホール/修理が終わってお届けしたところ、現物のご確認を頂いている最中に、何と再び絞り羽根が1枚顔を出してきて、金属製の「キー」が1個ポロリと絞りユニットの中に転がってきました(汗)

つまり当初オーバーホール/修理のご依頼を承った時の状態に逆戻りです・・(泣)

再度バラしてチェックしたところ、やはり当初脱落していた「キー」がまた外れていました。エポキシ系接着剤で接着しただけなので、その接着強度に頼るしかない状況です。

 当初より脱落している「キー」と言うのは、左写真の絞り羽根に打ち込まれている金属製の「開閉キー」になります。

この「開閉キー」が「開閉環」と言う環 (リング/輪っか) に刺さります。絞り環を操作すると (回すと)「開閉環が連動して回る」ので「位置決めキー側を軸にして絞り羽根が角度を変える」仕組みが絞り羽根開閉の原理ですね。

この金属製の「開閉キー」は通常はプレッシングで打ち込まれているので、絞り羽根側に「」が空いています。すると「キー脱落」の原因は、絞り羽根に負荷が掛かり過ぎて許容値を超えた為に耐えられなくなり、その「」から外れてしまったワケですから、必然的に「穴の大きさが既に広がっている状態」なのが、脱落した時の状況になります。

何を言いたいのか?

つまり一度脱落してしまった「キー」が刺さる先の「」は既に広がっているので「二度目は打ち込めない」事になります。従ってエポキシ系接着剤で接着してその接着強度に頼るしかありません。

例えば、その広がってしまった「」よりも僅かに径が大きめの「キー」を用意して、再び打ち込んであげればキッチリ固定されるかも知れませんが、問題なのは「開閉環側の刺さる溝の大きさが決まっている」点です。

すると大きめの「キー」を用意して打ち込むならその開閉環側の溝も大きくする必要が出てきます。

左写真は再び戻ってきた個体の脱落した「開閉キー」が刺さっていた絞り羽根を復旧して、再度組み上げたところを撮影しています。

赤色矢印で指し示している箇所が「代用キー」で、その隣のグリーンの矢印で指し示しているのはオリジナルの「開閉キー」です。

既に広がってしまった「」をそのまま使うしか手がないので、今度は「イモネジ」を使ってそのイモネジに工夫の処置を施してから絞り羽根の「」にネジ込みました (もちろん開閉環側の溝も処置済)。ちなみにこの「開閉キー」の径は「僅か⌀1mm」です(笑)

この処置が「最終手段」と言えます。何故なら「イモネジ」を代用として使っているのでネジ込んでいますから、絞り羽根側の「」はさらに広がっており、次の3回目に脱落したらもう処置できません。

従って、大変申し訳御座いませんが「この個体は限りなく製品寿命に近づいている状態 (一歩手前)」とご認識下さいませ。次に再び「代用キー (イモネジ)」が脱落したら、もう修復できませんので当方でもムリです。

ちなみにこの絞り羽根の厚みは「僅か0.2mm」程度のペラペラですから、そこに代用の「キー」を使うにしても「限られたスペースしかないところでの代用処置」なので、幾つも修復策があるワケではありません。

大変申し訳御座いませんが、当方の技術スキルではここまでが限界です。

このブログをご覧の皆様も当方の技術スキルはこの程度ですので、重々ご承知置き下さいませ。
(プロのカメラ店様や修理専門会社様にご依頼頂くほうが安心です)